食料を確保し、洋介たちのもとへ帰ると、池が興奮しながら皆に話しかけていた。
「みんな! 川を見つけたんだ! ここから10分もしないところにあるから、早くいこうぜ!」
「本当かい池君! よし、みんなもそこに移動しよう! 案内を頼めるかい?」
そうして、僕たちDクラスは池たちが見つけたという川のあるところまで移動する。
「ここだ! 俺たちが見つけたスポットー!」
なるほど、確かにいい場所だ。きれいな水だし、日光を遮る日陰でもある。地面も地慣らしされているため、キャンプ地としても向いているだろう。
「すごいよ池君! この場所なら、ポイントも節約できるかもしれない!」
「へへ、まぁな!」
素直に池の働きに感心していると、健がこちらに近づいてくる。
「よう若代。果物とか野菜とか色々見つけて持ってきたらしいな」
「ああ。そっちも、いいスポットを見つけたな」
「まぁな。ただ、本命は別のところだったんだがな」
「ん? どういうことだ?」
「実はよ、洞窟みたいなところがあってな。そこの中に入ろうと思ったら、Aクラスの連中に邪魔されてよ」
なるほど、Aクラスが焦っていたのはそういうことか。おそらく今回の試験、Aクラスをまとめているのは葛城だろう。葛城は洞窟に目星をつけていたということか。
「揉め事にはしたくなかったから、その場はすぐ去ることにしたんだ。で、そのあとに井戸のあるスポットとここのスポットを見つけたんだが、池と話し合った結果、魚とかもいるこっちのスポットにしようって感じになってよ」
「そうか、それはいい判断だと思うぞ」
「聞けば、池の奴はキャンプ経験者らしくてな、頼りになるぜ」
そうなのか。確かにこの試験では、経験者は重宝されるだろうな。
「よし、ここをベースキャンプ地にするのは確定として、問題は誰がリーダーをするかだね。誰かリーダーをやりたいっていう人はいるかな?」
「はい! 私やるよ」
洋介の問いに即座に手を挙げる人物、それは千秋だ。
「松下さん! いいのかい?」
「うん! 私にやらせてほしい。もちろん、みんなが良ければだけど」
自ら進んでリーダーをやりたがるやつはいないだろう。強いて言うのであれば鈴音だが、体調も悪そうだし今回の試験では役に立たないだろう。リーダーは千秋で決まりだろうな。
そう思っていたのだが、そこに待ったをかける人物が出てくる。
「えー? 松下さんが?」
「……何か、言いたいことでもあるかな、篠原さん」
「いやさ、松下さんよりも適任な人はいると思うんだよね。例えば平田君とか櫛田さんとかさ」
篠原の奴、千秋に対して当たりが強いような気がするな。入学したころは千秋と同じグループにいて、いつも遊んでいた記憶があるのだが。女の子の世界は怖いものだ。
「確かに、篠原さんの言い分も分かるよ。でも、二人は目立つよね? それなら、今まで目立ってこなかった人物の方が今回の試験では有利になると思うんだよね。例えばだけど、Bクラスは一之瀬さんがリーダーになると思う?」
「そ、それは……」
可能性としては低いだろうな。もちろん、その裏をかいて一之瀬にする作戦もあるだろう。だが、Bクラスはそんな危ないギャンブルをするような生徒たちではない。
篠原もそれを理解したからか、ばつの悪そうな顔をする。仕方ない、このまま彼女に恥をかかせるのは良くないだろう。フォローしてやるか。
「目立たないっていう意味なら、僕も当てはまるな。それじゃ、僕もリーダーに立候補しよ……」
「お願いね! 松下さん!」
そんなわけで、リーダーは千秋で確定した。
川の近くに大岩があり、そこに占有するための装置が埋め込まれている。千秋はキーカードを手にし、装置にかざす。装置の周りにはたくさんの人を置いて壁を作っているので、他クラスに見られる心配はないだろう。
「よし、これでこの川は俺たちのクラスが占有したってことになるんだよな平田!」
「そうだね」
「で、でもさ。この川、本当に飲んでも大丈夫なのかな?」
「大丈夫に決まってんだろ! 俺は飲むぞ!」
そう言って、池は川に手を伸ばし、水をすくって飲む。
「んー! キンキンに冷えてておいしいぜ!」
「うわ、きも! ほんと信じられないんだけど!」
「はぁ?! なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ!」
篠原の奴、ここまでヒステリックな女の子だったのか。バスの中で出会ったOLを思い出す。ここは一度、抱き着いた方がいいか?
「二人とも落ち着いて。川の水に関しては、私も飲んでみるよ。それでお腹を壊さなかったら、安全だと分かるんじゃないかな。それでも抵抗あるなら、煮沸して殺菌すれば問題ないと思うよ」
千秋の奴が冷静に二人を諭す。篠原もそう言われて渋々だが納得する。
「よし、それじゃ飲み水に関してはこれで解決だね。あとは、テントについてだけど私の考えでは……」
その後、千秋がこの場の指揮を執っていった。テントに関してはもう二つ購入することになり、男子と女子で二つずつ使うことになる。他にもシャワー室やトイレ、その他諸々を購入していくこととなる。
そして、明かりも欲しいということで焚火を作ろうという流れになった。池が焚火を作るのが得意とのことで、池の指示で多くの生徒が落ち葉や乾いた木の枝を拾いに森を探索することとなった。僕もそのうちの一人だ。
洋介からは『一人で行動しないように』と言われていたのだが、気づいたら一人になっていた。いや、最初から一人だったが。
一人で寂しく木の枝などを探していると、後ろから声を掛けられる。
「やぁ若代ボーイ。探したよ」
「……高円寺。今までずっと島を探索していたのか? もう夕方だぞ」
「目に入ったもの全てを書いてくれと頼んだのは君じゃないか」
そう言って、高円寺は僕に紙とペンを返す。
紙に書かれたものを確認すると、そこにはこの島の地図が正確に書かれており、どこに何があるか事細かに記されていた。
「……なるほど。これはかなり役に立つな」
「ふふ。この私が書いたのだ。大事に扱ってくれたまえ。それでは、私は海を泳いでくるよ。また会おう、若代ボーイ」
背を向けながら、この場を去っていく高円寺。おそらく、リタイアしに行くのだろう。
もしかしたら、僕が一人でいるタイミングを見計らって接触してきてくれたのかもしれないな。地図のことも含めて、素直に感謝することにしよう。
枝や落ち葉を拾ってベースキャンプ地に戻ると、僕より先に戻っていたクラスメイトが持ってきた枝で、池が焚火を作っていた。明かりが確保できたことは素直に喜ばしいが、このクラスじゃない人間が一人混じっていた。
「ねぇ、あれってCクラスの伊吹さんだよね? なんでここにいるの?」
「なんか、クラスでトラブルがあったらしくてさ。放っておけないから連れてきたんだよ」
山内がそんなことを言うが、こいつはこの試験のルールをちゃんと理解しているのか?
「……スパイの可能性があるから、ここにいさせることはできないかな」
千秋が山内に対して、当然のことを言うが……
「待ってほしい松下さん、困っている人を放っておくことはできない。僕たちで保護することにしよう。それにここにとどめさせておけば、Cクラスはペナルティを受けるしね」
点呼時に不在だと、マイナス5ポイントだからな。一応、メリットはあるわけか。
「……でも」
「いいじゃん! 放っておくことなんてできないよ!」
「さすがに野宿はかわいそうだもんね~」
千秋は嫌そうだったが、洋介がOKと言えば、周りもそうなってしまう。伊吹のことは保護することとなってしまった。
伊吹とは話したことがないので、僕は伊吹に近づき声をかける。
「よう、僕は若代だ。大丈夫か、そのケガ」
「……大丈夫、気にしないで」
絶対大丈夫ではないと思うくらいに、頬が赤く腫れあがっているのだが。
「……はぁ。それにしてもあんたらのクラス、お人好しが多いわね」
「お人好しっつーか、バカが多いだけだよ」
「……へぇ。あんたはちょっと違うみたいね。もしかして、私のこと疑ってる?」
めちゃくちゃ疑ってる。ていうか、会話して確信した。お前絶対スパイだろ。直感がそう言ってる。
「うーん。まぁ多少はな。というか、それが普通の人間じゃないか? 伊吹が逆の立場だったら、そう考えるだろ?」
「まぁ、そうだね」
「けど、今から反対しても覆ることはないだろうからな。甘んじて受け入れるさ」
「……あっそ」
もう話すことはないのか、伊吹はその場から移動して桔梗ちゃんのところへ向かった。
それと同時に佐枝ちゃん先生が皆の前に立ち、とあることをクラスに共有する。
「あー。高円寺についてだが、先ほど体調不良を訴えて船に戻った。よって、マイナス30ポイントとなるから、ポイントの扱いには気を付けるように」
そう言われて一瞬静寂に包まれるが、すぐに怒号が飛び交うこととなった。
◆◇◆
試験二日目、いつもより早く目覚める。というのも、ベッドでの快適な睡眠に慣れてしまっているせいで、テント内での睡眠は寝心地が悪く、満足に寝ることができないのだ。
それもそうだ。なんせ、8人用テントに10人で寝ているのだ。充分なスペースなど存在しない。それに地面も小石などがあるので背中が痛いのだ。まぁポイントを節約するためには仕方のないことなのだが。
意識が完全に覚醒しているので、再び眠る気にもならない。せっかくだし、高円寺から貰った地図を見ながら島の探索でもするか。
僕は周りの人たちを起こさないよう、テントから出る。
川の水を使って顔を洗おうとすると、後ろから声をかけられた。
「おはよう、若代君」
「……千秋か。おはよう。お前も熟睡できなかった感じか?」
「まぁね。それに、ポイントのことも色々考えてたから」
「そうか、リーダーも大変だな。そういえば、ポイントって今どれくらい残ってるんだ?」
「高円寺君のリタイアしたポイントのことも踏まえて、昨日で100ポイントは使ったよ」
他クラスがどのようにポイントを使っているか分からないので、これが多く使用したか少なく使用したかはまだ分からないな。
「ちなみに、どれくらい残すつもりだ?」
「最低でも120ポイント残せれば上々かな。どう思う?」
「現実的でいいんじゃないか。それにリーダーも当てることに成功すれば、もっとポイントは増やせるし」
「そうだね。そういえばうちのクラスって、Bクラスと協力関係結んでるんだっけ? 須藤君の暴力事件の時に」
「ああ、そうだな。今後のことも考えると、Bのリーダーは当てない方がいいだろうな」
「やぁ、二人とも。おはよう」
千秋と話していると、後ろから洋介の声が聞こえてきた。挨拶を返すために後ろに振り向くと清隆もいた。
「おはよう平田君、綾小路君。二人も満足に寝れなかった?」
「そうだね。腰が痛くて仕方ないよ」
「ああ、しかも蒸し暑くて、かなりストレスだな」
洋介も清隆も、僕と同じ不満を抱えているようだ。その不満を聞いて、千秋は顎に手を置いて考える。そしてすぐに、解決策を言い出す。
「うーん。テントの下にビニール袋を敷くってのはどうかな?」
「ビニール袋?」
「うん。確か、簡易トイレのビニール袋は無制限で支給されるって言ってたよね? もしかしたら使えると思ったんだけど」
「なるほど! いい案だよ松下さん!」
「でしょ! あと暑さに関しては、朝と夕方に打ち水をすればいいんじゃないかな? せっかく川があるんだし、有効活用しない手はないよ」
確かに打ち水をすることで暑さを和らげることができる。特に朝と夕方というのが大事なところだ。日中に行うとすぐに蒸発して余計に熱くなるため、まだ気温が上がりきっていない朝と、日が陰り始める夕方が一番効果的な時間帯だと言えるだろう。問題解決能力も高いようだ。
「そうだね! 早速、水を撒いておこうか」
皆で協力してベースキャンプ地に水を撒く。
その途中、見知った顔が木々の間にいるのを見つけたので声をかける。
「よおー神崎! こっち来いよ!」
「……驚いたな。隠れていたつもりだったんだが」
「人の視線には敏感でな。何してたんだ?」
「1日経ってどうしているかと気になってな。それで見に来たんだが、いい場所を押さえたな」
「ああ。おかげで飲み水には困らないよ。そういやBクラスのベースキャンプはどこにあるんだ?」
高円寺が書いた地図を見れば分かるのだが、本来なら知り得ていない情報なので一応聞いておく。
「ここからまっすぐ進むと折れた大木があるんだが、そこから南西に向かって進めば迷うことなく見つけられるはずだ。気になるなら見に来てくれても構わない。堀北にも伝えておいてくれ」
そう言って、神崎は立ち去っていった。気になって見に来たと言っていたが、おそらくリーダーを探りに来たのだろう。スポットを更新するタイミングを狙って偵察とは、なかなかやるじゃないか。
「Bクラスの神崎君、だっけ? 多分、リーダーを探りに来てたんだよね。もしかして協力関係は破棄されたとかかな?」
「……どうだろうな。一之瀬の性格を考えたら、そんなことはないと思うんだが。ただ、明確にしておく必要はあるかもしれないな。少しでも敵は減らした方が千秋も助かるだろ?」
「そうだね。AとCのリーダー当てに集中できるし」
あとでBクラスのベースキャンプに行ってみるか。どういう風にポイントを使ったのかも気になるしな。
朝の点呼を終えて、自由行動となった。僕は千秋にBクラスの所へ一緒に行こうと誘おうとしたのだが、とある生徒たちの来訪でそちらに意識が向く。
「よぉ、随分と質素な生活してんなぁ。朝飯は食ったか? まだならほら、ポテチでも食えよ」
あいつらは確か、Cクラスの小宮と近藤だったか。ポテチや炭酸ジュースを手に持ち、僕たちDクラスをバカにしているようだ。
「何しに来たんだよ、お前ら!」
「な〜に、お前ら不良品に少し恵んでやろうと思ったんだよ。おっと、手が滑っちまった」
小宮が持っていたポテチが何枚か地面に落ちる。もったいない。
「あ〜らら。こりゃもう食えねぇな。そうだ! これ、お前たちにやるよ。不良品にはちょうどいいだろ?」
マジか。正直に言うとちょっと食べたかったんだよな。ただ、勝手に食うと略奪扱いになりかねないから我慢してたんだが、あいつらが食べていいと言うのであれば遠慮なく頂こう。佐枝ちゃん先生もいるから、もし略奪されたとか言い出してもちゃんと証言してくれるだろう。
僕は地面に落ちたポテチ目掛けてヘッドスライディングをかまし、口の中にポテチをぶち込む。
「んー! うめぇ、うめぇぞ小宮! もっとだ! もっと恵んでくれぇ!」
「な、なんだこいつ! 気持ち悪すぎんだろ!」
僕のどこが気持ち悪いんだ! そんなことより近藤、お前が持ってる炭酸も僕にぶっかけてくれ!
「り、龍園さんからの伝言だ! 満喫したかったら、浜辺に来いってな! いいか、ちゃんと伝えたからな! おい、早く帰るぞ小宮!」
「お、おう!」
二人は何かから逃げるように去っていった。逃げていく途中に、小宮がポテチを何枚か落としていったので、僕はそれも全て拾って口の中に放り込む。周りからは憐れみの視線を受けている気がするが気のせいだろう。
その後、何事もなかったかのようにDクラスは各々で動き始める。
僕はBクラスに行くつもりだったが、Cクラスのことも気になったので先にそちらに行くことにした。千秋にも声をかけて二人で偵察しに行くつもりだったが、清隆から呼び止められる。
「直経。Cクラスを見に行くのか?」
「ああ、千秋とな。清隆も一緒に行く?」
「そうだな。オレも少し気になる。あと、堀北も連れて行きたいんだがいいか?」
「私は問題ないよ。若代君もだよね?」
「まぁ、そうだな」
「良かった。じゃあ、いま連れてくる」
とは言うものの、鈴音は素直に来てくれるだろうか。体調が悪そうだし、本人としてもあまり動き回りたくないと思っているんじゃないだろうか。
だが、僕の考えに反して鈴音は来ることとなった。リタイアして欲しくないので無茶はしないでもらいたいんだが鈴音の性格上、言っても聞かないだろう。
というわけで、僕たち4人でCクラスのベースキャンプ地へ向かうこととなった。