ようこそ自由気ままな奴がいる教室へ   作:アマテラスすず

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偵察

 

 森を抜け浜辺に出ると、そこには信じがたい光景が目に入ってきた。

 

「……噓でしょ?」

「これは、すごいね……」

 

 鈴音と千秋がそれぞれ思ったことを口にする。僕も同じ感想だ。

 そこには、バーベキューや水上バイクなどでこの夏休みを謳歌しているCクラスの生徒がいた。いいなぁ、僕もこんな風に遊びたい。

 

「Cクラスはポイントを節約する気がないということ?」

「龍園君が何を考えているのか、確かめに行こうか」

 

 動き出そうとしたとき、一人の生徒がこちらに近づいてくる。

 

「あの、龍園さんが呼んでいます……」

 

 石崎だったか、どうやら龍園は僕たちをご所望のようだ。石崎の案内に従い、僕たちは龍園のもとへ赴く。

 当の本人は肉を頬張りながら、僕たちが来るのを待っていた。

 

「よう。こそこそしている奴がいると思ったらお前たちか」

「どういうつもり? かなり羽振りがいいみたいだけれども」

「見ての通りだ。俺たちは夏のバカンスを楽しんでるのさ。つまり、俺たちCクラスは今回の試験では敵にはならないってことだ」

 

 こいつ、平然と嘘をついてやがる。目を見ればわかる、こいつは勝ちに執着するような人間だ。

 

「この試験では、クラス全員で協力し合う試験のはずよ。それなのにこんなことを実行するなんて。トップが無能だと下の人間も可哀想ね」

「協力? 何言ってやがる。人は平気でうそをつく生き物だ。信頼関係なんて、はなから存在しないんだよ。信じることができるのは自分だけだ」

 

 やはりそうか。龍園と話してどういう人物かはだいたい分かった。Cクラスのリーダーはこいつだろうな。無線機も置いてあるし。

 

「……そう。好きにするといいわ。そういえばあなた、伊吹さんを知っているわね。あれはどういうこと?」

「なんだあいつ、Dクラスに保護されたのか。俺のやり方に反発してきたんでな。軽くお灸をすえてやっただけだ」

「……なるほど。そういうことね」

「なにか分かったの、松下さん?」

「私たちは伊吹さんを保護すればCクラスにペナルティを与えることができると思っていた。けど、それは意味なかったってことになるね」

「……まさか、全てのポイントを使い切ったというの?」

「ま、そういうことだ」

 

 ニヤニヤしながら肯定する龍園。なるほど、0ポイント作戦か。確かにこれならペナルティを受ける心配もない、思い切ったことをするじゃないか。

 

「短絡的な思考ね。どうやって一週間を乗り切るつもりなの?」

「さぁ? どうするんだろうな? お前たちには分からないかもしれないな」

「もういいわ、行きましょう皆」

「またな、鈴音」

「気安く私の名前を呼ばないで。気分が悪いわ」

 

 そう言い残し、僕たちは浜辺を立ち去ることにした。

 

 

「論外ね。このあと苦労するのが理解できていないのかしら」

「……あいつは多分、一週間なんて考えていないんだ」

「どういうこと、綾小路君?」

「簡単な話だ。高円寺と同じようにすればいい。体調が悪い、精神的に不安定だ。とにかく理由をつけてリタイアすればいい。そうすればCクラスの連中は楽しい思い出を残してこの試験を終えることができる。文字通り、今回の試験は『自由』だしな。龍園の考えも一つの正解だろう」

「……ルール上、ポイントがゼロになってもマイナスは存在しない。これもルールの範囲内、ということだね」

「そういうことだ」

「……理解不能ね」

 

 常人には到底思いつかない作戦だろう。龍園翔か、なかなか頭の切れる奴のようだな。まぁ、僕の相手ではないけどな。

 にしても清隆の奴、今回の試験が始まってから、なにやらやる気のようなものを感じるが気のせいじゃないよな? まぁ、本人がやる気を出すというのであれば止めることはしないが。

 

 

〜〜〜

 

 その後、他クラスのベースキャンプも偵察しに行こうという話になり、まずはBクラスのところへ行くこととなった。

 

「よう、神崎。来たぜ」

「若代、堀北に綾小路か。一人、知らない生徒もいるようだが」

「同じクラスの松下千秋だよ、よろしくね」

「松下か、よろしくな。神崎隆二だ。ちょっと待っててくれ、一之瀬も呼んでくる」

 

 そう言って、神崎は一之瀬のもとへ向かい、今度は一之瀬と一緒に僕たちのもとへ来る。

 

「待ってたよ皆! Dクラスはいいスポットを押さえたみたいだね。神崎君から聞いたよ」

「ええ。Bクラスも水源には困っていないみたいね。井戸があって、木に囲まれているからリーダーを見られる危険性もかなり低いわね」

 

 それだけじゃないだろう。Bクラスはチームワークが学年でトップだ。クラスの雰囲気もだいぶ良い。このクラスに移籍したいくらいだ。

 

「あはは、まぁね。それで、何か聞きたいことがあってきたのかな?」

 

 ちょうどいい。ここで確認してみるか。

 

「ああ。Bクラスとはまだ協力関係にあると思っていいのか? できればリーダーを当て合うことは避けたいと思ってるんだが」

「もちろん! 私はそう考えているよ」

 

 そうか。一之瀬が良いやつでよかった。僕としては気になることは聞けたのでAクラスのところへ行きたいのだが、千秋がまだ聞きたいことがあるようで会話が続く。

 

「それじゃ一之瀬さん、どれくらいポイントを使ったとか、どういうものを買ったとか教えてもらってもいいかな? もちろん、うちのクラスのも教えるからさ」

「えっと、確か松下さんだっけ。いいよ!」

 

 二人はマニュアルを見ながらお互いに物資のことについて話す。

 その間に少し気になることができたので神崎に確認する。

 

「なぁ神崎。あそこにいるメガネのやつ、Bクラスじゃないよな?」

「ああ。あいつはCクラスの金田だ。龍園に歯向かって追い出されたらしい」

「Bクラスもか」

「……その言い方だと、Dクラスにもいるのか?」

「ああ、伊吹っていう女の子を保護した。多分スパイだから気をつけろよ」

「……そうか、注意しておく」

 

 つっても、神崎のことだ。最初から警戒はしていると思うがな。おそらく一之瀬が放っておけないから保護するという流れになったのだろう。そこがBクラスの弱点ともいえるな。

 神崎と会話し終えて僕は清隆と鈴音のもとへ向かう。千秋はまだ一之瀬と話しているようだ。

 

「それにしても、Bクラスは私たちのクラスの上位互換と言えるわね」

「ああ、さすがは一之瀬だな」

 

 二人はそんな会話をしていた。こいつら、Bクラスに友達とかいなそうだもんな。話せる相手がいないのだろう。

 心の中でそんなことを思っていると一人の生徒と目が合い、その女の子がこちらに向かってくる。

 

「若代君、来てたんだね! 作業に集中してて気づくのに遅れちゃった」

「いいさ。それより、千尋は何してたんだ?」

「うん、ハンモックを設置してたんだ! 帆波ちゃんの案でね」

 

 帆波ちゃん、か。どうやら告白した後でも関係は良好のようだ。よかったよかった。

 

「そうか。ハンモックには乗ったことないから一度体験してみたいな」

「結構寝心地いいよ。寝ていく?」

 

 肯定しようと思ったが、千秋が話を終えてこちらに来る。

 

「ごめんね待たせて。一之瀬さんからAクラスの場所も聞いたからそろそろ行こうか。長居するのも良くないしね」

「そうね。行くわよ若代君」

「というわけで悪いな千尋。また今度来た時に頼むわ」

「うん! 待ってるね!」

 

 そうして、僕たちはBクラスのベースキャンプを離れ、Aクラスがいるであろうスポットに向かう。

 

「……それにしても、驚いたわね」

「え? どうしたの堀北さん」

「松下さん、あなた今までクラスではそこまで目立った動きを見せてこなかったわよね? けど、今回の試験では急に前に出てクラスに貢献している。何か心境の変化でもあったのかしら?」

「あ、あはは。まぁそう思われても仕方ないよね。でも単純な理由だよ。私はAクラスにあがりたい。堀北さんもそうでしょ?」

「ええ、そうね」

「そのために力を発揮した。それだけだよ」

「……そう」

 

 思えば、この二人は案外仲良くできるのではないだろうか。これを機に、鈴音には友達の一人くらいはできてほしいものだ。

 そんなことを話していると、洞窟が見えてくる。入り口には暗幕が垂れており、中が見えないようになっている。

 ここにいても何も情報は得られないので洞窟に近づこうとする。清隆も同じ考えだったのか、僕と同じタイミングで動き出す。千秋と鈴音は何やら文句を言っているが関係ない。

 暗幕のすぐそばには一人の生徒が立っており、こちらの存在に気づく。確か、戸塚弥彦だったか。

 

「何だお前らは? ここはAクラスのベースキャンプだぞ」

「そうか。お前たちはここを占有しているのか。けど装置が見えないな、中にあるのか?」

「だ、だったらなんだ?」

「中を見させてもらうぜ」

「おい! 勝手なことをするな!」

 

 暗幕の前に立って僕らの行く道を阻む戸塚。周りにAクラスの生徒はいないのでぶん殴ってやろうかと考えたのだが、暗幕の中から葛城が出てきたことによりその考えは却下される。

 

「……お前たちはDクラスか。何の用だ?」

「洞窟の中を見せてほしいんだ。装置を確認するくらいの権利はオレたちにもあるだろ?」

「それなら好きに見るといい。だが覚悟することだ。指一本でも触れれば俺は妨害行為とみなして学校側に報告させてもらう」

 

 おそらく受理されないはずだが、可能性はゼロではない。勝手に動くのは慎んだ方がいいか。

 

「理解したか? それなら余計なことはしない方がいい。行くぞ弥彦」

「は、はい!」

 

 このように徹底した守りをされると、普通ならAクラスのリーダーを当てるのは難しいだろう。

 僕たちは大人しくDクラスのベースキャンプへ帰ることにした。

 

 

◆◇◆

 

 試験三日目、僕は佐枝ちゃん先生に確認したいことがあるので、先生がいるテントへ向かう。

 

「先生、いますか?」

「……若代か。何の用だ?」

「確認したいことがあります。実は……」

 

 僕はAクラスのベースキャンプのことについて話した。中に装置があるか確認する権利がある、だから洞窟の中に入りたい、と。だがAクラスは指一本でも触れたら妨害行為として学校側に報告すると言ってきたのだが、実際に学校側は妨害行為として判断を下すのか、ということを。

 

「それについては、ルールに書いてある通りだ。他クラスのスポットを使いたいのであれば、許可さえ取れば問題ない」

「……許可さえ取れば、いいんですね?」

「ああ、そうだ」

 

 よし、それなら考えがある。グレーゾーンかもしれないが。

 僕は先生との会話を切り上げて、Aクラスのベースキャンプへ赴くこととした。

 程なくして、洞窟の前に到着する。僕は近くにいるであろうAクラスの担任、真嶋先生を探す。担任の教師は生徒たちが決めたベースキャンプの近くにテントを設置することになってるからな。

 そして僕は真嶋先生を見つけ、声をかける。

 

「真嶋先生、Dクラスの若代です。少し確認したいことがあるので、テントから出てきてもらえますか?」

「……若代? どうかしたか?」

 

 先ほど、佐枝ちゃん先生にした質問を真嶋先生にもぶつける。

 

「それについては、許可さえ取れば問題ない」

 

 やはり、同じ答えが返ってきたか。だが、確かめたいのはここからだ。

 

「……分かりました。それでは真嶋先生、今からAクラスのベースキャンプ内に入りたいので許可をください。もちろん、生徒に暴力を振るったり物資を勝手に使用することはしません。僕が確認したいのは占有装置が中にあるかどうかだけです」

「……なぜ、俺に許可を取る?」

「スポットについてのルールですが『許可を取ればいい』というだけで、『生徒から』とは限定してないですよね? それなら先生から許可をとっても問題ないと思いますが」

 

 もちろんこんなのは屁理屈だ。だがそれについては記載してない学校側のミスだ。さて、この人はどうジャッジを下すかな。

 

「……いいだろう。だが俺も同行させてもらう。問題はないな?」

「はい、構いません」

 

 そして、僕は真嶋先生と共に洞窟の前まで行き、暗幕を手で払って中に入る。

 中に入った瞬間、多くの生徒が驚く顔を見せ、戸塚は真っ先に僕に近づいてくる。

 

「お、おい! 何勝手に入ってきてんだ! 昨日の忠告を聞いていなかったのかお前は!」

「ちゃんと許可は取ったよ。ですよね、真嶋先生?」

「ああ。問題ない」

 

 先生がオーケーしたと聞き、戸塚は焦ったような顔をする。

 葛城も言いたいことがあるのかこちらに来る。

 

「先生、これはどういうことですか? 許可した覚えは……」

「俺が許可した。占有装置を確認するだけだと若代は言っている。それなら何も文句はないはずだ」

「しかし……」

「安心しろよ葛城。確認したらすぐ帰るからさ」

 

 僕は洞窟内をぐるりと見渡す。おそらくAクラスの全生徒がいるはずだ。

 ……うん、よくわかった。

 

「ありがとな。もう大丈夫だ。じゃあお互い最後まで頑張ろうぜー!」

 

 そう言い残し、僕は洞窟から抜け出す。

 人間ってのは面白い生き物で、多くの奴は顔ににじみ出るものだ。

 Aクラスのリーダーは、戸塚弥彦。あいつで決まりだ。Aクラスの生徒をすべて見渡して、焦っているのはあいつだけだった。リーダーとしての大役を任されているから、バレないようにと必死だったんだろう。

 もうAクラスのことは気にしなくてもいいかもな。葛城のことだし、リーダーを入れ替えるなんて考えは思いつきもしないだろう。

 残る問題はCクラスか。龍園はリーダーをすり替える可能性がある。スパイとしての役割も持たせつつ、万が一のために伊吹と金田を残している可能性もある。最終日まで気を抜けないな。

 ……って、なんで僕は他クラスのリーダーを探し出してるんだ? 今回の試験、千秋の実力を見定めるために僕は動いているはずだ。だというのに……

 ……はっ、そうか。楓花が前に言っていたことを思い出す。『私はこの学校を気に入っている』と。

 どうやら、僕も気付かぬうちにそう感じていたようだ。自然に口角が上がり、笑みが止まらない。

 いいだろう、遊んでやるよ。おそらくこの学校で僕の相手になるやつはいないだろうが、それでも構わない。

 今後も特別試験は行われるはずだ。それならやりたいようにやってやる。今までの人生、つまらないことばっかりだったからな。

 

 

 今までの人生で感じたことがないほどの高揚感を覚えながら、僕はベースキャンプまで戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

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