ルールが曖昧、覚えていない方だけ確認してください。
干支試験
無人島試験が終わってから二日が経過した。言い換えれば僕が何者かに狙われてからこの二日間、何も起きていないということになる。
一応、僕を狙ってきた人物のことについていろいろ考えてみた。最初は生徒のうちの誰かかもしれないと考えたが、船が動き出してから撃たれたのでさすがにその線はないだろう。もしそうなら無人島に生徒を置いてきたということになる。この学校のことだ、そんなヘマはしない。
だが、生徒以外なら話は別だ。例えば、この豪華客船に乗り込んでいたスタッフ。おそらくスタッフの数は生徒よりも多いはず。誰か一人がいなくなっても気づかないこともあるし、さして問題もない。やはりその可能性が高いだろう。だとしたらこの学校のセキュリティ面はかなりザルだということになる。平然と武器を持ち込まれているのだから。
僕はこの学校のとある部分にメリットを感じたので入学することに決めた。それは『全寮制』だ。もちろん外部との連絡を絶てる部分にもメリットは感じたが、それは一番ではない。
僕は中学三年の秋にママを亡くしたため、そこからは一人暮らしだった。一応お隣さんの一之瀬さんや幸村さんからサポートはしてもらっていたので、生活自体は別に苦ではなかった。
ただ、ずっとこのままでいるのも個人的には嫌だった。そのことを二人に話したら、一之瀬さんからこの学校のことを教えてもらった。全寮制で、外部から接触されることがない。そして就職率進学率100%の学校が存在すると。
僕が求めているモノがこの学校にはあると感じたため、その推薦を受けこの学校に入学することにした。小、中学校の奴らとも離れられると思ったしな。
幸村のおばさんは『私の家に来てもいいのよ』なんて言ってくれていたな。幸村さんは確か、息子が過去にいたと聞く。僕と同い年の男の子だそうだ。……まぁ、生きていたらの話だが。病気で亡くなったらしい。その後夫とも別れ、今は一人で暮らしている。
そんなこともあり、きっと僕を亡くなった息子と重ねているのだろう。一之瀬のおじさんも内心は行ってほしくなさそうだったしな。
だが、僕はそんな二人の気持ちを踏みにじってここに来た。だからこそ、すぐに戻るわけにもいかない。
だから退学は避けたいと考えているのだが、まさかこの学校を生きて卒業できない可能性が出てくるとはな……。国が運営している学校だから信用していたのだが、どうやらそういうわけでもなかったらしい。
……まぁ、今更そのことを嘆いても仕方ない。僕が細心の注意を払って学校生活を送ればいいだけだ。邪魔してくるものは排除する。そう決めたしな。
とりあえず、今注意すべきことはこの船にまだ僕を狙ってくるやつがいるかどうかだな。一人だけとは限らない。
僕は全神経を研ぎ澄ましながら、ベッドから起き上がり今日も一日を過ごすことにした。
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健や池、山内の三バカ……いや、健はもうバカじゃないな。この言い方は良くないだろう。まぁとにかくこの三人と一緒に朝飯を食った後、僕は自分の部屋に戻るために3階へ赴く。健たちはまたプールに行くらしい。
言い忘れていたが、僕は健たちと同じ部屋で寝ている。僕が停学期間中に部屋を決めることになっていたそうで、健が率先して僕を同じ部屋にしてくれたらしい。池や山内は僕に苦手意識があったかもしれないが、健が決めたらノーとは言えない。
ただそれはこの船に乗る前の話だ。今は普通に会話もしてくれる。無人島での下着泥棒の件で接し方が変わるかもと思っていたが、そんなこともなかった。
どうやら試験が終わった後に、桔梗ちゃんや洋介から説明されたらしい。下着を盗んだのは伊吹であり、それを僕の鞄に入れたこと。そして僕のあの行動にはちゃんと考えがあり、そのおかげでDクラスは一位を取ることができた、と。無理ある説明だろとは思ったが、リーダーをすり替える作戦を実行し、他クラスのリーダーを当てることに成功した真のリーダー、鈴音(そういうことになっている)からもそのように説明されたら信じざるおえないだろう。
そのおかげで、僕は犯罪者のレッテルは解消され、鈴音はクラスの中心人物になりつつある。
千秋も鈴音の指示で、リーダーになったということをクラスの皆に説明した。そして少し不仲になっていた篠原とも和解できたようで、昨日はプールで一緒に遊んでいるのを目撃した。
とはいえ、千秋は脱臼していてまともに動けないので篠原たちが遊んでいるのを見ているだけだったが。正直、いじめられてるのではないかと個人的には思ったが、千秋は楽しそうにしていたのでまぁ大丈夫か。
しかし、軽井沢とはまだ仲直りはできていないらしい。ただこれに関しても千秋ならうまくやるだろう。あまり心配はしていない。
そんなことを考えながら自分の部屋に入ろうとすると、慌てているような声が遠くから聞こえてくる。
「あ、あのお客様……濡れたままで、廊下を歩かないでください……」
「はっはっは! 生憎と私は体を拭かない主義でねぇ。よく言うだろう? 水も滴る、いい男とねぇ!」
バサッ!と髪をかき上げ、キメ顔でそんなことを言う高円寺。そして、そのまま廊下を歩いていく。
その後ろから女性スタッフがおどおどしながらついていき、バスタオルを渡そうとする。だが、高円寺の体から滴り落ちた水滴で足を滑らせ転んでしまう。
「ヒャッ!」
……可哀想だな。高円寺の奴はスタッフが転んだことなど気にせず突き進み、部屋の中へ入っていく。
僕は放っておけないと思い、その女性スタッフに近づき手を差し出す。
「あの、大丈夫ですかー?」
「……え、ああ。はい、大丈夫です……」
そう言って、スタッフは僕の手を取らずに自力で立ち上がる。
そして、近づいてから気づいたことがあるので、僕はそのことを女性スタッフに質問する。
「……あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「な、何でしょう?」
「……どうして、カツラを被っているんですか?」
「え!? ……い、いえ。違います……」
口では否定しているが、手は頭を押さえている。絶対にヅラだ、なぜに? 直感的には別に毛量が薄いとは思わないのだが……
「いや、でも……」
「……じゃねぇつってんだろ」
「……え?」
「……あ! い、いえ! それでは、私はまだ仕事がありますので……」
そう言って、颯爽とその人は去って行ってしまった。何だったんだ? 急に態度が豹変したぞ。世の中には変な人がいるんだな。
僕は心の中でそう思いながら、自分の部屋に戻ることにした。
ベッドの上で寝転がり、時間をつぶそうと思ったのだがここでふと、会ってみたいと思った人物を思い出す。それは千秋の脱臼を治療したスタッフだ。千秋が言うには妖艶な女性だったという。
特徴はそれしかないが、僕の直感があれば見たらなんとなく分かるだろ。ちゃんと感謝の意を伝えたいしな。決して、『妖艶』というワードに引っかかったわけじゃないぞ?
僕はその女性を探すためにまた部屋から出て、スタッフが宿泊している部屋がある5階へ向かう。
説明しておくと、この豪華客船の構造は地上5階、地下4階までの全9階層、そして屋上と分けられている。
1階にはラウンジや宴会用のフロア、2階には会議室のような部屋、3階から5階は順に男子、女子、スタッフの宿泊部屋が存在する。
そして地下1階から3階には映画や舞台などの娯楽施設があり、最下層の地下4階には配電盤室がある。無人島試験が始まる前に千秋から呼び出された場所がこの配電盤室だったな。
そして最後に屋上には、プールやカフェなどが設置されている。まぁ説明はざっとこんなものか。
というわけで、僕は階段を使って5階のフロアへ足を運ぶ。さーて、妖艶な女性、探しますか!
そう意気込んだ瞬間、僕の携帯からキーンという甲高い音が鳴る。確か、学校から大事な情報が送られてきた時に鳴る音だった気がする。
それと同タイミングで、船内にもアナウンスが流れる。
『生徒の皆さんにご連絡いたします。ただいま全ての生徒宛に学校から大事な連絡事項を記載したメールを送信致しました。各自そのメールに記載されている指示に従うようにしてください』
僕は携帯に届いた学校側からのメールを確認する。そこにはこう記載されていた。
『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを課す場合がございます。本日19時までに2階201号室に集合してください。所要時間は20分ほどですので、事前にお手洗いなどを済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにした状態でお越しください』
……来たか、次の特別試験が。僕は嬉しくなり、つい口角が上がってしまう。
胸が高鳴っているのを感じていると、千秋から電話がかかってくる。
『もしもし? メールの内容はどうだった?』
「19時に201号室だとさ。千秋は?」
『……本当? 私もまったく同じなんだけど』
となると、今回の試験では千秋と協力する感じか? だとしたら好都合だが……
「まぁお互い遅刻しないようにしよう。ペナルティは避けたいからな」
『そうだね。それじゃ、またあとで』
千秋との通話を切った後、清隆や鈴音からもメールが来ていることに気づく。
どうやら清隆は18時に204号室、鈴音は20時40分に206号室に集合するようだ。
こうもバラバラになっているのか。だとしたら千秋と一緒になれたのは運がいいのか、それとも何らかの法則でもあるのか。今はまだ分からないな。
とにかく、今考えても仕方ない。所定された時間になるまで待つしかないか。
僕は二人に、自分に届いたメールの内容を教えた後、再び妖艶な女性スタッフを探し出すことにした。
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所定の時間まであと5分前というところで、僕は201号室の前にたどり着く。それまで妖艶な女性スタッフを探し続けていたのだが、結果は空振りだった。まぁ会えたらいいやぐらいの感じだったので、そこまで落ち込みはない。それにまだ数日はこの船にいるのだ。ふとした時にでも会えるだろう。今は特別試験に集中するとしよう。
気持ちを切り替え、僕は部屋の扉をノックする。すると、『どうぞー』という女性の声が聞こえたので、扉を開けて入室する。
中にはBクラスの担任である星之宮先生と、すでに到着して座っている千秋とクラスメイトである王美雨がそこにいた。
「王も一緒だったのか。よろしくな」
「は、はい。よろしくお願いします」
王に挨拶をしながら、僕は余っている椅子に座る。
「……よし、そろそろいいかな。それじゃ、今から特別試験の説明を行うね!」
時間になったため、星之宮先生からフランクな感じで説明が始まる。
「初めに言っておくと、今の段階では質問は受け付けられないので、みんな静かに聞いててね」
そう言われて、僕たちは言葉を発さずに、頷きだけのジェスチャーをする。
「今回の特別試験では、一年生全員を干支になぞらえた12グループに分けて、そのグループ内で試験を行ってもらいます。無人島試験では、チームワークやアクションの実力が問われたけど今回の干支試験では『シンキング能力』が問われることになります。つまり、考える力が大事ってことね!」
かなり嚙み砕いて説明する先生。分かりやすくて非常に助かる。まぁここにいるメンツなら理解できない生徒はいないだろうが。
「そして、みんなも薄々感じてると思うけどここにいる三人は同じグループで動いてもらいます。でも君たちだけじゃなくて、いま別の部屋でも同じように説明を受けている他クラスの生徒も同じグループになります」
なるほど。そういえばこの部屋に来るとき、他クラスの生徒がうろうろしていたがそういうことか。その中には無人島で仲良くしてもらったBクラスの千尋や網倉、渡辺の姿が見えた。
「えっと、それじゃここまでで何か質問のある生徒はいますかー?」
「は、はい。今の話を聞くと今回の試験では他クラスと協力するということですか? 今までは敵同士だったのに……」
王が当然と思われる疑問を先生にぶつける。
「さぁ? どうでしょう。それについては君たち自身で考える事かな。それも含めてシンキングだよ。ちなみにこれが君たちと同じグループになるメンバーのリストだよ。干支は『子』ね。この紙は退室するときには回収しちゃうから必要ならこの場で覚えていくようにしてね!」
星之宮先生から渡された紙には、一番上に『猫』グループと書かれており、その下にメンバーの各クラスと名前と誕生日が書かれていた。
Aクラス・神室真澄 2/20 戸塚弥彦 5/12 橋本正義 4/24 森下藍 9/25
Bクラス・網倉麻子 10/2 白波千尋 11/28 姫野ユキ 5/26 渡辺紀仁 1/8
Cクラス・石崎大地 4/14 椎名ひより 1/21 西野武子 6/11
Dクラス・松下千秋 4/25 若代直経 3/27 王美雨 8/21
以上がこのグループのメンバーだ。正直、誕生日は必要なのか?と思ったのだが、それよりも気になるのは……
「あの、先生。猫じゃなくて鼠じゃないんですか?」
「ん? 猫だけど、それがどうかした松下さん?」
皆が疑問に思ったことを千秋が質問するが、星之宮先生の反応を見る限り記載ミスというわけではないようだ。
「じゃあメンバーはみんな確認したね? そしたら続きを話すよ。まず大前提として、今回はAクラスからDクラスの関係性は一度無視した方がいいと思うよ。つまり君たちはDクラスとしてではなく『猫グループ』として行動してもらいます。そして、試験の結果はグループごとに設定されてます」
そう言って、先生はまた別の紙を僕たちに渡してくる。
「試験の結果は4通り。必ずこの4つのうちのどれかで試験が終わるように作られています。詳しいルールはその紙に書いてあるから、よく確認してね! これも退室するときに回収するのでよく覚えておくように」
《基本的なルール》
・試験開始当日の午前8時に一斉メールが送られ、『優待者』に選ばれた者にはその事実を伝える。
・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(完全自由日を1日挟む)
・1日に2回、グループごとに分かれ1時間の話し合いをしてもらう。内容は生徒の自主性に任せるものとする。
・試験の解答は試験終了後、午後9時30分から午後10時までの間のみ、優待者が誰であったかの答えを受け付ける。解答は一人一回、そして自分の携帯を使って所定のメールアドレスに送信することで解答を受け付ける。また、優待者に選ばれた者に解答権は存在しない。
・自身が配属されたグループ以外への解答は無効とする。
・試験結果は最終日の午後11時にメールで送られる。
《結果について》
・結果1、グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、全員に50万プライベートポイントを支給する。また優待者には+50万となり、計100万ポイントが支給される。
・結果2、優待者及び優待者が所属するクラスメイトを除く全員の答えで、誰か一人でも未解答や不正解があった場合、優待者だけ50万プライベートポイントが支給される。
・結果3、優待者以外が試験終了を待たずに解答し正解していた場合、答えた生徒の所属するクラスは50クラスポイントを得ると同時に、50万プライベートポイントが支給される。また優待者を見抜かれた生徒の所属するクラスには、マイナス50クラスポイントのペナルティが与えられる。なお、優待者と同じクラスの生徒が解答し正解していた場合、その解答は無効として試験続行となる。
・結果4、優待者以外が試験終了を待たずに解答し不正解だった場合、答えた生徒の所属するクラスはマイナス50クラスポイントのペナルティが与えられる。また優待者には50万プライベートポイントを支給されると同時に、優待者が所属するクラスに50クラスポイントが与えられる。なお、優待者と同じクラスの生徒が解答し不正解だった場合、その解答は無効として試験続行となる。
【結果3と4に関しては、24時間いつでも解答を受け付ける。しかし、解答した時点で正否は問わずにそのグループの試験は終了となる】
以上がこの試験のルールだ。
簡単に言えば、結果1はグループで協力して優待者を探し出す。結果2は優待者が最後まで正体を隠しきる。結果3は裏切り者が優待者を当て、結果4は裏切り者が優待者を外す。こんなもんだろう。
人狼ゲームに少し似ているな、やったことないけど。ただ何となくのルールは分かる。
心理戦や頭脳戦がメインになってくるようだ。無人島試験と比べたらだいぶ楽な試験と言えるだろう。
「今回の試験では匿名性を考慮しているので、結果は各グループの結果とクラス単位でのポイント増減しか発表しません。なので、安心してこの試験に臨んでね?」
ウインクしながらそんなことを言う先生。アニメや漫画ならハートが出ていることだろう。
「あとこの試験においての禁止事項も書いてあるからそれも確認してね」
禁止事項を軽くまとめると、他人の携帯を盗んだり脅迫行為などをして優待者の情報を確認することや、勝手に他人の携帯を使って解答するなどの行為は『退学』となるらしい。真面目にやれということだろう。
「君たちには明日から午後1時と午後8時に指示された部屋に向かってもらい、グループで話し合いをしてもらいます。最初だけ自己紹介することが義務付けされているから名前は言い忘れないようにね?」
「あの、1時間の話し合いが終わった後はすぐに解散しなきゃいけないんですか?」
千秋が星之宮先生に確認する。
「ううん。時間が過ぎてもその場で話し合ってもらっても構わないよ。最低でも一時間は話し合いはしてもらうということだね。あーそれと、明日の午前8時に送られてくるメールにはコピーとか改ざんはやっちゃダメだからね」
先生から最後の忠告がされた後、この場は解散することとなり僕たちは部屋から退室する。
「なんか、難しそうな試験ですね……」
「そうだね。若代君はどう思う?」
「当たり前だが、優待者が僕たちのクラスか他クラスになるかでやりようが変わると思う」
「そうだよね……」
千秋は右手を顎において考える。この試験で勝つために色々画策しているのだろう。
横目でその姿を見ながら僕は王に話しかける。
「王、この試験のこともあるから連絡先を交換したいんだけどいいかな?」
「は、はい! もちろんです!」
そう言って、僕たちは連絡先を交換し合う。
「……あのう、若代君。少しいいですか?」
「ん? なんだ王?」
「その、できれば『みーちゃん』って呼んでほしくて……そっちの方が呼びやすいと思うので」
「分かった、じゃあこれからはそう呼ぶよ。それで、美雨はこの後どうするんだ?」
「ええ!? 呼んでくれてないじゃないですか!」
可愛らしいリアクションをする美雨。別にいいだろ、下の名前で呼んでも。
「……はぁ。みーちゃん、諦めた方がいいよ。若代君は一度決めたら変えないから」
「うぅ……」
「そんなに嫌か? 可愛い名前だと思うけどな」
「え!? か、可愛いだなんて……」
顔を赤くしながら俯く美雨。やべ、惚れさせちゃったかな?
「そ、そうだ! このこと、平田君に伝えた方がいいかな?」
「いいんじゃないかな。今は少しでも情報が欲しいだろうし、平田君も喜ぶと思うよ」
「そうですよね! それじゃ、私平田君のもとへ行ってきます!」
そう言って、美雨は颯爽と走っていった。僕に可愛いと言われた時よりも嬉しそうだな。
「みーちゃん、可愛いよね。やっぱり恋する乙女は違うね」
「恋? 誰に?」
「知らないの? 平田君のことが好きなんだよ、みーちゃんは」
……なんだと? さっきの赤らめた顔はいったい何だって言うんだ! 思わせぶりやがって、健全な男子高校生の心を弄ぶな! 決めた、もう2度とみーちゃんとは呼ばない! もとより呼ぶつもりは無かったけど!
「……それより、今回の試験で契約のこと、考えてくれるんだよね?」
千秋は神妙な面持ちでこちらに聞いてくる。
「そうだな。まぁ今回の試験は少数で行われるものだから、無人島みたいなヘマはしないと思ってるよ。期待してるぜ」
そう言って、僕は千秋に背を向けて自分の部屋に戻ることにした。