20時30分、ベッドの上でゴロゴロしていると千秋から電話が鳴る。
「もしもし? どうした?」
『ちょっと来てほしいところがあるから来てくれない?』
「どこだ?」
『2階の206号室。堀北さんが集合する場所』
……確か、20時40分に集合するんだったっけか。というかなんで千秋が知ってるんだ?
「お前、なんでそのこと知ってるんだよ」
『無人島試験が終わった後に、堀北さんと連絡先交換して……それでね』
どうやら僕の知らないところで動いていたらしい。まぁAクラスにあがるために、二人が協力していくのは良いことと言えるだろう。
「そうだったのか。まぁ暇してたし別にいいぞ。今から行くわ」
そう言って、僕は通話を切りベッドから起き上がる。髪が乱れていたので少し整えてから部屋を出ることにした。
階段を使用して、2階に降りる。そして206号室の近くへ赴くと、千秋や鈴音、洋介と清隆の姿が見えた。他にも見覚えのある生徒がちらほらいる。
「直経、お前も来たのか。平田に呼ばれたのか?」
「ううん、私が呼んだんだよ」
「ま、そういうことだ」
千秋が清隆の疑問にそう答え、僕も肯定する。
「それで? なんで僕は呼ばれたんだ?」
「俺が松下に頼んだんだ」
低い声でそう言ってきたのは、Aクラスの葛城康平だ。
「若代直経。お前がAクラスのリーダーを見抜いた。俺はそう思っている」
「……なるほど。確かに、洞窟内に入った僕のことを疑う気持ちはわかる。まぁ試験も終わったし、答え合わせでもするか」
僕はニヤニヤしながら鈴音の方をチラッと見る。鈴音は訝しむ表情を見せるが気にせず僕は言葉を発する。
「実は、戸塚がリーダーだと最初に言い出したのは鈴音なんだよ。初めて対峙したときにな」
「……なに?」
僕の発言を聞き、葛城は鈴音の方を見る。鈴音は慌てふためくことなく、葛城の視線を堂々と受けている。
「ただ、その時はまだ確信が持ててないから何としてでも洞窟内に入って、戸塚の様子を注意深く見て来いって鈴音から命令されたんだよ。だから僕は洞窟内に入ったってわけだ」
「……お前が洞窟に入ってきた理由は分かった。では、なぜ弥彦がリーダーだと感じたんだ?」
「それについては私から説明させてもらうわ」
横から割り込んだ鈴音が僕の代わりに言ってくれる。
「戸塚君はだいぶ顔に出やすいのよ。若代君たちが無理やり洞窟内に入ろうとしたとき、すごく慌てていたもの。私はその時から戸塚君が怪しいと踏んでいた。だから若代君に確証を得てもらうために、さっきの命令を出したのよ。そして若代君からの報告では、戸塚君が異常に慌てていたと聞いたから戸塚君がリーダーだと確信したわけよ」
僕の咄嗟のアドリブに合わせてくれる鈴音。そして内容も申し分ない。
当時の状況を葛城も思い出しているのだろう、鈴音の言ってることに相違点がないため苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「……なるほど。どうやら俺はDクラスを侮っていたようだ。評価を改める必要があるだろう。だが、一度成功したくらいで立場が並ぶと勘違いしないことだ」
「……どういう意味かしら?」
「無人島試験では確かに君の戦略が上手くいったかもしれない。だがクラスポイントの差は歴然だ」
「ご忠告どうもありがとう」
そう言って、鈴音は髪をなびかせる。あれは『ありがとう』とは思ってないな。
それにしても、この206号室の周りにはクラスの中心人物がそろっているような気がする。Aクラスは葛城がいて、Bクラスからは神崎がいる。となるとCクラスは……
「クク、どうやらお前たちも同じ時間のようだな」
やはりというべきか、後ろからCクラスのリーダー、龍園翔が姿を現す。後ろにはCクラスの生徒を3人連れている。
「……龍園か。やはりこのグループはクラスの中心人物が集められているようだな」
神崎が皆も思っていることを口にする。
「そうらしいな。だとしたら一之瀬の姿が見えないのが不思議だがな」
「そんなことはどうでもいい。龍園、俺はお前を許さない」
「あ?」
葛城が龍園の前に立ち、お互いに向かい合う。
「お前たちCクラスも、Aのリーダーを指名したな?」
「さぁ? 何のことだか知らねーな?」
「あれ? 大勢で集まってみんなどうしたの?」
バチバチな空気を一蹴するかのように、桔梗ちゃんが姿を現す。そして、もうすぐ20時40分になるためその場は解散となり、クラスごとに異なる部屋に入っていく。206号室には鈴音、洋介、桔梗ちゃんの3人が入室していく。
その姿を見て、千秋がポツリとつぶやく。
「……めんどくさそうだね、このグループは」
その千秋の言葉に、僕と清隆は静かに頷いた。
◆◇◆
次の日の朝、僕と千秋と清隆と鈴音の4人で『ブルーオーシャン』というカフェに集まっていた。
時刻は7時55分。もうすぐで学校側から優待者かどうかのメールが届くはずだ。
「そういえば、鈴音のグループはなんだったんだ?」
「私たちのグループは『竜』よ。メンバーも偶然とは思えない集まりね」
それに関しては昨日確認したので別に驚きはしない。ただこの事実から分かるのは、学校側は人為的にメンバー分けをしているということだろう。優待者も何らかの法則で決まっているということだ。
「ただそうなると、一之瀬さんがいないのはやっぱり不思議だよね」
「確か、綾小路君の兎グループにいるのよね?」
「ああ、そうだな。だが個人的には誕生日が記載されていたことの方が疑問に思っている」
「言われてみればそうね……」
皆も同じ意見のようだな。ただこの学校のことだ、無意味な情報は記載しないだろう。
そんなことを考えていると、午前8時となり全員にメールが届き、即座に確認する。
『厳正なる調整の結果、あなたは優待者には選ばれませんでした。本日午後1時より試験を開始いたします。猫グループの方は2階の猫部屋に集合してください』
メールにはそう書かれていた。僕たちは皆に見えるように携帯を見せあう。
「……みんな優待者には選ばれなかったね」
「そうね。そういえば松下さんたちのグループは鼠じゃなくて猫な部分も不思議なところね」
「そうなんだよね……若代君はどう思う?」
「さぁ……どうだろうな。それより清隆は今回の試験をどう思う?」
千秋の質問にあえて答えず、清隆に話を振る。というのも、優待者の法則になんとなく気づいたからだ。この法則に気づくと、鼠ではなく猫な理由も必然と理解してくる。
どうやら、今回の試験で特別なグループは『竜』グループではなく、『猫』グループのようだ。
ただ、この情報は千秋に伝えるわけにはいかない。さて、千秋は優待者の法則、
「優待者をどう扱うかによるんじゃないか? オレは馬鹿だからよく分からないが……」
「ああ、ごめんなさい綾小路君。松下さんがいるから無能なフリをしていると思うのだけれど、彼女には連絡先を交換したときにすべて話したわ。あなたが高い実力を持っていることを」
「あはは……そういうことだから、改めてよろしくね綾小路君」
「……よろしく」
清隆からしたら自分の実力が知られるのはあまり好ましくないのだろう。それも自分の知らないところでだ。不自由で可哀想だな、清隆のやつ。
だが安心しろ、千秋はそう簡単に周りには言いふらさないやつだ。
心の中でそうフォローしておくと、こちらに近づいてくる二人の存在に気づく。
「よう鈴音ぇ。今日も金魚の糞たちと一緒か?」
「気安く私の名前を呼ばないでくれるかしら? それと伊吹さん、スパイとしてDクラスを混乱させたくせに、よくのうのうと顔を出せたものね」
「っ!」
こちらに近づいてきた生徒、龍園と伊吹に挨拶をかます鈴音。伊吹は鈴音の発言にムカついたのか、拳を強く握る。
「落ち着け伊吹。それより、優待者には選ばれたか?」
「教えるわけないでしょ。それともあなたは教えてくれるというのかしら?」
「お望みならな。ただその前に聞かせてくれよ、無人島試験ではどう動いた? こいつの報告ではお前が動いた形跡はなかった。隣にいる松下がクラスを引っ張っていたはずだ」
「そうね。ただ、それもすべて作戦のうちだったとしたら? スパイがいるのだから私が目立たないように動くのは当然のことでしょう?」
「確かにそうだな。だが俺の勘では無人島試験でDクラスが勝てたのはお前でも松下でもない、第三者の人間が動いたからだと思っているんだがな」
そう言って、ニヤニヤしながら僕と清隆を見てくる龍園。目が合ったのでウインクしておく。
「なぜそう思うのかしら?」
「種が分かれば難しいものじゃない。Dクラスは試験が終わる直前にリーダーを入れ替えた。だがこんな作戦は真面目ちゃんな性格をしている鈴音や松下には到底思いつけない作戦なんだよ」
「それはあなたが勝手に思っていることでしょう? けど事実は違う。私は松下さんからリーダーがバレたかもしれない、そしてその時に肩を脱臼してしまったと聞かされて、その怪我を利用してリーダーをすり替えることができるかもしれないと思いついた。ただそれだけよ」
自信満々で嘘をつく鈴音。なかなかのポーカーフェイスだ。
「クク、お前が何と言おうが俺はそう確信している。裏で動いたやつに伝えておけ、必ず探し出してやるってな」
そう言って、龍園は鈴音を盗撮してこの場を立ち去っていく。
伊吹も立ち去るかと思ったが、まだこの場に留まり続けている。
「なぁ松下……その怪我、私のせいか?」
「え? ああ! 違う違う! これはあの後に私が泥で足を滑らせたときにできた怪我だから、気にしなくていいよ!」
「……そうか。その、悪かったな」
謝罪した後、伊吹は颯爽とこの場を去っていく。無人島で話したときは気が強い女の子という印象だったが、根はいい子なのかもしれないな。
「一躍時の人だな、堀北は」
「誰のせいかしら?」
僕と清隆を睨みながらそんなことを言う鈴音。
「……はぁ、まぁいいわ。それよりこれ以上話し合っても進展はなさそうね。もう解散してもらって結構よ。進捗があったら報告をお願い」
どうやらここからは各々で試験に臨むしかないようだ。僕は解散した後、自分の部屋に行ってディスカッションの時間になるまで寝て過ごすことにした。
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「おい! 若代! 起きろ!」
「……んん? なんだ健?」
「なんだじゃねぇって! もうすぐで13時になるぞ!」
携帯を手に取り、時間を確認すると12時55分だった。12時にアラームをセットしておいたのだが、どうやら気づけなかったか。昼飯を食べたかったが、話し合いが終わるまではお預けだな。
「ありがとう健、起こしてくれて。じゃあ行くか」
身だしなみを軽く整えて、僕たちは2階へ赴く。
道中、健からこの試験についてどう動けばいいか質問される。
「俺としてはクラスに貢献するためには、結果3を狙えたらいいと思うんだがよ……」
「ハイリスク・ハイリターンだな。まぁその気持ちは大事だと思うが、勝手に動くことはするなよ。鈴音の奴に腹パンされるだろうからな」
「……それだけはごめんだな。そうだな、同じクラスのメンバーにも勝手に動かないように言っておくぜ」
健に忠告した後、僕たちはそれぞれの部屋に向かい入室する。時刻は12時59分。ギリギリだが、一応時間内に入ることができたな。
部屋の中には、楕円形のような形をした机があり、それを囲うように椅子が人数分用意されていた。
僕が最後の一人だったため、一つだけ残っている席に急いで座る。左にはBクラスの渡辺、右には千秋が座っている。
「もう、遅いよ若代君! ヒヤヒヤしたんだから」
「悪い悪い」
僕は両手を合わせて謝るジェスチャーをする。それと同時にアナウンスが流れる。
『ではこれより一回目のグループディスカッションを開始します』
試験開始の宣言がされたが、皆周りを見るだけで誰も何も話そうとしない。
しかし、その空気を変えようとするために、とある男が挙手をして言葉を発する。
「よければ、俺が仕切ってもいいか?」
金髪で髪を結んでいる男、Aクラスの橋本正義がそう言うが……
「拒否します橋本正義。あなたは胡散臭いです」
「はぁ? 何だよそれ。ならお前が代わりにやるか、森下?」
「私がやるわけないじゃないですか。少し考えたら分かることです」
「……はぁ。まぁそう言うわけで、俺以外で誰か仕切りたい奴いるか?」
……Aクラスにも厄介そうな奴がいるんだな。
「じゃあ、私が仕切ってもいいかな?」
「おお! 助かるぜ。えーと、名前は?」
「松下千秋、Dクラスだよ。確か、最初は自己紹介が義務付けられてるよね? だったら時計回りで順番にやっていこうか。じゃあ次は若代君ね」
「オッケー。というわけで、僕は若代直経だ。ひとつよしなに」
その後も順番に自己紹介が続いていき、最後は千秋の右に座っている美雨で終了する。
「王美雨です。中国から留学生として来ました。できれば、みーちゃんと呼んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
「……よし。それじゃあ皆、これで名前と顔は一致したかな?」
「はい、問題ありません」
千秋の問いに、Cクラスの椎名ひよりがそう答える。皆も特に異論はないようだ。
「じゃあここからは、グループの方針でも話し合った方がいいかな?」
「ちょっと待った。先に皆んなに聞きたいことがあるんだがいいか?」
橋本が千秋の意見を遮り、そう発言する。
「何かな?」
「いやさ、メンバーが書かれていた紙に誕生日も載ってただろ? あれが何なのか皆んなの意見を聞いてみたいなって思ってな。松下はどう考えてる?」
「……そうだね。正直、今のところまだ何も分かっていないのが現状かな。ただ、無意味な情報ではないと思ってるよ」
「えー、本当にそうかなー? もし必要な情報なんだとしたら、名前みたいに誕生日を言うことも義務付けられるんじゃないー?」
千秋の考えに意を唱えた人物、それはCクラスの西野武子だ。
「石崎はどう思うー?」
「ここで俺に振んのかよ!? いや、正直俺もよく分かんねぇよ……椎名はどうなんだ?」
「そうですね……西野さんの意見も一理あるとは思います。学校側はいらない情報を与えて、私たちを混乱させたいとか? 何が重要で何が不要な情報か、そういうのも含めて『シンキング能力』が問われているのかもしれませんね」
「……なるほどな。椎名の意見が一番しっくりくるぜ。じゃあ誕生日についてはあまり深く考えない方向性でいくか。みんなはどうだ?」
橋本が椎名の意見に賛同し、みんなにも確認をとる。橋本のやつ、しれっとこの場の主導権を握っているな。
「……反対のやつはいないみたいだな。よし、じゃあ誕生日については一旦これでしまいにしよう。次に確認したいのは……」
「橋本正義、あなたは日本語が理解できていないのですか? 私は仕切るなと先ほど伝えたはずですが?」
「いや、今のは流れ的にしょうがないだろ? てか、何でお前はそんなに俺に仕切られたくないんだよ。俺、お前になんかしたか?」
「特にはありません。強いて言うなら直感です。私の勘が、あなたは今後クラスに厄介ごとを持ち込んできそうだなと告げているからです」
「滅茶苦茶すぎんだろ!」
また始まったよ……確か、森下藍だったか? なかなかスムーズに事を運ばせてくれないな。橋本のやつも、よく付き合ってあげるな。僕だったら無視してるぞ。
「……おい。少しは黙ったらどうだ森下? お前のせいで無駄な時間を過ごすことになるじゃないか」
「あなたは黙っていてください戸塚弥彦。無人島試験ではあなたのせいでAクラスは3位になったんですよ。反省してください」
「はぁ!? 今その話はどうでもいいだろ!」
「どうでもよくありません。今のまま行けば、Aクラスで真っ先にいなくなるのはあなたですよ戸塚弥彦」
「……はぁ。ほんっと最悪ね、このメンツ」
森下が戸塚と言い合っているのを横目で見ながら、ため息を吐く神室真澄。同感だな、僕も似たようなことを感じていたよ。
というわけで、これ以上うるさくなるのは勘弁なので、僕は机を思いっきり台パンする。
「ひっ!……え、えっと若代君? どうしたの?」
千尋が恐る恐る僕に聞いてくる。
「いや、このままだと埒があかないかな〜って感じてさ。時間は有限だぜ? いちゃつきたいなら、話し合いが終わってからにしてくれ。そんじゃ千秋、続きをどうぞ」
僕は強引にこの場を静かにさせ、千秋に主導権を握らせる。
「う、うん。えーと、さっき橋本君が言いかけたことって何かな?」
「あ、ああ。俺が次に確認したかったのは、このグループの動物についてだ。これに関してはみんなも疑問に思ってるよな?」
「そ、そうだね! 『猫』じゃなくて、『鼠』だよね普通!」
網倉が橋本の意見に賛同する。ぎこちない感じは拭い切れないが、着実に話し合いが行われていく。
「あ! そう言えば、干支って確か中国から伝えられたものだよな? みーちゃんは何か分かることあるか?」
僕の左隣にいる渡辺が美雨にそう質問する。
「えーと、そうですね。そもそも十二支は方角や時間を表すものだったのですが、分かりやすくするために動物を当てはめたと言われています。それで肝心の猫なんですけど、色々説があるんですよね」
「私が知っているのは、神様が動物たちに競争させる昔話かな。確か、鼠に騙されて猫は十二支に入ることができなかったんだよね?」
「はい! 網倉さんの言う通りです。おそらく、それが一番言い伝えられていると思います」
他にも説はある。例えば、十二支が作られたときに猫はそこまで身近な動物ではなかったり、虎がすでにいるから猫はいらないとか。余談だが、国によっては兎の代わりに猫が十二支に入っている国もある。
「そうだよなー。なんで俺たちのグループは猫なんだろうな?」
渡辺が僕の方を見てそう聞いてくる。
「さぁな。今話し合っても分からないことなんじゃないか? この件についても、一旦保留でいいだろ」
「……そうだね。それじゃ、このグループでどの結果に導きたいか。それについて話し合おうか」
僕の提案を千秋は了承し、話題を転換する。
「そんなの、結果1が狙えたらベストでしょ?」
ここまで発言がなかったBクラスの姫野ユキがそう発言する。
「確かにそうだね。でもそれは難しいことだと思う。裏切り者の存在はかなり大きいから」
千秋がそう言うと、みんな黙り込む。この試験を結果1で終えることの難しさを、皆も薄々感じているのだろう。
しかし、意外な人物がこの空気を変える。
「……ふん。どうやら誰も思いついていないみたいだな。この試験を確実に、そしてプラスで試験を終える方法を」
「……どういう方法か教えてくれる、戸塚君?」
「簡単なことだ。試験が終わるまで、一切の話し合いを持たないことだ」
戸塚は腕を組み、得意げな顔でそのような提案をする。面白い案だが、おそらく葛城の入れ知恵だろうな。
「……なるほど。裏切り者を出さないことに重きを置いているのですね? 結果3と4にはデメリットがありますが、残りの二つはメリットしかない。そういうことですね?」
「その通りだ椎名。そして結果1が難しいのは皆も理解したはずだ。となれば結果2を狙うべきだ。話し合うことで皆が疑心暗鬼になるよりも、何もしないで平和に終わる方が皆もいいだろう?」
「でもよ戸塚、優待者がどっかのクラスに偏ってたら、多くのプライベートポイントがそのクラスに行っちまうってことだよな? それはそれで見過ごせないと感じるんだがよ」
「はっ! そんなんだからお前はCクラスなんだよ石崎。優待者は各クラスに3人ずついるはずだ。葛城さんがそう言っているんだ、間違いない!」
「ああ!? てめー今なんつった!」
「こらこら、落ち着けって石崎ー」
キレている石崎を西野がなだめる。それにしても戸塚、お前はなんでAクラスにいるんだろうな……。
「落ち着いてください石崎君。戸塚君も相手を挑発するような言動は控えてください」
「……ふん」
椎名は可愛いからな。そんな風に言われたら何も言い返せないだろう。戸塚は鼻を鳴らし、椎名から顔を背ける。
「……しかし、戸塚君の言った作戦はAクラスだからできるものだと思います」
「……なに?」
「私たち他クラスからしたら、チャンスを捨てることはできません。ですよね松下さん?」
「うん、そうだね。その機会を見過ごせと言われて、はいそうですかって納得することはできないかな」
「だ、だがどうするんだ? まさか、結果3でも目指すのか?」
「そうは言ってないよ。私も裏切り者が出るのはできれば避けたい」
「……じゃあどうするんだ?」
裏切り者を出す結果3と4はダメ。そして葛城の作戦である結果2を狙うのもダメ。となると……
「……結果1を狙うってことになるな。だがさっき松下が言ったように実現は難しいぜ? 仮に狙えたとしても、俺たちAクラスとBクラスは4人。CクラスとDクラスは3人で、得るポイントに差ができちまうぜ?」
橋本が結果1を狙った時に生じる懸念点を皆に伝える。
「それなら各クラス均等になるようにポイントを分け与えればいいんじゃないか?」
「確かに! それなら平等だしいいんじゃない!」
渡辺の提案に網倉が賛同するが……
「Bクラスが良くても、私は反対。なんでせっかく得たポイントを他人にあげなきゃいけないのよ」
「そうだな。俺も神室と同じ意見だな」
Aクラスの神室と橋本は渡辺の考えに反対する。まぁそれが普通だろう。
「……どうやら、結果1も無理そうだな。どうするんだ千秋?」
「……」
僕の問いに答えることなく、千秋は目をつぶり黙り込む。
その後、特に話し合いが行われることなく、一回目のグループディスカッションが終了した。