ディスカッションが終わった後、僕は猫グループのメンバーに連絡先を交換しようと声をかけた。しかし、全員と交換できたわけではなく、神室と森下と戸塚、姫野と石崎と西野には断られてしまった。
だが問題はない。Aクラスは橋本、Cクラスは椎名と、各クラスとコネクションを持つことができた。今回の試験のように、今後は他クラスの人間と協力していくことが求められることもあるだろう。それなら持っておいた方がいい。
連絡先を交換した後、僕は千秋と一緒に鉄板焼きのあるレストランに向かった。そして今、鉄板で焼かれた黒毛和牛を食べながら、千秋と試験について話している。
「で、どうするんだ千秋。ちゃんと方針を決めておかないとグループは混乱するぞ?」
「……そのことだけど、個人的には結果3を狙っているからそれならそれでいいかなって思ってる」
「……そうなのか。てことは、美雨は優待者じゃないんだな?」
「うん。そこは本人に確認したから大丈夫」
僕はプライベートポイントがもらえればそれでいいので、結果1か結果3なら文句はない。それなら、千秋と交渉するか。
「分かった。それなら最終的に優待者を当てるのは僕に譲ってくれ。僕はすでに優待者が誰なのか見当がついてる」
「……じゃあ私は、優待者が誰なのか当てることができれば契約成立ってこと?」
「そういうことだ。確信をもって『この人だ』って思ったら僕に伝えてくれ。その話し合いが終わった後にすぐ解答するから。ポイントも25万くれてやる。ただ、今後のディスカッションで僕はあまり会話には参加しないと思う。僕になにか意見を求めることはやめろよ?」
「分かってるよ。私だけの力で見つけ出すから」
その後、試験についての会話は終わり、世間話でもしながら腹を満たすことにした。
千秋と解散した後、僕は自分の部屋に戻る。中に入ると健と池の二人が談笑していた。
「おお若代! 待ってたぜ」
「ん? なんか話でもあるのか?」
「試験のことでよ。実はAクラスの奴らが話し合いは持たない方がいいって言いだしてきてよ。それで1回目のディスカッションじゃ、あんまり会話がなかったつーか」
どうやら他のグループでも似たようなことになっているんだな。
「健のグループってなんだっけ?」
「牛だぜ、牛。俺も一緒なんだよ」
池からそう言われ、メンバーのことも教えてもらう。Ⅾクラスからは池、愛里、健、前園杏の4人が選ばれたようだ。他クラスに僕の知っている人物はいないな。
「うーん。実は僕のグループでも似たようなことが起きていてな。Aクラスはどうやら結果2を狙いたいようだ」
「……てことは、裏切り者を出したくないってことか。けどそれを受け入れたら、クラスポイントは変動しないからこのままってことになるよな。俺たちⅮクラスからしたら、黙って受け入れるわけにもいかねぇよな……」
……ちゃんと考えているようだな、健のやつ。まさに今回の試験で問われている『シンキング』を体現している生徒と言えるだろう。初めて会った時とは大違いだ。
「けどさぁ健、結果3を狙うんだとしたらハイリスク・ハイリターンだって、若代から忠告されたんだろ? 正直、無理に狙う必要はないと思うんだよなー。俺たちはこういう頭を使う系では役に立たないんだからよ。きっと堀北とか桔梗ちゃんあたりが活躍してくれるって。あんま深く考えすぎんなよ? な?」
一見、思考を放棄しているように見える池の意見だが、ちゃんと自分の力量を見極めている。そして同時に友人のことも気にかけて言葉を発している。池も着実に成長しているようだな。
それに、池の考え方はこの牛グループでは有難い。というのもメンツを見て分かったことだが、牛グループの優待者はBクラスにいる。当てられるとちょっと厄介なので、できれば当ててほしくない。僕も池の考えに賛成しておくか。
「池の言う通りだな。こういうのは適材適所ってやつだ。もっと気楽にやってみてもいいんじゃないか?」
「……確かにそうかもな。ありがとな二人とも」
健を冷静にさせた後、僕たちは気分転換として3人でプールに行って遊ぶことにした。それにしてもこいつら、体力どうなってんだ? ずっとプールで遊んでいる気がするが……。
~~~
プールで遊んだ後、三人で夜ご飯を食ってから、2回目のグループディスカッションに臨む。
だが、前回の後半のように誰もしゃべることはない。この話し合いでも特に会話することなく終わるかもと思っていたが、網倉からとある提案がされる。
「あのさ、話し合いの内容は別に試験のことだけじゃなくてもいいんだよね?」
「そうですね。内容は生徒の自主性に任せるとルールには書いてありましたから」
椎名が網倉の意見に肯定する。確認した後、網倉は机の上にトランプを置く。
「だったらさ! ただ無言で過ごすのも居心地悪いと思うから、トランプで遊びながら交流でも深めない? どうせ今のままじゃ、話し合いもできないと思うし」
「いいかもしれないな! 俺は網倉の考えに賛成だ!」
「私も!」
同じクラスである渡辺と千尋も強く賛同する。時間つぶしにはちょうどいいか。僕も賛同するとしよう。
「いいかもな。僕は参加するぜ」
「ありがとう若代君!」
その後も参加したいという人が続出し、戸塚と石崎、西野と姫野、そして千秋以外が参加することとなった。千秋は見ているだけでいいと言い出してきたので見学となる。まぁ怪我のこともある、片手だけだと遊びにくいというのもあるだろう。他の4人は知らん。単純に気分じゃないとかそういうのだろう。
「それじゃ、何して遊ぶ?」
「無難にババ抜きとかでいいんじゃないか? ルール知らないやつとかいないだろ?」
橋本が皆に問いかけ、特に異論がなかったためババ抜きをすることになった。
机があるとカードを取りにくいため、机と椅子をどかして床に座りながら行う。神室がシャッフルは得意とのことで、彼女にカードを切ってもらい、各生徒にカードを配ってもらう。
そして、配り終えたので僕はカードを手に取り確認する。……ジョーカーはないな。さて、誰が持っているかな?
僕は数字がそろっているカードを捨てながら、周りの人間を確認する。橋本はニヤニヤしており、神室と森下はいつもと変わらず仏頂面だ。他の生徒もいつも通りだ、一人を除いては。
「よ、よし。じゃあ網倉が俺のカードを取って、そっから時計回りで行くか」
「オッケー! じゃあ取るよ~?」
網倉が渡辺からカードを取る。そしてカードがそろったため、場に2枚のカードを捨てる。そして今度は網倉の左隣にいる千尋が網倉からカードを取る。
その後もそのような流れが続き、今度は僕のカードを渡辺が取る番になる。
「さぁ? そろえることができるかな?」
「や、やってやんよ」
額に汗をかきながら、僕のカードを選ぶ渡辺。程なくしてカードを取り、渡辺も2枚のカードをその場に捨てる。
良かったな渡辺、手札を減らせて。ただ確信を持って言えることがある。お前絶対ジョーカー持ってるだろ?
網倉もそのことに気づいたのか、渡辺の顔を見ながら、カードを選んでいる。
「これかなー? ジョーカーは?」
「な、何言ってんだよ網倉! 俺は持ってねぇって!」
……今の反応でおそらくみんな理解しただろう。そして渡辺の手札からジョーカーが移動することなく、ババ抜きは終了した。
「クソ~! 俺こういうの苦手なんだよ!」
「あはは! 渡辺君分かりやすすぎるよ~」
皆で渡辺をいじり倒した後、その後もババ抜きやジジ抜きを行い、2回目のグループディスカッションが終了した。
部屋に戻ると、健と池が山内を必死に止めているような会話が聞こえてくる。
「どうしたんだ?」
「おお若代! お前からも言ってやってくれ! こいつ、優待者を当ててクラスに貢献するとか言いやがるんだ!」
「別にいいだろ! 寛治だって当てることに成功したら、女子たちからモテるかもしれないだろ!?」
「現実を見ろよ春樹! お前の実力で結果3を狙えるとは思えねぇよ!」
……その通りだと思うが、結構ストレートに言うんだな。まぁ親友だからこそ言える事か。
「なんでそんなにやる気をだしているんだ?」
「そ、それは……とある目的があってな?」
僕の目を逸らしながら、そんなことを言う山内。おそらくクラス貢献なんて考えていない。やましい気持ちがあるのだろう、僕の直感がそう言っている。
「……山内のグループは?」
「鳥グループだけど?」
「グループのメンツは?」
「はぁ? 俺が覚えているわけねぇだろ? 同じクラスの奴は小野寺と長谷部の二人だけどよ」
まぁそうだよな、お前が覚えてるわけないよな。仕方ない、時間があるときに小野寺か長谷部の二人に確認するか。
「それが分かれば十分だ。とにかく、勝手なことはしない方がいい。鈴音が言ってたんだよ、勝手に動いたやつは腹パンするってな」
「……」
そう言うと、山内は何かを思い出したかのように顔が真っ青になり震えだす。
「あーそういえば、俺もその場にはいなかったから桔梗ちゃんから聞いた話なんだけどよ。春樹の奴、無人島試験で堀北の奴に腹パンされてから背負い投げされたらしいんだよな。まぁ聞いたら、松下に泥ぶっかけたって話だから自業自得だとは思うんだけどさ……多分それがトラウマになってんだろうな」
池からそのような説明がされる。多分僕がBクラスにいるときにあった出来事なのだろう。どうせ清隆が関わっているんだろうな……。まぁなんにせよ、そういうことなら勝手に動くことはしないだろう。
そう安堵していた時、学校から通知が届く。それも僕だけでなくこの場にいる皆にもだ。
急いで確認すると、猿グループの試験が終了したという旨のメールが送られてきていた。
「はぁ!? まさか、誰かが狙ったってことか!?」
「おいおい嘘だろ!」
健と池が驚愕する声を上げる。山内は変わらずブルブルしている。
それにしても、このタイミングで動いたか……。いや、あいつにしては遅い方かもな。1回目のグループディスカッションが終わった後にやってもおかしくない。僕も千秋との契約がなかったら、すぐに解答していただろうなぁ……。
「二人とも落ち着け。多分動いた人間は高円寺だ。あいつなら優待者を外すことはないだろう」
「なんでそう言い切れるんだよ! 外してる可能性もあるだろ!」
池から当然の疑問が飛んでくるが……
「……若代がそう言うってことはそうなんだろうな」
「健! お前も高円寺を信じてるのか!」
「勘違いすんなよ寛治。俺が信じてるのはあいつじゃなくて若代だ。もちろん勝手に動く高円寺にはムカついてる」
「……まぁ、あくまで僕の予想だ。もし高円寺が外していた場合は、ボロクソに言ってやれ」
つっても、絶対に当ててるだろうけどな。願わくば、猿グループの優待者がBクラスじゃないことを祈ろう。
その後、僕は外の空気を吸いたくなったので部屋から出て、船外のデッキに出る。空を見上げると、満天の星空が広がっていた。
「……綺麗だな」
心の中で思ったことが、つい口に出てしまう。まぁいいか、誰かに聞かれても困ることはない。
それにしても、僕以外にも生徒がいるのだが一人ではない。皆、二人組で星を眺めている。しかも男女でだ。
……虚しくなってくるな。誰か、僕みたいに一人で行動している奴はいないかな?
そう思って、辺りをキョロキョロする。周りからしたら不審者のように見えるだろう。
そして、一人で星を見ている女子生徒を見つけたので、気配を消してその子の隣に行く。
「……綺麗だな」
「え!?」
僕の存在に驚いて、驚きの声を上げる女の子。それは桔梗ちゃんだ。
「あ……うん、そうだね。綺麗だよね、星!」
「ああ、星
言外に、『桔梗ちゃんも綺麗だよ』と伝えてみる。
「あはは、ありがとう若代君!」
特に照れることなく、さらりと流される。……傷つくな、勇気を出して言ったのに。
いたたまれなくなってきたので、僕はその場から離れようとする。
「あれ? もう行っちゃうの?」
「……うん、おやすみ。あんまり夜更かししないようにね」
そう言って、僕は桔梗ちゃんに背を向けて歩き出す。すると後ろから声を掛けられる。
「待って! 若代君!」
なんだろうと思い振り返ると、桔梗ちゃんが僕の胸に飛び込んでくる。
「……えっと、どうしたんだ急に?」
「……ごめん。ちょっと、寂しくなっちゃって」
……なぜ急にこんな行動を取ったのか分からない。だが、分からなくていいじゃないか。
大事なのは、今僕の胸に桔梗ちゃんがいるということ。可愛い女の子に抱き着かれているという自分がいることだ! ママ、見てるか! 僕は今幸せです!
「……あ! ご、ごめんね! いま離れるから」
そう言って、桔梗ちゃんは僕の胸から離れようとする。だが、そんなことは僕が許さない。
桔梗ちゃんの腕をつかみ、再度僕の方へ引き寄せてハグをする。周りの視線なんか関係ない。
「え!? ちょ、ちょっと! 若代君っ?」
「……もう少し、このままでいさせてくれ」
ハグすることによって、ストレスを軽減させることができるという研究結果がある。
桔梗ちゃんは多くの人間と毎日関わっている。その分ストレスもあるだろう。だから僕が癒してやるとしよう。決して、いい匂いがするからもっと嗅いでいたいとか、そんなやましい気持ちは断じてない!
「何やってるんだ直経」
そう言って、後ろから思いっきり頭を叩かれる。それと同時に、僕は桔梗ちゃんから離れる。
「痛ってぇな! いきなり何すんだよ!」
「お前こそ何してるんだ。大丈夫か、櫛田?」
「う、うん。大丈夫だよ綾小路君。それと、ちょっと勘違いしているようだから言っておくけど若代君は何も悪くないよ」
「……どういうことだ?」
「えっと……私が転んじゃって、それを支えてくれてたんだ。だよね、若代君?」
桔梗ちゃんがアドリブで嘘をついてくれる。当然、僕もその流れに乗っかる。
「そういうことだ。だから謝れ清隆! 僕はすごく傷ついたぞ」
「……そうだったのか。その、悪かった」
分かればいいんだ、分かれば。その後、桔梗ちゃんは部屋に戻っていき、僕と清隆はまだその場にとどまっていた。
「そういや、のどが渇いたな。自販機で何か買ってくか。清隆はどうする? 今なら奢ってやるぞ」
「いいのか? ならオレも一緒に行こう」
今は機嫌がいいからな、特大サービスってやつだ。そうして、自販機があるところまで移動する。
すると、自販機の近くにバーがあり、そのカウンター席に見覚えのある三人の後ろ姿を見つける。
「あれ、佐枝ちゃん先生と星之宮先生と真嶋先生だよな?」
「そうだな」
「せっかくだし、盗み聞きしようぜ。何か面白い話が聞けるかもしれない」
「……そうだな。直経、気配を消すことはできるか?」
「できなきゃここに立ってねぇよ」
「さすがだな」
そうして、僕たち二人は気配を消してギリギリの位置まで三人に近づく。
「それにしてもさー、この三人でこうして話すのも久しぶりよねー」
「因果なものだな。俺たち三人とも、教師という道を選んだんだからな」
「あっ! そう言えば見たよー? 真嶋君、デートしてたでしょ~?」
「知恵こそ、前の男はどうした?」
「あはは! 二週間で別れた~」
真嶋先生の肩を叩きながらそんなことを言う星之宮先生。会話から読み取れるのはあの三人は同じ学校出身で、青春時代を共に過ごしてきた仲なのだろう。
「……そんなことより、あれはどういうことだ知恵?」
「ん? 何がー?」
「一之瀬のことだ。なぜ兎グループに配属した? 通例では竜グループにクラスの代表者を集める方針だろう」
「あーそのことね~。別にふざけてるつもりは無いよ? 私なりにもちゃんと考えがあって、一之瀬さんは兎グループに配属させたの。それに神崎君がいるんだし、何も問題ないと思うけどな~?」
「何か引っかかることでもあるのか、佐枝?」
「……個人的恨みで、判断を誤らないでもらいたいだけだ」
そう言って、佐枝ちゃん先生はグラスに入っているカクテルを一口飲む。
「えー? もしかして、まだ10年前のことを言ってるのー? 私はもう水に流したって~」
「どうだかな。お前は常に、私の前にいないと気が済まないやつだ」
「もうー偶然だって! まぁ? 佐枝ちゃんが綾小路君を気にかけてることは気になってるよ? ほら、一学期の終業式の日に綾小路君を指導室に連れ込んでいたじゃない? 今までそんなことなかったのに」
「……見ていたのか。あれは少し確認したいことがあったからそうしたまでだ。大したことじゃない」
「大したことないなら、指導室なんて使わなくてもよくない?」
「……デリケートな内容なんだ。周りに聞かれないようにするための措置だ」
そう言って、今度は思いっきりカクテルを飲む佐枝ちゃん先生。なんか隠してるのかな?
「……清隆、そんなことがあったのか?」
「まぁな。だが特に大したことは話してない」
「なら、僕に教えてくれるか?」
「……いつかな」
これは大事な話が行われてますねぇ~。ま、話したくないなら構わない。人間は一つや二つくらい、墓場まで持っていきたいことがあるものだ。
「それより直経、そろそろ部屋に戻ろう。長居してバレたら面倒だ」
「うーん。いや、僕はまだここに残るよ。清隆は先に帰ってていいよ」
「そうか。なら先に戻ってるぞ」
「ああ。ジュースはまた今度な」
そうして、清隆は音を立てずにこの場を立ち去っていく。できればジュースのことは、次会った時には忘れてくれていると嬉しいな。
そんなことを考えつつ、僕は再び先生たちの方に意識を向ける。
「そういえばー? 綾小路君だけじゃなくて、若代君のことも気になるな~。私の勘だと、彼も結構やりそうなのよね~。猫グループに彼を配属したのはそういうこと~?……もしかして佐枝ちゃんさ、下剋上でも狙ってる?」
「……そんなこと、できるわけないだろう。今までの歴史で、Ⅾクラスが上のクラスにあがったことは一度もないのは、お前も知っているだろ」
「でも今年は違う。生徒の質も例年と比べたら特殊じゃない? Ⅾクラスにも実力のある生徒がいたっておかしくないと思うんだけどな~?」
「……」
佐枝ちゃん先生は星之宮先生の言うことに何も反論しない。もしかしたら本当に下剋上を狙っているのかもしれないな。
ていうか、さっきから感じていたが、あの二人は仲が悪いのかもしれないな。過去に何かがあったのだろうが、僕にはそれを知る由もない。
しかし我らが担任、佐枝ちゃん先生が気まずい状況にいることは確かだ。それなら助けてやるというのが若代直経という男だ。というわけで直経、動きます。
「まぁまぁ二人とも、仲良くやりましょうよ。あっ! 星之宮先生、グラスが空いてますよ? 僕が注ぎますね~」
「あ~ありがとう……って、若代君!? なに自然と輪に入ってきちゃってるの!」
「まぁまぁ気にせず……って、星之宮先生、お酒臭いですよ? そんなんじゃ1週間で別れても仕方ないですって」
「2週間よ! ていうか私たちの会話、全部聞いてたってこと?」
「だとしたら感心しないな、若代」
真嶋先生から叱られてしまう。
「いやーすんません。僕生まれつき耳が良いんで聞こえてきちゃうんですよー。それより佐枝ちゃん先生、星之宮先生とは仲悪いんですか?」
「……お前には関係ないことだ。早く部屋に戻れ」
「関係ありますって。僕は佐枝ちゃん先生のこと、結構好きなんですから」
そう言いながら、佐枝ちゃん先生の空いている隣に腰を下ろす。
「へぇー、若代君は佐枝ちゃんみたいな女性が好きなんだ~。じゃあ、私はどうかな~?」
「星之宮は性格悪そうなんで無理っすね~」
あえて呼び捨てで名前を言い、拒否する。すると、星之宮の表情は笑顔ではあるが、額に青筋が立っている。
「……えっと、若代君? 今なんて言ったのかな、よく聞こえなかったなー先生」
「え? もう一回言ってもいいんですか? 星之宮は……」
「ん‶ん‶! 若代! お前のためだ、今すぐ部屋に戻りなさい!」
真嶋先生が咳ばらいをしてから、僕をこの場から立ち去るように促してくる。
「……ふっ。そうだな、真嶋先生の言う通りだ。早く部屋に戻れ、若代」
佐枝ちゃん先生にそう言われちゃ、そうするしかないな。
僕は席から立ちあがり、バーから出ようとする。
「……ありがとう」
僕にしか聞こえない声量で、そう呟く佐枝ちゃん先生。それは先生に『好き』と言ったことか、それとも星之宮に一泡吹かせたことか。はたまた両方か。本人のみぞ知ることだ。
まぁ佐枝ちゃん先生が笑ってくれたんだ、僕としてはその姿が見れただけで十分だ。
僕は自販機でジュースを買ってから、自分の部屋に戻ることにした。
山内がやる気になっているのは、綾小路に唆されているからです。(佐倉と付き合うために)
茶柱先生が綾小路を指導室に呼んで話した内容は、『Aクラスを目指さないと、退学させる』といった脅しです。原作と一緒ですね。