ようこそ自由気ままな奴がいる教室へ   作:アマテラスすず

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ライバル

 

 試験二日目となり、3回目のグループディスカッションが始まる。

 

「いやー、それにしても驚いたぜ。まさか一日目でいきなり裏切り者が出るとはな」

 

 開始早々、橋本がニヤニヤしながらそのようなことを言う。

 

「聞いた話じゃ、Dクラスの高円寺の仕業らしいが、もしかしてこれも作戦のうちか?」

 

 僕たちの方を見ながらそう質問してくる。橋本だけではない。この場にいる他クラスのやつらも気になっているのか、全員がこちらを見てくる。

 

「……作戦だったら良かったんだけどねぇ。残念ながら、あれは高円寺君の独断だよ」

 

 千秋が代表してそう答える。

 

「まぁ確かに、高円寺は誰にも縛られない自由人だとは聞いている。それを信じるならばの話だがな?」

「……どういうことかな?」

「他クラスにはそういう風に振舞っているが、実際はDクラスに協力してるんじゃないかって俺は考えているんだよ。無人島試験で見たんだよ。無人島を駆け回りながら、紙になにか書いている高円寺をな」

 

 僕が高円寺に頼んだ地図のことだな。まぁ誰か一人ぐらいに見られていてもおかしくはないか。

 

「おそらく地図か何かだと思うが、あれでクラスに貢献していないとは考えづらい。だから今回の干支試験でも裏でクラスのために動いていてもおかしくない。だろ?」

 

 確かに、橋本が見た情報だけで考えるなら、高円寺がDクラスの切り札的立ち位置だと推測されても仕方ない。むしろそっちの方が良かったと千秋は考えているだろう。だが悲しいかな、そんな事実はないんだよ橋本……。

 

「……確かにそうだね。でも本当に高円寺君の独断としか言えないかな。気になるなら、うちのクラスに移籍してみる? 彼はクラスのことなんて何も考えてないよ」

「……そうかい。なら高円寺のことはこれで終わりにしようか。本当に聞きたいことは次だ」

 

 どうやら高円寺の話は前座だったようだ。橋本も本気で高円寺がクラスに貢献しているとは考えていないのだろう。

 それにしても、橋本が主導権を握っているが……

 

「おい森下、橋本が主導権を握っているぞ。昨日みたいに茶々入れなくていいのか?」

 

 僕は森下に気になったことを質問する。

 

「今だけは許します。橋本正義が今から聞こうとしていることは個人的にも気になっていることですから。ということなので、あなたが黙っていて下さい、若代直経」

「お前も自由人だねぇ。こりゃ失礼いたしました」

 

 そう言って橋本に視線を送り、続きを促す。

 

「本当は昨日のうちに聞いておきたかったことなんだが、そういう空気じゃなかったんでな。だから今聞くが、無人島試験ではどうやって1位を取ったんだ?」

 

 何かを見定めるかのように、橋本は僕たちDクラスを見てくる。高円寺の件同様、他の皆も同じように視線を向けてくる。

 

「……もしかしたら、皆も風の噂で聞いていることかもしれないけど、堀北さんがすべての作戦を考えて実行したことだよ。AクラスとCクラスのリーダーを当てて、自クラスのリーダーをすり替えた。ただそれだけ」

 

 Dクラスが無人島試験で行ったことを包み隠さず話す千秋。まぁここで嘘をついても意味はないからな。

 

「らしいな。しかも、リーダーがすり替わる前はお前がリーダーを務めていたんだってな、松下?」

「そうだね。もともとはリーダーをすり替えることは考えていなかったんだけど、見ての通り私は怪我しちゃって動けなくなっちゃったから、その流れでね?」

 

 疑われていても、慌てることなく淡々と言葉を発する千秋。常に冷静でいれることは素直に評価する。

 

「……なるほどな。そういやAクラスのリーダーを、もとい戸塚だと見抜いたのは若代だっていう噂がAクラス内で広まっているんだが、そこらへんはどうなんだ?」

 

 そのことについては本人も気になっているのか、戸塚が僕を睨みつけてくる。

 

「葛城から聞いてないのか?」

「俺は坂柳派だからな。葛城とはあまり話さないんだよ」

「……そうか。一昨日に葛城にも話したんだが、戸塚だと見抜いたのは鈴音だ。僕が洞窟内に入ったのはただの確認だ。詳しくは葛城に聞いてくれ」

 

 同じ説明をするのはめんどくさいからな。

 

「ふーん。堀北、ねぇ? これは俺の疑いすぎかな、お前らすべてを堀北の手柄にしようとしてないか?」

 

 急に核心を突くような発言をする橋本。なるほど、葛城や坂柳以外にも優秀な生徒がいるようだな。さすがはAクラスか。

 

「どう考えるも橋本の勝手だ。それより、僕もAクラスに聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

 聞かれっぱなしというのも気分が良くない。意趣返しとしてやってやるか。

 

「何だ?」

「一昨日葛城と話したときに聞いたんだが、Aクラスは僕たちDクラスだけじゃなく、Cクラスからも攻撃されたみたいだな?」

「そうらしいな。だが、それがなんだ?」

「お前だろ? Aのリーダー情報を龍園に売ったのは?」

「……」

 

 まさか言い当てられるとは思っていなかったのか、橋本は目を見開く。だがそれは一瞬で、すぐにいつもの表情に戻る。

 

「……どうして、そう思ったんだ?」

「直感だな。あとはお前が坂柳派だとさっき聞いたからな」

 

 その情報と、橋本の有能さを考えると必然とお前が裏切り者だと頭の中で答えが出る。

 

「……はは。どうやら、Dクラスには面白いやつが隠れていたようだな」

「隠れていたつもりは無いんだけどな」

「おい待て橋本! 否定しないということは、本当にお前がリーダー情報を龍園に教えたのか?!」

 

 戸塚が激昂しながら橋本に問いただす。どうやら橋本の行動は誰にもバレていなかったようだ。

 

「そういうことだ戸塚。いやぁまさか、こんな感じでバレるとはね」

「貴様っ!」

 

 戸塚が椅子から立ち上がり、橋本に詰め寄ろうとする。だが、近くにいた石崎が戸塚を制止する。

 

「おい戸塚っ! やめておけ!」

「クソッ! 離せ石崎!」

「いやー、助かったぜ石崎。ありがとな」

 

 ニヤニヤしながらそのようなことをいう橋本。その表情が余計に苛立たせるのだろう。戸塚はとどまるところを知らない。

 

「……どうするの? 若代君のせいでこうなったんだよ?」

 

 隣にいる千秋からそのようなことを言われる。『何とかしろ』ということなんだろう。

 

「えー? 僕が悪いのかぁ? 戸塚が単細胞なだけだと思うんだけどな」

「いいから! 早く何とかしてきて」

 

 仕方ない。ずっとうるさくされるのも嫌なので、やるとしますか。

 僕は椅子から立ち上がり、戸塚の元へ歩く。そして無駄な動き無く戸塚にハグする。ハグにはストレスを……

 

「いきなり何すんだっ! 気持ち悪い!」

 

 戸塚から罵声を浴びせられながら、僕は体を押される。

 ……あれ? おかしいな。ストレスを抱えていそうだったので、軽減させるつもりだったのだが……。どうやら、必要なかったようだ。

 しかし、僕の行動に理解できなかったのか、怒りはすでに消えており今度は困惑の表情をしている。まぁ先ほどよりは落ち着いているので、目標達成と言えるだろう。

 

「……ふん。このことは葛城さんに報告させてもらう。覚悟しておけよ橋本」

「はいはい。好きにしてくれ」

「……よし、これで一件落着だな。網倉、トランプは持って来てるか?」

「え? うん、ここにあるけど……」

「今日も遊ぶぞ! クラス対抗で神経衰弱だ!」

 

 今まで友達とトランプで遊ぶなんてしたことがなかった。だから、試験よりもこっちの方が今は楽しいと感じている。

 そういうわけで、戸塚を除いたメンツで神経衰弱を行い、3回目のグループディスカッションは終了した。結果としては、Dクラスの勝ちだった。僕がいるのだからこの結果は当然と言えるだろう。

 

 

 部屋から退室した後、千秋から話しかけられる。

 

「今日は石崎君や西野さん、姫野さんもトランプに参加してくれたね」

「これでもいろいろ考えたつもりだ。神経衰弱ならチームで戦うこともできるし、お前も参加しやすいと思ってな」

「そうだったんだ。でも戸塚君は今日も不参加だったね」

「まぁあんなことがあって、急に切り替えて遊ぶってのも難しいだろうな」

 

 しかし、僕は見逃さなかった。チラチラとこちらを見ているのを。あれはやりようによっては参加してくれるかもしれないな。

 そんなことを考えていると、竜グループが話し合いをしていると思われる部屋の前に一之瀬と清隆が立っているのを見つける。

 

「あれ、二人とも何してるんだろ?」

「……行ってみるか」

 

 僕たちは二人のもとへ近づき、声をかける。

 

「何してるの二人とも?」

「ああ! 松下さんに若代君! 実は葛城君と話したいことがあって、それで待ってる感じかな」

 

 一之瀬が部屋の前に立っている理由を教えてくれる。

 

「清隆は?」

「オレはただの付き添いだ。堀北もいるからな」

「なるほどな。それにしても、竜グループはまだ話し合いをしているみたいだな。何をそんなに話すことがあるのかねぇ」

「千尋ちゃんたちから聞いたよ。猫グループはトランプで交流を深めているんだってね? 実はその話を聞いて、私も今日から同じことをしてみたんだ! だよね、綾小路君?」

「ああ。Aクラスが話し合いに参加してくれないからな。時間つぶしにはちょうどいい」

 

 ……そうだったのか。てっきり、網倉がトランプで遊ぼうと言い出してきたのは一之瀬の案だと思っていたんだが、そういうわけではないようだ。

 

「……あ! もしかして葛城君に話があるって、そういうこと?」

 

 千秋が一之瀬の狙いに気づき、本人に確認する。

 

「その通りだよ。さすがにずっとこのままだと話し合いが進まないからね~。それだったら、この作戦を考えた葛城君本人に直談判しようと思ってさ」

 

 やめてくれと言って、やめるような人間じゃないと思うけどな葛城は。それにしても……

 

「まだ出てこないのか。待つのもめんどくさいな」

「え? 若代君?」

 

 一之瀬の問いを無視して、僕は竜部屋の扉を思いっきり開ける。すると……

 

「ッ!」

 

 どうやら扉の前に立っていたらしく、葛城は扉を食らった痛みでその場にうずくまる。

 

「あっ! ごめん葛城! 大丈夫か?」

「……ああ。大丈夫だ、俺の不注意だ」

「全然大丈夫じゃねぇだろ! 鼻血出てんぞ! ほら、これ使え!」

 

 僕はハンカチを葛城に渡し、鼻を抑えさせる。

 

「すまない。感謝する」

「いや、僕が悪いから礼はいらん。10分ぐらいはそのままにして圧迫してろよ」

 

 その後、葛城は他のAクラスの人たちと一緒にこの場を去っていった。

 

「クク、罰が当たったんだろうなぁ? 俺の考えに反対しやがるからだ」

 

 龍園がそんなことを言う。個人的には、お前が扉の前に立ってくれていたらな、なんてことを考えたが口には出さない。今はそれより……

 

「悪い一之瀬。僕のせいで葛城と話す機会を無くしちまった」

「ううん、大丈夫だよ。葛城君とは話そうと思えばいつでも話せるから。それよりも龍園君、『俺の考え』って何のことかな?」

「なぁに? 全クラスの優待者を共有し合って、この試験を平和に終わらせようって話だ」

 

 どの口が言ってんだ、って作戦だな。

 

「お前は自分がどういう風に見られているのか理解していないのか龍園。誰もお前のことなど信用していない」

「黙ってろよ神崎。俺は今一之瀬と話してるんだ。それでどうする一之瀬? この作戦に乗るか?」

「葛城君が乗り気じゃないのなら、その作戦は成り立たないんじゃないかな?」

「全クラスは無理だな。なら、Aクラスを除いた3クラスならどうだ?」

 

 蛇のような目つきをしながら、一之瀬にそう問いかける龍園。おそらく、最初からこの作戦が本命かもな。

 

「……どういうことかな?」

「優待者には何らかの法則性があるのはお前も理解しているだろ? 学校側から送られてきたメールに『厳正なる調整の結果』って書いてあったしな。それに、この竜グループのメンツも明らかに意図して集められている。まぁお前がいないのは不思議ではあるがな」

「そうだったんだ。貴重な情報ありがとうね。それで、龍園君は私に何を求めているのかな?」

「俺はCクラスの優待者をすべて把握している。だがこれだけではまだ情報が少ない。だからお前のBクラス、そして鈴音のDクラスの優待者を共有して法則を看破し、Aクラスを狙い撃つ。それが俺の作戦だ」

「耳を貸す必要はないわ一之瀬さん。どうせ裏切るに決まっているもの」

「心外だな鈴音ぇ? なんなら誓約書でも作るか? 俺は構わないぜ」

「作ったとしても、誰が裏切ったか分からない以上、無意味なことよ」

 

 ……個人的には、面白い提案だとは思うけどな。それに裏切られるのだとしたら、その前にこちらからやればいいだけだ。

 ……まぁこの考え方は僕だからできることか。

 

「堀北さんが反対なら、この作戦も難しいね」

「3クラスで無理なら、今度は2クラスで共有すればいい。それに、鈴音はDクラスの優待者を把握しているとは思えないからなぁ。最初から期待はしていない」

「うーん。その言い方だと、龍園君は私がBクラスの優待者を把握していると思っているようだね。けど残念、私は全然知らないんだよね」

「ほざけ。お前ほどのカリスマを持っておきながらそれはあり得ないだろ?」

 

 ニヤニヤしながらそう言い、一之瀬の前に来る龍園。

 

「AクラスとDクラスの優待者を当て合う……悪くない作戦だと思うんだけどなぁ? お前もAクラスに上がりたいだろう?」

 

 鈴音たちDクラスがいる前で寝返りをしろと言う龍園。一之瀬はその問いに答えず、しばらく無言の時間が流れる。

 しかし、とある人物がこの静寂な空間に横槍を入れる。

 

「……それってやっぱり、成立しないんじゃないか?」

 

 この交渉を喋ることなく見守り続けていた清隆が、口を開く。

 

「金魚の糞に今の話が理解できたのか?」

「単純に、BクラスとCクラスが手を取り合うことになったら、今度はDクラスとAクラスが手を取り合うことになると思ってな。葛城は龍園に対して恨みがあるみたいだし、一矢報いるために協力してもおかしくない」

「……」

 

 最初は清隆に対し、ニヤニヤしながら馬鹿にしていたが、今の発言を聞いて龍園は眉をひそめる。

 

「……ごめんね龍園君。うちのクラスには君に傷つけられた生徒がいる。だから信用することはできないかな」

「はっ、そうかよ。そりゃ残念だ。……にしても、綾小路だったか? お前、鈴音だけじゃなくて一之瀬や松下のケツも追いかけてるのかよ」

「……ふふ」

 

 僕は龍園の言ってることが面白く、つい笑みがこぼれてしまう。

 

「……あ?」

「いや、悪い。お前は清隆のことをちょっと勘違いしていると思ってな。こいつはケツを追いかけてるんじゃない。『ムネ』を追いかけてるんだ!」

 

 龍園の清隆に対する解像度が低かったので、訂正しておく。すると、清隆が僕の隣に立ち……

 

「イ‶ッテェ!」

「すまん、足が滑った」

 

 僕の右足を思いっきり踏みつけてきやがった。こいつがもしカンフーの達人であったならば、今頃僕の右足は使い物にならなくなっていただろう……。

 

「……」

 

 龍園は変なものを見るような視線を僕に向けながら、Cクラスのメンツと一緒にこの部屋を去っていった。

 その後、一之瀬も友達に呼ばれたようでBクラスのメンツと共にこの部屋を後にする。残ったのはDクラスだけだ。

 

「だ、大丈夫かい若代君?」

「……ありがとう洋介。お前だけだよ心配してくれるのは」

「彼の自業自得よ。まともに取り合っていたらあなたが損するだけよ、平田君」

 

 自業自得、か。確かに、葛城に鼻血を出させてしまったからな。『罰が当たる』とはまさにこのことだろう。

 

「……それにしても、今回の試験。クラスを越えた協力関係って結べるのかな?」

 

 桔梗ちゃんからそのような問いかけがされる。

 

「難しいんじゃないかな? 全員が一之瀬さんのような性格だったらできると思うけど……」

 

 千秋が至極真っ当なことを言う。そりゃそうだ、僕も千秋も裏切る気満々なのだから。

 

「そうね。龍園君の存在がある以上は難しいわ。……そういえば猫グループはどうなの? 何か進捗はあったのかしら?」

「おう。神経衰弱で僕たちのクラスが勝ったな。これは大きなアドバンテージだ」

「……何をしているの、あなたたちは?」

「あ、あはは。まぁ色々あって、試験についての話し合いは全くできていないんだよね~」

 

 千秋は苦笑しながら、僕たちの現状を鈴音に報告する。

 

「……はぁ。兎グループはどうなの? 綾小路君」

「……ババ抜きでなんとか勝つことができたな」

「……そう」

 

 何も言うことがなくなったのか、鈴音はそう言い残してから部屋を出ていった。

 

「じゃ、じゃあ僕もそろそろ行くよ」

「わ、私も。またね皆!」

 

 鈴音の後を追うかのように、洋介と桔梗ちゃんも部屋から退室していく。残ったのは僕と千秋と清隆だけだ。

 

「……お腹空いたな。皆、昼飯は?」

「まだ食べてないよ」

「オレもだ」

「……三人で食べに行くか」

 

 僕の言葉に二人は静かに頷き、そのままレストランに向かうことにした。

 

 

~~~

 

 数時間が経過し、4回目のグループディスカッションが始まる。僕は網倉に視線を送ると目が合い、頷いてくれる。どうやら僕の要望通り、準備してくれたようだ。

 

「で、今回はどうすんのー? またトランプで遊ぶ感じー?」

 

 西野がダルそうにそのような質問をしてくる。しかし、顔は早く遊びたくてウズウズしているような表情をしている。

 

「ふん。好きにしろ、俺は参加しないけどな」

 

 戸塚は腕を組み、ムスッとしながらそんなことを言う。だがそれは……

 

「ダウトッー!」

「うおぉ! いきなり大声出すなよ若代! びっくりするじゃねぇか……」

「悪ぃ悪ぃ。だが戸塚ぁ! さっきの発言はダウトだ!」

 

 僕は隣にいる渡辺に謝罪してから、戸塚に指をさしてそう宣言する。

 

「な、なんだ急に」

「本当はお前もトランプに参加したいんだろ? 正直になれって」

「いや、別に俺は……」

 

 言葉ではそういうが、目は泳いでいる。やはり、参加したくてしょうがないんだろうな。

 

「まぁ? お前がそこまで言うなら仕方ない。今回もお前を除いて遊ぶしかないなぁ? Aクラスに所属している戸塚の実力、見てみたかったんだけどな~」

 

 あえて大げさに言い、戸塚に視線を送る。すると戸塚は、ため息をついて……

 

「……いいだろう。そこまで言うなら、Aクラス様の実力を見せてやる」

 

 ……狙い通り、戸塚は僕の誘いに乗ってきてくれた。よし、これで全員で遊べるな!

 

「というわけで網倉! 持ってきたものを出せ!」

「はいっ!」

 

 大げさに言ってみたものの、別に大したものは出てこない。普通にトランプ一箱だけだと14人で遊ぶには少ないと思ったので、網倉にはディスカッションが始まる前にメールで『もう一箱持ってきてほしい』とお願いしていただけだ。机には二箱のトランプが置かれる。

 

「よし! 今回はダウトで遊ぶぞ! 神室、頼めるか?」

「任せて」

 

 即答でそう答え、見事な手際でカードをシャッフルしてくれる。さすがAクラスだ。

 そして、和気あいあいとした空気で今回のグループディスカッションは終了した。一人を除いては……。

 

 

 猫部屋を出た後、とある光景が目に入る。兎部屋から軽井沢が出ていったのを、三人の女子グループが後ろから追いかけていく。そしてその後ろを清隆と幸村が追いかけていく様を。

 気になったので、僕も追いかけようとすると後ろから声を掛けられる。

 

「若代直経、少しよろしいですか?」

「え? どうしたんだ森下?」

「二人きりで話したいので、場所を変えましょう」

 

 僕の了承を取らずに、勝手に歩みを進めていく森下。どうやら有無を言わせないらしい。無視して清隆の方に行くという手もあるが、森下から話しかけられるのは珍しいと思ったのでそちらについていくことにした。

 しばらく歩き、周りに人がいないところまで行くと森下はそこで止まり、こちらに振り向く。

 

「ここなら大丈夫でしょう。では単刀直入に聞きます。無人島試験、Dクラスを勝たせたのは堀北鈴音ではなく若代直経ですね?」

「いきなりだな。ていうか、その件に関してはディスカッションで話しただろ?」

「そうですね。そのうえで、若代直経が首謀者だと確信しました」

「理由は?」

「私の直感があなただと告げています」

 

 ……そうか、僕と似たようなタイプか。やりづらいな……。

 

「なるほどな、直感なら仕方ないな。それで、このことは周りに言いふらすのか?」

「いえ。そんなことはしません。ただ私が確認したかっただけですから」

「ん? どうしてだ? 葛城なり坂柳とかに言って、僕の存在を知らせないのか?」

「私は自身の考えを誰かに共有したりはしません。若代直経は知らないかもしれませんが、私はクラスでは常に一人です」

 

 いや、それについてはなんとなく分かってたけど……。

 

「一つ聞きたい。森下は葛城派か、それとも坂柳派か?」

「どちらでもないですね。私はAクラスで卒業できればそれでいいので、どちらかがAクラスを維持し続けてさえいれば、私としては文句はありません」

「そうか。なら今後は坂柳の一党体制になりそうだな。今回の試験でAクラスはCクラスに攻撃されるだろう」

「そうですか。貴重な情報をありがとうございます。あぁそれと、連絡先を交換してもよろしいですか?」

「もちろんだ。けど、初日の時には断ったよな? どうして今になって交換してくれるんだ?」

「あの時はまだあなたに対して興味を持っていませんでした。しかし、あなたとグループディスカッションで交流を深めていくうちに、あなたが今後私たちのクラスに脅威になりうる存在だと感じ始めましたので」

「……それなら、余計に周りに言いふらした方がいいと思うけどな」

「今はまだしません。あなたはDクラスですから。ですがあなたたちのクラスが射程圏内に入ってきた場合は容赦なく潰します」

「なかなか言うじゃないか。できるのか?」

「若代直経、あなたは私と似ています。何を考えているのか、手に取るように分かりますよ」

 

 自信を持って言ってくるな。なら、確かめてやるか。

 

「なら、明後日の5回目のグループディスカッションで僕がやろうとしている「ブラックジャック」ゲームは、なん……だ?」

 

 ……今、何ていった?

 

「ブラックジャック、ですよね? 私の直感力を確かめるために確率要素の高いゲームをしたいんですよね?」

「……はは」

 

 マジかよ……楓花や高円寺以外にもいたか、直感に優れているやつが。楽しめそうなやつが目の前にいることに嬉しくなり、笑みが止まらない。

 

「気色悪いですよ、若代直経」

「ああ、悪い。その通りだ、ブラックジャックだ。ところでもう一つ聞きたいことができた。猫グループの優待者が誰か気づいているか?」

「愚問ですね」

 

 やっぱそうだよな。なら賭けでもするか。

 

「優待者を当てるつもりはあるか?」

「最後まで誰も優待者を探り出せなかったときは考えてますね」

「なら、賭けをしよう。明後日のブラックジャックで勝負して、僕が勝ったら譲ってほしい。負けたらお前が解答してもいい。どうだ?」

「いいでしょう。賭け成立です」

 

 その後、森下と連絡先を交換し合い、その場は解散となる。

 

「楽しみにしていますよ、若代直経」

「ああ。いい勝負ができることを期待しているよ」

 

 そう言い合い、僕たちは各々の部屋に戻ることにした。

 今思えば、森下が僕と似たタイプだと気づく要素はいくつもあった。例えば、1回目のグループディスカッションで橋本のことを胡散臭いと言っていたりな。きっと、橋本がリーダー情報を龍園にバラしていたことをなんとなく気づいていたのだろう。

 他にも、ババ抜きでは割と早い段階であがっていたし、神経衰弱では高確率でカードを揃えていた。Dクラスが勝ったと言ったが、かなり苦戦したからな。先ほどのダウトでも百発百中で言い当てていた。

 森下藍、か……面白いやつと出会えたな。

 

 

 

 

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