「お! いたいた! 探したぜ若代」
「裏切り者? 何の用だ?」
森下と別れた後、裏切り者に話しかけられる。
「頼むからその呼び方はやめてくれ……。ウーロン茶奢るからさぁ」
「……お前、昼飯は?」
「ん? 俺はとっくに済ませたが……それが?」
「僕はまだなんだ。というわけで昼飯奢ってくれたらやめてやるよ」
「言ったな? 男に二言はないんだぜ?」
「……もちろんだ」
「おい! 今の間はなんだ! ホントに頼むぜ……結構きついんだよ」
どうやら本気で嫌そうだな。仕方ない、約束は守ることにしよう。
「分かったよ。奢ってくれたらちゃんと名前で言う。つーわけで、前から行きたい場所があったんだ。そこに行くぞ」
そうして、僕たちはこの豪華客船内で一番人気のある高級寿司屋まで来た。
「マジかよ……学生が来る場所じゃねぇぞ」
「だからこそ行くんだろ? 何事も経験だ」
店内に入り、カウンター席に座る。目の前には渋い大将が立っている。
「で、なに頼むんだ? 一応、単品で頼むこともできるそうだが……」
「大将のおまかせ、二人分で」
「はいよ」
僕は橋本の言葉を無視し、そう注文する。食べる順番があるとか聞いたことあるが、詳しくは知らないしな。それなら大将に任せた方がいいだろう。
「……おい。一人1万ポイントじゃねぇか」
「払いたくないなら構わんぞ、裏切りケチ野郎」
「……ありがたく払わせていただきますよ」
本当は大声でツッコみたかっただろうが、今は店内にいるのでそんなことはしない。山内ならこういう場所でも騒ぐんだろうなぁ……。
「それより若代。俺はお前と話したいことがあったんだよ」
「そういえばそうだったな。で、何の用だ?」
「お前に猫グループの優待者を当ててほしいんだよ」
……これはまた、タイムリーな話が来たな。
「どうして当ててほしいんだ?」
「俺が無人島試験でクラスを裏切ったのは、何も独断で動いたことじゃない。姫さんからそういう指示があってのことだ」
「姫さん?……坂柳のことか?」
「ああ悪い、俺はそう呼んでるんだ。で、その坂柳から『葛城を蹴落とすように動いてくれ』っていう指示があって俺は動いている。だから今回の干支試験でもAクラスにプラスがないように動きたいと思ってるんだ」
やはり、坂柳は自分の部下たちにそのような命令を下していたか。だがそれなら……
「適当な名前でも入れて、結果4を目指せよ。そうすりゃ、Aクラスにマイナスを与えられるだろ」
「考えたが、もし優待者を当てちまったら笑えないだろ? だったら、俺が動くより他クラスに動いてもらった方がいいと思ってな。それに、若代ならすでに優待者が誰か見当がついていると思ってな?」
ニヤニヤしながら僕の顔を見てくる。どうやら橋本にも目をつけられてしまったようだ。
「……悪いが、僕は当てることはしない」
「はぁ? 何でだよ?」
「色々あるんだよ、こっちにもな。ただ一つだけ言えるのは、次のグループディスカッションで状況は大きく変わるはず。それならお互いにそれを見守ろうじゃないか」
「……何か策があるってことか? それなら期待しておくけどよ」
「へい、お待ち」
ちょうどいいタイミングで、大将から握りが提供される。その後、僕たちは世間話でもしながら、大将の握りで腹を満たすことにした。
大将の握りを堪能した後、橋本とは解散して船外のデッキに赴く。外の空気を吸いたかったというのもあるが、今は一人になりたい気分でもあったからな。
だが、そんな僕の願いは叶わなかった。とある人物が僕の方に近づいてくる。
「……やっと見つけた。昨日の話、どういうこと?」
「何だ姫野、そんなに僕のことが気になるのか?」
「『あんた』じゃなくて、『あんたが言ったこと』の方が気になるのよ。BクラスがDクラスに落ちるってどういうこと?」
「そのままの意味だけどな」
僕の発言の意図に納得できないのか、姫野はこの場から離れない。こりゃ教えないと放してもらえないかもな。
「一之瀬さんがいるんだから、うちのクラスが下に落ちる事なんて……」
「もし一之瀬がいなくなったら、今度は誰がクラスを率いるんだ?」
「それは……神崎君が」
「じゃあ聞くが、あいつが人前に出て指揮する姿を見たことあるか?」
「それは……あまり見ないかも」
「神崎もポテンシャルはあるかもしれないが、一之瀬には程遠い。つまり、Bクラスは一之瀬に頼り切ってる状況だ」
「……でもそれって、Cクラスもそうなんじゃないの? 龍園君の独裁政治じゃん」
確かにその通りだ。だがBクラスとは少し違う部分もある。
「龍園は独裁政治をしているが、その分恨みも買ってる。僕は出会ったことないが、おそらく一人くらいは反発しているやつがいるかもな。だがBクラスは全員が一之瀬に信頼を置いている。これは危ない状態だ」
「……なんでそれが良くないのよ?」
「一之瀬の言ったことがすべて正しいと皆が思っている。何故なら一之瀬は実力もあるし、性格も良いからな。要は『バイアス』がかかってる状態だ。誰も一之瀬の言うことに疑問を持たない、例えそれが間違っているようなことでも」
「……間違ってるって。そもそも道理に反することはしないでしょ、一之瀬さんは」
「『道理』だけで捉えるならそうかもな。だが今後の試験のことではどうだ?」
「試験?」
「そうだ。『こういう作戦でいく』と決めたことに皆は当然賛同するだろう。だがもしそれに『穴』があったら? そのせいで龍園や坂柳にその隙をつかれて負けることもあるだろう。僕が言いたいのは、一之瀬に対して『NO』と言える人物が誰もいないのは危険だということだ」
一之瀬もかなりポテンシャルは高い、人徳もある。だからと言って、その人の考える作戦が完璧かと言われたらそういうわけでもない。本来であれば神崎が『NO』と言える役目を務めるべきだが、あいつが前に出たがらない以上難しいのかもしれない。姫野も僕の言ったことに納得がいったのか、何も話さない。
「そういえば、無人島試験でCクラスの生徒を保護してたよな。あれは誰が許可したんだ?」
「それは……一之瀬さんだけど」
「お前はあいつがスパイだとは思わなかったのか? あいつのせいでBクラスが2位になったんじゃないのか?」
「……」
僕の言ってることが正しいからか、姫野は唇を噛む。まぁ本当は僕のせいなのだが、ここでは言わない。
「これで理解しただろ? このまま一之瀬に従い続けていたら、Dクラスに落ちる可能性があるということを」
「……なら、どうすればいいのよ?」
「さあな。僕はDクラスの人間だ。BクラスのことはBクラスの人間でなんとかしてくれ」
そう言って、僕は姫野から離れていく。
姫野ユキ。あいつは偽りの仮面を被っている。本来は一人でいるのが好きだが、自分を抑え込みながらBクラスに馴染もうとしている。
別に放っておいても良かったんだが、猫グループで一緒になったのも何かの縁だ。それなら発破をかけておいてやるか。それに、発破をかけたからと言って必ずしも変わるとは限らない。仮面を外すかどうかは姫野自身だ。
~~~
時刻は19時50分。僕は今、千秋と一緒に猫部屋へ向かっている。なにやら、ディスカッションが始まる前に話したいとか。
「それで? 答えはまとまったか?」
「……一応。でもやっぱり自信はないかな」
「聞かせてくれ。何で迷ってるんだ?」
「……実は、法則が二つあると思ってて。どっちが正解なのかなって」
……なるほど。そこまではたどり着いているのか。
「お前、他のグループのメンバーとか確認したのか?」
「うん、平田君にDクラスにいる優待者を聞いてね。櫛田さんと南君がそうらしいから竜グループと馬グループを教えてもらったの。それで、どっちのグループも『名前の五十音順と干支の順番が同じ数字の人』が優待者に選ばれていたことが分かったの」
つまり、僕たち猫グループは1番目なので『網倉』が優待者になる。その法則に当てはめればだが……
「なら、網倉が優待者だな。解答しないのか?」
「……もう一つの法則のせいで、確信がないの」
「そのもう一つは?」
「名前順じゃなくて『誕生日順』」
そうなってくると、猫グループで1番早く生まれているのは……
「……渡辺か。確かに迷うな。けど深く考えすぎなんじゃないか? 他のグループは名前順の法則で合ってるんだろ?」
「……」
僕の問いに千秋は答えない。どうやら最後まで考え抜いて、確信を持ってから解答したいようだ。
そして、僕たちは猫グループの部屋にたどり着き、中へ入る。どうやら僕たちが最後のようで、他のメンツはすでに座って待っていた。
数分後、20時となり最後のグループディスカッションが始まる。
「よし、最後のグループディスカッションだな。何して遊ぶ?」
僕はあえて、『トランプで遊ぼう』と場の空気を茶化してみる。だが……
「さすがに今回は無理でしょ? みんな、そういう雰囲気じゃないっぽいしさー」
西野が皆の気持ちを代弁して僕にぶつけてくる。
「やっぱりか。でもどうすんだよ? 誰かいい案とかあるか?」
僕は皆を見ながらそう問いかける。そして、とある人物が動き出す。
「……はぁ。あのさ、もういっそのこと皆で携帯を見せ合えば済むんじゃない?」
「はぁ?! な、何言ってんだよ姫野!」
「そうだよユキちゃん! そんなことしたら優待者がバレちゃうよ!」
姫野の提案に渡辺と網倉が否定する。だが、姫野は止まらない。
「だってさ、このままいけば優待者だけが得するんでしょ? それはちょっと見過ごせないじゃん。それとも何? 渡辺君は優待者だったりするの?」
「ち、ちげぇって!」
「あっそ。じゃあそういうわけで、私は見せるから」
そう言って姫野は、机の上に自分の携帯を置く。画面には学校から送られてきた優待者であるかどうかのメールが開かれている。どうやら姫野は優待者ではないようだ。
「おいおい、マジかよ。どうすればいいんだこれ……」
石崎は困惑しているのか、手で頭を掻きむしってる。それにしてもBクラス、攻めてきたな。面白そうだし僕もその作戦に乗ってやるか。
「面白そうだな。じゃあ、僕も見せよーっと」
僕も携帯を机に置き、皆に見えるようにする。
「若代君、本気ですか!?」
「長いものには巻かれろってやつだ。お前もどうだ、美雨?」
「うぅ……」
美雨は躊躇しているようだが、千秋が動き出したことによって状況が変わる。
「私も出すよ。だからみーちゃんも出そ?」
「松下さんまで……分かりました。私も出します!」
そうして、千秋と美雨も優待者でないことが皆に伝わる。
「つーわけで、Dクラスに優待者はいねぇってことが分かったな。AクラスとCクラスはどうだ?」
僕は橋本や椎名を見ながらそのようなことを言う。
「ったく、仕方ねぇか。いいぜ、俺も見せるよ」
「ちょっと、本気?」
「ああ、別に見せても困んねぇしな。神室もどうだ?」
「……分かった」
橋本、神室の両名も、優待者でないことが明かされていく。
「……ふむ。仕方ないですね、私も見せることにしましょう」
「そうですね。石崎君と西野さんもどうですか?」
この流れに続き、森下と椎名も携帯を見せることを決意する。そして椎名の問いかけで石崎と西野も携帯を見せることとなった。もちろんこの4人も優待者ではない。
これで残りは戸塚、網倉、千尋、渡辺の4人だけとなった。この中に優待者が潜んでいるわけだが……
「おい戸塚。ここまで流れが進んじまったわけだし、もう諦めろよ。結果2を狙うのは無理だ」
「……そうだな。分かった」
そうして、戸塚も携帯を見せて優待者ではないことが確認された。
「……てことは、Bクラスの中に優待者がいるようだな」
橋本が皆も分かっていることをあえて口に出す。さて、Bクラスはどんな作戦を持ってきたのかな?
「……こ、ここまで来たら、もう見せるしかないよな」
「渡辺君? 何言ってるの!」
「み、見ての通り……俺は優待者じゃない」
そう言って、渡辺は網倉の言葉を無視して携帯を見せる。宣言通り、メールには優待者ではないと書かれている。
「……渡辺君も違いますね。それでは網倉さんか白波さんのどちらかのようですが……」
「「……」」
椎名の言葉に二人は何も返さず、このまま無言の状態が続くかと思われた。しかし数分後、流れ的にもう無理だと感じたのか、網倉が口を開く。
「……ごめん千尋ちゃん。私も見せることにする」
「え? でも、それじゃ……」
「私は優待者じゃないよ。ほら、確認して」
千尋の言葉を遮るような形で、網倉は携帯を取り出し皆に見せる。渡辺同様、網倉も優待者ではないようだ。
「……ふーん。てことは、白波さんが優待者ってことだよねー椎名さん」
「……」
「逆に白波以外に誰がいるんだよ。皆んな携帯を見せ合ったわけだし、必然的にそうなるだろ」
「分かってるってぇ。確認しただけじゃん」
石崎と西野がそのような会話を行う。普通に考えれば千尋が優待者に見えるだろうが、法則を知っている者からすれば矛盾が生じてくる。
そのせいか、先ほどから隣にいる千秋は何やら真剣に考えている。千秋だけではない、西野の問いかけを無視した椎名もだ。もしかすると、椎名も法則には気づいているのかもしれないな。
「石崎の言う通り、残った白波が優待者ってことになるな。もう隠す必要はないんだし……白波、携帯を見せてくれないか?」
「……分かりました」
橋本が見せるように促し、千尋もそれを了承する。そして千尋の持つ携帯の画面には『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれました』という文字が書かれていた。
「……なるほどな。どうやら本当に千尋が優待者のようだな。で、どうする皆? 結果1でも目指すか?」
「……それが一番いいと思います。平等にポイントがもらえますから」
僕の発言に、美雨が肯定してくる。だがそうなってくると……
「うちらのクラスとDクラスは三人だから、50万ポイント損することになるけど……みーちゃんはそれでいいわけー?」
「貰えないよりかはまだマシだと思います」
西野の指摘に、美雨は自身の意見をぶつける。しかし、西野は納得はしていないようだ。
だがその問題を解決する答えが、千尋の口から発せられる。
「……それでしたら、私が受けとるポイント100万を、CクラスとDクラスに50万ポイントずつお渡しします。そうすれば問題はありませんよね?」
「いや、それはそうだけどよ……そしたらBクラスは貰えるポイントが少なくなるだろ?」
「そうですね。でも私はポイントが絶対に欲しいというわけではないですから。だから遠慮せず受け取ってください、石崎君」
本人からそう言われてしまっては何も言い返せないのか、石崎は押し黙る。
「大丈夫だよ千尋ちゃん。私の貰ったポイント、いくらか渡すから!」
「お、俺もだ白波! だから心配するな!」
「ありがとう二人とも!」
網倉と渡辺は千尋にそう伝える。さすがはBクラス、思いやりのあるクラスだ。
「……じゃあ決まりだな。皆、結果1を目指すってことでいいか?」
僕は皆にそう問いかける。多くの人間はそれで納得したのか、誰も反論してこない。
だが一人だけ、挙手をしてこの場に待ったをかける人物が現れる。
「ん? どうした椎名? 何か言いたいことがあるのか」
「はい。少し、確認したいことがありまして。若代君、網倉さんと連絡先を交換されていましたよね?」
「ああ。けどそれが?」
「網倉さんに電話をかけていただいてもよろしいですか?」
今の椎名の発言で、網倉と千尋は息を呑む。その姿を横目に見ながら、僕は携帯を取り網倉に通話をかける。
当然、網倉の携帯はブー、ブーと振動が起きる。それ自体は何もおかしくない。だが、その携帯を持っているのが網倉ではなく千尋だった場合、それは話が変わってくる。
そしてまさに今、千尋の持つ携帯が震えているのを、僕たちはこの目で見てしまった……。
「……これは、とんでもないことが発覚しちまったなぁ」
「……そうだな」
橋本がニヤニヤしながらそう言い、僕はそれに肯定する。
メールをコピーや改ざんすることは禁じられているが、携帯をすり替えることは禁止されていない。
つまり、本当は網倉が優待者であり、その携帯を千尋とすり替えることで、千尋が優待者だと錯覚させようとしていたということだ。
この事実を、椎名は皆に伝える。そして、この作戦の隙も……
「しかし、この作戦には穴があります。携帯をすり替えたとしても、携帯番号だけは変えられません」
椎名の言う通りだ。この学校から支給された携帯は、SIMカードがロックされていて取り出せないようになっている。……まぁポイントを払えば、解除できるかもしれないが。
「……Bクラスはどうやら、俺たちを騙す気満々だったってことか。こりゃ、結果1なんて無理かもな。それにしても椎名、どうして網倉に限定して電話させたんだ? もしかして、網倉が優待者だと分かってたのか?」
橋本が気になったことを本人に確認する。
「実は、私は龍園君から優待者の法則を探し出すように言われていました。そしてその法則には既に見当がついています。その法則で考えた場合、網倉さんが優待者である可能性が高いと感じましたので、若代君に電話していただきました」
「その法則ってのは?」
「干支の動物の順番と、このグループに配属された生徒の名前の五十音順が同じ数字の人が優待者に選ばれるというものです。この猫グループで考えるなら、『子』は一番目。つまり、網倉さんが最初なので彼女が優待者に選ばれた、ということです」
やはり椎名も気づいていたようだな。彼女もかなり優秀な生徒のようだ。
そして図星だからか、網倉と千尋は顔を伏せる。
「う、嘘だろ網倉? 何で、俺たちに言わなかったんだよ?」
「……ごめんね渡辺君。情報を知る人は最低限にしたかったから、二人には何も言わなかったんだ。ユキちゃんもごめんね?」
「……いや、私もごめん。この流れを作ったのは私だし」
「ユキちゃんが謝ることはないよ。知らなかったことだし……」
網倉と姫野はお互いに傷のなめ合いをする。
……それにしても、
「皆、本当にごめん! 今更何言ってるんだって思うかもしれないけど、結果1を目指してほしい! 私が得たポイント、皆に分配するって約束するから!」
「私のポイントも渡します! だからお願いします!」
網倉が席から立ちあがり、そのようなことを言う。千尋も責任を感じているからか、彼女も一緒にお願いする。
「……二人がそうするんだったら、私も」
「ユキちゃん?! どうして……ユキちゃんは何も悪くない!」
「別にいいでしょ。それより、渡辺君はどうするの?」
「……そ、そうだな。俺だけ『仲間外れ』になるのは嫌だしな。皆、俺からも頼む! Bクラスの得たポイント全部、分配するからさ! 結果1を目指してくれないか?」
渡辺が頭を深く下げて頼み込む。それに続いて三人も頭を下げる。
ここまでされてしまっては、皆も期待に応えるしかないだろう。
「……ま、いいんじゃないか? 僕たちからしたら得になるわけだし、誰か反対の奴いるか?」
僕は最後の確認として皆に問いかける。どうやら、反対のものはいないようだ。
「みんな! ありがとう!」
網倉がクラスを代表して、感謝の意を伝える。だが悪いな網倉、お前たちは結果2か4を狙いたいんだろうが、それは叶わない。
なぜなら、僕の右隣にいる千秋が小さく笑っているからだ。
「……ふふ」
「……? どうかしましたか松下さん?」
「……ううん。大丈夫だよみーちゃん」
僕だけじゃなく美雨にも聞こえたようで心配される千秋だが、問題はないと返答する。
そして千秋の表情は言葉通り、迷いがないように見える。どうやら、自分なりの答えを見つけたようだ。
そして、ディスカッション終了のアナウンスが鳴り、僕たちは猫部屋から解散することとなった。
~~~
部屋から退室した後、僕は千秋と共に船首の方へ赴いていた。その道中、『兎』グループの試験が終了したというメールが届くが、僕たちからしたら関係ないことだ。
そして船首に着いて、周りに人がいないことを確認してから千秋は携帯を取り出し、『渡辺紀仁』の名前を記入して解答メールを送る。
それと同時に、猫グループの試験が終了した旨のメールが携帯に届く。
「なんだ、網倉じゃないのか」
「……もう白々しくする必要なくない?」
「一応、お前の考えを聞きたいからな。それを聞いたらやめるよ。それで、どうして網倉じゃなくて渡辺が優待者だったんだ?」
「大きく分けて二つ。一つは、渡辺君の癖。それだけで8割ほどは疑ってた」
「ほう? 聞かせてくれ」
「ババ抜きの時からそうだったけど、渡辺君は何かを隠す時、言葉がどもる癖があるの。さっきの話し合いはずっとそうだった」
確かに、『こ、ここまで来たら』や『み、見ての通り』など、最初の言葉がつっかえていたことを思い出す。どうやら僕たちがトランプで遊んでいる間に、人間観察をしていたようだな千秋は。
「言われてみればそうだな。だが、たまたまと言うこともあるだろう」
「そうだね。けどもう一つの要因で、私は渡辺君が優待者だと確信できた」
「ふーん。なら聞かせてくれ。もう一つの要因は?」
「それは……私たちのグループが『仲間外れ』だから」
……どうやら、たどり着けたようだな。
「仲間外れ? どういうことだ、教えてくれ」
「本来の干支なら、『猫』は入っていない。けど今回の試験では入っている。これはイレギュラーだと言えるよね? つまり、優待者も本来の法則で決まっていないと思ったの。そうなると残る法則は……」
「……誕生日順、ということか。そういえば、お前は誕生日の情報も大事だって言っていたな」
「うん。学校側は無意味な情報は出さないと思ってたからね」
西野は誕生日はあまり重要じゃないと決めつけていたが、千秋は違った。どうやら最後まで諦めず、頭をフル回転させていたようだ。
「……どう? これが私の出した答え」
「……契約成立、だな」
「っ! 本当?!」
「ああ、僕も同じ答えだったからな」
文句なしの結果、と言えるだろう。僕と契約を結べた事が嬉しいのか、千秋は今までに見たことがないほどの笑顔を見せる。
……それにしても、Bクラスの作戦はかなり面白いものだったな。ディスカッション内では渡辺も姫野も、携帯のすり替えに関して知らない様子を見せていたが、あれは全員知っていたな。でなければ網倉を優待者に仕立て上げない。
Bクラス内でも優待者の法則に気づいており、それを他クラスから指摘されることも織り込み済みであの作戦を実行したのだろう。
網倉が優待者になるようにSIMロックを解除して、渡辺と網倉のSIMカードを入れ替えた。そして網倉のSIMカードが入った渡辺の携帯を、千尋に渡す。これが千尋、そして網倉が優待者になるように見せたカラクリだ。
そして、優待者を暴き出す流れを作ったのが姫野と言うのも面白い。まさかマッチポンプをしているとは他クラスも思わないだろう。
つまりあの作戦は、Bクラスのメンバー全員で協力して攻めてきた一撃だったと言える。
しかし残念だったのは、渡辺か。千秋に癖を読まれてしまっていては上手くいくものもいかない。この点は千秋の方が
……だが、勘違いしてもらっては困るぞ千秋。契約内容は『Aクラスにあげること』だ。僕は『Aクラスで卒業させる』とは言っていない。
一度Aクラスにあげることができたら、契約はそれまでだ。そこからは僕の好きにさせてもらう。
だから、今謝っておく。すまないな、未来の千秋よ……。
「あ……そういえば、なんで私が解答することになったの?」
「ん? ああ、実はな……」
僕は森下とした賭けについて話す。
「……なるほどね。裏でそんなことしてたんだ。言われてみれば、ブラックジャックでガッツポーズしてたけど、そこまで熱くなるのも無理ないね」
「そういうことだ。勝手にこんなことして怒ってるか?」
「まぁ……怒ってないといえば嘘になるけど。ま、今は機嫌いいからこれだけで許してあげる」
そう言って、千秋は僕の右足を思いっきり踏んでくる。
万全な状態の僕ならこんな攻撃は屁でもないのだが、清隆に踏まれた時の痛みがまだあるため、若干痛い。あいつ、許すまじ……。
そんなことを思っていると、僕と千秋の携帯から着信音が鳴り響く。それも4度もだ。
何事かと思い、携帯を確認するとそこには、『馬』『羊』『鳥』『猪』グループの試験が終了したというメールが届いていた。
「……嘘。これって……」
「龍園の仕業、だな」
僕の直感がそう言っている。それにしても馬グループか……確か、南が優待者だったな。当てられていると考えた方がいいかもな。
「あ、堀北さんからメールだ。……23時まえに、集まって話がしたいって。若代君も来るようにだってさ」
「分かった。場所は?」
「前に4人で集まったカフェだって」
「『ブルーオーシャン』だな。じゃあそのくらいの時間になったら行くよ。また後でな」
そう言い残して、僕は船首から立ち去ることにした。別に一緒にいても良かったのだが、千秋は今回の試験で頭をフル活用して疲れているだろう。それなら、一人にさせてゆっくりしてもらった方がいい。お疲れ様ってやつだ。
◆◆◆
時刻は22時55分。もう少しで学校側から試験の結果のメールが送られてくるはずだ。
僕は今、千秋と清隆、鈴音、健、洋介、軽井沢と一緒にいる。ともに試験の結果を確認するために。
「……それで? 猫グループと兎グループは大丈夫なの?」
鈴音からそのような質問をされる。
「こっちは問題ない。優待者を探り出すことに成功した。な、千秋?」
「うん、そうだね」
「オレの方も問題ない。それより竜グループはどうだ?」
「……手応えはあるわ」
口ではそう言ってるが、鈴音は僕たちから目を逸らす。どうやら、自信はないみたいだな。
鈴音のことを観察していたら、とある男が近づいてくるのに気づく。
「よう。こりゃまた大人数で集まってるな。探しやすくて助かったぜ鈴音ぇ」
「……龍園君。何のようかしら?」
「なぁに? 試験の結果を一緒に楽しもうと思ってな」
「そう。それなら好きにしてちょうだい」
「ああ、そうさせてもらうさ」
龍園は終始、ニヤニヤしている。どうやら今回の試験ではかなり自信があるようだな。
そしてしばらくすると、学校側から試験の結果についてのメールが送られてきた。
子(猫)――裏切り者の正解により結果3とする
丑(牛)――裏切り者の不正解により結果4とする
寅(虎)――優待者の存在が守り通されたため結果2とする
卯(兎)――裏切り者の不正解により結果4とする
辰(竜)――グループ全員の解答が正解だったため結果1とする
巳(蛇)――優待者の存在が守り通されたため結果2とする
午(馬)――裏切り者の正解により結果3とする
未(羊)――裏切り者の正解により結果3とする
申(猿)――裏切り者の正解により結果3とする
酉(鳥)――裏切り者の正解により結果3とする
戌(犬)――優待者の存在が守り通されたため結果2とする
亥(猪)――裏切り者の正解により結果3とする
Aクラス……マイナス200cp(クラスポイント)/プラス200万pp(プライベートポイント)
Bクラス……マイナス50cp/プラス200万pp
Cクラス……プラス150cp/プラス550万pp
Dクラス……プラス100cp/プラス350万pp
……Bクラスはマイナス50cpか。僕たち猫グループが当ててるからマイナス50、そして牛グループが外しているからプラス50でプラマイゼロになるはずだが、どうやらもう一人の優待者は当てられたか。
龍園か、もしくは高円寺か。多分後者だろうな、直感がそう言っている。すまないな一之瀬、代わりに謝っておくよ。
「Cクラスが……トップ?」
「クク、良かったなぁ鈴音。お前の失策で漏れた竜グループは、結果1だ。おかげで大金を得ることができたぜ」
「……失策? いったい何を」
「櫛田桔梗、だろ?」
竜グループの優待者を言い当てる龍園。まさか知られているとは思わなかったのか、鈴音や洋介は目を見開く。
「どうして、あなたが……」
「クク、言っただろ? お前の失策だって。実は二日目の時点で俺は気づいていたのさ。お前の表情や仕草、ありとあらゆるモノを見て櫛田が優待者だってな」
……と、言っているが普通に優待者の法則を見つけ出したのだろう。だが、それなら結果3で終わってもおかしくない。なのに結果1ということは、龍園から葛城や神崎など他クラスの生徒にも、桔梗ちゃんが優待者だということを共有したってことか。
まぁBクラスに関しては優待者の法則に気づいていたかもしれないので、桔梗ちゃんの名前を解答するのはまだ分かる。問題は葛城だ。龍園から桔梗ちゃんが優待者だと言われても信じられないだろう。無人島試験で裏切られたのだから。
だが、もし確実な証拠があったとしたら? 例えば、優待者本人から直接教えてもらった、など……。
そうなってくると、龍園と桔梗ちゃんはグル? だとしたら何のために?
ここで、今までの桔梗ちゃんを振り返ってみる。そして、一つの答えが頭の中で浮かび上がってきた。
「……っと! 聞いてる若代君?」
「……ん? 悪い、なんだ?」
「もう、しっかりしてよね。竜グループのこと、若代君はどう思う?」
千秋からそのようなことを聞かれる。どうやら龍園はすでにこの場を去っていったようだ。
「……そうだな。ま、ポイントが多くもらえたんだし、あんまり気に病む必要はないんじゃないか?」
「……そういうことじゃなくて、龍園君がどうやって結果1に導いたのかを考えて欲しかったんだけど」
「そんなの、他グループの僕が知るわけないだろう?」
「……はぁ」
僕のやる気のない発言に千秋はため息をつく。
「……堀北、今回は龍園の作戦勝ちと言えるだろう。そして、今後もDクラスは龍園に狙われるはずだ。去り際にお前を狙うと言っていたしな」
清隆からそんなことが言われる。あいつ、去り際にそんなセリフを言っていたのか。全然聞いてなかったな。
「そうね。けど負けるつもりは無いわ」
「……そうか。なら期待している」
鈴音は龍園に闘志を燃やしているようだが、果たして勝つことができるだろうか。
答えは否だ。何故なら、外だけではなく『内』にも敵がいるようだからな。
……櫛田桔梗。あいつの鈴音に対する接し方は前から違和感を感じていた。そして今回の試験の結果ではっきり分かった。
桔梗ちゃんは、鈴音のことが嫌いなのだろう。僕の直感がそう言っているからな、間違いない。
しかし、なぜ嫌いなのかは分からない。僕の知らないところで二人は何か因縁でもあるのだろうか。
まぁなんにせよ、鈴音の妨害をするために龍園と手を組んだと考えれば、今回の試験の結果に納得がいく。
……さて、どうしたものかな。千秋との契約でAクラスを目指すことになったわけだが、僕はどう動くべきか。
桔梗ちゃんを退学にさせるべきか? だが、コネクションを多く持つ桔梗ちゃんを排除するのは勿体ない気もするな。Aクラスを目指すうえで彼女の力は必要になってくるはずだ。
……まぁ今考えても仕方ないか。今後の流れでどうするか決めていくことにしよう。
「……あ! そう言えば千秋。お前、軽井沢とは仲直りしたのか?」
「え!? えっと、それは……」
千秋は僕から視線を逸らす。軽井沢の方を見ると、彼女も僕から視線を逸らす。
「どうやらまだできていないようだな。今後のことを考えて、今のうちに仲直りしておいたらどうだ?」
「……軽井沢さん、無人島試験では、その……強く言い過ぎた。ごめん」
「……ううん。私も、ちょっと冷静じゃなかったと思う。ごめんね」
若干気まずさはあるが、二人はお互いに自分の非を認めて謝る。
「よし! お互いちゃんと謝れたな! じゃあ、仲直りの握手だ!」
そう言って、僕は千秋の右手と軽井沢の右手を掴み、無理やり握手させる。
二人とも恥ずかしそうにしているが、顔は笑っている。いい表情だ、今後はちゃんと協力していけるだろう。
桔梗ちゃんのことは不安だが、Dクラスは少しづつ結束力を高めてきている。いい傾向と言えるだろう。僕も、しばらくの間はクラスのために頑張るとしますか!
こうして、僕の今後の方針が決まって、干支試験は無事終了した。
各グループの優待者と結果の内訳
猫……Bクラス(Dクラスが当てる)
牛……Bクラス(Cクラスが外す)
虎……Cクラス(優待者を隠し通した)
兎……Dクラス(Aクラスが外す)
竜……Dクラス(全員で正解する)
蛇……Cクラス(優待者を隠し通した)
馬……Dクラス(Cクラスが当てる)
羊……Aクラス(Cクラスが当てる)
猿……Bクラス(Dクラスが当てる)
鳥……Aクラス(Cクラスが当てる)
犬……Cクラス(優待者を隠し通した)
猪……Aクラス(Cクラスが当てる)
Aクラス→-50-50-50-50=-200cp/竜に4人いるため、+200万pp
Bクラス→-50+50-50=-50cp/竜に3人で150、牛の50で、+200万pp
Cクラス→-50+50+50+50+50=+150cp/竜に4人で200、虎,蛇,犬で150、馬,羊,鳥,猪で200で、+550万pp
Dクラス→+50+50-50+50=+100cp/竜に3人+優待者ボーナスで200、猫,兎,猿で150で、+350万pp
追記
4章初めの『干支試験』のあとがきにも書きましたが、どうやら渡辺の誕生日は7/3らしいです。(三年生編の公式サイトに書いてありました)
ですが、この話を書き始めた時にそのことを知らなかったので私の方で勝手に誕生日を決めました。今更変えるのも難しいのでこの作品では1/8の設定で行きますのでご了承ください。(二年生編公式ガイドブックには記載されてなかったんだけどなぁ……)