清隆とコンビニで駄弁った後、僕たちはこれから自分たちが暮らすことになる寮へと向かっていった。
フロントの管理人から自分たちの部屋のキーカードを受け取り、エレベーターに乗ろうとしたところで、須藤とばったり会った。
「お? 若代とお前は……」
「綾小路だ。綾小路清隆」
「綾小路か、覚えたぜ。お前らも寮に来たんだな」
「まぁね~。どんな部屋か気になるしな」
「そうか。俺はこれからバッシュとかバスケットボールを買いに行くところだぜ。この学校でもバスケ部に入るつもりだからよ」
マジでバスケ部なのかよ。
桜〇花道みたいだな。
そういえば自己紹介の時も『バカにすんじゃねぇ』って言ってたし、もしかして憧れてたりすんのかな。
「バスケ部か~。僕も部活には入ってなかったけど、バスケは得意だよ。てか、スポーツ全般得意だね」
「そうなのか! なら時間が空いてるときとか一緒にやろうぜ! 綾小路もよ!」
「え? いいのか?」
「もちろんだぜ! あ、そういえば学生証持ってるからよ、二人とも連絡先交換しようぜ」
「いいよ」
「ああ」
こうして僕たちは二人目の連絡先を交換した。
交換を終えると、須藤は買い物へ向かい、僕と清隆もそれぞれ自分の部屋へ行くため、そこで別れた。
部屋は僅か八畳ほどのワンルーム。
多くの生徒は初めての一人暮らしで浮かれるだろうが、僕はママが亡くなってから一人で暮らしてたので、こういう生活には慣れている。
……だが、一人はやはり寂しいものだな。
早く友達をたくさん作って、充実した学校生活を送りたいものだ。
そう思いながらベッドに飛び込み、目を閉じた。
〜〜〜
学校二日目。
高校で初めての授業が行われたが、基本的にはオリエンテーションばかりだった。
そして昼休みとなり、僕は清隆と学食に来ていた。
「おー! 結構なメニューあるぞ、清隆!」
「そうだな」
相変わらず無表情で返事をする友人。
だが、注意深く見ると彼の目は少し興奮しているように見える。
カップ麺すら食ったことがなかったのだ。どうせ学食も食ったことないだろう。
……まぁ、僕もだけど。
そんなことを考えていると、ここでも無料のメニューがあるのを発見する。
「山菜定食だってよ、清隆」
「そうだな」
「お前、興味あるか?」
「ないな」
「じゃんけんで負けた方、これな?」
「耳ついてるのか?」
何か嫌そうな顔をしているが関係ない。
僕は強引にじゃんけんを始める。
「じゃん、けんー!」
「「ぽい!」」
————
感想としては、あまりおいしくなかったな。山菜定食。
◆◇◆
学食での食事を終え、教室に戻る途中、スピーカーから放送が流れる。
『本日午後5時より、体育館にて部活動紹介を行います。興味のある方は第一体育館にお集まりください』
部活動か。
僕は入るつもりないけど、清隆はどうするんだろう?
「清隆は部活とか興味あるのー?」
「そうだな。放課後、行ってみようと思う」
「そっか。じゃあ一人で行ってくれよ、僕は興味ないからさ」
「……そうか」
寂しそうな顔をしていた。
……おそらく気のせいだろう。だって無表情だし。
そんなことを思いながら教室に戻ると、栗色の髪をした女子生徒がこちらに近づいてくる。
桔梗ちゃんだ。
「えっと、若代くんに綾小路くんだよね。覚えてる? 櫛田桔梗だよ」
「もちのロン。そんで、僕たちになんか用?」
「二人って堀北さんと仲いいの? 昨日三人で話しているところを見ちゃってさ」
「別に仲が良いわけじゃないぞ。むしろ嫌われてると思うな」
「それ、清隆だけでしょ? 僕は仲良いと思ってるよ。でも、なんでそんなこと聞くの?」
「実は、連絡先を交換したいって言ったら断られちゃって。二人なら持ってるかなって思って」
「ああー、そういうことね。それなら期待には添えないかな。僕たちも持ってないし」
あの感じじゃ、誰とも交換したがらないだろうな。
……いや待てよ、また下着を覗いて脅せば教えてくれるだろうか?
「そうなんだ……。仲良く話しているように見えたから確認したくって。ごめんね、変なこと聞いて」
「いや、気にするな。むしろ役に立てなくて済まないな」
清隆が桔梗ちゃんの胸を見ながらそう言う。
これは注意した方がいいな。
僕が今から反面教師として教えてやるとしよう。
「そういえば桔梗ちゃん、僕たちまだ連絡先交換してなかったよね? 今交換しない?」
「う、うん。いいよ……」
桔梗ちゃんは若干引きながら、僕と連絡先を交換してくれる。
なぜ引いているかって?
それは、僕が桔梗ちゃんのおっぱいに顔を近づけながら話しかけているからだ。
もしここで清隆が僕を押してくれたら、そのまま桔梗ちゃんのたわわに実った二つの果実に飛び込むことができるだろう。
「やめろ、バカ経」
そう言って、アホ隆は僕の襟を掴み、桔梗ちゃんから引き離す。
おい、誰がPull(引く)しろなんて言った!
そこはPush(押す)だろうが!
「あ、ありがとう、綾小路くん。綾小路くんも交換しよ?」
「え? いいのか?」
「もちろんだよ! さ、学生証出して!」
……なんだろう?
僕のときよりも若干声が高い気がする。
まぁ、気のせいか!
「よし! じゃあ二人とも、これからよろしくね!」
そう言って、桔梗ちゃんは去っていった。
それはそうと……
「清隆、女の子は視線に敏感なんだ。胸ばっか見るなよ」
「それはお前だろ? バカ経」
「僕はアホ隆と違って、こそこそとは見ていない。見るなら堂々とだ!」
「はいはい、分かったよ。そろそろ昼休みも終わる。早く教室に戻るぞ」
「おっ、そうだな」
僕たちは小走りで教室に戻る。
……それにしても櫛田桔梗、か。
あれはめんどくさそうな女だな。
僕の直感がそう言っていた。
〜〜〜
六時間目を終え、放課後となった。
清隆は部活動紹介に行くため、今日は別行動だ。
僕は部活には興味ないからな。行く必要がない。
それに、ずっと気になっていることもある。
今日はそれについて調査したいと思っている。
「じゃあ、オレは部活動紹介に行ってくるぞ」
「おう、行ってら……鈴音も一緒なのか?」
「ああ、一緒に行くことになった」
「早く行くわよ、綾小路くん」
「あ、ああ。じゃあまた明日な」
二人はなんだかんだでうまくやっているようだな。
さて、僕も動き出すとしますか。
教室から出て、真っ先に向かう場所。それは上級生の教室だ。
昨日も言ったが、毎月10万も貰えるはずがない。
これは僕の直感がそう言っている。
それを確認するためには、直接聞くのが一番手っ取り早いだろう。
まずは三年生のところに行くか。
そうして三年の教室があるフロアへ移動し、近くにいた女子生徒に声をかける。
「なぁ、ちょっといいか?」
「え? なにかな?」
「単刀直入に聞くけど、毎月いくらもらってる? 10万?」
「!? ……えっと、新入生だよね?」
「そうだね」
「……ごめん、私この後予定あるから! じゃあね!」
露骨に避けられたな。
これは箝口令でも敷かれているのかな?
だとしたら、他の生徒に聞いても無駄か。
とはいえ、今の反応でだいたい分かった。
「ん? あれは……」
疑惑が確信になったな、と考えていたところで、少し気になる光景を見つける。
それは教室の中にある机の数だ。
1クラス40人のはずなのだが、明らかに足りていない。
これに関しても質問してみたいが、おそらくはぐらかされるだろうな。
これ以上ここにいても何も得られるものがないと悟った僕は、念のため二年生のフロアも確認し、調査を終えた。
少し気になったのは、二年生のほうが机の数が少なかったことだ。
〜〜〜
校舎を出た後、僕は施設内を周っていた。
ここでも調べたいことがある。
それは監視カメラだ。
他の生徒が気付いているかどうか分からないが、明らかに異常な数のカメラがある。
これに関しては、入学してからずっと視線を感じていた。
正直、疲れるので減らしてほしいというのが本音だ。
ただ、監視カメラがない場所も存在する。
例えば、寮の裏や特別棟なんかがそうだ。
この学校は何を考えているのか、よく分からない。
そんな死角みたいな場所を作れば、いじめが起きてもおかしくないぞ。
国が運営しているといっても、そこらへんは他の学校と変わらないのかもな。
僕は呆れながら、どこに監視カメラがあり、どこが死角になっているのかを頭に入れつつ、調査を続けることにした。
〜〜〜
施設内を周って調査を終えた僕は、今日得た情報を整理するためにベンチに座っていた。
まず、毎月10万も貰えないというのは、ほぼ確定してもいいだろう。
それなら、無料の商品や学食に無料のメニューがあるのも納得だ。
次に、机の数が少ないこと。
これに関しては全クラスを見てみて、一つの共通点があった。
それは二年生も三年生も、Dクラスの机の数が少ないことだ。
ここで、昨日の上級性が言っていたことを思い出す。
『地獄を見る事になる』
最初は、10万も貰えないことを言ってるのかと思っていた。
だか、今考えてみるとあれはDクラスにだけ限定して言っているように聞こえる。
机がない=除籍処分、つまり退学。
まさかとは思うが、Dクラスは問題児の集まりなのだろうか?
だとすれば自分は問題児ということになるが……そんなことはないので考えすぎだろう。
平田や桔梗ちゃんもいるしな。
……でもなぁ。
入学式で生徒会長が実力主義とかいってたもんな~。
生徒の実力を測るためにカメラをたくさん設置していると思えば、筋が通る。
……ま、いつか分かる日が来るだろう。
それまではポイントを使いすぎないように生活すればいいか。
「どいてくれないか。そこは私の場所だ」
声がするほうに顔を向けると、そこには銀髪で凛とした女性が立っていた。
おそらく先輩だろうが……
「隣に座ったらどうだ? 空いてるぞ」
「悪いが、私は君の座っているところしか座りたくないんだ。どいてもらおうか、後輩」
……高円寺みたいだな。
あんまり譲りたくないが、美人なので今回だけは譲ってやるとしよう。
僕は隣に移動して場所を譲る。
「どうも」
「……先輩だよな。名前はなんだ? 僕は1年Dクラスの若代直経だ」
「2年Bクラス、鬼龍院楓花だ」
二年生か、ちょうどいい。
机のこととか聞けてないし、聞いてみるか。
「質問だけど、二年生って机が明らかに少ないように思うんだけど、あれはなんでだ?」
「ああ、それは南雲が退学させたからだな」
……マジで退学なのかよ。
てか、南雲って誰?
「南雲って?」
「知らないのか? 2年Aクラス、南雲雅。生徒会副会長で、二年生全体を掌握している金髪の男さ」
……あー。
言われてみれば、入学式で見たかもな。
生徒会長の印象が強すぎて忘れてたぜ。
それにしても、スラスラと教えてくれるな。
もしかしたら、ポイントについても……
「もう一個質問。ポイントって毎月10万もらえる?」
「いいや。もらえないな」
「……聞いといてアレだけど、それって箝口令とか敷かれてるんじゃないの?」
「敷かれているが、バレなきゃ問題ない。それに、君も分かっていながら質問したんだろう?」
……マジか、この先輩。
超おもろいんだが。
「今度は私からの質問だ。君、彼女はいるかい?」
「え? いないけど。てか、いたこともないよ」
「そうか! 私と同じだな。それなら私の殿方になってくれないか?」
「唐突っすね。理由を聞いても?」
「直感さ。君なら私を退屈させない気がしてな」
クールビューティーからの告白。
もちろん嬉しいんだが、こういうのってムードが大事なんじゃないのか?
「悪いけど、僕はそんな男じゃないよ。きっと僕よりもふさわしい人がいるんじゃない?」
「いないな。私は人を見る目には自信がある。今まで生きてきた中で、君ほど興味を持った人間は存在しない」
「んなこと言われても……それなら生徒会長はどうなんだよ? 噂じゃ歴代最高の生徒会長なんだろ?」
「堀北学か。確かに彼も興味深い人間ではあるが、君ほどではないな。私の直感では、君なら容易に堀北学を下すことができるだろう?」
「……さあな。そもそも、敵として見たことないし。あの人のこと」
「そうか。まぁそんなことはどうでもいい。それで? 私の殿方になってくれるか?」
二年生にも変な人がいるんだな。
……それにしても殿方、ねぇ。
あんまり心が昂らないんだよなぁ。なんでだろ?
同族嫌悪ってやつかな。
僕の脳みそが『こいつと付き合うと厄介ごとに巻き込まれるぞ』って言ってる。
だが、ルックスはめちゃくちゃタイプ。
これは迷う……。
色々考えた末に、僕は返事をする。
「……ごめん。告白されたことなかったから嬉しいんだけど、殿方にはなれないかな」
「理由を聞いても?」
「直感」
ごめんよ、楓花。
でも僕は正直に生きていくって決めてるからさ。
「……ク、ハハハ! そうか! 直感か! それなら仕方ない。どうやら私は君のお眼鏡にかなわなかったようだ。潔く諦めるとしよう」
「ホントごめんよ。生理的に苦手とか、そういうことではないから。むしろ好きだ」
「慰めはいらんよ。ただそうだな、ここで会ったのも何かの縁だ。連絡先を交換しないか? 縦のつながりはあった方がいいぞ、この学校ではな」
確かに、持っておいて損はないな。
僕は学生証を出し、楓花と連絡先を交換する。
「それじゃ、僕はそろそろ行くよ。色々答えてくれてありがとね。この学校のことを知れた気がするよ」
「まだまだ序の口だ。これからもっと知ることになるだろう。それを楽しめるかどうかは若代、君次第だ」
僕はベンチから立ち上がり、楓花に手を振りながら寮へ帰る。
————
「若代直経、か。面白い一年生が入ってきたな」
鬼龍院楓花は、今までにないほどの笑みを浮かべていた。
変人同士は惹かれ合うんですかねぇ……