入学してから数週間が立ち、多くの生徒がこの学校での暮らしに慣れてきたことだろう。だが、それと同時に浮かれすぎてもいる。
まず、遅刻欠席は当たり前。須藤なんかは常習犯だ。そして、授業中に漫画を読んだり、友人と駄弁ったりと好き勝手している生徒も多数いる。
不思議なのはこれらの行動について先生が全く注意しないことだ。いま授業をしている英語担当の真嶋先生なんかは真面目そうだから注意してもおかしくないのに、我関せずだ。
この状況はDクラスだけなのだろうか。他のクラスはどうなんだろう? 気になるし、見てくるか。
「すみませーん。トイレに行ってきます」
「ああ、分かった」
そう言って、椅子から立ち上がり僕は教室を出る。まずは隣のCクラスから見てみよう。
廊下から中の確認をすると、Dクラスほどではないが周りの人と喋ったり、端末をいじっている生徒が見受けられた。
次はBクラス。このクラスに関しては、真面目に授業を受けているが少しお喋りがあるくらいで、正に普通の授業風景と言えるだろう。
最後にAクラス。完璧としか言いようがない。生徒全員が授業にちゃんと向き合い、無駄な会話も見られなかった。逆に静かすぎるくらいで、僕からしたら不気味だ。
しかし、クラスを一通り見てみて嫌でも理解したことがある。それはクラスによって評価を付けられているということ。つまり、Dクラスは問題児の集まりだということだ。
楓花とベンチで話す前に一瞬頭によぎった考えだったが、その時は否定した。なぜなら僕はDに値する生徒じゃないからだ。だが、実際に他クラスと比べてみると、Dクラスはあまりにもひどすぎる。これは受け入れざるおえないな。
いや、もしくは学校側は僕の実力を測りきれなかっただけか? 分からないからDクラスでいいか、みたいな。きっとそうだ。そういうことにしよう。
とはいえ、他の奴らはDクラスに値するから振り分けられたんだろうな。鈴音も平田も桔梗ちゃんも。
だが、そうなると楓花がAクラスにいないのはおかしい。あいつはBで収まる器ではないはず。
確か、佐枝ちゃん先生が『この学校でポイントで買えないものはない』って言ってたから、好きなクラスに上がる権利も買えるはずだ。いくらかかるかは分からないが。
もしかしたら、Aクラスに嫌な奴がいて逃げるためにBクラスに移籍したのだろうか。楓花ならやりかねないな。
そんなことを考えていたら、授業終了のチャイムが鳴ってしまった。
やべ、怒られると思い教室に戻ったが特に何も言われなかった。やっぱこの学校おかしいわ。
◆◇◆
次の日、学校に登校するといつも遅刻している池や山内たちがもう教室にいた。しかもやたら元気だ。
「おはよう、直経。良ければお前もやってくか?」
「おはよう。何やってるんだ?」
「おお! 若代! お前も興味あるんだな。実は今、女子の胸の大きさで賭けようって話をしてたんだ。オッズ表もあるぞ!」
……なるほど、確か今日は水泳の授業があったはずだ。それでこんなに浮かれてんのか。
だがこいつら、女子からの冷たい視線に気づいているのだろうか? 長谷部なんか『キモッ』って言ってるぞ。
てか、清隆が参加していることに僕は怒りが湧いてくる。女子は視線に敏感だと、反面教師になって教えてあげたというのに。こうなったらすべてめちゃくちゃにしてやる!
「いい加減にしろよお前ら!」
僕は男子諸君らに説教する。まさか説教されると思っていなかったのか、クラスにいる全員がビクッと肩を震わせる。
「お前ら、女の子の気持ちになって考えてみろよ! 胸の大きさを勝手に賭けの対象にされたら、嫌な気持ちになるだろ!」
男子の中でも、ちゃんと常識を持っている男がいてよかった……と多くの女子が安堵する。しかし……
「僕たちに置き換えて言うのであれば、女子たちが勝手に僕たちのち〇このデカさを賭けてることと一緒だぞ! そんな事をもし僕たちが知ったらどう思う? 嫌だろ!」
朝っぱらから、『ち〇こ』と大きい声で言われると思っていなかったのか、一部の女子生徒が赤面する。
「わ、若代くん。そこまでにしよう。きっと男子のみんなも反省しているはずだよ」
「平田……。分かったよ」
めちゃくちゃにしてやったぜ! ふぅーー! いやー、今日も素晴らしい一日になりそうだ!
なんか、さっきから女子と目が合わない気がするが、気のせいだよな!
この後、佐枝ちゃん先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
昼休みが終わり、いよいよプールの時間となった。僕の説教が効いたのか、浮かれている男子生徒は見受けられない。
「更衣室にいくぞ、直経」
「オッケー」
「それにしても、朝のあの説教には驚いたぞ。お前なら喜んで参加すると思ったんだが」
「僕にだって怒ることくらいあるさ。まぁその原因は清隆にあるけどな」
「オレ?」
「女子の視線は敏感だということを教えてやったのに。もう忘れたのか? 女子から冷たい視線で見られてたんだぞ。僕はあの空気を変えようと思って説教したんだ。感謝してくれ」
「……そうか。確かにあのあと堀北からも小言を言われたよ。反省する」
「いいさ、友達が道を踏み外しそうになったら、戻してやるのが友達ってやつさ」
分かってくれたのであればそれでいい。清隆なら二度とバカな真似はしないだろう。
そうして僕たちは更衣室に到着し、水着に着替える。
「うお! さすが国運営の学校だな。街のプールよりもデカいな」
「そうなのか?」
「清隆、プールも行ったことないのか?」
「街のプールはそうだな。ただ、泳いだことはあるぞ」
清隆はホント不思議な奴だな。それにしてもこいつ、よく見たらいい体をしてやがる。
「……なんだ、ジロジロ見てきて」
「いや、なんでもないよ」
「オレからも一つ教えられることがある。それは男も視線には敏感だということだ」
「それ清隆だけだから」
くだらない話をしていると、女子たちもプールサイドにやってくる。
「き、来たぞ!」
「待て、長谷部や佐倉が見当たらないぞ!」
池と山内がそんな会話をしている。あいつらだけはどうしようもないな。どうやら長谷部や佐倉をはじめとした、多くの女子生徒は見学することにしたようだ。まぁ仕方ないよな。
「よーし、お前ら集合しろ」
マッチョ体型の教師が生徒を集め、授業が始まる。
「さっそくだが、ウォーミングアップをしたら泳いでもらう。泳ぐのが苦手な生徒もいるだろうが、俺が教えるからには夏までに泳げるようにしてやる。克服すれば必ず役に立つはずだ」
なるほど、どうやら夏になにかあるようだ。まぁ僕は泳げるから問題ないが。
準備運動をしたあと、僕たちは50mを泳ぐように言われる。ほとんどの生徒が問題なく泳げるようだ。
「よし、それでは今から競争をする。男女別50m自由形だ。一位になった生徒には、5000ポイントをあげよう」
まじか! 今後どれくらいポイントがもらえるか分からない。ここは本気でいった方がいいかもな。
まずは女子からということで、清隆と一緒に試合を見る。
「誰が一位とると思う? 清隆」
「そうだな、堀北じゃないか。体つきからみて運動できるっぽいしな」
「きっしょ。何でわかるんだよ……」
「お前に言われたくない、直経は誰だと思うんだ?」
「僕は小野寺かな。直感がそう言ってる」
そして試合が始まった。やはりぶっちぎりで小野寺が一位を取り、鈴音は二位だった。桔梗ちゃんも奮闘したようで四位という結果だった。清隆と一緒に鈴音のもとへ行く。
「惜しかったな堀北」
「別に、気にしてないわ。それに小野寺さん、水泳部らしいし勝てると思っていなかったわ」
とか言ってるが、顔は悔しそうだ。素直になればかわいいのにな、鈴音は。
「それより、あなたたちは自信あるの?」
「オレはビリさえ取らなければそれでいいさ」
「僕は本気で行くよ。ポイント欲しいからね」
「……そう。期待しないでおくわ」
さて、次は男子の番だ。言い忘れていたが最下位の奴は補習が待っているらしい。
男子は人数が多いので三グループに分けて競争し、グループで一番早かったやつ三人で決勝戦を行うそうだ。
最初に須藤、清隆などの生徒が勝負することになった。清隆は本気出せば一位とれそうだが……
結果は須藤が一位でタイムは25秒を切っている。清隆は……微妙な順位だ。手を抜きやがったな。
そんなことを考えていると、次は僕の番になった。平田などと一緒になったがこのメンツなら負けることはない。
「よろしくね! 若代くん」
「悪いが、このメンツじゃ僕を止めることはできない」
「そ、そうかい。お手柔らかにね」
決勝戦のためにも、ここは一割ほどの力で行くとしよう。笛が鳴った瞬間、僕はスタート台から飛び出した。
あっぶねぇー! 平田が思いのほか早くて焦ったぜ!
だが無事一位を取ることができた。タイムは須藤とほぼ同じだった。
「負けたよ若代くん。自己紹介でスポーツは得意って言ってたけど、本当だったんだね。決勝戦応援してるよ!」
その言い方だと、今までは信じてなかったってことか平田……。
若干へこみながら清隆と鈴音の元へ行く。
「早かったな直経。本当にスポーツ得意だったんだな」
「お前もか」
「ん?」
「何でもないよ」
最後の試合には高円寺が出てくる。一番警戒しないといけない相手だ。なぜなら唯一ブーメランパンツを着ているからだ。あれを着ている奴はだいたい早い。
「私は勝負などに興味はないが、ポイントは欲しいのでねぇ」
そう言って飛び込み、泳ぐ姿はアグレッシブだった。速度も申し分ない。
結果は見ての通り、高円寺の圧勝だった。タイムは23秒22。
そして決勝戦は僕、須藤、高円寺の三人に決まった。
「あなた、勝てるの? タイムだけなら高円寺君が一位だけれど」
「僕はまだ本気を出してない。要は23秒切ればいいだけの話だ」
そう言って僕は戦場に向かう。須藤も高円寺も蹴散らしてくれる。
「レッドヘアーくんは相手にならないが、君は違うだろう? 若代ボーイ?」
「ああ!? 俺を除け者扱いすんじゃねぇ高円寺!」
「ポイントは渡さねぇぞ、二人とも」
「それでは三人とも、位置につけ!」
見てろ! 僕の本気を! 笛が鳴り、スタート台を強く蹴る。
……やはり、僕の相手は高円寺、お前のようだ。須藤は最初の数メートルで置き去りにしていく。
周りの生徒は僕がここまで高円寺と接戦すると思わなかったのか、僕たちの争いに驚きを隠せない。見学している女子生徒たちも、椅子から立ち上がってみている。
にしても高円寺の野郎、さっきの泳ぎは本気じゃなかったか。この泳ぎについてくるとはッ!
30mを通過したところでも、まだ横並び。だが、僕はまだ5割程度の力しか出してない!
ほら、もっと加速するぞ。ここでついに、僕は10割の力を放出した……。
「……まさか、本当に一位を取るとは思わなかったわ」
「言っただろ? 本気出してないだけってな!」
結果は僅差で僕が優勝した。本気を出した僕についてきた高円寺もなかなかやるな、と思い評価を改める。ただの変人じゃないようだ。
「まさかこの私を負かすとは思わなかったよ。どうやらまだ成長する余地が私にもあるようだ。感謝するよ、若代ボーイ」
「くそっ! 全く歯が立たなかったぜ。だけど次は負けねぇからな!」
「若代、水泳部に入らないか? さっきのタイムは高校記録と同等だ! お前なら世界に行ける!」
「いやー、すんません。水泳部とか興味ないです。ポイントが欲しいだけなんで」
そういうと、先生はめちゃくちゃ落ち込んでる。落ち込む暇があるなら、早くポイントくれ。
「正直、驚いたぞ。直経がこんなに早いとは」
「たまたまだよ。ただ……」
「ただ?」
「清隆が本気で泳いでたら、もっと早い記録を出せただろうな!」
「……」
体を見たときから感じていたことだ。清隆はおそらく高円寺や僕と同等の運動神経を持ってるはず。
ホント、なんでこの三人がDクラスにいるんだろうなぁ……まぁ高円寺は妥当か。
このあと、きっちり先生から5000ポイントいただき、水泳大会は幕を閉じた。
《入学時点での学校側の評価》
名前:若代直経
学籍番号:SO1T004709
クラス:1-D
部活動:無所属
誕生日:3月27日
学力:C -
知性:D -
身体能力:C -
協調性:E
判断力:E +
《学校からの評価》
小学生時代、低学年時は勉学に励み、運動面でも好成績を残していたが高学年になってから停滞。原因はクラスメイトからの虐めか。
中学生時代では勉学も運動も成績は底辺であり、常に一人で行動していた。また、他人に対して突発的な言動を行うようになり、学校全体から腫れ物扱いとされていた。
面接時でもその態度が見受けられ、こちらの質問に対し真面目に応答する姿も見られなかったため、Dクラスに配属とする。
《担任からのコメント》
過去に虐められた経験があり、そして母親を亡くしているのでメンタルが不安定な可能性あり。細心の注意を払い、接していくつもりです。