ようこそ自由気ままな奴がいる教室へ   作:アマテラスすず

6 / 29
嵐の前の静けさ

 

「堀北さん、私たちこれからカフェに行くんだけど、良かったら一緒にどうかな?」

 

「興味ないわ。それと、二度と誘わないでもらえるかしら? 迷惑なの」

 

 隣でそんな会話が繰り広げられている。

 

 鈴音と桔梗ちゃんだ。

 

「……そっか。じゃあまた誘うね!」

 

 そう言って、桔梗ちゃんは友達のもとへ。

 

 鈴音は一人で帰っていった。

 

 桔梗ちゃんも懲りないなぁ。そんなんじゃ、余計嫌われると思うけど。

 

 ただ、なんだろう。桔梗ちゃんの鈴音に対する接し方には、若干の違和感がある。

 

 友達になりたいというだけではない気がするのだ。

 

 それが何なのかは僕も分からないが……。

 

 そんなことを考えながら帰る支度を終えた僕は、清隆のもとへ向かった。

 

 一緒に帰るためだ。

 

「もう準備できた?」

 

「ああ、行こうか」

 

 そして、僕たちは学校を出て寮へ向かう。

 

 だがその道中で、カフェに行っているはずの桔梗ちゃんと遭遇した。

 

「あ、綾小路くん!……と、若代くんもいるんだね」

 

 僕の名前だけ、声が引きつっているように聞こえたが……気のせいだろう。

 

「どうしたんだ、櫛田? 何か話でもあるのか?」

 

「うん、実はね。ただ綾小路くんだけにしか話せない事だから……若代くんには悪いんだけど、二人きりにしてくれないかな?」

 

 上目遣いに加えて、おっぱいを強調された形でお願いされてしまったら、断れる男なんかいないじゃないか!

 

「仕方ないな~桔梗ちゃん。今日だけだぞー?」

 

「やった! ありがとうね、若代くん!」

 

 そう言って、僕は寮へ帰る。

 

 ……やった!って言ってたけど、どういう意味だろう?

 

◇◆◇

 

 四月末。

 

 今日も相変わらず、クラス内は学級崩壊を起こしていた。

 

 先生も変わらず放任主義で、何も言わない。

 

 だが、三時間目の日本史。佐枝ちゃん先生が担当の授業なのだが、今日だけは少し様子が違った。

 

「お前ら、静かにしろ。今日は少しだけ真面目に授業を受けてもらう」

 

「えー、どういうことっすか? 佐枝ちゃんセンセー」

 

 その呼び方をしていいなんて、誰が言った?

 

 それは僕だけの特権だぞ。

 

「月末なのでな。軽く小テストをすることになった。だが安心しろ、今回のテストの結果は成績表には関係ない。ただし、カンニングだけはしないように」

 

 ……成績表には関係ない、か。

 

 なら、他の何かには関係してくるということか。

 

 といっても、今はまだ分からない。

 

「それでは、配られた者から始めてもらって構わない」

 

 前の生徒からテストが配られ、軽く問題に目を通す。

 

 ……あれ、最後の三問だけムズくね?

 

 普通の高校一年生には解けない問題な気がする。

 

 このテストで、学校側は何を測ろうとしているんだろう?

 

 ま、今考えても仕方ないか。テストに集中するとしよう。

 

 えーと、一問目は……。

 

 

 問1 四角の中に当てはまる数字を答えなさい。

 

         □里霧中

 

 

 簡単すぎるだろう……。小学生でも解けるんじゃないかなぁ?

 

 僕は問題の難易度に呆れながら、この問題の答えを空(・)欄(・)にして、別の問題を解いた。

 

~~~

 

 昼休みになり、僕は一人でご飯を食べていた。

 

 昼食はコンビニで買ったおにぎり二つだけ。

 

 ……え? 清隆はどうしたかって?

 

 最近、須藤や池、山内たちと一緒に飯を食ってるようだ。

 

 なぜだ? いつからそんなに仲良くなったんだ!

 

 僕の知らないところで、ちゃっかり交友関係を広げてるんじゃねぇよ!

 

「最近、あなたも一人で食べるようになってきてるわね。綾小路くんに捨てられた?」

 

 そう言って話しかけてきたのは左隣の住人、鈴音だ。

 

「そうかもしれないなぁ。でもまあ、友達が多いことは良いことだよ」

 

「何? 私に対する嫌味かしら?」

 

「そんなつもりで言ってねぇよ。そんなんだから友達できないんだよ」

 

「綾小路くんにも言ったけど、私は友達を必要としていないわ。それに、あなたみたいな変人には言われたくないわね」

 

 僕のどこが変人だよ。

 

 いたって普通の男子高校生さ!

 

「……ねぇ。今日の小テストの問題、あなたはどう思った?」

 

「珍しいな。鈴音から質問とは」

 

「いいから答えてちょうだい」

 

「そうだなぁ。ラスト三問は難しかったよな。鈴音は解けたか?」

 

「いいえ、一応最後まで挑戦してみたけど、正解しているか自信はないわね。あなたは解けたの?」

 

「いいや、解いてないなぁ。ただ、成績表には関係ないって言ってたし、そこまで深く考えなくていいんじゃないか?」

 

「……そう、ね」

 

 腑に落ちてない様子だな。

 

 あの小テストに疑問を持つことができる生徒ではあるのか。

 

 やはり優秀ではあるのだろう、コミュニケーション能力が欠落しているだけで。

 

 そこさえマシだったなら、こんなクズの集まりみたいなクラスに配属されなかっただろうな。

 

 そんなことを思っていたら、あと少しで昼休みが終わってしまうことに気付く。

 

 僕は急いでおにぎりを食べ、次の授業の準備を始めた。

 

~~~

 

 放課後になり、清隆を帰りに誘おうとするが――。

 

「すまない直経。この後、池たちと遊ぶ約束があるんだ。また明日な」

 

 振られてしまった……。

 

 僕たち友達じゃなかったのかよ、裏切者め!

 

 そこは普通、『お前も来るか?』とか言うもんだろ! アホ隆!

 

 心の中で清隆を罵倒していると、クラスの人気者、平田から声をかけられた。

 

「若代くん、このあと良ければ一緒に遊ばないかい? 軽井沢さんや松下さん、森さんも一緒なんだけど」

 

「え? いいのか!」

 

 さすが平田、いや洋介! お前は人生で最高の友達だ!

 

 清隆? 誰だそいつは。

 

「もちろんだよ! 実は男が僕だけで少し困っていたところなんだ」

 

「なるほどな。任せてくれ!」

 

 そういうわけで、僕は洋介一行と遊びに行くことになった。

 

 なぜか女子たちは僕と目を合わせてくれないが、緊張しているだけだろう。

 

 自分で言うのも恥ずかしいが、僕は結構イケメンだと思ってるからな。

 

 そういえば、洋介は軽井沢と付き合っているそうだ。

 

 正直、意外である。洋介の好みがギャル系だったとは。

 

 となると、僕が狙うべき女子は松下か森か。

 

 ……二人とも普通に美人なんだよなぁ。

 

 というか、この学校にいる女の子は比較的かわいい子が多い気がする。

 

 顔で選んでるとかある?

 

 そんなことを考えていると、桔梗ちゃんとばったり会う。

 

「あれ、平田くんたちもこれから遊ぶ感じ?」

 

「そうだね。もしかして櫛田さんも?」

 

「うん! 池くん、山内くん、綾小路くんとね! そうだ、良ければ皆も来ない?」

 

「いいね! 人が多いほうが楽しいだろうし。みんなもいいかな?」

 イケメンから頼まれたら、断れるわけないだろう。

 

 そんなわけで、清隆たちと合流することになった。

 

「よっ! さっきぶりだな清隆」

 

「平田たちと一緒に行動していたのか? お前が?」

 

「おい、どういう意味だゴラァ」

 

 そんな感じで清隆とじゃれ合っていたら、池がこんなことを言い出す。

 

「平田と軽井沢を除けば男女比もちょうどいいし、俺が櫛田ちゃんで、山内は松下、綾小路は森と話せばいい感じになるだろ?」

 

 ……あれ、僕はどこいった?

 

 存在が消されているような気がする。

 

 仕方ない、なら僕は平田の空いているほうに身を置くとしよう。

 

「ちょ、ちょっと! なんで若代くんが平田くんの隣に来てんのよ!」

 

「洋介は皆のものだろ軽井沢! いくら彼女だからってずるいぞ!」

 

「ま、まあまあ二人とも。落ち着いて……」

 

 『水泳』でのライバルは高円寺。

 

 『洋介』のライバルが軽井沢になるとは、人生何が起こるか分からないものだ。

 

「そういえば、みんなはもう学校には慣れたかい?」

 

 空気を変えようと思ったのか、洋介が皆にむけて質問する。

 

「ばっちりだぜ! てか、サイコーすぎるだろこの学校!」

 

「あたしはもっと、ポイントが欲しいかな? 20万とかさぁ」

 

「えー? 私は10万でも十分だと思うな。というか私は少し怖いとも思ってるよ。この学校を卒業した後、金銭感覚が狂うんじゃないかって」

 

「確かに、散財は気を付けたほうがいいかもね」

 

 大丈夫だみんな、10万も貰えないと思うから。

 

 下手したら、0の可能性もあるから。

 

「何言ってんだよ平田ー、櫛田ちゃん! 毎月10万くれるっていうんだから、使わなきゃ損だろ!」

 

「マジそれなー!」

 

 ダメだこいつら、早くなんとかしないと……。

 

 もう手遅れかもしれないが、一応言っとくか。

 

「あー、多分だけど、10万も貰えないと思うよ」

 

「は? 何言ってんだよ若代。冗談なのは存在だけにしてくれよな」

 

 池が文句を言ってくる。

 

 てか、ちゃんと僕のこと見えてるじゃないか!

 

 ……いじめで学校に訴えようかな?

 

「言葉通りの意味だよ。お前ら、この一か月で学校のいろんな施設を回っただろ? そのときに無料の商品とかあったはずだ。もし毎月10万貰えるはずなら、そんなもの必要ないと思わないか?」

 

 僕の言ったことを理解した洋介や桔梗ちゃん、松下なんかも顔から笑みが消えていく。

 

「ま、僕の言うことが信じられないなら、散財なり好きにしたらどうだ? じゃ、僕はもう帰るよ。また明日な」

 

 空気が重くなったので、今日は帰ることにした。ポイントも節約したいからな。

 

 だったら最初から誘いには乗るなって話だが。

 

 仕方ないだろ? 洋介が魅力的だったんだからさ。

 

~~~

 

 帰っている途中、ベンチに見覚えのある生徒がいた。

 

 楓花だ。

 

「おや? 誰かと思えば若代じゃないか。殿方になりに来たのか?」

 

「まだ諦めてなかったのかよ。寮に帰る途中に見かけたから寄っただけだ」

 

「そうか。それで? 聞きたいことがあるんじゃないか? 顔に書いてあるぞ」

 

 ……これも直感で言ってるのか。

 

 やはり僕と似たタイプだな。

 

「話が早くて助かる。この学校はAクラスに優等生を集めて、Dクラスには劣等生を集めている。そうだな?」

 

「その通りさ。やはり若代なら気づくと思っていたよ」

 

「だとしたら、楓花に聞きたいことがある。あんたはもともとAクラスの人間だったんじゃないか? だが、ポイントで好きなクラスに移る権利を買って、今のクラスに移動した。どうだ?」

 

「…ク、クク。ハハハハハッ!」

 

 めっちゃ大声で笑われた。怖いこの人。でも美人。

 

「まさか、そっちで来るとはなぁ。ポイントのこともちゃんと理解しているようだ。おそらく一年生で、ここまでこの学校のシステムを見抜いてるやつはいないだろうな。いたとしても、生活態度によってもらえる金額が変動することぐらいだろうなぁ」

 

「そいつはどうも。で、そっちってのは?」

 

「なに、明日の5月1日になれば分かるさ。それより、いまポイントはいくら保有している?」

 

「8万8000だな」

 

「ほう? かなり残したな。それなら問題あるまい。既に言われたことがあるかもしれないが、明日は地獄を見ることになるだろう。覚悟しておけ」

 

「そうだよな、やっぱ。最後に一つ聞かせてくれ。楓花はこの学校に満足しているか?」

 

「もちろんだ。私はこの学校を気に入っている。君が殿方になってくれたら、さらに充実するんだがねぇ」

 

 そいつは無理だ、と言って僕はその場を後にした。

 

 僕と似たタイプの楓花が満足している、か。

 

 ……なら、多少は楽しめるのかな。

 

 僕は明日を楽しみにしながら、寮へ帰った。

 

 

 

――――

 

 

 

 そして、5月1日を迎えた。

 

 Dクラスに振り込まれたポイントは――。

 

 ゼロだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。