ようこそ自由気ままな奴がいる教室へ   作:アマテラスすず

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嵐の前の静けさ

 

「堀北さん、私たちこれからカフェに行くんだけど良かったら一緒にどうかな?」

「興味ないわ。それと二度と誘わないでもらえるかしら? 迷惑なの」

 

 隣でそんな会話が行われる。鈴音と桔梗ちゃんだ。

 

「……そっか、じゃあまた誘うね!」

 

 そう言って、桔梗ちゃんは友達の元へ。鈴音は一人で帰っていった。

 桔梗ちゃんも懲りないなぁ。そんなんじゃ余計嫌われると思うけど。ただなんだろう。桔梗ちゃんの鈴音に対する接し方には若干違和感がある。友達になりたいというだけではない気がするのだ。それがなんなのかは僕も分からないが。

 そんなことを考えつつ、帰る支度を終わらせた僕は清隆のもとに行く。一緒に帰るためだ。

 

「もう準備できた?」

「ああ、行こうか」

 

 そして、僕たちは学校を出て寮に向かう。だがそこにはカフェに行っているはずの桔梗ちゃんがいた。

 

「あ、綾小路くん!……と若代くんもいるんだね」

 

 僕の名前だけ声が引きつっているように聞こえたが気のせいだろう。

 

「どうしたんだ櫛田? 何か話でもあるのか?」

「うん、実はね。ただ綾小路くんだけにしか話せない事だから、若代くんはごめんだけど二人きりにしてくれないかな?」

 

 上目遣いかつ、おっぱいを強調された形でお願いされてしまったら、断れる男なんかいないじゃないか!

 

「仕方ないな桔梗ちゃん。今日だけだぞー?」

「やった! ありがとうね、若代くん!」

 

 そう言って僕は寮に帰る。……やった!って言ってたけど、どういう意味だろう?

 

 

 四月末。今日も相変わらずクラス内は学級崩壊を起こしていた。先生も変わらず放任主義で何も言わない。

 だが、今日の三時間目の社会。佐枝ちゃん先生が担当の授業なのだが、今日だけはこんなことを言われる。

 

「お前ら、静かにしろ。今日は少しだけ真面目に授業を受けてもらう」

「えー、どういうことっすか? 佐枝ちゃんセンセー」

 

 その呼び方をしていいなんて誰が言った? それは僕だけの特権だぞ。

 

「月末なのでな、軽く小テストをすることになった。だが安心しろ、今回のテストの結果は成績表には関係ない。ただ、カンニングだけはしないように」

 

 成績表には関係ない、か。なら他のなにかには関係してくるということか。といっても、今はまだ分からない。

 

「それでは、配られた者から始めてもらって構わない」

 

 前の生徒からテストが配られ、軽く問題に目を通す。……あれ、最後の三問だけムズくね? 普通の高校一年生には解けない問題な気がする。このテストで学校側は何を測ろうとしているのだろうか。

 ま、今考えても仕方ないか。テストに集中するとしよう。えーと、一問目は……

 

 問1 四角の中に当てはまる数字を答えなさい。

 

         □里霧中

 

 簡単すぎるだろう……。小学生でも解けるんじゃないかなぁ?

 僕は問題の難易度に呆れながらこの問題の答えを()()にして、別の問題を解いた。

 

 

 

 昼休みになり、僕は一人でご飯を食べていた。昼食はコンビニで買ったおにぎり二つだけ。

 え? 清隆はどうしたかって? 最近、須藤や池、山内たちと一緒に飯を食ってるようだ。

 なぜだ? いつからそんなに仲良くなったんだ! 僕の知らないところでちゃっかり交友関係広げてるんじゃねぇよ!

 

「最近あなたも一人で食べるようになってきてるわね。綾小路くんに捨てられた?」

 

 そう言って話しかけてきたのは左の隣人、鈴音だ。

 

「そうかもしれないなぁ。でもま、友達が多いことは良いことだよ」

「何? 私に対する嫌味かしら?」

「そんなつもりで言ってねぇよ。そんなんだから友達できないんだよ」

「綾小路君にも言ったけど、私は友達を必要としていないわ。それに、あなたみたいな変人には言われたくないわね」

 

 僕のどこが変人だよ。いたって普通の男子高校生さ!

 

「……ねぇ。今日の小テストの問題、あなたはどう思った?」

「珍しいな。鈴音から質問とは」

「いいから答えてちょうだい」

「そうだなぁ。ラスト三問は難しかったよな、鈴音は解けたか?」

「いいえ、一応最後まで挑戦してみたけど、正解しているか自信はないわね。あなたは解けたの?」

「いいや、解いてないなぁ。ただ、成績表には関係ないって言ってたし、そこまで深く考えなくていいんじゃないか?」

「……そう、ね」

 

 腑に落ちてない様子だな。あの小テストに疑問を持つことができる生徒ではあるのか。やはり優秀ではあるのだろう、コミュニケーション能力が欠落しているだけで。そこさえマシであったなら、こんなクズの集まりのクラスに配属されなかっただろうな。

 そんなことを思っていたら、あと少しで昼休みが終わってしまうことに気付く。僕は急いでおにぎりを食べ、次の授業の準備をし始めた。

 

 

 放課後になり、清隆を帰りに誘おうとするが……

 

「すまない直経。この後池たちと遊ぶ約束があるんだ。また明日な」

 

 振られてしまった……僕たち友達じゃなかったのかよ、裏切者め! そこは普通、『お前もくるか?』とか言うもんだろ! アホ隆!

 心の中で清隆を罵倒していると、クラスの人気者平田から声をかけられた。

 

「若代君、このあと良ければ一緒に遊ばないかい? 軽井沢さんや松下さん、森さんも一緒なんだけど」

「え? いいのか!」

 

 さすが平田、いや洋介! お前は人生で最高の友達だ! 清隆? 誰だそいつは。

 

「もちろんだよ! 実は男が僕だけで少し困っていたところなんだ」

「なるほどな。任せてくれ!」

 

 そういうわけで、僕は洋介一行と遊びに行くことになった。

 なぜか女子たちは僕と目を合わせてくれないが緊張しているだけだろう。自分で言うのも恥ずかしいが、僕は結構イケメンだと思ってるからな。

 そういえば、洋介は軽井沢と付き合っているそうだ。正直、意外である。洋介の好みがギャル系だったとは。

 となると、僕が狙うべき女子は松下か森か。二人とも普通に美人なんだよなぁ。というか、この学校にいる女の子は比較的かわいい子が多い気がする。顔で選んでるとかある?

 そんなことを考えていると、桔梗ちゃんとばったり会う。

 

「あれ、平田くんたちもこれから遊ぶ感じ?」

「そうだね。もしかして櫛田さんも?」

「うん! 池くん、山内くん、綾小路くんとね! そうだ、良ければ皆も来ない?」

「いいね! 人が多い方が楽しいだろうし。みんなもいいかな?」

 イケメンから頼まれたら断れるわけないだろう。そんなわけで清隆たちと合流することになった。

 

「よっ! さっきぶりだな清隆」

「平田たちと一緒に行動していたのか? お前が?」

「おい、どういう意味だゴラァ」

 

 そんな感じで清隆とじゃれ合っていたら、池がこんなことを言い出す。

 

「平田と軽井沢を除けば男女比もちょうどいいし、俺が櫛田ちゃんで山内は松下、綾小路は森と話せばいい感じになるだろ?」

 

 ……あれ、僕はどこいった? 存在が消されているような気がする。仕方ない、なら僕は平田の空いている方に身を置くとしよう。

 

「ちょ、ちょっと! なんで若代君が平田君の隣に来てんのよ!」

「洋介は皆のものだろ軽井沢! いくら彼女だからってずるいぞ!」

「ま、まあまあ二人とも。落ち着いて……」

 

 『水泳』でのライバルは高円寺。『洋介』のライバルが軽井沢になるとは、人生何が起こるか分からないものだ。

 

「そういえば、みんなはもう学校には慣れたかい?」

 

 空気を変えようと思ったのか、洋介が皆にむけて質問する。

 

「ばっちりだぜ! てか、サイコーすぎるだろこの学校!」

「あたしはもっと、ポイントが欲しいかな? 20万とかさぁ」

「えー? 私は10万でも十分だと思うな。というか私は少し怖いとも思ってるよ。この学校を卒業した後、金銭感覚が狂うんじゃないかって」

「確かに、散財は気を付けた方がいいかもね」

 

 大丈夫だみんな、10万ももらえないと思うから。下手したら0の可能性もあるから。

 

「何言ってんだよ平田ー、櫛田ちゃん! 毎月10万くれるっていうんだから、使わなきゃ損だろ!」

「まじそれなー!」

 

 ダメだこいつら、早くなんとかしないと……。もう手遅れかもしれないが、一応言っとくか。

 

「あー多分だけど、10万ももらえないと思うよ」

「は? 何言ってんだよ若代。冗談言うのは存在だけにしてくれよな」

 

 池が文句を言ってくる。てか、ちゃんと僕のこと見えてるじゃないか! いじめで学校に訴えようかな?

 

「言葉通りの意味だよ。お前ら、この一か月で学校のいろんな施設周っただろ? そんときに無料の商品とかあったはずだ。もし毎月10万もらえるはずなら、そんなもの必要ないと思わないか?」

 

 僕の言ったことを理解した洋介や桔梗ちゃん、松下なんかも顔から笑みが消えていく。

 

「ま、僕の言うことが信じられないなら散財なり好きにしたらどうだ? じゃ、僕はもう帰るよ。また明日な」

 

 空気が重くなったので、今日は帰ることにした。ポイントも節約したいからな。だったら最初から誘いには乗るなって話だが。仕方ないだろ、洋介が魅力的だったからさ。

 

 

 

 帰っている途中、ベンチに見覚えのある生徒がいた。楓花だ。

 

「おや? 誰かと思えば若代じゃないか。殿方になりに来たのか?」

「まだ諦めてなかったのかよ。寮に帰る途中に見かけたから寄っただけだ」

「そうか。それで? 聞きたいことがあるんじゃないか? 顔に書いてあるぞ」

 

 ……これも直感で言ってるのか。やはり僕と似たタイプだな。

 

「話が早くて助かる。この学校はAクラスに優等生を集めて、Dクラスには劣等生を集めている。そうだな?」

「その通りさ。やはり若代なら気づくと思っていたよ」

「だとしたら、楓花に聞きたいことがある。あんたはもともと、Aクラスの人間だったんじゃないか? だが、ポイントで好きなクラスに上がる権利を買って、今のクラスに移動した。どうだ?」

「…ク、クク。ハハハハハっ!」

 

 めっちゃ大声で笑われた。怖いこの人。でも美人。

 

「まさか、そっちで来るとはなぁ。ポイントのこともちゃんと理解しているようだ。おそらく一年生で、ここまでこの学校のシステムを見抜いてるやつはいないだろうな。いたとしても、生活態度によってもらえる金額が変動することぐらいだろうなぁ」

「そいつはどうも。で、そっちってのは?」

「なに、明日の5月1日になれば分かるさ。それより、いまポイントはいくら保有している?」

「8万8000だな」

「ほう? かなり残したな。それなら問題あるまい。既に言われたことがあるかもしれないが、明日は地獄を見ることになるだろう。覚悟しておけ」

「そうだよなやっぱ。最後に一つ聞かせてくれ。楓花はこの学校に満足しているか?」

「もちろんだ。私はこの学校を気に入っている。君が殿方になってくれたら、さらに充実するんだがねぇ」

 

 そいつは無理だ、と言って僕はその場を後にした。僕と似たタイプの楓花が満足しているか。

 ……なら多少は楽しめるのかな。僕は明日を楽しみにしながら寮へ帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、5月1日を迎えたDクラスに振り込まれたポイントは、ゼロだった。

 

 

 

 

 

 

 

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