「堀北さん、私たちこれからカフェに行くんだけど、良かったら一緒にどうかな?」
「興味ないわ。それと、二度と誘わないでもらえるかしら? 迷惑なの」
隣でそんな会話が繰り広げられている。
鈴音と桔梗ちゃんだ。
「……そっか。じゃあまた誘うね!」
そう言って、桔梗ちゃんは友達のもとへ。
鈴音は一人で帰っていった。
桔梗ちゃんも懲りないなぁ。そんなんじゃ、余計嫌われると思うけど。
ただ、なんだろう。桔梗ちゃんの鈴音に対する接し方には、若干の違和感がある。
友達になりたいというだけではない気がするのだ。
それが何なのかは僕も分からないが……。
そんなことを考えながら帰る支度を終えた僕は、清隆のもとへ向かった。
一緒に帰るためだ。
「もう準備できた?」
「ああ、行こうか」
そして、僕たちは学校を出て寮へ向かう。
だがその道中で、カフェに行っているはずの桔梗ちゃんと遭遇した。
「あ、綾小路くん!……と、若代くんもいるんだね」
僕の名前だけ、声が引きつっているように聞こえたが……気のせいだろう。
「どうしたんだ、櫛田? 何か話でもあるのか?」
「うん、実はね。ただ綾小路くんだけにしか話せない事だから……若代くんには悪いんだけど、二人きりにしてくれないかな?」
上目遣いに加えて、おっぱいを強調された形でお願いされてしまったら、断れる男なんかいないじゃないか!
「仕方ないな~桔梗ちゃん。今日だけだぞー?」
「やった! ありがとうね、若代くん!」
そう言って、僕は寮へ帰る。
……やった!って言ってたけど、どういう意味だろう?
◇◆◇
四月末。
今日も相変わらず、クラス内は学級崩壊を起こしていた。
先生も変わらず放任主義で、何も言わない。
だが、三時間目の日本史。佐枝ちゃん先生が担当の授業なのだが、今日だけは少し様子が違った。
「お前ら、静かにしろ。今日は少しだけ真面目に授業を受けてもらう」
「えー、どういうことっすか? 佐枝ちゃんセンセー」
その呼び方をしていいなんて、誰が言った?
それは僕だけの特権だぞ。
「月末なのでな。軽く小テストをすることになった。だが安心しろ、今回のテストの結果は成績表には関係ない。ただし、カンニングだけはしないように」
……成績表には関係ない、か。
なら、他の何かには関係してくるということか。
といっても、今はまだ分からない。
「それでは、配られた者から始めてもらって構わない」
前の生徒からテストが配られ、軽く問題に目を通す。
……あれ、最後の三問だけムズくね?
普通の高校一年生には解けない問題な気がする。
このテストで、学校側は何を測ろうとしているんだろう?
ま、今考えても仕方ないか。テストに集中するとしよう。
えーと、一問目は……。
問1 四角の中に当てはまる数字を答えなさい。
□里霧中
簡単すぎるだろう……。小学生でも解けるんじゃないかなぁ?
僕は問題の難易度に呆れながら、この問題の答えを
~~~
昼休みになり、僕は一人でご飯を食べていた。
昼食はコンビニで買ったおにぎり二つだけ。
……え? 清隆はどうしたかって?
最近、須藤や池、山内たちと一緒に飯を食ってるようだ。
なぜだ? いつからそんなに仲良くなったんだ!
僕の知らないところで、ちゃっかり交友関係を広げてるんじゃねぇよ!
「最近、あなたも一人で食べるようになってきてるわね。綾小路くんに捨てられた?」
そう言って話しかけてきたのは左隣の住人、鈴音だ。
「そうかもしれないなぁ。でもまあ、友達が多いことは良いことだよ」
「何? 私に対する嫌味かしら?」
「そんなつもりで言ってねぇよ。そんなんだから友達できないんだよ」
「綾小路くんにも言ったけど、私は友達を必要としていないわ。それに、あなたみたいな変人には言われたくないわね」
僕のどこが変人だよ。
いたって普通の男子高校生さ!
「……ねぇ。今日の小テストの問題、あなたはどう思った?」
「珍しいな。鈴音から質問とは」
「いいから答えてちょうだい」
「そうだなぁ。ラスト三問は難しかったよな。鈴音は解けたか?」
「いいえ、一応最後まで挑戦してみたけど、正解しているか自信はないわね。あなたは解けたの?」
「いいや、解いてないなぁ。ただ、成績表には関係ないって言ってたし、そこまで深く考えなくていいんじゃないか?」
「……そう、ね」
腑に落ちてない様子だな。
あの小テストに疑問を持つことができる生徒ではあるのか。
やはり優秀ではあるのだろう、コミュニケーション能力が欠落しているだけで。
そこさえマシだったなら、こんなクズの集まりみたいなクラスに配属されなかっただろうな。
そんなことを思っていたら、あと少しで昼休みが終わってしまうことに気付く。
僕は急いでおにぎりを食べ、次の授業の準備を始めた。
~~~
放課後になり、清隆を帰りに誘おうとするが――。
「すまない直経。この後、池たちと遊ぶ約束があるんだ。また明日な」
振られてしまった……。
僕たち友達じゃなかったのかよ、裏切者め!
そこは普通、『お前も来るか?』とか言うもんだろ! アホ隆!
心の中で清隆を罵倒していると、クラスの人気者、平田から声をかけられた。
「若代くん、このあと良ければ一緒に遊ばないかい? 軽井沢さんや松下さん、森さんも一緒なんだけど」
「え? いいのか!」
さすが平田、いや洋介! お前は人生で最高の友達だ!
清隆? 誰だそいつは。
「もちろんだよ! 実は男が僕だけで少し困っていたところなんだ」
「なるほどな。任せてくれ!」
そういうわけで、僕は洋介一行と遊びに行くことになった。
なぜか女子たちは僕と目を合わせてくれないが、緊張しているだけだろう。
自分で言うのも恥ずかしいが、僕は結構イケメンだと思ってるからな。
そういえば、洋介は軽井沢と付き合っているそうだ。
正直、意外である。洋介の好みがギャル系だったとは。
となると、僕が狙うべき女子は松下か森か。
……二人とも普通に美人なんだよなぁ。
というか、この学校にいる女の子は比較的かわいい子が多い気がする。
顔で選んでるとかある?
そんなことを考えていると、桔梗ちゃんとばったり会う。
「あれ、平田くんたちもこれから遊ぶ感じ?」
「そうだね。もしかして櫛田さんも?」
「うん! 池くん、山内くん、綾小路くんとね! そうだ、良ければ皆も来ない?」
「いいね! 人が多いほうが楽しいだろうし。みんなもいいかな?」
イケメンから頼まれたら、断れるわけないだろう。
そんなわけで、清隆たちと合流することになった。
「よっ! さっきぶりだな清隆」
「平田たちと一緒に行動していたのか? お前が?」
「おい、どういう意味だゴラァ」
そんな感じで清隆とじゃれ合っていたら、池がこんなことを言い出す。
「平田と軽井沢を除けば男女比もちょうどいいし、俺が櫛田ちゃんで、山内は松下、綾小路は森と話せばいい感じになるだろ?」
……あれ、僕はどこいった?
存在が消されているような気がする。
仕方ない、なら僕は平田の空いているほうに身を置くとしよう。
「ちょ、ちょっと! なんで若代くんが平田くんの隣に来てんのよ!」
「洋介は皆のものだろ軽井沢! いくら彼女だからってずるいぞ!」
「ま、まあまあ二人とも。落ち着いて……」
『水泳』でのライバルは高円寺。
『洋介』のライバルが軽井沢になるとは、人生何が起こるか分からないものだ。
「そういえば、みんなはもう学校には慣れたかい?」
空気を変えようと思ったのか、洋介が皆にむけて質問する。
「ばっちりだぜ! てか、サイコーすぎるだろこの学校!」
「あたしはもっと、ポイントが欲しいかな? 20万とかさぁ」
「えー? 私は10万でも十分だと思うな。というか私は少し怖いとも思ってるよ。この学校を卒業した後、金銭感覚が狂うんじゃないかって」
「確かに、散財は気を付けたほうがいいかもね」
大丈夫だみんな、10万も貰えないと思うから。
下手したら、0の可能性もあるから。
「何言ってんだよ平田ー、櫛田ちゃん! 毎月10万くれるっていうんだから、使わなきゃ損だろ!」
「マジそれなー!」
ダメだこいつら、早くなんとかしないと……。
もう手遅れかもしれないが、一応言っとくか。
「あー、多分だけど、10万も貰えないと思うよ」
「は? 何言ってんだよ若代。冗談なのは存在だけにしてくれよな」
池が文句を言ってくる。
てか、ちゃんと僕のこと見えてるじゃないか!
……いじめで学校に訴えようかな?
「言葉通りの意味だよ。お前ら、この一か月で学校のいろんな施設を回っただろ? そのときに無料の商品とかあったはずだ。もし毎月10万貰えるはずなら、そんなもの必要ないと思わないか?」
僕の言ったことを理解した洋介や桔梗ちゃん、松下なんかも顔から笑みが消えていく。
「ま、僕の言うことが信じられないなら、散財なり好きにしたらどうだ? じゃ、僕はもう帰るよ。また明日な」
空気が重くなったので、今日は帰ることにした。ポイントも節約したいからな。
だったら最初から誘いには乗るなって話だが。
仕方ないだろ? 洋介が魅力的だったんだからさ。
~~~
帰っている途中、ベンチに見覚えのある生徒がいた。
楓花だ。
「おや? 誰かと思えば若代じゃないか。殿方になりに来たのか?」
「まだ諦めてなかったのかよ。寮に帰る途中に見かけたから寄っただけだ」
「そうか。それで? 聞きたいことがあるんじゃないか? 顔に書いてあるぞ」
……これも直感で言ってるのか。
やはり僕と似たタイプだな。
「話が早くて助かる。この学校はAクラスに優等生を集めて、Dクラスには劣等生を集めている。そうだな?」
「その通りさ。やはり若代なら気づくと思っていたよ」
「だとしたら、楓花に聞きたいことがある。あんたはもともとAクラスの人間だったんじゃないか? だが、ポイントで好きなクラスに移る権利を買って、今のクラスに移動した。どうだ?」
「…ク、クク。ハハハハハッ!」
めっちゃ大声で笑われた。怖いこの人。でも美人。
「まさか、そっちで来るとはなぁ。ポイントのこともちゃんと理解しているようだ。おそらく一年生で、ここまでこの学校のシステムを見抜いてるやつはいないだろうな。いたとしても、生活態度によってもらえる金額が変動することぐらいだろうなぁ」
「そいつはどうも。で、そっちってのは?」
「なに、明日の5月1日になれば分かるさ。それより、いまポイントはいくら保有している?」
「8万8000だな」
「ほう? かなり残したな。それなら問題あるまい。既に言われたことがあるかもしれないが、明日は地獄を見ることになるだろう。覚悟しておけ」
「そうだよな、やっぱ。最後に一つ聞かせてくれ。楓花はこの学校に満足しているか?」
「もちろんだ。私はこの学校を気に入っている。君が殿方になってくれたら、さらに充実するんだがねぇ」
そいつは無理だ、と言って僕はその場を後にした。
僕と似たタイプの楓花が満足している、か。
……なら、多少は楽しめるのかな。
僕は明日を楽しみにしながら、寮へ帰った。
――――
そして、5月1日を迎えた。
Dクラスに振り込まれたポイントは――。
ゼロだった。