マブラヴガールズガーデン ドロテア・カークランドの雪山の流儀 作:マブラマ
特別養成校舎の教室は、午後の陽光が薄いカーテンを透かして淡く差し込んでいた。
机の並びはいつもより少し乱れ、窓際の席に腰掛けた指揮官の前に、プレ・クラス-Aの四人が勢揃いしていた。
「指揮官! 来てくれてありがとう!」
ジュリー・ステイシーが弾んだ声でそう言って、ぴょんと一歩前に出る。
赤髪のツインテールがふわりと揺れ、冬服の裾が軽く翻った。
「ああ、久しぶりだなジュリー」
指揮官は小さく頷き、椅子の背に体を預ける。
「えへへ……前は体育祭だったわよね!
ちょっと声をかけるの、久しぶりになっちゃったわ!」
ジュリーが照れくさそうに頬を掻く。
黒森ラウラがその横から、くすりと笑みを浮かべて口を挟んだ。
「指揮官さんが忙しそうだから、ジュリーちゃんったら連絡とって良いのか悩んでたのよ」
「まあ、やることはそれなりにあるけど、遠慮しなくていい。無理な時は無理だって言わせて貰うからな」
指揮官の言葉に、ノエル・アルエがにやりと目を細める。
「それなら、もっと遠慮なく連絡しちゃうよ?」
樋向心香は静かに腕を組み、わずかに眉を寄せながら言った。
「まあ今回に関してはどうしても、指揮官の力が必要だから呼んだわけだけども……」
「プレ・クラス-Aのメンバー総出ってことは、チームに関する相談か?」
指揮官の視線が四人を順に捉える。ジュリーが勢いよく頷いた。
「そうなの! もちろん、指揮官に頼りっぱなしってわけにもいかないし、あたし達でやれることはやるつもりだけど」
ラウラが小さく息をつき、言葉を継ぐ。
「まあ、今回に関しては……ね」
指揮官は無言で目を細めた。
「(深刻な相談か……)」
ジュリーが胸を張り、目を輝かせる。
「覚えてる? 体育祭であたし達が正式チーム昇格に向けて、頑張るぞーって言ってたの」
「ああ、勿論だ」
「えへへ…それであれから訓練をしながら、チームで昇格出来る特別な実績になるものがないか探してたの!」
「偉いじゃないか。……とはいえ、実績になるような成果なんて難しいだろうな」
心香が静かに頷く。
「そうね。たとえ現役チームに匹敵する実力を持っていたとしても、プレ・クラスのままじゃチームとして認められるには足りないわ」
ラウラが少し寂しげに目を伏せた。
「結局、それなら各校舎の5人チームに編入した方が、もっと色んなチームの助けになるものね……」
指揮官は顎に手を当て、考え込む。
「(俺の知ってるチームでも、少人数のチームはあるが……高い適性と実力があって最初から注目されているからな。―――元々のスタート地点がマイナスからの特別養成校舎の生徒だ。4人で普通のチーム以上の成果を出さないと認められないよな)」
ラウラがふっと息を吐き、言葉を続けた。
「そうなの。だから、なかなか難しいわねって話をしていたのだけど……」
ジュリーが突然、両手を広げて満面の笑みを浮かべる。
「見つけちゃったの! 学校中に認められる方法を!」
指揮官の眉がわずかに上がった。
「……ふむ、いいだろう。聞かせてくれ」
ジュリーは深呼吸して、まるで舞台の幕が上がる瞬間のように声を張り上げた。
「題して! ザルトゥーム学園七不思議を解き明かせ!」ノエルが即座に手を叩き、楽しげに囃し立てる。
「ぱちぱちぱちぱちぱちー!」
教室に、小さな拍手が響いた。
「ふっふっふ、これに目を付けたときには感動しちゃったわ!もしも、この噂が本当で見つけたら……これは学園中でも噂になるし、特別な実績として認められるわ!」
ジュリーの声が教室に響き渡り、彼女の瞳は期待にきらめいていた。
ノエルがにこにこしながら手を振り上げる。
「そうそう! 誰も知らないMGを見つけるなんて、大発見だもん!」
ラウラは少し不安げに身を寄せ合いながらも、頷いた。
「七不思議って、ちょっと怖い噂もあるけど……でも、皆のためだから頑張れるわよね!」
指揮官は腕を組み、静かに呟く。
「………七不思議なぁ」
心香が指揮官の表情を窺い、口を開いた。
「微妙そうな反応ね?……確かに七不思議に頼るって聞くと反応も分かるけど」
ジュリーは慌てて手を振る。
「でも、昔は噂だった筈のMGが実在したこともあるわ!これはもう、あたし達に見つけてくれって言ってるようなものよ!」
指揮官は軽く肩をすくめ、からかうように言葉を並べた。
「……な、成る程な。とはいえ、一応どんな噂か想像出来るぞ。例えば女子トイレに花子さんが出てきたりとか」
ジュリーが即座に突っ込む。
「小学校の七不思議ね!」
「ホッケーマスク被ってチェーンソー振り回す男が現れるとか」
ノエルが目を丸くして手を叩く。
「それ十三日の金曜日のジェイソンだよ!」
「……井戸から女性がやってきて画面から出てきたりとか」
ラウラの顔が一瞬で青ざめ、悲鳴が教室に響いた。
「ひぃいいいいい……!」
指揮官が振り返る。
「ラウラ?」
ラウラは体を震わせ、目をぎゅっと閉じていた。
「こ、怖い話はダメなのぉ…!」
ジュリーが指揮官を睨みつける。
「もう、ダメよ! そんな話をしたら!それに幽霊を見つけても実績にならないじゃない!」
心香が冷静に訂正を入れる。
「いや、『リング』の貞子は幽霊というか怨霊ね」
ラウラの悲鳴が再び爆発した。
「お、怨霊!? いやあああああああああ!!!」
その時、教室の扉が静かに開く音がした。
「あらあら? 何か興味深い話してますわね」
ドロテア・カークランドの優雅な声が、場を切り裂くように響く。
彼女の後ろには、ピクシス・マスールの面々がずらりと並んでいた。
指揮官が驚いて立ち上がる。
「ドロテア!?何でここに…それにピクシス・マスール全員まで」
ハリエット・ミルズが不機嫌そうに腕を組む。
「ドロテア様の命令で悪徳指揮官の行動を監視しながら盾になれと」
ミリアム・ヘイワードが拳を握りしめ、意気込む。
「ボクがきたからには七不思議なんて吹っ飛ばしてやるよ!」
ケイト・フルニエは少し怯えながらも、健気に頷く。
「お化けは怖いけど…ドロテア様のためなら頑張れます」
リュシー・ムーアクロフトが舌打ちをし、苛立たしげに言った。
「チッ…お嬢の命令でここに来ただけだ。で?さっきから聞いてればザルトゥーム学園七不思議とやら出たか」
心香の目が見開かれる。
「!――ユーロ・タワーの…何でこの特別養成校舎に?」
ドロテアは優雅に扇を広げ、微笑んだ。
「視察ですの。まず、この学園に昔、使われていた研究所がありますわ。何やらメイズ適性を向上させるために人体実験を行い強化人間を作成していた…」
ラウラの声が震える。
「人体実験…? 強化人間……?」
ノエルが首を傾げる。
「作り話だよね?」
心香が静かに首を振った。
「いや、彼女の言葉は嘘偽りはないわ…」
ジュリーが息を呑む。
「え?」
ハリエットが言葉を継ぐ。
「他にはメイズでしか採取出来ないはずのタツミヤ鉱が採掘出来る鉱山があるとか…?」
指揮官の眉が寄る。
「何で知ってるんだ……?」
ドロテアは当然のように答えた。
「ノヴァセレスの情報網ですわ」
指揮官は思わず呟く。
「いや、これスパイ映画だろ。普通にこえーよ」
ジュリーが興奮気味に口を挟む。
「あたしが聞いたのは、誰も乗っていないのに動き出すMGの噂だけど……」
指揮官は皆の顔を見回し、決意を込めて言った。
「…で?とりあえず色々と気になるからな。教えてくれ」
ジュリーが得意げに胸を張る。
「ふっふっふ…それは…!」
だが、ドロテアが先に口を開いた。
「ガレムグラード山脈の雪山に眠るMGですわ」
ジュリーが慌てふためく。
「あー!あたしの台詞―!」
ハリエットが冷ややかに笑う。
「探しに行くのですか? 無理に決まってるでしょ。第一、特別養成校舎の生徒だけで雪山に登るのは自殺しに行くようなモンです」
指揮官は内心で頷く。
「(辛辣な言い方だな…)」
ジュリーの肩が落ちる。
「それは…わかってるけど…」
彼女の視線が、リュシーに注がれた。
リュシーが怪訝な顔をする。
「あ?」
ジュリーは勇気を振り絞って頼み込む。
「あたし達と一緒に雪山に登って貰えないでしょうか?」
リュシーが鼻で笑う。
「何だと?あたしを頼ってガレムグラードに登ろうってか?」
ノエルが目を輝かせる。
「登ってくれるよね?」
リュシーの声が低くなる。
「……冗談は顔だけにしてくれよ。てめえらなんぞ山登りしてらんねえよ!」
ジュリーの顔が曇る。
「!」
ノエルが拗ねる。
「えー? 一緒に登らないの?」
リュシーが吐き捨てる。
「てめえらなんか、アウト・オブ・眼中!頼まれたって一緒に登りはしねえよ」
心香が静かに頷く。
「……まあ模範的な回答ね。口は悪いけど」
ドロテアの声が鋭く響いた。
「いや、一緒に行きなさい」
リュシーが抗議する。
「ですが…!」
「気を抜かないで。シミュレーション3で行きなさい」
リュシーの目が見開かれる。
「え? こんな奴等にシミュレーション3!? 正気ですか! お嬢!」
ドロテアは静かに、しかし確信を持って言った。
「当然です。あの方々は雪のガレムグラード山脈の頂上に辿り着ける…私はそう確信しています」
リュシーが深く息を吐き、覚悟を決めた。
「承知しました…――オラ! さっさと山登りに行く準備始めろ!」
ラウラがびくりと飛び上がる。
「ひっ! あ、はい!」
ジュリーが飛び跳ねる。
「やったー!」
ノエルがリュシーに駆け寄る。
「一緒に登ろう!」
リュシーがため息をつき、ぶつぶつ呟く。
「…ったく、しゃあない。モンベルのトレッキングシューズでも履くか」
指揮官は皆の様子を見て、苦笑しながら言った。
「すまん、みんなの命をくれ」
ケイトが首を傾げ、小さく突っ込む。
「その台詞…使う場面が違うような気が」