マブラヴガールズガーデン ドロテア・カークランドの雪山の流儀 作:マブラマ
雪が静かに降り積もるガレムグラード山脈の麓。
白く息を吐きながら、俺たちはようやく一行揃って雪道に足を踏み入れた。
特別養成校舎の教室から始まった話が、こうして現実の雪山へと繋がったのだ。
指揮官は周囲を見回し、静かに口を開く。
「いよいよだな」
ジュリーが拳を握りしめ、目を輝かせて叫んだ。
「いよいよ! 学園七不思議のひとつ『雪山に眠るMG』を探しに行くわよ!」
ノエルが両手を挙げて、元気いっぱいに応じる。
「おー! 絶対に見つけようね!」
指揮官は苦笑しながら、彼女たちの勢いに小さく頷いた。
「やる気満々だな」
ケイトが控えめに、しかし感心したように呟く。
「本気度高いですね」
ハリエットが肩をすくめて、からかうように付け加えた。
「やる気だけ満々―!!みたいな」
ラウラが頰を膨らませ、熱っぽく反論する。
「だって、正式なチームに昇格出来るかもしれないもの!」
ジュリーが胸を張り、得意げに自分のコートを広げて見せた。
「そうそう! それにほら見て! しっかり温かい格好にしてきたわよ」
ノエルもくるりと回って、もこもこのフードを揺らす。
「もこもこふわふわ、全然寒くないよー!」
心香は冷静に頷きながら、指揮官の方をちらりと見た。
「指揮官に教わった通りに用意もしたし、これで準備は万全ね」
リュシーが突然、鋭い視線をラウラに向けた。
「待て! 一人だけ相応しくない格好してる奴がいる」
ジュリーがきょとんとする。
「え?」
心香が眉を寄せる。
「私達は準備は万全よ。相応しくない格好って」
ラウラが小さく身をすくめた。
「え?」
リュシーは容赦なく指を突きつける。
「てめえだよ! 黒森ラウラ」
ラウラがびくっと肩を震わせた。
「ひゃっ! な、何を言って…」
ドロテアが静かに手を挙げ、リュシーを制した。
「リュシー、下がりなさい」
リュシーが素直に一歩下がる。
「は、はい…」
ドロテアは優雅にラウラの方へ視線を移し、穏やかに尋ねた。
「それはあなたの服装ですの?」
ラウラは少し縮こまりながら、こくりと頷く。
「あ、はい。ドロテア様」
ドロテアはしばらくラウラの姿を眺め、静かに言った。
「……ふむ、なるほど。一つ、あなたに教えて差し上げます。この服装で雪山登りに行くのはダメですわ。雪山を極めたいのならもっと暖かい服装を着た方がいいですわ」
ラウラが困惑した顔で首を傾げる。
「山登りに行く格好ってこれじゃなかったの?」
ドロテアの唇に、わずかな微笑みが浮かんだ。
「納得がいかないなら、そのまま登れば良いですわ。その格好で登れば今まで気が付かなかった事が見えてくるはずですわ」
ラウラは言葉を失い、ただじっとドロテアを見つめた。
ドロテアは静かに続ける。
「はじめに言っておきますが、わたくしはラウラさんの格好は『雪山登りにいく女子』とは思っていません。絶対的な寒さを追及するとはどういうことなのか…それをあなたに教えて差し上げます」
ラウラが戸惑う。
「?」
ドロテアの声に、確信が宿った。
「これはセミナーですわ」
指揮官は内心で苦笑する。
「(説得ある言葉だけど、まるで塾の講師みたいだな)」
ドロテアは話題を変え、優雅に手を広げた。
「それとログハウスも確保しておきましたわ。皆様に素敵な環境で泊まれるところを用意しましたわ」
ジュリーの目が丸くなる。
「え!? ログハウス!? 泊まれるの!?」
ノエルが飛び跳ねるように喜んだ。
「うそ!? 私、てっきりテントで雪の中、寝泊まりするんだと思ってた!」
リュシーがにやりと笑う。
「ほぅ、だったらやって貰おうか? モンベルのキャンプ用具、万が一のために持ってきたんだが貸してやるよ」
指揮官が思わず突っ込む。
「流石にそれだと体力は続かんだろ…というかキャンプ用具持ってきたのか!」
ドロテアは涼しい顔で答えた。
「リュシーの所有してるモノですから使いたかったら外でキャンプするなり何でも良いですわ」
リュシーが肩をすくめる。
「他の宿泊客だっていねえんだ。所謂貸し切り状態さ」
ラウラが感嘆の声を漏らした。
「ドロテア様って凄いのね…ログハウスを持ってるなんて」
ドロテアは当然のように微笑む。「このぐらい他愛もないですわ」
指揮官は心の中で呟く。
「(流石ノヴァセレスの貴族嬢…スケールが全然違う)」
ジュリーが拳を握りしめ、燃えるような目で宣言した。
「あたしもいつか、、ログハウスが持てるような社長になるわ……!」
ハリエットが冷ややかに返す。
「やれるものならやってみろ」
ジュリーが即座に食ってかかる。
「言ったわね!絶対になってやるんだから!」
心香が冷静に話を戻した。
「それで、いつから出発するの?山は日が沈むのも早いし、ログハウスは近いのかしら?」
ドロテアが頷く。
「そうですわね…では皆様、出発致しましょう。ハリエットとケイトは別行動でお願いね」
ハリエットがきびきびと応じる。
「承知しました」
ケイトも小さく頷いた。
「はい、頑張ります」
リュシーが先頭に立ち、声を張り上げる。
「はぐれないようについて来な!」
ジュリーが元気よく返事する。
「はーい!」
指揮官は一行の様子を眺めながら思う。
「(まだ道もなだらかだし、ひとまずログハウスまでの案内は、リュシーに任せて大丈夫そうだな)」
ジュリーがスキップするように歩きながら歌う。
「ふっふーん! ログハウスでおっとまりおっとまり!」
ノエルがすぐに真似をする。
「おっとまりおっとまりだー♪」
ドロテアの声が、静かに、しかし重く響いた。
「喜ぶのはまだ早いですわ。この先は極めて困難。雪山を極めるには相当の覚悟を持たないといけませんわよ。皆さん、先程申し上げました通り、絶対的な寒さを追及するとはどういうことなのか…それをあなたに教えて差し上げます。―――これはセミナーですわ!」
ジュリーが拳を振り上げて叫ぶ。
「よーし、MGを見つけたら、みんなで普通の山でピクニック行きましょう!」
ミリアムが目を輝かせる。
「ボクも行きたーい!」
ドロテアが優しく微笑んだ。
「いいですわね。わたくしもいつか行きたいですわ」
ノエルが飛び跳ねる。
「わーい! やったー!」
ジュリーが約束する。
「絶対に声を掛けるから楽しみにしてるわね!」
指揮官が静かに釘を刺す。
「先のことを考えるのは良いんだが、目的を忘れたらダメだぞ?この雪山でMGを探さないといけないんだからな」
心香が頷く。
「ええ、そうね。……しかし、こうして登山をするなんて久々ね」
リュシーが興味深げに尋ねる。
「登山経験あるのか?」心香は穏やかに答えた。
「ええ、あくまでも陸上の体力トレーニングで、普通の山を使ったトレーニングだったけども…」
ドロテアの目が一瞬、鋭く光る。
「それは素晴らしい事ですわ。本当に痺れてきましたわ…!」
ジュリーが少し恥ずかしそうに笑う。
「それでも凄いわ! あたしなんて山登りなんてあんまりした事ないし!」
リュシーが呆れたように返す。
「それを胸張って言う台詞じゃねーだろ…」
ドロテアは静かに、しかし力強く語り始めた。
「何がともあれ、理由なければ山登りしようなんて思いませんわね。わたくしは山を極め、どこまで進み、頂上まで登れるか。この試練は決して簡単なモノではない。まさに真のトレーニングですわ」
ジュリーが目を輝かせる。
「うん! だから、これが初体験なの! うー! ワクワクするわ! もう、このまま走りたいくらい!」
リュシーが慌てて止める。
「勝手に走るな! 危ねえだろうが……」
ドロテアが冷ややかに言う。
「怪我したいのであれば走っても構いませんわ」
リュシーがため息をつく。
「それに急にペース上げたら疲労感が増してくるぞ。ハイパワーターボ+4WDのクルマじゃあるまいし」
ミリアムが元気よく補足した。
「登山はガチョウ足行進で歩くんだよ!」
リュシーが頷く。
「足並みを揃えて歩くんだよ」
ドロテアの声が優しく、しかし厳しく響く。
「登山とは団体競技――――フリーフォーゲルですわ。時には仲間の荷物を肩代わりしたり、遅れた方に速度を合わせますのよ」
リュシーが付け加える。
「遊びじゃねえんだぞ? それほど厳しいって事だ」
ノエルが目を丸くする。
「へえ、そうなんだ……なんだかチーム戦みたいだね!」
心香が静かに頷いた。
「聞いた話だと登山ではお互いに声を掛けて、しっかりとした連携を必要とするらしいわ」
ドロテアが満足げに微笑む。
「その通り。わたくしはこれまで数々の雪山を登ってきましたが、一番厳しかったのはエベレスト山ですわ」
リュシーが誇らしげに言う。
「ドロテア様はな。マッキンリー登って無事生還したんだぞ!これらの経緯であたし達のチームは連携を強化しているんだ」
ラウラが目を輝かせる。
「だったら、正式チームとの戦いにも活かせそうね♪」
ドロテアは優雅に扇を広げ、笑った。
「ふふふ、これぞ『ドロテア・カークランドの雪山の流儀』ですわ!如何にも命を賭けて最後まで登り切れるのか?ですわ」
リュシーがにやりと笑う。
「ま、アンタらにはまだまだ勝てねえってわけさ」
ドロテアは穏やかに、しかし確信を持って言った。
「あなたがたプレ・クラス-Aの成長を考慮すれば、何れわたくし達ピクシス・マスールと渡り合える日は必ず来ます」
ジュリーが頰を赤らめ、力強く宣言する。
「えへへ…ありがとう!ドロテア様!よーし、絶対に勝ってみせるぞー!」
リュシーが呆れたように突っ込む。
「おいおい、MG探すんじゃなかったのか?」
心香が苦笑する。
「そっちも大事だけどまずは雪山の方よ」
ジュリーが慌てて訂正した。
「あ、そ、そうだったわね……!」
ドロテアが前方を見据え、静かに言った。
「そろそろ見えてきましたわ。『カークランドハウス』が」
リュシーが声を張り上げる。
「よーし、お前ら。もうすぐだ! 頑張れよ!」
ジュリーが元気いっぱいに返す。
「もう到着なの!?まだまだあたし、元気いっぱいよ!」
ノエルも負けじと叫ぶ。
「私も私もー! まだまだ登れるよー!」
リュシーがからかうように笑った。
「へー、だったら4合目まではいけるな?簡素なログハウスだが」
ドロテアが優しくたしなめる。
「意地悪はいけませんよ」
リュシーが素直に謝る。
「あ、申し訳ありません」
ドロテアは皆を見回し、穏やかに告げた。
「皆様方、今日はこのログハウスの中で休んで明日に備えて改めて登りましょう」
ジュリーが明るく応じる。
「わかったわ!」
ノエルも元気に。
「はーい!」
ラウラは肩で息をしながら、しかし笑顔で言った。
「はぁ、はぁ……うう、やっぱり皆元気よね……私は結構疲れちゃったけど」
リュシーが容赦なく突っ込む。
「お前が体力なさ過ぎだけだろ」
ラウラは深呼吸して、決意を新たにする。
「…ふぅ、大丈夫! 皆と一緒に登りたいもの! 私だけ、足を引っ張るわけにはいかないわ!」
ドロテアが優しく、しかしきっぱりと言った。
「無理は禁物ですわよ。何かあればすぐご報告を……分かりましたわね?」
ノエルが元気よく答える。
「はーい!」
心香は静かに二人を見つめ、内心で呟いた。
「(ドロテアさんとリュシーさん…一瞬、須藤京一と岩城清次に見えたわ)」
リュシーがログハウスの扉を見据え、満足げに言った。
「無事到着したな」ドロテアは優雅に微笑み、皆を招き入れる。
「ええ、さあ、中に入ってくださいまし」