マブラヴガールズガーデン ドロテア・カークランドの雪山の流儀   作:マブラマ

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第3話 ジュリー・ステイシー探検隊

ログハウスの重厚な扉を開けると、暖かな空気がふわりと体を包み込んだ。

外の厳しい冷気が嘘のように、室内は柔らかな灯りと薪の香りに満ちていた。

ドロテアが優雅に一歩踏み出し、皆を招き入れる。

「さあ、皆様疲れましたでしょう。荷物を下ろして下さい」

ジュリーが大きく息を吸い込み、目を輝かせて叫んだ。

「ふわあ……! す、すっごい!」

ノエルは玄関で立ち止まり、きょろきょろと周囲を見回しながら興奮を抑えきれない様子だった。

「何ここ、何ここ!? これがログハウス?」

ラウラがくすりと笑いながら、二人に尋ねる。

「ジュリーちゃんもノエルちゃんも、もしかして、ログハウス知らなかった?」

ジュリーが慌てて手を振った。

「さ、さすがに知ってるけど! なんかもっと小屋っぽい感じかと思ってたわ!」

心香はゆっくりと室内を見渡し、感嘆の息を漏らす。

「確かに、ログハウスの中でもかなり豪華な造りね……」

ドロテアは扇を軽く広げ、穏やかに説明した。

「このログハウスはベルクホーフを基に設計し建てられましたわ。曰く付きの山荘ですの」

ジュリーが指を差して、大きな暖炉に飛びつくように近づいた。

「ねえ、みんな見て! あれってお金持ちの家にあるって噂の暖炉じゃないかしら!?」

ドロテアは当然のように頷く。

「防寒対策も万全ですわよ。これくらい大したことないですわ」

ジュリーの声がさらに弾んだ。

「すごいすごい! ホテルみたい!」

リュシーが肩をすくめ、そっけなく言った。

「そうか? 何処にでもある普通の山荘だぞ」

ノエルは暖炉の前にしゃがみ込み、頰を赤らめながら呟く。

「それに、すっごくあったかいね……! うう、このままこのログハウスでぐっすり寝ちゃいたいかも……」

ドロテアが優しく微笑み、室内の奥を指し示した。

「ふふ、気に入ってくれて良かったですわ。あちらにはサウナが、料理がしたければ調理場がありますよ」

リュシーが淡々と付け加える。

「他に大広間に大ホール、一つの壁の裏には映画の投影用ブースがあるからな」

指揮官は室内の豪奢な造りを見上げ、内心で呟いた。

「(うわ、これまんまヒトラーが使っていた山荘を再現しているな…)」

心香が静かに周囲を眺め、ぽつりと漏らす。

「……なんだか、住む世界が違うって感じね」

ジュリーは拳を握りしめ、燃えるような瞳で宣言した。

「いつかあたしも、こんな風な家を作ってみたいわ!」

リュシーが即座に突っ込む。

「そこは別荘だろ」

ドロテアは扇で口元を隠し、くすりと笑った。

「独裁者の一人、アドルフ・ヒトラーが使用していた山荘を建てるのは苦難の技ですわよ?」

ジュリーはまったく動じず、むしろ目を輝かせる。

「こんな別荘を持てるような社長になってみせるわ!」

ラウラは頰を緩め、夢見心地に呟いた。

「雪山に来たから、とっても大変だと思ったけど……まるで豪華な旅行に来ちゃったみたいね♪」

ドロテアが静かに頷く。

「このログハウスを拠点になれば、難易度は低くなりますわよ」

指揮官は皆の様子を眺め、ドロテアに向かって頭を下げた。

「こんな豪華なログハウスを貸してくれてありがとうな。明日からの探索もよろしく頼む」

リュシーが腕を組み、窓の外に視線を向ける。

「任せときな。そろそろハリエット達がここに来る頃だな…」

暖炉の火がぱちぱちと音を立て、ログハウスの中に穏やかな灯りが揺れていた。

外では雪が静かに降り続き、明日への静かな予感を運んでくるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ガレムグラード山脈の雪深い林道を、白い疾風が切り裂いていた。

ランサーエボリューションⅢのエンジンが低く咆哮を上げ、雪煙を高く巻き上げながら、急勾配の道を駆け上がっていく。

ヘッドライトの光が、降りしきる雪を鋭く照らし出し、前方の闇を切り取っていた。

ハリエットはハンドルを握りしめ、アクセルをさらに踏み込む。

シートに深く沈み込んだ体が、Gの圧力に耐えながらも、表情は余裕そのものだった。

「ドロテア様のコレクションの一つ、ランサーエボリューションⅢを借りて正解でした」

助手席のケイトは、シートベルトを握りしめながら、窓の外を流れる雪景色に目を細める。

車体が軽く横滑りするたびに、小さく息を呑んだ。

「でも、何でランエボなんですか?」

ハリエットは口の端をわずかに上げ、短く笑った。

「ハイパワーターボ+4WD。この雪原の道であらずんば、クルマにあらずです」

エンジンの咆哮が一瞬大きくなり、次のコーナーで車体がインを食いながら完璧に曲がる。

四輪が雪を噛み、トラクションを失うことなく加速していく。

ケイトはシートに押しつけられながら、声を震わせて言った。

「……少し速くないですか」

ハリエットは前方を睨みつけ、アクセルをさらに開いた。

「こんなの序章ですよ」

ダッシュボードのメーターが赤いゾーンに近づき、回転数が唸りを上げる。

雪の粒子がフロントガラスに叩きつけられ、ワイパーが忙しなく動き回る中、ハリエットは静かに、しかし確信を持って呟いた。

「ドロテア様が待っている。遅れるわけにはいきませんからね」

ケイトは小さく頷き、両手を膝の上で固く握りしめた。

「…はい。頑張ります」

ランエボⅢのテールランプが赤く光り、雪煙を残しながら、夜の山道をさらに深く駆け抜けていく。

カークランドハウスの灯りが、遠くにぼんやりと浮かび始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランエボⅢのエンジン音がようやく静まり、雪に覆われたガレージのシャッターがゆっくりと閉じていく。

車内の灯りが消え、暗闇の中に残るのは、わずかに残った排気ガスの匂いと、金属が冷えていく微かな音だけだった。

ハリエットはシートベルトを外し、静かにドアを開ける。

冷気が一気に流れ込んできたが、彼女の表情は変わらない。

ケイトもおずおずと降り立ち、辺りを見回した。広大なガレージは、予想以上に深かった。

15台は余裕で収納できるスペースに、整然と並ぶシルエット。

ランサーエボリューションⅠからⅩ、そしてファイナルエディションまで――それぞれが埃一つなく磨き上げられ、暗闇の中で鈍く光を反射している。

まるで眠る獣の群れのように、静かに、しかし圧倒的な存在感を放っていた。

奥の壁に、目立たないように設けられた隠し扉。

カークランドハウスへと直結する秘密の通路だ。

ハリエットは鍵をかけ、振り返ってケイトに小さく微笑んだ。

「悪徳指揮官達には内緒ですよ。バレたら『狡い』と一蹴されますから」

ケイトは慌てて頷き、声を潜めて答える。

「う、うん、わかった……」

二人は足音を忍ばせて隠し扉に近づく。

ハリエットが壁の隠しスイッチを軽く押すと、静かに扉がスライドし、暖かな灯りが漏れ出した。

カークランドハウスの大広間へと続く通路が、そこに現れる。

ケイトは背後のガレージをもう一度振り返り、息を呑んだ。

並ぶエボリューションたちの列が、まるでドロテアのもう一つの顔を象徴しているようだった。

ハリエットはケイトの肩を軽く叩き、穏やかに言った。

「行きましょう。ドロテア様が待っています」

ケイトはこくりと頷き、二人は隠し扉を抜けて、暖炉の灯りが揺れるカークランドハウスへと足を踏み入れた。

背後で、扉が音もなく閉じる。

雪山の夜は、再び静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カークランドハウスの大広間は、暖炉の炎がゆらゆらと壁に長い影を落とし、木の温もりが満ちていた。

薪の爆ぜる音が静かに響く中、ジュリーが両手を広げて大きく息を吸い込んだ。

「んー! ひっろーい! のびのびできるわね! 木のいい匂いがする!」

彼女はくるりと回り、床に積まれたラグの柔らかさを確かめるように足を踏み鳴らした。ノエルは目を輝かせ、ドロテアの方を振り返る。

「ねえねえ、ドロテア様! ログハウスの中、探検していい?」

ドロテアは優雅に扇を閉じ、穏やかに頷いた。

「ええ、構いませんわ」

ノエルが即座に飛び跳ねる。

「よーし、それじゃしゅっぱーつ!」

ジュリーが慌てて後を追う。

「あ、あたしもあたしもー!」

二人の足音が廊下の奥へと遠ざかっていくのを、ドロテアはくすりと笑って見送った。

「元気でいいこと」

心香は荷物を肩から下ろしながら、静かに尋ねた。

「ええっと、部屋割りは決まってるのかしら? 荷物を下ろしたいのだけども」

ラウラも少し疲れた様子で、そっと頰を押さえる。

「あ、私もお部屋でちょっと休んでいいかな?」

ドロテアが優しく微笑んだ。

「勿論ですわ」

その時、ミリアムが元気よく手を挙げた。

「ボクが案内するよ! ついてきて」

ラウラがほっとしたように頷く。

「ありがとうね、ミリアムちゃん。心香ちゃん、荷物は持たなくていい?」

心香は軽く首を振り、荷物を自分で抱え直した。

「そこまで気遣わなくても大丈夫よ」

ミリアムは二人を先導し、階段の方へ歩き出す。

心香とラウラの足音が重なり、徐々に遠ざかっていった。

残された広間には、指揮官、ドロテア、リュシーの三人が静かに佇む。

暖炉の火がぱちぱちと音を立てる中、リュシーが腕を組み、低い声で言った。

「さあ、こっからが本格的な雪山登山だ。……油断はするなよ?」

その言葉に、広間の空気がわずかに引き締まる。

外では風が窓を叩き、雪が静かに降り積もっていた。

明日の朝、ガレムグラード山脈の本当の試練が待っていることを、誰もが無言で感じていた。

隠し扉が静かに閉まる音がした直後、大広間の暖炉の前に立つドロテアが、わずかに首を傾げた。

「ふふ、ちょうど良いタイミングですわね」

扉の奥から、ハリエットとケイトが姿を現す。

二人は雪を払い落としたコートを脱ぎ、頰を少し赤らめながら広間に足を踏み入れた。

ハリエットが軽く頭を下げ、報告するように言った。

「ドロテア様、お待たせいたしました。無事に到着しました」

ケイトは少し息を弾ませながら、控えめに微笑む。

「道中、雪が強くなってきましたけど……ランエボのおかげで大丈夫でした」

ドロテアは優雅に扇を広げ、二人の姿を眺めて満足げに頷いた。

「ご苦労様ですわ。さあ、皆様もお腹が空いておられるでしょう?」

リュシーが腕を組み、にやりと笑う。

「ちょうどいい。腹が減っては戦はできねえってな」

指揮官は暖炉のそばのソファに腰を下ろし、軽く手を挙げた。

「悪いな、わざわざ」

ハリエットはコートのポケットから小さなメモを取り出し、キッチンの方へ視線を向ける。「食材は事前に運び込んであります。今日は私がメインで作ります」ケイトが慌てて付け加える。

「私もお手伝いします! 簡単なものなら……」

ドロテアが優しく手を振った。

「ええ、二人ともどうぞ。皆様を満足させるお料理を、存分に振る舞ってくださいまし」キッチンからはすぐに、鍋の蓋を開ける音や、野菜を切るリズミカルな音が響き始めた。しばらくして、甘い香りと共に、ハリエットが大きなトレイを抱えて戻ってきた。

トレイの上には、熱々のシチュー、香ばしく焼かれたパン、彩り豊かなサラダ、そして雪山の寒さを吹き飛ばすような温かいスープが並んでいる。

ハリエットがトレイをテーブルに置き、静かに言った。

「メインはビーフシチューです。赤ワインをたっぷり入れて煮込んであります。どうぞ、召し上がれ」

ケイトが小さなボウルを持って続き、頰を赤らめながら配り始めた。

「こっちはクリームスープです……温かいうちに食べてくださいね」

ジュリーが目を輝かせてテーブルに飛びつく。

「わあ! めっちゃ美味しそう! ハリエットさん、ケイトちゃん、ありがとうー!」

ノエルがスプーンを握りしめ、興奮気味に叫ぶ。

「私、もう我慢できない! いただきまーす!」

ラウラはスープを一口飲んで、目を細めた。

「はぁ……体が芯から温まる……」

心香は静かにフォークを手に取り、シチューを口に運ぶ。

「……本格的ね。ワインの風味がしっかり効いてるわ」

リュシーは大口でパンをかじり、満足げに頷く。

「悪くねえな。腹が満たされりゃ、明日の山も怖くねえ」

ミリアムがシチューを頰張りながら、元気いっぱいに言った。

「ボク、こんな美味しいシチュー初めてかも! ハリィちゃん天才!」

指揮官はゆっくりとスープを味わい、ドロテアに向かって小さく笑った。

「本当に助かるよ。こんな豪華な夕食じゃ、明日の探索も気合いが入るな」

ドロテアは優雅にワイングラスを傾け、微笑んだ。

「ふふ、皆様が元気に登ってくださるなら、これくらいのことは何でもありませんわ」

暖炉の火がぱちぱちと音を立て、テーブルを囲む笑い声がログハウスに満ちていく。

外では雪が静かに降り続き、ガレムグラード山脈の夜は深まっていた。

しかし今、この瞬間だけは、厳しい雪山の試練を前にした仲間たちが、温かな食事と笑顔で絆を深めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暖炉の火が静かに揺れるカークランドハウスの大広間。

夕食の皿が片付けられ、テーブルには地図とメモが広げられていた。

皆が自然と輪になり、ジュリーを中心に明日の作戦会議が始まろうとしていた。

指揮官はソファの背に体を預け、内心でため息をつく。

「(まあ、細かい部分は俺がサポートすればいいとして………実際、存在するかも分からないMGの捜索となれば難しいぞ)」

それでも、皆の顔を見回して穏やかに口を開いた。

「さて、それじゃあ今回の捜索について教えて貰おうか」

ジュリーが勢いよく立ち上がり、胸を張る。

「ええ、分かったわ! 任せておいて! この日のために、リーダーの心得も読んできたんだから!」

ノエルが手を叩いて目を輝かせた。

「おお~!さすがジュリーちゃん!」

リュシーが腕を組み、にやりと笑う。

「それは心強いな。んじゃ、お手並み拝見させて貰おうか?」

ドロテアが優雅に扇を広げ、静かに付け加えた。

「出来れば雪山登山マニュアルを読んで下さい」

ラウラが控えめに手を挙げた。

「そっちは私も一通り見てるから、フォローできるといいな」

ドロテアはリュシーに視線を移す。

「リュシー、シミュレーション3ですわよ」

リュシーが短く頷く。

「承知しました」

ドロテアが穏やかに促した。

「では、まずジュリーさんの話をお聞かせ願いますか?」

ジュリーは深呼吸して、目を輝かせながら説明を始めた。

「ええ! 今回あたしたちが探すのはザルトゥーム学園七不思議のひとつ! 雪山に廃棄された伝説のMGよ! 実戦に使われた後に回収できずに雪山に埋もれているらしいわ!」ドロテアは静かに頷き、確認するように言った。

「……あなたがたプレ・クラス-Aが発見できれば、特別な実績として認められる―――そう思ってるのですね?」

ジュリーが驚いて目を丸くする。

「何でわかったの!?」

リュシーが口の端を上げた。

「悪くないな。だが、実際にどう動くにしても、目的を明確にしているのは悪くないな」ジュリーは地図を指差しながら、計画を続ける。

「まず、心香はログハウスで通信役ね!全員で行きたいところだけど……誰かはここで待ってて貰わないと危ないものね!」

心香が静かに頷く。

「ちゃんと事前に相談して納得済みよ。まあ、ここで休んでるだけにはしないつもり」リュシーが棚から古びた無線機を取り出し、テーブルに置いた。

「ナチスドイツが使っていた通信機器がある。アンティークものだが、まだ使える」

ノエルが目を輝かせる。

「わー! すごいすごい! でも、スマートデバイスじゃダメなの?」

心香が冷静に説明した。

「今はなんとか繋がっているけど、これ以上山奥に進めば、おそらく……」

ジュリーが頷き、心香に視線を向ける。

「ええ、だからこそ心香に頼みたいの!定期的に通信しながら、情報共有をして頼むわ!」

ノエルが興奮気味に手を振る。

「探検家っぽい!」

ジュリーが勢いよく宣言した。

「そう、我々は探検家!名付けて―――ええっと、何がいい?」

リュシーがため息をつきながら、ミリアムに振る。

「事前に決めとけよ…んー、そうだな~…ミリアム」

ミリアムが慌ててケイトにパス。

「え? 思いつかないよ。ケイ」

ケイトがハリエットを見る。

「ハリィちゃん!」

ハリエットが即答した。

「『エンペラー探索隊』」

ジュリーが首を振る。

「まるで走り屋チームみたいね!…って違う!」

ハリエットが次を提案。

「『藤岡弘、探検隊』とか」

ジュリーが苦笑する。

「本格的だけど何か違うよ!」

指揮官が静かに口を挟んだ。

「『ジュリー・ステイシー探検隊』でどうだ?」

ジュリーの顔がぱっと明るくなる。

「それ、すっごくリーダーっぽい!」

ハリエットが冷静に突っ込む。

「意味は同じでしょう?」

指揮官が即座に返す。

「同じじゃないよ!」

ドロテアが優雅に微笑んだ。

「リーダーらしく威厳があっていいチーム名ですこと。皆様は異論ありませんね?」

指揮官が肩をすくめる。

「異論はないぞ」

ノエルが手を挙げ、ラウラも笑顔で頷く。

「うん! 私も賛成!」

「ふふ、ジュリーちゃんらしい良い名前だと思うわ♪」

ドロテアが皆を見回し、静かに言った。

「今回の主役はわたくし達ではありません。プレ・クラス-Aの皆様ですもの」

心香が小さくため息をつく。

「……まあ、いいんじゃないかしら?」

ハリエット、ケイト、ミリアム、リュシーが次々に同意する。

ドロテアが扇を閉じた。

「決まりですわね」

ジュリーが両手を挙げて叫ぶ。

「それじゃあ、ジュリー・ステイシー探検隊にけってーい!」

心香が地図に視線を落としながら、付け加えた。

「一応、通信がない間にこっちでも近くを散策して、何かMGが見つかるヒントになるものがないか探しておくわね」

ジュリーが心配そうに言う。

「ありがとう、心香! でも、絶対に無理はしないようにね!」

心香は静かに微笑んだ。

「ええ、分かってるわ。足のせいで、あまり力になれなくてごめんなさい」

ノエルが明るく励ます。

「大丈夫だよ! いつも心香ちゃんには助けて貰ってるからね!…で、私達は雪山でどうすればいいのー?」

ジュリーが拳を握りしめる。

「んー……とにかく進め! 手ぶらで帰るなが目標よ!」

ノエルが納得したように頷く。

「なるほど! とにかく進め! 分かりやすいね!」

ハリエットが冷静に釘を刺す。

「深追いし過ぎると迷子になってしまいますよ。まあ、MGのところまで辿り着けるか分からないですよ」

ケイトが慌てて止める。

「ハリィちゃん、それ言っちゃダメだよ」

ノエルは笑って手を振った。

「大丈夫だよ!そこまで突っ走らないからー!」

リュシーがラウラをちらりと見て、からかう。

「問題は、ラウラが迷子になるか?だ」

ラウラが肩をすくめて震える。

「うう…不安…」

リュシーがさらに突っつく。

「どうした? 怖じ気付いてしまったのか?」

ラウラは深呼吸して、決意を込めて言った。

「…ううん、私、何がなんでもジュリーちゃんについて行くわ!」

ジュリーが皆の手を握るように広げた。

「ええ、あたし達は団体行動よ! 皆で一緒に行きましょ!」

ラウラが地図を指差しながら、疑問を投げかける。

「それで、どんなルート通るの? 今まで見つかってないってことは、普通のルートだと見つからない気がするわ」

ノエルが即座に提案。

「なら、誰も通ってないルートを通ればいいんじゃないかな?」

ハリエットが冷ややかに返す。

「死に急ぎたいのですか?」

ドロテアが静かに仲裁した。

「ハリエット、探検には危険が付きものですわ。ラウラさんが言ってる通り、普通のルートでは見つからないわ」

ハリエットは渋々頷く。

「それは…そうですが」

リュシーがジュリーに視線を戻した。

「それで? 見つけたらどうすんだ?まさか自分の名前を」

ジュリーが首を振る。

「それだと他の皆が納得しないよ」

リュシーが苦笑する。

「ぐ…確かにそうだな」

ハリエットが提案を続ける。

「なら、あなた達のチーム名から取って『プレエー』はどうです?」

リュシーが目を輝かせる。

「『プレエー』? そいつはいいや!」

ハリエットがにやりと笑う。

「そしてWRXSTiを付け加えたら『プレエーWRXSTi』ですよ!」

指揮官が呆れたように突っ込む。

「インプレッサじゃねえか!ラリーカーの名前を取ってどうするんだよ」

ノエルがさらに提案。

「WRX?STi? いいねいいね! 他にも、私達の名前から取って、『シノジラ』ってのは?」

ハリエットが首を傾げる。

「何ですか? それ」

ケイトも困惑。

「分かりません…」

ドロテアが優しく解説した。

「シは『心香』ノは『ノエル』ジは『ジュリー』ラは『ラウラ』の名から由来ですわ」

指揮官が話を戻す。

「……それよりも、証拠を取っておかないとダメじゃないか?」

ハリエットが頷く。

「確かに…悪徳指揮官ならやってそう」

指揮官が即座に反論。

「誰が悪徳指揮官だ!」

ミリアムが提案。

「パーツを持ち帰るとか? どうかな」

リュシーがため息をつく。

「あのな…MGのパーツがどれだけデカいか分かってるのか。人力じゃ運ぶ前に力尽きるぞ」

ジュリーがぱっと顔を上げる。

「なら、写真を撮っちゃえばいいんじゃないかしら? それなら、証拠としてバッチリよね!」

指揮官が頷く。

「まあ、それなら問題ないな」

ノエルが手を叩く。

「おお! ジュリーちゃん、冴えてるね!」

ジュリーが得意げに胸を張る。

「ふふん! そうでしょ! 隊長だからね! 今日のためにイメージトレーニングはバッチリよ!」

ドロテアがリュシーに視線を向ける。

「リュシー、分かっていますわね?」

リュシーが背筋を伸ばした。

「――はい、お嬢。あたしは最後までやり遂げてみせます!」

ハリエットが立ち上がり、ケイトを促す。

「見つけたMGは誰かのモノになる―――善は急げですね。ケイ、行きますよ」

ケイトが小さく頷く。

「う、うん」

ドロテアが静かに制した。

「お二人は見つけても手出ししない事よ」ハリエットが驚く。

「え? 何故…」

ドロテアは穏やかだが、確固たる声で言った。

「最初に言った筈です。今回の主役はプレ・クラス-Aの皆様。と」

ハリエットが指揮官に視線を移す。

「おい、悪徳指揮官、問題はないですよね」

指揮官は疲れたように手を振った。

「…ツッコむのが疲れた。ああ、思ったより準備はしてるから大丈夫だと思うぞ」

ドロテアが皆を見回し、静かに宣言する。

「では明日、“シミュレーション3”を実行しますわよ。まずは本慣らしに軽いトレーニングをしてから雪歩きに慣れる訓練しますわ」

ジュリーが元気よく応じる。

「はーい! わかったわ!」

指揮官はリュシーと心香に視線を向け、静かに言った。

「リュシー、心香。ちょっと近くに来て貰っていいか? こっちで話があるんだ」

二人が近づいてくると、指揮官は声を潜めた。

「まず、リュシー。俺達だが……とにかく事故が起きないように、しっかりとあいつらの手綱を握っておこう」

リュシーが頷く。

「分かったよ。指揮官、その伝説のMGは見つかるのか? ガセだったら本気で殴るぞ?」

指揮官は苦笑しながら、正直に答えた。

「……まあ、正直に言えば見つからんだろうと思っている」

リュシーが目を細める。

「ハッキリ言うんだな……」

指揮官は肩をすくめた。

「…とはいえ、極限状態の団体行動はかなりの経験値になる。そういう意味では、無駄になることはないって感じだな」

リュシーが小さく笑う。

「成る程な。お前は最初からそういう意図で行動しようと?」

指揮官が静かに頷く。

「本当にMG見つかるんだったら、俺も悩んだかもな」

心香が静かに口を挟んだ。

「…まあ、確かに破れかぶれに見えるわよね。でも、これが最善だと思って全員で考えたの」

リュシーが頷き、厳しい表情になる。

「現状を打破するためには視点を変える必要だからな。猪突猛進で登ったら、遭難して行方不明になるオチだ。山の鉄則では仮に誰かが死んでも放置しなきゃダメだからな。特に雪山で遺体を運びながら上り下りするのは危険過ぎる」

指揮官が尋ねる。

「……何か秘策あるのか?」

リュシーがトランシーバーを取り出しながら答えた。

「だからこそ“シミュレーション3”を実行するんだ。見つかったとしても、動くかどうか怪しいぞ。部品が欠落してる事もあり得る。古いMGだろうが何だろうが回収出来ずに放置されてそのまま忘れ去られてる可能性はある」

心香が頷く。

「その点については把握した方が良さそうね」

リュシーが指揮官にトランシーバーを渡す。

「トランシーバーはミリアムが事前に全員渡された筈だ。ほら、お前の分も」

指揮官が受け取り、感謝を込めて言った。

「ありがとうな。リュシー」

リュシーは視線を逸らし、ぶっきらぼうに返す。

「……お嬢の命令に従っただけだ。勘違いすんな。――絶対に無事生還させるからな」

暖炉の火が最後の薪を爆ぜさせ、ログハウスに静かな夜が訪れた。

明日、ジュリー・ステイシー探検隊の冒険が、本当の意味で始まる。

雪山は、誰もが予想できない試練を、静かに待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、ガレムグラード山脈の空はまだ薄暗く、雪は昨夜より細かく、静かに降り続いていた。

カークランドハウスの玄関先で、皆が防寒具を身に纏い、最後の点検を終えたところだった。

息が白く凍り、頰を刺す冷気が、今日が本番であることを改めて思い知らせる。

ジュリーは心香に向かって大きく手を振り、元気いっぱいに声を張り上げた。

「それじゃあ心香! 行ってくるわね!」

心香はログハウスの暖かな灯りの下で、穏やかに微笑みながら見送る。

「ええ、行ってらっしゃい」

ノエルが少し心配そうに、心香の袖を軽く引いた。

「心香ちゃんも、もし何かあったら連絡してね?」

心香は優しく頷き、皆の顔を順に見回した。

「ええ、勿論よ。ノエルたちも何かあったら指揮官たちを頼るのよ。雪山だと何があるか分からないし、みんなが無事に帰ってきてくれる事が一番大事だから」

ラウラは少し震える声で、しかし力強く応じた。

「心香ちゃん……うん、わかったわ。無茶しないように気をつけるから、安心してね!」

ジュリーが拳を握りしめ、胸を張って宣言する。

「待っていなさい、心香! きっと伝説のMGを見つけて来るから! その時は一緒に名前を考えましょう!」

ハリエットがすかさず口を挟んだ。

「『プレエーWRX STi』の方がいいのでは?」

ジュリーが即座に手を振る。

「気に入ってるようだけど却下よ!」

ハリエットは諦めずに続ける。

「『GT-R』は?」

リュシーが呆れたように呟く。

「そのまんまじゃねえか…」

ハリエットがさらに提案。

「『GRプレエー』は?」

ノエルが首を振って笑う。

「それだとGRブランドのMGになっちゃうよ~」

ミリアムが元気よく手を挙げる。

「じゃあ、『プレエーVR-4』はどうかな?」

ハリエットが即答。

「ダメです。『プレエー エボリューション』がいいのでは?」

ケイトが控えめに意見を述べる。

「私は…『プレエー GSR』がいいかと」

ミリアムが再び叫ぶ。

「『プレエー VR-4』!」

ハリエットが負けじと。

「『プレエー エボリューション』!」

ケイトは困ったように微笑んだ。

「私は、どっちでもいいと思いますよ…?」

ジュリーが両手を広げて一喝。

「どれもこれも却下よ!」

指揮官は苦笑しながら、ぽつりと呟く。

「ギャランVR-4……ランエボの先祖じゃねえか…」

心香も小さく笑って付け加えた。

「GSRもランサーのグレード名だし……」

ドロテアはそんなやり取りを優しく眺め、静かに言った。

「仲が良くて、羨ましいですわ」

リュシーが珍しく穏やかな声で応じる。

「そうですね…」

指揮官は皆の姿を見ながら、内心で思う。

「(最初に出会ったときは凸凹チームって感じだったが……いや、それは今もか。でも、チームの仲の良さは間違いないな)」

ドロテアが静かに、しかし力強く言葉を続けた。

「どんな困難が来ようとも、こんなところで負けていられませんわ」

リュシーがラウラの頭に視線を落とし、眉を寄せる。

「しかし…いいのか? ラウラだけ…あの帽子、雪山に登るのは向いてないぞ」

ドロテアは扇で口元を隠し、意味深に微笑んだ。

「それくらいのハンデをやらないと、勝負にはなりませんわよ」指揮官は内心で頷く。

「(ラウラを試してるんだな……)」

ドロテアがリュシーに視線を移し、確認する。

「リュシー、昨日言った事分かりますわね?」

リュシーは背筋を伸ばし、きびきびと答えた。

「はい、お嬢。このリュシー・ムーアクロフトが責任持って彼女達をお守りします!」

ドロテアは満足げに頷き、静かに命じた。

「では、その手順で」

リュシーが短く。

「はい」

一行は雪の積もった階段を下り、ガレムグラード山脈の白い斜面へと足を踏み出した。

背後で、心香が暖かな灯りの窓辺から手を振る姿が小さくなっていく。

風が雪を舞い上げ、視界を白く染めながら、ジュリー・ステイシー探検隊の本当の冒険が、今、始まろうとしていた。

 

 

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