マブラヴガールズガーデン ドロテア・カークランドの雪山の流儀   作:マブラマ

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第4話 雪山の洗礼

雪がきらめくガレムグラード山脈の初級斜面。

朝の光が柔らかく差し込み、辺り一面を純白に染め上げていた。

まだ柔らかい新雪が膝まで沈み込む中、ジュリーを先頭に五人がゆっくりと足を進めていく。

今日はあくまでも“シミュレーション3”の範囲内――自由に遊んで体を慣らす日だ。ジュリーが両手を広げ、大きく息を吸い込んだ。

「うわぁ、真っ白! キラキラね! こういうの何て言うんだっけ……銀世界?」

ノエルが周りを見回し、興奮気味に叫ぶ。

「全然、足跡ついてないよ! 私達が一番っ!」

指揮官は後ろから二人の背中を眺めながら、ぽつりと呟いた。

「……何か、犬とかが雪道に飛び出していく光景を思い出すな」

リュシーがにやりと笑い、即座に返す。

「あたしは雪道でランエボがカウンターステアで滑走している光景を思い出すな」

指揮官は苦笑しながら肩をすくめた。

「雪道ラリーじゃねえか……まあ、そういうのも良いけど」

ラウラは少し後ろを歩きながら、皆の足跡を眺めて微笑んだ。

「ふふ、足跡を見てても楽しいのが伝わってくるわ」

ノエルが突然立ち止まり、近くのモミの木を指差す。

「ねえねえ、木の枝を揺らしていい!? 上にいっぱい雪が積もってるから、どさーってなるよ!」

ジュリーが目を輝かせつつ、少し心配そうに確認する。

「面白そう!ええっと、枝を折っちゃったりしないように……」

ノエルはもう待てなかった。

「ええい!」

彼女は勢いよく木の枝に飛びつき、体を預けて大きく揺らす。

同時に、くるりと回って回し蹴りを繰り出した。

枝が大きく震え、雪の塊がどさどさと落ち始めた。

リュシーが呆れたように舌打ちする。

「ったく、しゃあねえな…」

だが次の瞬間、彼女もまた別の枝に近づき、鋭い延髄蹴りを叩き込む。

雪煙が爆発的に舞い上がり、ジュリーの頭上に直撃した。

ジュリーが悲鳴を上げる。

「ふぎゃー!? なんであたしの方に!?」

ノエルは腹を抱えて大笑い。

「あはははは!」

指揮官が少し離れたところから声を張り上げる。

「おーい、あんまり遠くに離れるなよ! 足を滑らせて転んだら大変だからな!」

リュシーが手を叩き、宣言するように言った。

「よし! こっからが自由行動だな」

ノエルがさらに奥の雪原を指差す。

「こっちにも雪積もってるよー!」

リュシーが目を細めて笑う。

「おっしゃあ! 遊んでやらあ」

ジュリーが指揮官を振り返り、元気よく呼んだ。

「指揮官もおいでよー!」

指揮官は軽く手を上げながら、ゆっくりと近づく。

「まあ、待て。今からそっちに行くから」

ノエルはすでに雪の上を駆け回り、自分の足跡で模様を描き始めていた。

「見て見て! 私の足跡だらけ!」

指揮官がその足跡の真ん中に足を踏み入れ、にやりと笑う。

「どんだけ走り回ったんだ。俺にも踏ませろ」

ノエルがさらに笑い声を上げる。

「あはははは!」

ジュリーは少し離れたところで、雪を両手で掬い上げて丸めながら、くすくすと笑っていた。

「ふふふ」

リュシーは雪を蹴り上げ、雪煙を巻き上げながら大声で笑う。

「あははははは! こりゃあ楽しいな!」

五人の笑い声が、銀世界に響き渡った。

まだ本格的な登山は始まっていない。

今日はただ、雪と戯れ、体を慣らし、互いの距離を縮めるための時間。

厳しい山が待つ明日のために、今はただ、純粋に楽しむだけでよかった。

雪は静かに降り続き、足跡は次々と新しい白に覆われていく。

けれど、その一瞬の足跡は、きっと皆の記憶に鮮やかに残るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ガレムグラード山脈の斜面は昨日より一段と厳しい白さに変わっていた。

新雪が膝まで沈み込み、息を吸うたびに肺が冷たく締めつけられる。

昨日の遊び疲れが体に染みつき、誰もが重い足取りで進んでいた。

ジュリーが前屈みになり、歯を食いしばって呻く。

「うぐぐ……あがが……いぎぎ」

ラウラは肩で息をしながら、雪に手をついて体を支えた。

「はぁ、はぁ……うう……凄く疲れやすいかも……?」

リュシーは額の汗を拭い、苦笑いを浮かべる。

「お前ら情けねえな……とはいえ、あたしも筋肉痛だけどな……」

指揮官は皆の様子を眺め、静かに説明した。

「登山もそうだが、雪の上を歩く時にも、普段使わない筋肉を使うからな。それに標高が高く空気も薄い。普段より疲れやすいんだ」

リュシーが小さく舌打ちする。

「そりゃあ、分かってるけどよ…」

ノエルは雪に座り込み、両手を膝に当てて肩を落とした。

「うう……こんな風に疲れるんだ……はぁ、ふぅ……初めての経験かも?」

指揮官がノエルの頭を軽く撫でる。

「流石に体力お化けのノエルも、疲れは抜けきらないか」

ノエルが顔をしかめて、痛がるように体をくねらせる。

「うう……変な場所がズキズキしていたーい…」

その時、遠くから低く唸るエンジン音が響き、雪煙を巻き上げながら三台のクルマが急斜面を滑り降りてきた。

ランサーエボリューションⅢ、Ⅳ、Ⅴ。

鮮やかな黒と白、赤のボディが、雪原に鮮烈な軌跡を残して停まる。

ハリエットがランエボⅢの窓を下げ、冷静な視線を投げかけた。

「悪徳指揮官は無事のようですね」

指揮官は肩をすくめて返す。

「まだ序章だぞ?」

ケイトがランエボⅣの窓を開け、控えめに心配そうに言った。

「無理はしないで下さいね」

ミリアムはランエボⅤの窓から身を乗り出し、目を輝かせて叫ぶ。

「指揮官! 怪我だけはしないでねー!」

指揮官は苦笑しながら手を振った。

「お、おう…」

ラウラが呆然と三台のクルマを眺める。

「ランエボⅢにランエボⅣ、ランエボⅤまで…」

ノエルが雪の上に座ったまま、羨ましげに手を伸ばす。

「ずるい~!私も乗せてよ~!」

ハリエットは即座に首を振った。

「ダメです。途中離脱は許しませんよ」

ノエルが悲しげに声を上げる。

「私達はこんなに痛いのに見捨てるの~?」

ハリエットは表情を変えずに返す。

「何を言われようとダメなモノはダメです」

ノエルが肩を落とす。

「そんな~!」

ケイトが申し訳なさそうにフォローした。

「ごめんなさい。出来れば乗せたいけど…それだと成長に繋がらないから」

ミリアムが元気よく拳を握る。

「ボクもノエルちゃんを応援するよ!だから挫けないで!」

リュシーがため息をつきながら言った。

「ま、鍛え方が違うからな。指揮官もそうだろ?」

指揮官は頷く。

「あ、ああ…そうだな」

ジュリーが感嘆の声を上げた。

「やっぱり指揮官って凄いわね……!リュシーさんもそうだけど」

リュシーは肩をすくめて笑う。

「これくらいお茶の子さいさいだよ」

指揮官は内心で苦笑する。

「(まあ、実はちょっと筋肉痛なんだが。とはいえ、威厳のためにここは我慢しておかないとな)」

ジュリーは深呼吸して立ち上がり、拳を握りしめた。

「むむむ…! でも、やっぱり探検には困難が付きものね! よーし、寧ろこれをバネにして頑張るわ!」

指揮官が笑みを浮かべて励ます。

「おお、いい気合いだぞジュリー!」

ハリエットがエンジンをかけ直しながら、確認するように言った。

「カークランドハウスには戻らずこのまま探索するんですね」

リュシーが頷く。

「ああ、お前達もか?」

ハリエットは静かに宣言した。

「必ず伝説のMGとやらを先に見つけます」

リュシーが鋭く釘を刺す。

「手出しはするなよ?」

ハリエットは口元に薄い笑みを浮かべた。

「あなた達も本気出した方が良いですよ。ここからが正念場になるのは予想されますからね」

ジュリーが胸を張って叫ぶ。

「ジュリー探検隊は足を止めるわけにはいかないわ!このまま探索で強行突破よ!」

ハリエットが一瞬目を細め、勢いよく返す。

「ファックユー! ブチ転がしますよ!」

ジュリーがぽかんとする。

「え?!」

リュシーが即座に訂正を入れる。

「それを言うならFuck Youだ。それに『ブチ転がす』ではなく『ブチ殺す』だ」

ハリエットが慌てて頭を下げる。

「あ……すみません」

リュシーが手を振って追い払う。

「さ、早く行きな」

ハリエットはエンジンを吹かし、静かに言った。

「はい。―――私達は頂上を目指しますが、あなた達はMGを」

指揮官が穏やかに返す。

「分かっている。こっちも気をつけろよ」

ハリエットはジュリーに視線を移し、最後に忠告を残した。

「ジュリーさん、一つだけ忠告しておきます」

ジュリーが首を傾げる。

「?」

ハリエットは冷たく、しかし真剣に言った。

「レースの世界ではエンジンブローしたら負けですが、山登りでは方向分からず遭難したら……命取り。とどのつまり死が待っています!」

ジュリーは一瞬息を呑んだが、すぐに目を輝かせて言い返した。

「それでもあたし達は進むわよ!」

ハリエットは小さく頷き、満足げに微笑んだ。

「それでこそ成長の糧となります。無事帰ってこれるでしょうね…では後ほど」

三台のランエボは雪煙を巻き上げ、轟音と共に急斜面を駆け上がっていった。

残された五人は、静かにその背中を見送る。

リュシーが深く息を吐き、皆を振り返った。

「行っちゃったな…よし!そんじゃあ、まずはゆっくりと次の地点に行ってからテント張るぞ!勿論モンベル製のテントだ」

指揮官は内心で感心する。

「(リュシー、本格的だな……)」

ノエルが痛む体を押して立ち上がり、元気よく敬礼した。

「イエッサー!それじゃあ、出発だね!」

雪は容赦なく降り続き、足跡をすぐに埋めていく。

しかし、ジュリー・ステイシー探検隊の目は、昨日より少しだけ鋭く、強く輝いていた。

伝説のMGが眠るという頂上へ――本当の試練は、今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪が静かに降り積もり続けるガレムグラード山脈の斜面。

日が傾き、辺りが淡い青に染まり始めた頃、リュシーは周囲を見回して足を止めた。

風が少しずつ強さを増し、雪の粒子が頰を鋭く叩く。

「ふぅ…ここら辺でテントを張るか。様子はどうだ? 総員報告!」

ジュリーが雪を払いながら、元気よく手を挙げた。

「うん!こっちは異常なしよ!」

ラウラは少し息を切らしながらも、穏やかに頷く。

「大丈夫よ」

ノエルが雪の上に座り込み、大きく手を振った。

「こっちも異常なしだよー!」

リュシーは満足げに頷き、無線機を手に取る。

「よし! 心香にも定期連絡をしないとな!こちらリュシー、少し早いが、今日の探索は一旦終了し、テントで休む事にする。オーバー!」

無線から、心香の落ち着いた声が返ってきた。

《こちら心香。了解したわ。テントでの休憩ね?冷えないように気をつけて。オーバー》リュシーは短く笑みを浮かべ、応答する。

「了解した。体調崩さないよう警戒してくれ。オーバー!」

《気遣ってくれてありがとう。ログハウスが快適だから心配しなくても大丈夫よ。オーバー》

リュシーは無線機を下ろし、ぽつりと呟いた。

「……ふっ、彼奴も随分と通信慣れてきたじゃないか」

指揮官はテントの設営を手伝いながら、感心したように言った。

「ナチスドイツ時代に使われた通信機を使いこなすなんて凄いな…やっぱり連絡が取れる安心感っていうのは大きいな」

ラウラが少し心配そうに尋ねる。

「……心香ちゃん、何か言ってた?」

リュシーが無線機を仕舞いながら答えた。

「冷えないように気をつけて。だそうだ―――よし、早速やるぞ!」

ノエルが目を輝かせて飛びつく。

「ねえねえ! 何かないかな?」

ジュリーが両手を擦り合わせ、期待に胸を膨らませる。

「もう、雪山の寒さなんて吹き飛ばすようなとっても熱い飲み物がいいわ!」

リュシーはバックパックから小さなポットとガスバーナーを取り出し、にやりと笑った。「ふっふっふ…紅茶とコーヒー淹れてやるよ。何がいい?ブルーマウンテンとキリマンジャロ…ベトナムコーヒーもあるぞ」

ジュリーが即答する。

「何でも良いわよ!」

リュシーは迷わず缶を開けた。

「よっしゃ! ベトナムコーヒー淹れっからちょっと待ってろ」

ラウラは自分のバックパックから小さな袋を取り出し、控えめに提案した。

「本格的ね……私もインスタントのティーパックと粉持ってきてるからふたりとも好きな方を選んでね?」

ジュリーが手を叩く。

「なら、あたしはコーヒーね!ミルクとお砂糖いっぱいで!」

リュシーはポケットを探り、満足げに頷いた。

「砂糖はあるがミルクあったっけな……――あったあった。これだこれ」

ノエルが甘えた声で注文する。

「私は紅茶かなー。お砂糖をあまーくしたのが飲みたい!」

ラウラはくすりと笑い、ポットを準備しながら言った。

「ふふ、すぐ用意するわね」

バーナーの小さな炎が揺れ、雪の上でポットが温まり始める。

湯気が立ち上り、甘いコーヒーの香りと紅茶の優しい匂いが、冷たい空気に溶け込んでいった。

リュシーは無線機を横に置きながら、静かに雪の流れを眺めた。

「(雪の流れが速い…明日は少し天候が荒れるかもしれないな)」ドロテアの声が、頭の中で静かに響く。

 

(気を抜かないで。シミュレーション3で行きなさい)

 

指揮官はテントの入り口で雪を払い、皆を見回した。

「今日は早めに休もう。明日は本格的に奥へ入るぞ」

ジュリーが熱いコーヒーを両手で抱え、頷く。

「うん! 絶対に伝説のMGを見つけてやるんだから!」

ノエルが紅茶をすすりながら、頰を赤らめて笑った。

「私もがんばるよー!」

ラウラは静かに微笑み、ラウラもまた、温かなカップを握りしめた。

リュシーは最後に周囲を一瞥し、テントのファスナーを閉めた。

「よし、就寝だ。明日はもっと厳しくなる。しっかり体を休めろ」

雪は音もなく降り続き、テントの外を白く覆っていく。

小さな炎の揺らめきが、テントの内側を優しく照らし、疲れた体を温めた。

そうして、ジュリー・ステイシー探検隊は、翌日の本当の試練に備え、静かに目を閉じたのだった。

伝説のMGが眠るという雪山の奥深くで、何が待ち受けているのか――誰も、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、ガレムグラード山脈の空は灰色に覆われ、昨夜の静けさが嘘のように風が唸り始めていた。

テントのファスナーを開け、ジュリーが勢いよく雪の上に飛び出した。

「よ~し、探索再開よ!」

ノエルがすぐ後ろから続き、両手を挙げて叫ぶ。

「おー!探索だー! しゅっぱーつ!」

ラウラは二人の背中を眺め、くすりと笑みを浮かべた。

「ふふっ、ジュリーちゃんもノエルちゃんも、すっかり元気ね」

リュシーはバックパックを背負い直し、低く呟く。

「ペースは乱すなよ……(見せ付けてやるぜ、キャバリエの凄さじゃなく……あたしの登山テクニックの凄さをな)」

ジュリーが振り返って笑った。

「ちょっと進んでまたテントじゃ、全然探索できないもんね!」

リュシーは内心で舌なめずりをする。

「(色んな所を見れて、ゾクゾクするな……ふふっ、こんな感じ久々だ)」

昨日の学びを活かし、最初から飛ばしすぎず、慎重に足を進める。

雪は深く、しかし五人の息は合っていた。

順調に高度を上げ、昨日より奥へ――。突然、風が唸りを上げ、視界が白く塗りつぶされた。リュシーの目が鋭く細まる。

「!(吹雪だ。拙いなこれは…)これは止む気配がないぜ。早速お出ましだな」

ジュリーが慌てて顔を覆う。

「わっぷ!? 前が見えない~!?」

リュシーが即座に声を張り上げた。

「気をつけろ! 突風が来るぞ!」

ジュリーは必死に前へ進もうとするが、体が傾く。

「ぐにゅにゅ! つ、ついていく……ついていく……!」

指揮官は周囲の白い渦を見ながら、歯を食いしばる。

「(まさか、ここで吹雪くとは…真面に周囲の状況も見ることが出来ないぞ……!)」

ノエルが雪に足を取られ、声を震わせた。

「ぬぬぬ……! 前が見えないよぉ~! どうすればいいの!?」

リュシーが叫ぶ。

「声を掛けろ!! 逸れるな!」

ノエルが必死に応じる。

「お、おー! 吹雪に負けるなー!」

ラウラの声が風に掻き消されそうになる。

「声もちょっと…聞きづらいかも…!」

ジュリーが咳き込みながら進む。

「ふぎゅ! が…がんば…! けほっ! の、喉に雪がぁ~っ!」

リュシーが舌打ちする。

「くっ……!」次の瞬間、強烈な突風が吹き抜け、ジュリーの体が大きく傾いた。

「ふぎゃーっ!?」

ラウラが慌てて手を伸ばす。

「ジュリーちゃん! 大丈夫!?」

リュシーが鋭く制した。

「構うな! 山の鉄則を従うんだ!」

ラウラの目が揺れる。

「ジュリーちゃん……ごめんなさい!」

ジュリーは雪に膝をつき、身動きが取れなくなる。

「うう~っ! 動けない…」

ラウラが後ろから必死に近づこうとする。

「うう……あ、足が…! ジュリーちゃん!!」

リュシーが叫ぶ。

「おい、無茶するな!」

ラウラは涙目で振り向く。

「体力はないけど……最後尾は任せて!」

リュシーは周囲を見回し、顔を歪めた。

「(撤退するのも難しい…選択を誤ったら死に繋がる! 通信で連絡取れる保証はない…!)」

突風が再び吹き、ラウラの帽子が飛ばされる。

「ああ! 帽子が!」

リュシーが即座に叫ぶ。

「諦めろ! 前だけ進め!」

ノエルが素早く雪に飛び込み、帽子を掴み取った。

「キャッチ、はい、拾ったよ!」

ラウラが受け取り、涙声で礼を言う。

「ありがとう! ノエルちゃん」

リュシーは視界を切り裂く白い渦の中で、必死に周囲を探る。

「(止む気配はなさそうだ…!)おい、指揮官とジュリーは!?」

ノエルが慌てて振り返る。

「あれ!? さっき…あ、そうだ。置いてきたんだった」

リュシーの顔が青ざめる。

「洒落になんねえぞ…くそ!(何処にいるか分からねえ!)」

風が唸り、雪が視界を完全に奪う。

声は届かず、足跡は瞬時に埋もれていく。

ジュリーと指揮官の姿は、白い闇の中に消えていた。

リュシー、ラウラ、ノエルは必死に声を掛け合いながら前へ進むしかなかった。

しかし、吹雪は容赦なく三人を飲み込み、隊は完全に分断されてしまった。

遭難――山の鉄則が、冷たく現実を突きつける。

伝説のMGを探すはずの探検は、今、命を賭けた生存戦へと変わっていた。

雪は降り続き、すべてを白く塗りつぶしていく。

 

ジュリー・ステイシー探検隊の運命は、まだ、誰にも分からない。

 

 

 

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