マブラヴガールズガーデン ドロテア・カークランドの雪山の流儀 作:マブラマ
雪がきらめくガレムグラード山脈の初級斜面。
朝の光が柔らかく差し込み、辺り一面を純白に染め上げていた。
まだ柔らかい新雪が膝まで沈み込む中、ジュリーを先頭に五人がゆっくりと足を進めていく。
今日はあくまでも“シミュレーション3”の範囲内――自由に遊んで体を慣らす日だ。ジュリーが両手を広げ、大きく息を吸い込んだ。
「うわぁ、真っ白! キラキラね! こういうの何て言うんだっけ……銀世界?」
ノエルが周りを見回し、興奮気味に叫ぶ。
「全然、足跡ついてないよ! 私達が一番っ!」
指揮官は後ろから二人の背中を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「……何か、犬とかが雪道に飛び出していく光景を思い出すな」
リュシーがにやりと笑い、即座に返す。
「あたしは雪道でランエボがカウンターステアで滑走している光景を思い出すな」
指揮官は苦笑しながら肩をすくめた。
「雪道ラリーじゃねえか……まあ、そういうのも良いけど」
ラウラは少し後ろを歩きながら、皆の足跡を眺めて微笑んだ。
「ふふ、足跡を見てても楽しいのが伝わってくるわ」
ノエルが突然立ち止まり、近くのモミの木を指差す。
「ねえねえ、木の枝を揺らしていい!? 上にいっぱい雪が積もってるから、どさーってなるよ!」
ジュリーが目を輝かせつつ、少し心配そうに確認する。
「面白そう!ええっと、枝を折っちゃったりしないように……」
ノエルはもう待てなかった。
「ええい!」
彼女は勢いよく木の枝に飛びつき、体を預けて大きく揺らす。
同時に、くるりと回って回し蹴りを繰り出した。
枝が大きく震え、雪の塊がどさどさと落ち始めた。
リュシーが呆れたように舌打ちする。
「ったく、しゃあねえな…」
だが次の瞬間、彼女もまた別の枝に近づき、鋭い延髄蹴りを叩き込む。
雪煙が爆発的に舞い上がり、ジュリーの頭上に直撃した。
ジュリーが悲鳴を上げる。
「ふぎゃー!? なんであたしの方に!?」
ノエルは腹を抱えて大笑い。
「あはははは!」
指揮官が少し離れたところから声を張り上げる。
「おーい、あんまり遠くに離れるなよ! 足を滑らせて転んだら大変だからな!」
リュシーが手を叩き、宣言するように言った。
「よし! こっからが自由行動だな」
ノエルがさらに奥の雪原を指差す。
「こっちにも雪積もってるよー!」
リュシーが目を細めて笑う。
「おっしゃあ! 遊んでやらあ」
ジュリーが指揮官を振り返り、元気よく呼んだ。
「指揮官もおいでよー!」
指揮官は軽く手を上げながら、ゆっくりと近づく。
「まあ、待て。今からそっちに行くから」
ノエルはすでに雪の上を駆け回り、自分の足跡で模様を描き始めていた。
「見て見て! 私の足跡だらけ!」
指揮官がその足跡の真ん中に足を踏み入れ、にやりと笑う。
「どんだけ走り回ったんだ。俺にも踏ませろ」
ノエルがさらに笑い声を上げる。
「あはははは!」
ジュリーは少し離れたところで、雪を両手で掬い上げて丸めながら、くすくすと笑っていた。
「ふふふ」
リュシーは雪を蹴り上げ、雪煙を巻き上げながら大声で笑う。
「あははははは! こりゃあ楽しいな!」
五人の笑い声が、銀世界に響き渡った。
まだ本格的な登山は始まっていない。
今日はただ、雪と戯れ、体を慣らし、互いの距離を縮めるための時間。
厳しい山が待つ明日のために、今はただ、純粋に楽しむだけでよかった。
雪は静かに降り続き、足跡は次々と新しい白に覆われていく。
けれど、その一瞬の足跡は、きっと皆の記憶に鮮やかに残るだろう。
翌日、ガレムグラード山脈の斜面は昨日より一段と厳しい白さに変わっていた。
新雪が膝まで沈み込み、息を吸うたびに肺が冷たく締めつけられる。
昨日の遊び疲れが体に染みつき、誰もが重い足取りで進んでいた。
ジュリーが前屈みになり、歯を食いしばって呻く。
「うぐぐ……あがが……いぎぎ」
ラウラは肩で息をしながら、雪に手をついて体を支えた。
「はぁ、はぁ……うう……凄く疲れやすいかも……?」
リュシーは額の汗を拭い、苦笑いを浮かべる。
「お前ら情けねえな……とはいえ、あたしも筋肉痛だけどな……」
指揮官は皆の様子を眺め、静かに説明した。
「登山もそうだが、雪の上を歩く時にも、普段使わない筋肉を使うからな。それに標高が高く空気も薄い。普段より疲れやすいんだ」
リュシーが小さく舌打ちする。
「そりゃあ、分かってるけどよ…」
ノエルは雪に座り込み、両手を膝に当てて肩を落とした。
「うう……こんな風に疲れるんだ……はぁ、ふぅ……初めての経験かも?」
指揮官がノエルの頭を軽く撫でる。
「流石に体力お化けのノエルも、疲れは抜けきらないか」
ノエルが顔をしかめて、痛がるように体をくねらせる。
「うう……変な場所がズキズキしていたーい…」
その時、遠くから低く唸るエンジン音が響き、雪煙を巻き上げながら三台のクルマが急斜面を滑り降りてきた。
ランサーエボリューションⅢ、Ⅳ、Ⅴ。
鮮やかな黒と白、赤のボディが、雪原に鮮烈な軌跡を残して停まる。
ハリエットがランエボⅢの窓を下げ、冷静な視線を投げかけた。
「悪徳指揮官は無事のようですね」
指揮官は肩をすくめて返す。
「まだ序章だぞ?」
ケイトがランエボⅣの窓を開け、控えめに心配そうに言った。
「無理はしないで下さいね」
ミリアムはランエボⅤの窓から身を乗り出し、目を輝かせて叫ぶ。
「指揮官! 怪我だけはしないでねー!」
指揮官は苦笑しながら手を振った。
「お、おう…」
ラウラが呆然と三台のクルマを眺める。
「ランエボⅢにランエボⅣ、ランエボⅤまで…」
ノエルが雪の上に座ったまま、羨ましげに手を伸ばす。
「ずるい~!私も乗せてよ~!」
ハリエットは即座に首を振った。
「ダメです。途中離脱は許しませんよ」
ノエルが悲しげに声を上げる。
「私達はこんなに痛いのに見捨てるの~?」
ハリエットは表情を変えずに返す。
「何を言われようとダメなモノはダメです」
ノエルが肩を落とす。
「そんな~!」
ケイトが申し訳なさそうにフォローした。
「ごめんなさい。出来れば乗せたいけど…それだと成長に繋がらないから」
ミリアムが元気よく拳を握る。
「ボクもノエルちゃんを応援するよ!だから挫けないで!」
リュシーがため息をつきながら言った。
「ま、鍛え方が違うからな。指揮官もそうだろ?」
指揮官は頷く。
「あ、ああ…そうだな」
ジュリーが感嘆の声を上げた。
「やっぱり指揮官って凄いわね……!リュシーさんもそうだけど」
リュシーは肩をすくめて笑う。
「これくらいお茶の子さいさいだよ」
指揮官は内心で苦笑する。
「(まあ、実はちょっと筋肉痛なんだが。とはいえ、威厳のためにここは我慢しておかないとな)」
ジュリーは深呼吸して立ち上がり、拳を握りしめた。
「むむむ…! でも、やっぱり探検には困難が付きものね! よーし、寧ろこれをバネにして頑張るわ!」
指揮官が笑みを浮かべて励ます。
「おお、いい気合いだぞジュリー!」
ハリエットがエンジンをかけ直しながら、確認するように言った。
「カークランドハウスには戻らずこのまま探索するんですね」
リュシーが頷く。
「ああ、お前達もか?」
ハリエットは静かに宣言した。
「必ず伝説のMGとやらを先に見つけます」
リュシーが鋭く釘を刺す。
「手出しはするなよ?」
ハリエットは口元に薄い笑みを浮かべた。
「あなた達も本気出した方が良いですよ。ここからが正念場になるのは予想されますからね」
ジュリーが胸を張って叫ぶ。
「ジュリー探検隊は足を止めるわけにはいかないわ!このまま探索で強行突破よ!」
ハリエットが一瞬目を細め、勢いよく返す。
「ファックユー! ブチ転がしますよ!」
ジュリーがぽかんとする。
「え?!」
リュシーが即座に訂正を入れる。
「それを言うならFuck Youだ。それに『ブチ転がす』ではなく『ブチ殺す』だ」
ハリエットが慌てて頭を下げる。
「あ……すみません」
リュシーが手を振って追い払う。
「さ、早く行きな」
ハリエットはエンジンを吹かし、静かに言った。
「はい。―――私達は頂上を目指しますが、あなた達はMGを」
指揮官が穏やかに返す。
「分かっている。こっちも気をつけろよ」
ハリエットはジュリーに視線を移し、最後に忠告を残した。
「ジュリーさん、一つだけ忠告しておきます」
ジュリーが首を傾げる。
「?」
ハリエットは冷たく、しかし真剣に言った。
「レースの世界ではエンジンブローしたら負けですが、山登りでは方向分からず遭難したら……命取り。とどのつまり死が待っています!」
ジュリーは一瞬息を呑んだが、すぐに目を輝かせて言い返した。
「それでもあたし達は進むわよ!」
ハリエットは小さく頷き、満足げに微笑んだ。
「それでこそ成長の糧となります。無事帰ってこれるでしょうね…では後ほど」
三台のランエボは雪煙を巻き上げ、轟音と共に急斜面を駆け上がっていった。
残された五人は、静かにその背中を見送る。
リュシーが深く息を吐き、皆を振り返った。
「行っちゃったな…よし!そんじゃあ、まずはゆっくりと次の地点に行ってからテント張るぞ!勿論モンベル製のテントだ」
指揮官は内心で感心する。
「(リュシー、本格的だな……)」
ノエルが痛む体を押して立ち上がり、元気よく敬礼した。
「イエッサー!それじゃあ、出発だね!」
雪は容赦なく降り続き、足跡をすぐに埋めていく。
しかし、ジュリー・ステイシー探検隊の目は、昨日より少しだけ鋭く、強く輝いていた。
伝説のMGが眠るという頂上へ――本当の試練は、今、始まろうとしていた。
雪が静かに降り積もり続けるガレムグラード山脈の斜面。
日が傾き、辺りが淡い青に染まり始めた頃、リュシーは周囲を見回して足を止めた。
風が少しずつ強さを増し、雪の粒子が頰を鋭く叩く。
「ふぅ…ここら辺でテントを張るか。様子はどうだ? 総員報告!」
ジュリーが雪を払いながら、元気よく手を挙げた。
「うん!こっちは異常なしよ!」
ラウラは少し息を切らしながらも、穏やかに頷く。
「大丈夫よ」
ノエルが雪の上に座り込み、大きく手を振った。
「こっちも異常なしだよー!」
リュシーは満足げに頷き、無線機を手に取る。
「よし! 心香にも定期連絡をしないとな!こちらリュシー、少し早いが、今日の探索は一旦終了し、テントで休む事にする。オーバー!」
無線から、心香の落ち着いた声が返ってきた。
《こちら心香。了解したわ。テントでの休憩ね?冷えないように気をつけて。オーバー》リュシーは短く笑みを浮かべ、応答する。
「了解した。体調崩さないよう警戒してくれ。オーバー!」
《気遣ってくれてありがとう。ログハウスが快適だから心配しなくても大丈夫よ。オーバー》
リュシーは無線機を下ろし、ぽつりと呟いた。
「……ふっ、彼奴も随分と通信慣れてきたじゃないか」
指揮官はテントの設営を手伝いながら、感心したように言った。
「ナチスドイツ時代に使われた通信機を使いこなすなんて凄いな…やっぱり連絡が取れる安心感っていうのは大きいな」
ラウラが少し心配そうに尋ねる。
「……心香ちゃん、何か言ってた?」
リュシーが無線機を仕舞いながら答えた。
「冷えないように気をつけて。だそうだ―――よし、早速やるぞ!」
ノエルが目を輝かせて飛びつく。
「ねえねえ! 何かないかな?」
ジュリーが両手を擦り合わせ、期待に胸を膨らませる。
「もう、雪山の寒さなんて吹き飛ばすようなとっても熱い飲み物がいいわ!」
リュシーはバックパックから小さなポットとガスバーナーを取り出し、にやりと笑った。「ふっふっふ…紅茶とコーヒー淹れてやるよ。何がいい?ブルーマウンテンとキリマンジャロ…ベトナムコーヒーもあるぞ」
ジュリーが即答する。
「何でも良いわよ!」
リュシーは迷わず缶を開けた。
「よっしゃ! ベトナムコーヒー淹れっからちょっと待ってろ」
ラウラは自分のバックパックから小さな袋を取り出し、控えめに提案した。
「本格的ね……私もインスタントのティーパックと粉持ってきてるからふたりとも好きな方を選んでね?」
ジュリーが手を叩く。
「なら、あたしはコーヒーね!ミルクとお砂糖いっぱいで!」
リュシーはポケットを探り、満足げに頷いた。
「砂糖はあるがミルクあったっけな……――あったあった。これだこれ」
ノエルが甘えた声で注文する。
「私は紅茶かなー。お砂糖をあまーくしたのが飲みたい!」
ラウラはくすりと笑い、ポットを準備しながら言った。
「ふふ、すぐ用意するわね」
バーナーの小さな炎が揺れ、雪の上でポットが温まり始める。
湯気が立ち上り、甘いコーヒーの香りと紅茶の優しい匂いが、冷たい空気に溶け込んでいった。
リュシーは無線機を横に置きながら、静かに雪の流れを眺めた。
「(雪の流れが速い…明日は少し天候が荒れるかもしれないな)」ドロテアの声が、頭の中で静かに響く。
(気を抜かないで。シミュレーション3で行きなさい)
指揮官はテントの入り口で雪を払い、皆を見回した。
「今日は早めに休もう。明日は本格的に奥へ入るぞ」
ジュリーが熱いコーヒーを両手で抱え、頷く。
「うん! 絶対に伝説のMGを見つけてやるんだから!」
ノエルが紅茶をすすりながら、頰を赤らめて笑った。
「私もがんばるよー!」
ラウラは静かに微笑み、ラウラもまた、温かなカップを握りしめた。
リュシーは最後に周囲を一瞥し、テントのファスナーを閉めた。
「よし、就寝だ。明日はもっと厳しくなる。しっかり体を休めろ」
雪は音もなく降り続き、テントの外を白く覆っていく。
小さな炎の揺らめきが、テントの内側を優しく照らし、疲れた体を温めた。
そうして、ジュリー・ステイシー探検隊は、翌日の本当の試練に備え、静かに目を閉じたのだった。
伝説のMGが眠るという雪山の奥深くで、何が待ち受けているのか――誰も、まだ知らない。
翌朝、ガレムグラード山脈の空は灰色に覆われ、昨夜の静けさが嘘のように風が唸り始めていた。
テントのファスナーを開け、ジュリーが勢いよく雪の上に飛び出した。
「よ~し、探索再開よ!」
ノエルがすぐ後ろから続き、両手を挙げて叫ぶ。
「おー!探索だー! しゅっぱーつ!」
ラウラは二人の背中を眺め、くすりと笑みを浮かべた。
「ふふっ、ジュリーちゃんもノエルちゃんも、すっかり元気ね」
リュシーはバックパックを背負い直し、低く呟く。
「ペースは乱すなよ……(見せ付けてやるぜ、キャバリエの凄さじゃなく……あたしの登山テクニックの凄さをな)」
ジュリーが振り返って笑った。
「ちょっと進んでまたテントじゃ、全然探索できないもんね!」
リュシーは内心で舌なめずりをする。
「(色んな所を見れて、ゾクゾクするな……ふふっ、こんな感じ久々だ)」
昨日の学びを活かし、最初から飛ばしすぎず、慎重に足を進める。
雪は深く、しかし五人の息は合っていた。
順調に高度を上げ、昨日より奥へ――。突然、風が唸りを上げ、視界が白く塗りつぶされた。リュシーの目が鋭く細まる。
「!(吹雪だ。拙いなこれは…)これは止む気配がないぜ。早速お出ましだな」
ジュリーが慌てて顔を覆う。
「わっぷ!? 前が見えない~!?」
リュシーが即座に声を張り上げた。
「気をつけろ! 突風が来るぞ!」
ジュリーは必死に前へ進もうとするが、体が傾く。
「ぐにゅにゅ! つ、ついていく……ついていく……!」
指揮官は周囲の白い渦を見ながら、歯を食いしばる。
「(まさか、ここで吹雪くとは…真面に周囲の状況も見ることが出来ないぞ……!)」
ノエルが雪に足を取られ、声を震わせた。
「ぬぬぬ……! 前が見えないよぉ~! どうすればいいの!?」
リュシーが叫ぶ。
「声を掛けろ!! 逸れるな!」
ノエルが必死に応じる。
「お、おー! 吹雪に負けるなー!」
ラウラの声が風に掻き消されそうになる。
「声もちょっと…聞きづらいかも…!」
ジュリーが咳き込みながら進む。
「ふぎゅ! が…がんば…! けほっ! の、喉に雪がぁ~っ!」
リュシーが舌打ちする。
「くっ……!」次の瞬間、強烈な突風が吹き抜け、ジュリーの体が大きく傾いた。
「ふぎゃーっ!?」
ラウラが慌てて手を伸ばす。
「ジュリーちゃん! 大丈夫!?」
リュシーが鋭く制した。
「構うな! 山の鉄則を従うんだ!」
ラウラの目が揺れる。
「ジュリーちゃん……ごめんなさい!」
ジュリーは雪に膝をつき、身動きが取れなくなる。
「うう~っ! 動けない…」
ラウラが後ろから必死に近づこうとする。
「うう……あ、足が…! ジュリーちゃん!!」
リュシーが叫ぶ。
「おい、無茶するな!」
ラウラは涙目で振り向く。
「体力はないけど……最後尾は任せて!」
リュシーは周囲を見回し、顔を歪めた。
「(撤退するのも難しい…選択を誤ったら死に繋がる! 通信で連絡取れる保証はない…!)」
突風が再び吹き、ラウラの帽子が飛ばされる。
「ああ! 帽子が!」
リュシーが即座に叫ぶ。
「諦めろ! 前だけ進め!」
ノエルが素早く雪に飛び込み、帽子を掴み取った。
「キャッチ、はい、拾ったよ!」
ラウラが受け取り、涙声で礼を言う。
「ありがとう! ノエルちゃん」
リュシーは視界を切り裂く白い渦の中で、必死に周囲を探る。
「(止む気配はなさそうだ…!)おい、指揮官とジュリーは!?」
ノエルが慌てて振り返る。
「あれ!? さっき…あ、そうだ。置いてきたんだった」
リュシーの顔が青ざめる。
「洒落になんねえぞ…くそ!(何処にいるか分からねえ!)」
風が唸り、雪が視界を完全に奪う。
声は届かず、足跡は瞬時に埋もれていく。
ジュリーと指揮官の姿は、白い闇の中に消えていた。
リュシー、ラウラ、ノエルは必死に声を掛け合いながら前へ進むしかなかった。
しかし、吹雪は容赦なく三人を飲み込み、隊は完全に分断されてしまった。
遭難――山の鉄則が、冷たく現実を突きつける。
伝説のMGを探すはずの探検は、今、命を賭けた生存戦へと変わっていた。
雪は降り続き、すべてを白く塗りつぶしていく。
ジュリー・ステイシー探検隊の運命は、まだ、誰にも分からない。