マブラヴガールズガーデン ドロテア・カークランドの雪山の流儀   作:マブラマ

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第5話 回収

吹雪の白い闇がすべてを飲み込んだ瞬間、指揮官はジュリーの腕を強く掴み、雪に倒れ込んだ。

視界はゼロ。

風の唸りが耳を劈き、雪が口と鼻を塞ぐ。

ただ、互いの体温だけが、かろうじて「生きている」ことを教えてくれる。

指揮官はジュリーを背中に庇い、雪に埋もれながら低く叫んだ。

「ジュリー! 動くな! ここで待つんだ!」

ジュリーの声が、風に掻き消されそうになりながらも返ってきた。

「う、うん……指揮官……寒い……」

二人は互いに体を寄せ合い、雪の壁に背を預けて縮こまった。

時間感覚が失われていく。

どれだけ経ったのか――一分か、一時間か、それとももっとか。突然、遠くから低く、重いエンジン音が響いた。

それは吹雪の唸りを切り裂くように、近づいてくる。

指揮官は凍りついた瞼を無理やり開き、耳を澄ませた。

「……クルマ……?」

エンジン音は止まり、雪を蹴る足音が近づく。

そして、強い光が吹雪を貫いた。

ランサーエボリューションⅢのヘッドライトだ。

ドアが開き、ハリエットがコートを翻して飛び降りる。

彼女は即座に二人の元へ駆け寄り、声を張り上げた。

「悪徳指揮官!ジュリーさん! 生きてますか!」

指揮官は雪を払い、かすれた声で返す。

「……ハリエット……よく見つけたな……」

ハリエットは無言でジュリーを抱き上げ、指揮官の腕を掴んで引き起こす。

「褒め言葉は後で。早く乗りなさい。体温低下が限界よ」

ランエボⅢの後部ドアが開き、暖かな車内が二人の体を包む。

ヒーターがフル稼働し、シートヒーターが凍えた体を溶かすように温める。

ハリエットは運転席に戻り、即座にアクセルを踏んだ。

エンジンが唸りを上げ、ランエボは四輪駆動のトラクションを活かして吹雪の中を切り裂く。

ワイパーが忙しなく動き、ヘッドライトが白い渦を照らし出す。

ジュリーはシートに沈み込み、震えながら呟いた。

「……助かった……ハリエットさん……ありがとう……」

ハリエットは前方を睨みつけながら、短く答える。

「礼は無事に戻ってから。……それに、ドロテア様の命令です。『プレ・クラス-Aの主役を、絶対に失わせない』って」

指揮官はシートに体を預け、苦笑する。

「リュシーたちとはぐれた。……あいつら、無事か?」

ハリエットはハンドルを握りしめ、静かに言った。

「リュシー様なら、ノエルとラウラを連れて生き延びるはずです。……あの人は、吹雪の中でも『Fuck You』って言いながら進むタイプですから」

車内が一瞬、静かになる。

ヒーターの温風とエンジンの低音だけが響く。ジュリーが小さく、しかし力強く言った。

「……あたしたち、まだ終わってないわよね。伝説のMG……絶対に見つけるんだから」

指揮官はジュリーの頭を軽く撫で、頷いた。

「ああ。まずは生きて戻る。それからだ」

ハリエットはアクセルをさらに踏み込み、ランエボⅢは雪煙を巻き上げて吹雪の闇を突き進む。

カークランドハウスへの道は、まだ遠い。

しかし、三人の目は、絶望ではなく、決意の光で輝いていた。

雪山は容赦ない。

だが、仲間がいる限り――ジュリー・ステイシー探検隊は、決して諦めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪の猛威は容赦なく続き、視界を完全に奪っていた。

リュシー、ラウラ、ノエルは互いに声を掛け合いながら、必死に前へ進もうとしていたが、足元は雪に埋もれ、風は体を押し戻す。

声は次第にかすれ、互いの姿さえぼやけ始める。

リュシーは歯を食いしばり、低く呟いた。

「くそっ……このままじゃ本当にヤバい……」

その時、遠くから――再びエンジンの低く力強い咆哮が響いた。

雪煙を切り裂いて現れたのは、ランサーエボリューションⅣ。

白いボディに赤いラインが映え、ヘッドライトが吹雪の闇を貫く。

ドアが勢いよく開き、ケイトがコートを翻して飛び降りた。

彼女は即座に三人の元へ駆け寄り、声を張り上げた。

「リュシー様! ラウラさん! ノエルちゃん! こっちです!」

リュシーは一瞬呆然とし、すぐに状況を理解した。

「……ケイト! よく見つけたな!」

ケイトは頰を赤らめながらも、きっぱりと言った。

「ハリィちゃんが無線で指揮官とジュリーさんを回収したって連絡が入って……私たちも探してたんです! 早く! 車に乗ってください!」

ノエルが震える声で叫ぶ。

「ケイトちゃーん! 助けてー!」

ラウラは涙目で頷き、ノエルを支えながらランエボⅣへ向かう。

リュシーは最後尾で周囲を警戒しながら、三人を車内に押し込んだ後、自分も後部座席に滑り込む。

「よし、全員乗った! ケイト、頼む!」

ケイトは運転席に戻り、即座にアクセルを踏んだ。

ランエボⅣの四輪駆動が雪を噛み、強烈なトルクで吹雪の中を突き進む。

車内はヒーターの温風で急速に温まり、三人の凍えた体がようやく震えを止めた。

ノエルがシートに沈み込み、涙を浮かべて言った。

「うう……寒かったよぉ……ケイトちゃん、ありがとう……」

ラウラは両手で顔を覆い、小さく嗚咽を漏らす。

「みんな……無事でよかった……」

リュシーはシートに深く体を預け、息を吐いた。

「……悪いな、ケイト。お前らのおかげだ」

ケイトは前方を睨みつけながら、穏やかに答えた。

「いいんです。ドロテア様が……『全員、無事に帰すこと』って仰ってましたから。

それに……私たちも、プレ・クラス-Aのみんなが無事じゃなきゃ、意味がないんです」

車内が静かになる。

エンジンの低音と、窓を叩く雪の音だけが響く。

リュシーは無線機を取り出し、心香へ連絡を入れる。

「こちらリュシー。……三人、無事回収された。指揮官とジュリーはハリエットが連れてったはずだ。オーバー」

心香の声が、わずかに安堵を帯びて返ってきた。

《……よかった。みんな、無事で。本当に……ありがとう、リュシーさん》

リュシーは小さく笑い、無線を切った。

「ったく……お嬢の言う通りだな。シミュレーション3じゃなかったら……今頃どうなってたか」

ノエルが震えながらも、拳を握った。

「……でも、まだ終わってないよね。伝説のMG……絶対に見つけるんだから!」

ラウラが頷き、涙を拭う。

「うん……みんなで、絶対に」

リュシーは前方を眺め、静かに呟いた。

「そうだな。まずは体を温めて、生きて帰る。それからだ」

ランエボⅣは雪煙を巻き上げ、吹雪の闇を切り裂いてカークランドハウスへ向かう。

ハリエットが回収した指揮官とジュリーも、すでにログハウスへ急いでいるはずだ。

雪山はまだ、試練を終わらせていない。

しかし――仲間がいる限り、ジュリー・ステイシー探検隊は、決して折れない。

車内の暖かな灯りが、三人の顔を優しく照らした。

外では吹雪が唸り続けているが、今、この瞬間だけは、希望の温もりが確かにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪がようやく弱まり始めた頃、カークランドハウスの重厚な扉が再び開いた。

最初に飛び込んできたのは、ハリエットが運転するランエボⅢの後部ドアから降りた指揮官とジュリーだった。

二人は雪を払い落としながら、凍えた体を支え合って玄関へ。

続いて、ケイトのランエボⅣが到着し、リュシー、ラウラ、ノエルがよろよろと降り立つ。

暖炉の火がぱちぱちと音を立てる大広間に、全員が集まった瞬間――心香が静かに立ち上がり、皆の顔を順に見回した。

「……みんな、無事でよかった」

その一言で、張り詰めていた空気が一気に解けた。

ジュリーは凍えた指をこすりながら、涙目で叫んだ。

「はぁ……はぁ……みんな! 生きててよかった……!」

ノエルが勢いよくジュリーに抱きつき、二人で雪まみれのまま転がるように笑い出した。

「ジュリーちゃんー! 私、すっごく怖かったよぉ~!」

ラウラは膝から崩れ落ち、両手で顔を覆って肩を震わせた。

「うう……本当に……本当に……」

リュシーは壁に背を預け、大きく息を吐いてから、にやりと笑った。

「ったく……お前ら、情けねえ顔してんじゃねえよ。生きてんだから、それで十分だ」

指揮官は暖炉の前に座り込み、皆を見渡しながら静かに言った。

「……全員、無事帰還。よくやった」

ハリエットはコートを脱ぎながら、淡々と報告する。

「吹雪のピークで全員の位置を特定できました。ドロテア様の指示通り、回収は迅速に。……怪我人は?」

ケイトが慌てて皆の体をチェックし、小さく首を振る。

「低体温症の兆候はあるけど、重傷はないです……すぐに温まってください」

ミリアムがキッチンから大きなトレイを抱えて駆け寄ってきた。

熱々のココアと、温かいスープ、毛布が山のように積まれている。

「みんな! これ飲んで! ボクが作ったよ!」

ドロテアは優雅に扇を広げ、皆を暖かなソファへと導いた。

「ふふ、ご苦労様ですわ。シミュレーション3とはいえ……本物の吹雪を味わうとは、予想以上の試練でしたわね」

リュシーがココアを一気に飲み干し、息を吐く。

「……お嬢の言う通りだ。甘く見てた。山は、いつだって本気だ」

ジュリーは毛布にくるまりながら、皆の顔を見回して、力強く言った。

「でも……あたしたち、生きて帰ってこれた。みんなで」

ノエルが頷き、涙を拭う。

「うん……だから、次は絶対に伝説のMGを見つける! 今度こそ!」

ラウラが小さく微笑んだ。

「ふふ……今は、ただみんながここにいるだけで……幸せ」

指揮官は静かに立ち上がり、暖炉の火を見つめながら言った。

「今日は休め。体を回復させて、明後日――再挑戦だ。今度は、もっと慎重に。もっと強く。ジュリー・ステイシー探検隊は、まだ終わっていない」

全員が頷き、暖かな灯りの下で、互いの体温を感じながら、静かに息を合わせた。外では、雪がまだ降り続いている。

しかし、カークランドハウスの中は、吹雪を乗り越えた絆の温もりで満ちていた。

 

全員、無事帰還。――そして、冒険は、まだ続く。

 

 

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