マブラヴガールズガーデン ドロテア・カークランドの雪山の流儀 作:マブラマ
雪原に再び仲間たちの声が響き渡った瞬間、指揮官は慌てて状況を切り替えた。
「と、とりあえず……それよりも、ジュリーに見つかったことを、伝えないとな!」
リュシーは鋭い目を細め、指揮官を睨みつける。
「何ごまかそうとしてんだ?…でも、確かにその通りだな。―――あとで事情を聞かせて貰うから覚悟しとけよ」
指揮官は内心で冷や汗を流す。
「(ぐう…先延ばしにしてるが、絶対にこれは後から事情聴取されるよなぁ……)」
リュシーがさらに詰め寄る。
「それとも、今ここで尋問受けるか?」
指揮官は即座に首を振った。
「……後で説明するよ(だけど、ラウラに見せた弱い姿を、他の皆に知られたくもないからな……)」
リュシーは少し視線を逸らし、ふと気づいたように言った。
「そう言えば、ジュリーは遭難しかけていたことを分かってない…よな?」
指揮官は頷く。
「ああ、まあ不安にならないようにって理由だけどな。おーい、ジュリー!!」
遠くで雪だるまをせっせと作り続けていたジュリーが、声を聞いて慌てて駆け寄ってきた。
雪を蹴り上げながら、息を弾ませる。
ラウラが手を振って呼ぶ。
「ジュリーちゃーん!」
リュシーが大声で茶化す。
「おーーーい! 生きてるかーーーー!死んでるのかーーーーー!返事をしろおおおおおおおおおおおお!!!」
ジュリーが到着し、得意げに周囲の雪だるまを指差した。
「あ、ラウラに指揮官! みてみて、これだけ作れたわよ!」
ラウラが目を輝かせる。
「わぁっ、雪だるまがたくさん! しっかり目立ってるわ!」
指揮官は雪だるまの列を眺め、苦笑を浮かべた。
「……作らせた俺が言うのもなんだが、ずいぶんたくさん作ったな」
ジュリーが胸を張る。
「ふふん! これだけあれば絶対に見つけて貰えるでしょ?」
指揮官は並び方を確認し、指摘する。
「……でも、SOSの形に並べること忘れてないか? これだと雪だるま作るのが好きな人になってるぞ」
ジュリーがハッとする。
「はっ!? そう言われればそうかも……」
リュシーが呆れたように呟く。
「忘れるなって…」
ノエルが目を輝かせて近づく。
「すっごーい!」
ジュリーがようやく気づき、喜ぶ。
「あ、リュシーさんにノエル!? 合流できたのね!」
リュシーが肩をすくめて笑う。
「お前のおかげで合流できたんだ。ありがとな」
ジュリーがさらに胸を張った。
「良かった……あたしが雪だるまになった意味があったわ!」
リュシーが怪訝な顔をする。
「は?」
指揮官が曖昧にフォローする。
「ああ、まあ色々とあってな……」
ノエルが少し涙目で言う。
「無事で良かったよー! 吹雪ではぐれちゃったとき、ジュリーちゃん達が心配でぐるぐる考えちゃってたんだ……」
ジュリーが明るく宣言した。
「そうね……でも大丈夫! ジュリー探検隊が困難を無事に乗り越えたんだから!」
ラウラが優しく微笑む。
「ふふ、そうね。ジュリーちゃん」
リュシーは満足げに頷き、無線機を取り出す。
「ホント、見つかって良かったぜ(ジュリーもなかなかセンスあるな…ハリエットより頭賢そうだ)よし、心香に無事伝えないとな……え?―――冗談だろ。ここだと、通信機どころかトランシーバーも使えない。ノイズばかりだ」
指揮官も自分の機材を確認する。
「リュシーもか……俺の機材が原因じゃなかったのか」
リュシーは無言で睨む。
「…………」
ジュリーが慌てふためく。
「ええっ!? そ、それじゃあ連絡が取れなくて本当に遭難しちゃうじゃない!?」
リュシーは深く息を吐いた。
「……グウ…撤退するしか、ないのか」
指揮官は静かに決断を下す。
「……リュシー、撤退しよう」
リュシーが頷く。
「……仕方ない、撤退するぞ!」
ノエルが元気よく言う。
「なら、早く離れちゃお! 心香ちゃんに早く連絡を取ってあげたいし!」
ジュリーが雪だるまを振り返る。
「そうね! やっぱり取り残されるのは不安だもの!…あ、でも雪だるまどうしよう?」
リュシーが肩をすくめる。
「折角作ったんだろ? そのままにしておけ」
ノエルが心配そうに言う。
「でも、知らない人が見たらびっくりしちゃうよね? それに、風とかで転がっても危ない気がする」
リュシーが考える。
「それもそうだな……」
ジュリーが名残惜しそうに雪だるまに別れを告げる。
「うう…そうね。それが正しい行動よね……バイバイ、雪太郎……雪次郎……スティーブ……ポール……ミシェル……ジョーダナ……サン……ドウェイン……」
リュシーが呆れる。
「後半からワイスピに出てた俳優の名前を付けてたのか。ポールってポール・ウォーカーだろ。ミシェルはミシェル・ロドリゲスだし…」
指揮官も驚く。
「雪だるまに名前付けてたのか……」
ノエルが元気よく手を挙げる。
「よーし、それじゃああたしが壊しちゃうね!」
ラウラが慌てて止める。
「あんまり走っちゃダメよー!」
指揮官は通信不良の原因を考えながら呟く。
「しかし、なんで通信ができないんだ?」
リュシーが茶化す。
「知るか! ポールに聞けよ」
指揮官が苦笑する。
「雪だるまに聞いても何も答えないと思うぞ」
リュシーが周囲を見回す。
「どうすんだ? また吹雪に巻き込まれたら、ヤバいぞ。ログハウスに帰るか?」
指揮官が頷く。
「そうだな……流石にログハウスに向けて帰る方がいいか」
ラウラが少し寂しげに言う。
「もしかして皆で帰るの?」
リュシーが説明する。
「通信が繋がらないし、それに心香を心配させちまうだろ? 撤退だ」
ラウラが肩を落とす。
「うん………そうだよね。折角ここまで来たのだから、何か見つかればよかったのに」
リュシーが優しく励ます。
「伝説のMGなんか簡単に見つからねえ……でもな、それを上手く乗り越えたら、いつか成果になる」
ラウラが目を輝かせる。
「リュシーさん……ありがとう! ドロテア様の側近メイドに言って貰えると心強いわ」
リュシーが照れくさそうに首を掻く。
「おいおい、よせって。照れるじゃないか……でもあたしはお嬢と違って頭悪いよ」
ラウラが首を振る。
「そんな事ないわ。リュシーさんも雪山の知識が豊富で凄く、強い人よ」
リュシーが少し誇らしげに続ける。
「それにさ、ピクシス・マスールはユーロ・タワーの中で最強だ。ま、ザルトゥーム学園全体だとシリウスシュガーの方が上だな」
ラウラが頷く。
「そうね。私達にとってもシリウスシュガーはカッコ良くて、ああなりたいって思える凄いチームだわ」
リュシーは内心で拳を握る。
「(凄いチーム……か。(バトルロワイヤルの時は不戦勝だったが、次こそは……次こそは勝利してみせる!))」
突然、ノエルが叫んだ。
「いったぁあああああ!?」
リュシーが慌てて振り返る。
「どうした!?」
ゴンという鈍い音と共に、ノエルが足を抑えて涙目になる。
「うう……雪だるまを蹴って壊していたんだけど、岩の近くにあったやつを狙ったら、岩ごと蹴っちゃって……」
リュシーが駆け寄る。
「大丈夫かよ…!? どこをぶつけた?」
ラウラがバッグを漁りながら言う。
「大変! すぐに行くからね! 私のバッグに応急手当用の道具が入ってるから!」
指揮官も驚く。
「いきなりでビックリしたぞ……」
ノエルが申し訳なさそうに言う。
「うう……ごめんね? 壊すのが楽しくなっちゃって……」
リュシーがため息をつく。
「………お前ら、あとで説教してやるからな」
指揮官は内心で苦笑する。
「ぐぬぬ…」
ふと、ノエルが蹴った「岩」を見て違和感を覚える。
「……ん? なんかおかしくないか?」
リュシーがからかう。
「おかしいのはお前のセンスだろうが」
指揮官が真剣に言う。
「違うぞ? ノエルが蹴った岩なんだが、さっき蹴ったときの音、おかしくなかったか?」
リュシーが目を向ける。
「お前、何を言って――――え?!」
全員の視線がその「岩」に集中した。
雪に埋もれていたが、質感が明らかに金属的だ。
ジュリーが興奮して言う。
「あれ? たしかにそうよね……ちょっと気になるわ! 雪を掘ってみるわね!」
ラウラがすぐに手伝う。
「ジュリーちゃん、待って! 私も手伝うわ!」
リュシーが加勢する。
「あたしも手伝うぞ!」
ノエルも痛みを忘れて参加。
「私もいくー!」
四人で雪を掘り進めていくと、徐々に現れたのは――。
ジュリーが息を呑む。
「…えっ!? これって…見覚えがあるわ!」
リュシーが目を細める。
「……岩じゃないな。これは、MGのマニピュレーターの部分か!?」
ラウラが驚く。
「え?」
リュシーが確信を持って言う。
「―――間違いない。これはMGだ。ここに眠ってる可能性が高い」
ジュリーが飛び上がる。
「うそ!? 本当に見つけちゃった!?」
リュシーが興奮を抑えきれず笑う。
「こんなの奇跡としか言えねえだろ……」
ラウラが目を輝かせる。
「これが、ザルトゥーム学園に伝わる七不思議の、雪山に眠っている伝説のMG…?」
リュシーが頷く。
「まさか実在してたとは……とんでもねえ大発見だぞ」
ジュリーが拳を握りしめる。
「すごい! すごいわ! これは最高の実績になるわね!」
リュシーが穏やかに言う。
「あたしは偶然見つけただけだ。実績はプレ・クラス-A――アンタらに譲ってやるよ」
ラウラが喜ぶ。
「やったわね! ジュリーちゃん!」
指揮官は呆然と呟く。
「…まさか、本当に見つかるだなんて」
リュシーが笑う。
「こりゃあ驚いたぜ……」
ジュリーがさらに掘り進めようとする。
「まだまだ掘り出せそう! あ! 目印も必要よね!? 雪だるまで目印にしたらいいわよね!」
リュシーが苦笑する。
「また作るのか? 次来るとき残ってるか分からないぞ」
ジュリーが少し落ち込む。
「そうよね…」
リュシーがため息をつきながら言う。
「ったく、しゃあねえな。ほら鞄で何か目印になるモノないか探すぞ。ノエルも手伝え」
ノエルが元気よく応じる。
「はーい!」
リュシーは掘り出したパーツを眺めながら、ふと閃いた。
「指揮官」
指揮官が振り返る。
「なんだ?」
リュシーが推測を口にする。
「あたしの推測だけど、通信が繋がらない理由分かった気がする」
指揮官が目を丸くする。
「何か分かったのか?」
リュシーが頷く。
「ああ、MGが原因かもしれない」
ラウラが驚く。
「え? 通信不良の原因がMGなの!?」
リュシーが説明する。
「かもな…恐らくこの機体は訓練用の機体ではなく戦闘用の機体。―――殺す目的で作られたMGだ」
指揮官が息を呑む。
「!?」
リュシーが続ける。
「お嬢から聞いた話だと、戦闘用として殺すために作られたMGが存在しているとしか言われたが……この機体は通信を傍受する……所謂通信妨害用のジャミングを積んでいる」
ラウラが目を丸くする。
「そうなのね……私、MGに乗ってるのに知らなかったわ」
リュシーが肩をすくめる。
「まあ、この機体は公の場には一切出してない…旧東ドイツの『戦術機』…旧ソ連が作り出した機体だ」
指揮官が呟く。
「戦術機……?」
リュシーが頷く。
「今では、端末があるから無線で対策してたらそんなことは一切ないな」
指揮官は内心で思う。
「(ヒントは今まで転がっていたわけか……)」
リュシーが皆を促す。
「その東ドイツは西と統一して消滅したが、その一方ソ連は暫く存続したがクーデターが起きて失敗して崩壊した――さあ、早く戻って安心させなきゃな!」
ジュリーが名残惜しそうに言う。
「えー!? でも、まだ目印が……」
指揮官が安心させる。
「心配するな! リュシーたちがマッピングして行き方は覚えてる! だから、今はログハウスに戻って休むのが先決だ!」
ジュリーが頷く。
「そうなのね! なら安心ね!」
ノエルが興奮してつまずく。
「それじゃあ、早く心香ちゃんに教えるように……わわわ!?」
ジュリーが慌てる。
「ノエル!?」
リュシーが駆け寄る。
「大丈夫か!?」
ノエルが痛そうに笑う。
「あいたた……うっかりしちゃった」
リュシーがため息をつく。
「全く、興奮し過ぎだぞ…気持ちは分かるが。ログハウスに戻るぞ!」
指揮官が皆を促す。
「それじゃあ、帰るぞ」
ラウラ、ノエル、ジュリーが元気よく応じる。
「はーい!」
そうして指揮官達は、伝説のMG…”戦術機”を発見するという奇跡を胸に、無事にログハウスへと帰還したのだった。
雪山の試練は終わった。
そして、プレ・クラス-Aの新たな一歩が、ここから始まる。