名探偵シェリーちゃんの事件簿   作:青山風音

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※※※ 警 告 ※※※


Ⅰ.【魔法少女ノ魔女裁判(まのさば)】の二次創作です。

Ⅱ.本編のネタバレを含みます。未クリアの方が読むことを全く考慮していません。

Ⅲ.殺人事件が起きます。流血や死体などの暴力表現、法律や道徳倫理に反する内容を含みます。

Ⅳ.【被害者・犯人・犯人候補(オリジナルキャラクター)】が登場します。【死んでも胸が傷まないモブキャラ】と、前向きに捉えていただけると幸いです。

Ⅴ.作者はこれをミステリーと呼んでいますが、謎解きの公平性を保証するものではありません。

Ⅵ.作者は魔女でも殺人鬼でもないため、作中に登場する魔法殺人の実現可能性は保証できません。

Ⅶ.本作品の内容は【金田一少年の~】シリーズや【探偵学園~】に大きな影響を受けています。【牢屋敷】、【裁判】、【少女だけ】の物語を読みに来た方の期待には応えられません。あらかじめご承知おきください。

Ⅷ.本作品には作者の妄想・幻覚・捏造・独自解釈・独自設定を初めとした公式設定との食い違い、キャラ崩壊、解釈不一致、誤字・脱字、物語上の矛盾などの【不自然さ】が含まれる可能性があります。あらかじめご承知おきください。もしかしたら意図的に仕込まれた【伏線】かもしれません。


水晶魔法殺人事件
日常編①


 荘厳なる鐘の音が幾度となく鳴り響く。

 張り詰めた緊張感の裁判場。

 円形に並んだ証言席に立つのは揃って少女たちであり、その誰もが真剣な表情を浮かべている。

 やがて一人の少女が口が開いた。

 

「この事件の犯人はきみだ」

 

 その言葉に、残りの少女たちの視線がある一点へと向かっていく。

 

「橘シェリーちゃん!」

 

 名前を呼ばれたその少女、橘シェリーは一瞬、口元を引き締めたように見えた。

 そこに浮かんでいたのは、ほんのわずかな悔しさ。そして未練。

 しかし、すぐに彼女は楽しそうに目を輝かせ、自身を告発した相手へ敬意を示すかのように言い放つ。

 

「いやー、渾身のトリックだと思ったんですけどねー。さすがです!」

 

 およそ反省とは無縁のその態度に、周囲からどよめきが起こる。

 

「そう! この名探偵シェリーちゃんこそが犯人なのでした~!」

 

 

 

「──じゃあ橘さんに答えてもらいましょう」

「……はえっ?」

 

 シェリーがいたのは裁判場ではなかった。

 周囲でどよめく同年代の子どもたちはいずれも学生服を着ており、男女が合わさった均等な顔ぶれをしている。

 そして彼ら全員が座っている中、シェリーだけが立ち上がった状態で右手を掲げていた。

 

「どうしました? まさか寝ぼけていたわけではありませんよね?」

 

 前方からしわがれた声の男性が話しかけてくる。

 その頃になってようやくシェリーも、何か異常事態が起きていると気づいた。

 

(そうでした! 私は教室で授業を受けていたんです! 牢屋敷も魔女裁判も、ここには存在しない。なら、私が今まで見ていた光景はなんだったのでしょう? もしかして、このクラスの中に催眠術の魔法を使える人が……!?)

「シェリーさん、答えは【明智ミツヒデ】ですわ」

 

 シェリーの後ろの席から、小さな声が聞こえてくる。

 その瞬間、彼女の脳は一気に活性化した。

 

「そう、織田ノブナガさんを殺した犯人は明智ミツヒデさんだったんです! ミツヒデさんはまず、ノブナガさんの首をロープで絞めて殺害! そして怪力の魔法で寺を持ち上げ、死体を下敷きにして隠したんです! 最後は寺に火をつけて──」

 

 シェリーの言葉は、教室中から沸き起こる笑い声にかき消された。

 彼女の後ろに座っていた少女、遠野ハンナは一人、頭を抱えていた。

 

 

 


 

 

 

 放課後。シェリーとハンナは、人の出入りもまばらな校舎の隅に位置する、まるで学校側から追い立てられたような部屋にいた。

 扉には【ミステリー同好会】の文字が印刷された張り紙があり、手書きの可愛らしい文字で【事件・謎解きの調査依頼募集中☆】と付け加えられている。

 不意に、室内で大きな声が轟いた。

 

「もう、シェリーさん! あまり恥ずかしいことをしないでくださいまし! わたくし顔から火が出るところでしたわ!」

「しかたないじゃないですかー。あれは誰かが私に魔法を使ったんですよ!」

「そんなわけないでしょう。あれからもう数ヶ月も経つんですのよ」

 

 大魔女。魔女因子。魔女裁判。魔法。

 かつて秘密裏に世界を破滅へと導いていたこれらの言葉は、今や過去のものとなりつつあった。

 その一大事を解決に導いた十二人の少女たちは、世界各国の強いる情報統制に翻弄されながらという条件付きではあったが、各々が望む日常を手にしていた。

 シェリーとハンナが選んだのは牢屋敷からの帰還。そしてごく一般的な高校生活だった。

 

「はぁ……せっかくシェリーさんと同じ高校に通えるよう尽力していただいたのに、こんなに苦労が絶えないとは思いませんでしたわ~」

「別にハンナさんが苦労する必要はないんじゃないですか? 恥をかいたのは私だけですし」

「わたくしはあなたが周りの方に笑われるのが……、……あーもう! ともかく、せめて勉強くらいはまともにやってくださいまし! あなただけ留年なんてことになったらシャレになりませんわ!」

「うーん、私は別に、自分が馬鹿だと思ったことはないんですけどねー。むしろ想像力が優れすぎているというかー」

 

 そう言って、シェリーは顎に手を当て、唸り始める。

 

「たとえば【織田ノブナガさんが本能寺で殺された】って言われても、うまくイメージできないんですよね」

「犯人とか凶器とか、そういう情報が必要なんですの?」

「それもありますが、一番の要因は【表現】です」

「表現?」

 

 ハンナは首を傾げて考えてみるが、シェリーが何に悩んでいるのか全く想像もできない。

 

「はい! 【本能寺で殺された】という表現ですと複数の解釈が可能です。ハンナさんが考えている【killed at 本能寺】だけでなく【killed by 本能寺】も日本語だと同じ表現になるんです!」

「なるほど、【本能寺を用いて】……って、本能寺は武器じゃねーですわ!」

「あの頃の私ならできました! 撲殺ならぬ本能寺殺です!」

「想像力がトチ狂ってますわ~!?」

 

 そんな何気ない、あるいは突拍子もない会話を続けながら時間が過ぎていく。

 

「それにしても依頼、全然きませんねー」

「そりゃ、探偵事務所じゃないんですから。わたくしたちはあくまでミステリー同好会ですのよ」

「でもでも、ちゃんと表の紙にも書いてるんですよ。殺人事件の一つや二つ、あってもよさそうじゃないですかー!」

「よくねーですわよ! そんな殺伐とした学校だったら、大急ぎで転校してやりますわ!」

 

 ──その時だった。

 扉をノックする音が二度、三度と鳴る。

 

「おおー! 噂をすれば! ついにきましたよ、ハンナさん!」

「そう言って依頼だったためしはなかったじゃありませんの。どうせ用務員さんの見回りか何かですわ」

 

 ハンナは、気乗りしないといった素振りで席を立ち、部屋の入口へ向かう。

 そして扉を静かに開けたところで──

 

「ぴっ……!?」

 

 小動物のような短い声を上げた。

 

「ハンナさん、どうしました?」

「しぇ、シェリーさん! た、たたた大変ですわっ!」

 

 慌てて後退りするハンナを追うように、来訪者が部屋へと入ってくる。

 その姿を前に、シェリーは思わず目を丸くした。

 

「…………」

 

 来訪者は無言で一つ、礼をした。

 葬儀会場にでも来たかのように、黒い礼服に身を包んだ高齢の男性。数多の皺が刻まれた顔つきとは裏腹に、彼の背筋はピンと伸びており、まだまだ若さを感じさせる。

 だが、それよりも問題なのは、彼が手にしていた【鳥カゴ】だった。

 そこに入っている生き物をシェリーたちは知っている。

 

「はじめまして……じゃないんですが、どうせ私のことなんて忘れてますよね? ですので、はじめまして。私、ゴクチョーと申します」

 

 魔法少女を牢屋敷に拉致し、囚人生活を強いた存在。

 魔女裁判を開き、魔女に選ばれた少女を残忍な形で処刑し、なれはてへと変えた存在。

 今の彼女たちにとっては悪夢の中にしか出てこない、非日常の登場人物と呼ぶに相応しい一羽の鳥が、そこにいた。

 

「よくもまあ、おめおめと顔を出せたものですわね! あなたがわたくしたちにしたこと、忘れたとは言わせませんわ!」

「はて? 私、何かしちゃいました? いや、身に覚えはあるんですがねぇ、さすがにちょっと多すぎまして。何に対してのクレームなのか、もう少し具体的に言ってもらわないと……」

「こ、この鳥ぃ~~~!」

「落ち着いてください、ハンナさん!」

 

 シェリーはハンナを庇うように、前に立つ。

 

「一体、何の用でしょう? 私たちはもう魔女因子のない普通の人間です。たまに専門的な方々がやってきて経過観察をお願いされることはありますけど、ゴクチョーさんと関わる理由は無いのでは?」

「いやはや、それが私も色々とありましてねぇ。今はその専門的な【機関】の一員でして、魔女因子の撲滅に力を注ぐ毎日なんですよ」

「あ、あなた魔女側じゃないんですの!? どうしてそんな……」

「まぁ、流れで……ですかねぇ? 特に深い理由はありませんよ。皆さんも社会に出る年になればわかります」

 

 ゴクチョーの達観した物言いに、二人はポカンとするだけだった。

 

「では、お連れの方は同僚でしょうか? それとも飼い主とか?」

 

 シェリーの視線が、未だに無言を貫く老人の方へ向く。

 すかさずゴクチョーが言った。

 

「こちらは……まぁ、特にお話には関わってこないので気にしないでください。私だけで飛び回ると保健所に通報されてしまうので、仕方なくこうして人間に運ばせているんですよ。まったく面倒ですよねぇ……」

「じゃあ、本体はあくまでゴクチョーさんなんですか?」

「えぇ、そうですよ。かわいいフクロウの私が主人です。名刺だって私の名前で……あぁ、そうでした。ほら、さっさと名刺を渡しなさい。まったく、あなたの仕事が遅いせいで私のビジネスマナーが疑われたらどうするんです?」

 

 ゴクチョーにせっつかれて、老人は懐から名刺を出す。

 確かにそこにはゴクチョーの名前で、役職や連絡先が記載されていた。

 

「……あの、お連れの方の名刺は? お名前くらいありますよね?」

「別にありませんが。どうしても私と区別したいのであれば、福老(ふくろう)とでも呼んでください」

「紛らわしいですわね……」

「それで、用というのはですねぇ。あ、立ち話もなんですから座りませんか? 私はもう座っているので別にこのまま喋り続けてもいいんですが」

 

 シェリーとハンナは互いに顔を見合わせる。

 放っておいても勝手に話し続けるだろうし、拒んでも帰るつもりはなさそうだ。

 二人は仕方なくゴクチョーを招き入れることにした。

 そして、その【用事】こそが始まりだった。

 普通の高校生として暮らしていた橘シェリーと遠野ハンナ。二人を再び魔法少女の世界へと引きずり込んでいく、新たな殺人の──

 

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