名探偵シェリーちゃんの事件簿   作:青山風音

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【登場人物】
【橘シェリー】
 高校生。怪力の魔法を持つ魔法少女。
【遠野ハンナ】
 高校生。浮遊の魔法を持つ魔法少女。
【ゴクチョー】
 名目上はフクロウ。かつて牢屋敷の管理職を務めていた元・獄長代理。現在は魔女因子専門の対策組織に在籍。
福老(ふくろう)
 ゴクチョーが人間社会に溶け込むために必要な飼い主役。
【水晶の魔女】
 全身黒タイツのシルエット。蓮見レイアが演じているため、口調から正体を推理することはできない。
高根(たかね)セーラ】×
 児童養護施設・水晶の家の施設長。施設裏手より繋がる森林内にて、全身を押し潰された死体となって発見された。
毬山(まりやま)ルビー】×
 施設の年長者。赤髪のお人好し。乾燥の魔法を持つ。施設の花壇を囲むレンガに、後頭部を打ち付けて死亡していた。
倉兼(くらがね)ナッツ】
 施設の年長者。水色髪の人見知り。ルビーとは幼馴染。液体彫刻の魔法を持つ。
天戸(あまと)リシア】
 施設の年長者。緑髪のメガネ少女。悪い噂に目がない。風力操作の魔法を持つ。
入地(いりち)ローネ】
 施設の年長者。茶髪の長身。外出が多い。土砂の魔法を持つ。
加々良(かがら)カチオ】×
 カガラ・クリスタルホテルのオーナー。運転が荒い。自家用車の運転席にて、右目を矢で撃ち抜かれて死亡していた。
霧谷(きりたに)クオレ】
 前・施設長。三年前に死亡。




事件編⑥

 捜査の再開にあたり、二人が真っ先に訪れたのはカガラ・クリスタルホテルだった。

 シェリーは【洋弓銃射撃場】のプレートのついた扉を開け放つと、自身が散らかした用具置き場の部屋へと向かう。

 彼女の後ろを歩くハンナは、その惨状に思わず腰が引けたようだった。

 

「予想していた三倍はメチャメチャですわね……。棚が入口をふさいでしまっていますわ」

「そうですねー、私も自分の身を守るのに必死でしたし。ですが幸いなことに、倒れた棚が犯人の出入りを防ぐバリケードとして機能しています。犯人が私を殺そうとしてまで隠したかったものは、まだこの中に残っていますよ」

 

 シェリーは「よいしょ」の一言と共に棚をおしのける。

 彼女が自衛のために投げつけたこの棚は、元は犯人が何かを隠す壁として利用していたものだ。

 つまり、その何かはもう剥き出しの状態で、部屋の中に晒されている。

 

「これは赤い……布、ですの? 随分と大きいですわね。人一人包んでも余りそうなサイズですわ。それに何だか破れているような?」

「そうですね、縦方向に一本、細い亀裂が入っています。これはおそらく刃物で引き裂いた跡。セーラさんの死体の近くに落ちていた包丁を使った、ということだと思います」

「つまり、セーラさんの事件に関わる証拠品ということですわね」

「そうなりますね。森に捨てるには色が目立ちすぎますし、この大きさでは切り刻むのも燃やすのも容易にできることではありません。目立たない場所に隠すしか無かったわけです」

「ただ、問題はそこじゃありませんわね」

「はい。肝心なのは、犯人がこれを使って【何をしたのか】です」

 

 その答えは必ず、この証拠品の中にある。

 シェリーは虫眼鏡を構え、じっくりと布の端から端まで調べていく。

 

「……あれ? ハンナさん、これ血痕がついています」

「本当ですわね。赤地で見にくいですけれど……うげっ、よく見るとものすごい量ですわ」

 

 布の一部には、1メートルは優に超える範囲で、赤い染みがこびりついていた。

 布自体は大雨の中で使用したのだろう。全体はまだ乾いておらず、水滴が散見していたが、その染みは洗い流されずに残っていた。

 

「うぅぅ、ノアさんの魔法の偉大さを身にしみて感じますわ……」

「確かに、貴重な手がかりが自分から寄ってくる感じは微笑ましいですよねー」

 

 ハンナは牢屋敷で体験した【血が蝶になる】という現象を思い出す。

 一方のシェリーは平然とした様子で、その血を見つめていた。

 

「……見えてきましたよ、ハンナさん」

「何がですの?」

「この布の役割です。【あの人】ならそういう使い道ができるんですよ」

 

 シェリーの思い描く可能性。

 それを説明されたハンナは思わず目を見開いていた。

 

「そ、そんなことが可能なんですの!?」

「計算してみればわかりますよ。あの水晶玉の直径を3メートルと考えて……」

 

 シェリーはスマホの電卓アプリを起動し、数字をタップしていく。

 

「で、ここに3を──」

「あっ、ちょっと! そこは3じゃありませんわ」

「えー? そんな算数のテストじゃないんですからー。ならいっそのこと限界まで入れてみます?」

 

 シェリーは渋々と言った顔で5回、6回と数字を入力していく。

 そして、最後に表示された計算結果の数字を上から読み上げた。

 

「【14137……】ですね。これだけの数字なら確実です」

「それじゃあ!」

「セーラさん殺しは解決ですね!」

 

 一つの大きな解答を導き出せたおかげか、シェリーの声に活気が戻る。

 

「次は加々良さんですね、行きましょう!」

 

 もうこの部屋に長居する理由はない。

 シェリーは用具置き場の入口へ向かい……。

 

「きゃっ!」

 

 ハンナが小さい悲鳴を上げる。

 彼女の顔がシェリーの背中にぶつかったためだった。

 

「もう! 急に立ち止まらないでくださいまし!」

「…………」

「ちょっとシェリーさん、聞いてますの!?」

「犯人はこの位置から──」

「聞いてませんわね……」

 

 ハンナが呆れ返る横で、シェリーはボウガンを構える仕草をする。

 

(何でしょう、この違和感。……距離は4メートルくらいでしょうか。矢は私には当たらずに……)

「本当に危ないところでしたわね、背中から不意をつかれたなんて。こうして生きてるのが奇跡みたいなものですわ」

「……! それです、ハンナさん!」

「へ?」

「事実、私はこうして生きています! では、その理由は本当に奇跡だったのでしょうか? もし他に理由があるとしたら?」

 

 シェリーがスマホを取り出す。

 画面に映し出されたのは、運転席で死亡している加々良の死体だった。

 

「そうですよ……運転中の加々良さんに【こんな風に】撃ち込むなんて、狙ってできることではありません! 犯人はきっと……、……そう考えれば、私に矢が当たらなかったのも納得です! 私が生きているのは奇跡じゃなくて順当な結果だったんです!」

「え、えっと……???」

「あ、すみません。一人で盛り上がってしまって。でも、こうやって周りを置いてきぼりにするのって【探偵】って感じがしますよねー!」

「いいから! わかりやすく説明してくださる!?」

「うーん、といっても、まだ全て説明できるわけじゃないんですよね。加々良さんの車のドアが開いていた理由はわかったのですが、【運転中に何をされたのか】がわかっていません。それが一番重要なことなんですが──」

 

 その時、シェリーのスマホが再び不吉な音をならした。

 通知されていた番号は先程と同じ。

 シェリーは急いで通話ボタンを押す。

 

「ローネさん!? まさか、また誰かが!?」

「あぁ、シェリー。いや、そうじゃなくて……ちょっと聞きたいことがあってね」

「なんだ、よかったです」

 

 ほっとするシェリーを見て、ハンナも少しだけ安心した。

 同時に、かつては事件発生をウキウキしながら待ち望んでいた友人の変化を感じ、嬉しくなった。

 

「それで、何の用事でしょう?」

「石鹸だよ。いつも置いてある場所に無いんだけど。何か知らないかい?」

「……あぁ! そういえば昨日の晩、隠しておいたのを言い忘れてました! 子どもたちがお風呂でスケートして危ないかなーと思いまして!」

「隠したぁ!? どこに!?」

「えっと、確か──」

 

 電話口に石鹸の場所を教え、シェリーは電話を切る。

 

「……シェリーさん、包丁だけじゃなくて石鹸まで隠してたんですの? 前から思っていましたけど、あなた一人で暗躍しすぎですわよ」

「暗躍って、人聞きの悪いこと言わないでください! 子どもたちの怪我を未然に防ごうとしただけです! せめて地雷撤去と呼んでくださいよ!」

「生活必需品は地雷じゃねーですわよ! ほんっと、シェリーさんが一番、手のかかる子どもなんですから!」

「そんなことないです! 私、お風呂でスケートなんてしませんよ~!」

「そもそもお風呂でスケートってどういう意味ですの!? 湯船が凍るわけないでしょうに!」

「え? もしかして、やったことないんですか? ほら、足の裏に石鹸を塗って、お風呂場のタイルの上をスケートみたいに滑る遊びですよ!」

「そんなアメンボみたいなマネ、するわけないでしょう!」

 

 ハンナは全く理解ができない、と首を振った。

 

「いえいえ、ハンナさん。アメンボとは原理が違いますよー! アメンボの足は水を弾いて浮いているのであって、石鹸みたいに摩擦を減らして滑っているわけではありません! 逆に石鹸を塗ると水を弾けなくなって沈んでしまうんです!」

「例えですわよ、例え。そんな雑学を聞かされても、役に立つとは思えませんわ」

「…………」

「シェリーさん?」

 

 ふと見ると、シェリーの動きが止まっていた。

 人差し指を立てて、得意げに知識を披露する姿勢のまま、彼女はどこか別のところを見ていた。

 

「…………まっ、まさかっ!!」

「えっ? ちょ、シェリーさん!?」

 

 シェリーが一目散に走り出していく。

 突然の出来事にハンナは戸惑うが、すぐに彼女の背中を追いかけ始めた。

 その間、再三とかけられる静止の声にも、シェリーは全く足を止めることはない。

 そうしてシェリーがやってきたのは、ホテルと施設の間にある道路だった。

 その先には半壊した自動車と加々良の死体が待ち受けている。

 

「ぜぇぜぇ……! きゅ、急に一体……!」

「…………」

 

 息を荒げるハンナに背を向けたまま、シェリーは道路を見つめていた。

 傍から見れば、ただ呆然と立ち尽くしているかのような雰囲気だった。

 ……しかし、彼女が次に放った言葉は、聞いていて思わず姿勢を正しくなるような、強く引き締まった口調だった。

 

「そういうことだったんですね……!」

「な、何が……?」

「今は、ちょうど子どもたちがお昼寝している時間です。ハンナさん、年長組の三人を職員室に集めてくれませんか? 私はゴクチョーさんに連絡を入れます」

「っ!? そ、それってつまり──」

「──犯人の魔法は解けました!」

 

 

 

「それじゃあ、やっぱり……!」

 

 シェリーから簡単な説明を受けたハンナは、心苦しそうに胸を抑える。

 

「【やっぱり】ですか。ハンナさんも自分なりに目星をつけていたってことですね」

「だてに牢屋敷で過ごしてきたわけではありませんもの。でも、わたくしの主観で何か言っても、シェリーさんの推理の邪魔になるだけでしょう?」

「お気遣い、ありがとうございます」

「では、わたくしは先に行ってみなさんを集めておきますわ。シェリーさん、よろしく頼みますわよ」

「はい! お任せください!」

 

 ハンナが施設の中へと走っていく。

 シェリーはその背中を見送ると帽子をそっと取り、施設を囲む石塀の上に置いて歩き出す。

 やがて数歩ほど距離を取ったところで帽子の方へ向き直ると──世界が暗転していく。

 

 

 


 

 

 

 みなさん、見ていますよね?

 私の帽子に取り付けられた白い鳥。ハンナさんは伝えていませんが、これが小型の監視カメラになっていることにはとっくに気づいていましたよ?

 何しろ盗聴・盗撮といえば探偵の専売特許ですからねー!

 

 あ、私がスポットライトに照らされていることは気にしないでください。ゴクチョーさんに頼んで、編集で入れてもらっています。

 私とハンナさんのプライバシーを侵害したわけですから、それくらいはやってもらえますよね?

 解決編を前にした、ある種のお約束な演出というやつですよ。

 一度でいいからやってみたかったんですねー!

 

 ……こほん。

 

 さて、これを見ているみなさん。

 どうでしょう? みなさんには犯人がわかりましたか?

 実を言いますと、私もハンナさんも犯人の正体には気づいていました。

 ただ、単なる主観的な【なんとなく】であって、別に何か根拠があるわけではありません。

 おそらくは、私たちの牢屋敷での体験に基づく経験則と言えるものだと思います。

 いずれにせよ、みなさんに同じ過程を強いるのはアンフェアですよね。

 あくまで一つのメタ情報だと思って、それ以外の手がかりを中心に考えてみてほしいです。

 

 ちなみに、ここまでご覧になっていただいたみなさんにはおわかりかと思いますが、私たちはルビーさんの事件については何の捜査もしていません。

 彼女の死体を調べれば、もっと決定的な手がかりが見つかるかもしれませんが、事件解決のためには必ずしも必要ではないと考えました。

 別に、手を抜いたわけではありませんよ。

 ただ、私がそうしなきゃって思ったんです。

 論理ではなく人の心に向き合う。

 この事件を正しい形で終わらせるために、私自身を変えないといけないんです。

 まあ、そのことは解決編で明らかにするとして……。

 

 ヒントは4つ!

 

 【車の走っていた道路】

 【誰がいつ車のドアを開けたのか】

 【14137という数字】

 ……そして【私とハンナさんだからこそ気づいた犯人像】

 

 【水晶の魔女】は誰なのか?

 どうやって殺しを行ったのか?

 ぜひ、考えてみてください。

 

 正しい選択肢は1つです!

 

救護室に撃ち込まれた予告状の差出人【水晶の魔女】は誰?

  • 橘シェリー
  • 遠野ハンナ
  • 高根セーラ
  • 毬山ルビー
  • 倉兼ナッツ
  • 天戸リシア
  • 入地ローネ
  • 加々良カチオ
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