名探偵シェリーちゃんの事件簿   作:青山風音

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【登場人物】
【橘シェリー】
 高校生。怪力の魔法を持つ魔法少女。
【遠野ハンナ】
 高校生。浮遊の魔法を持つ魔法少女。
【ゴクチョー】
 名目上はフクロウ。かつて牢屋敷の管理職を務めていた元・獄長代理。現在は魔女因子専門の対策組織に在籍。
福老(ふくろう)
 ゴクチョーが人間社会に溶け込むために必要な飼い主役。
【水晶の魔女】
 この事件の犯人。
高根(たかね)セーラ】×
 児童養護施設・水晶の家の施設長。施設裏手より繋がる森林内にて、全身を押し潰された死体となって発見された。
毬山(まりやま)ルビー】×
 施設の年長者。赤髪のお人好し。乾燥の魔法を持つ。施設の花壇を囲むレンガに、後頭部を打ち付けて死亡していた。
倉兼(くらがね)ナッツ】
 施設の年長者。水色髪の人見知り。ルビーとは幼馴染。液体彫刻の魔法を持つ。
天戸(あまと)リシア】
 施設の年長者。緑髪のメガネ少女。悪い噂に目がない。風力操作の魔法を持つ。
入地(いりち)ローネ】
 施設の年長者。茶髪の長身。外出が多い。土砂の魔法を持つ。
加々良(かがら)カチオ】×
 カガラ・クリスタルホテルのオーナー。運転が荒い。自家用車の運転席にて、右目を矢で撃ち抜かれて死亡していた。
霧谷(きりたに)クオレ】
 前・施設長。三年前に死亡。




解決編①

 カーテンの閉められた職員室に、魔法少女たちは集められていた。

 ナッツ、リシア、ローネ。彼女たちはいずれも憔悴しきった顔をしていた。

 それはまるで無機質な蛍光灯の光が、彼女たちの生気を吸い取っているかのようだった。

 そんな彼女たちの様子を見守りながら、ハンナは探偵の到着をそわそわと待つ。

 

「おまたせしました!」

 

 入口の扉が開き、シェリーが明るい声で登場する。

 

「シェリーさん、遅いですわよ」

「すみません、色々と準備に時間がかかってしまいまして」

 

 そんなシェリーの不釣り合いな笑顔に、多くの少女たちが警戒する素振りを見せる。

 

「橘さん。一体、何の用事なの?」

「ふっふっふー、もちろん謎解きですよ。他の子たちが起きないうちに済ませようと思いまして」

 

 謎解き。その言葉を聞いたナッツが、すぐに食ってかかる。

 

「そんなの今さら何の意味があるんだよ。ルビちゃんはもう……」

「ナッツ、やめな」

 

 ローネが制すると、ナッツはあっさりと押し黙った。

 かつての爆発的な怒りは底をつき、今は静かな悲しみに満ちているようだった。

 

「なぁ、シェリー。これ以上、何かを引っ掻き回すのはやめにしないかい? ナッツが今言ったように、そんなことをする意味なんてないじゃないか。あたいたちは、もうそっとしてほしいんだ。謎解きなんか警察に任せて──」

「ローネさん、残念ながら警察は既に手を引いています」

「え……!?」

「なぜなら、この事件は魔法による殺人の疑いがあるからです。その場合は警察の手に負えない大きな問題とみなされ、専門的な組織に指揮系統が移ります。犯人を見つけることよりも、犯人を封じ込めることを重視する組織なんですよ」

 

 あまりにも唐突なシェリーの言葉に、ローネは困惑しているようだった。

 

「……と、その前に説明しておかなければなりませんね。すみません、私とハンナさんは、実はただのボランティアではなかったんです」

 

 シェリーはペコリと頭を下げ、スマホの画面を少女たちに向ける。

 その画面はビデオ通話中だった。

 

「こちらがその専門的な組織に所属するゴクチョーさんです。ゴクチョーさん、私が言ったことが本当のことだと説明してあげてください」

「…………え? 私が説明するんですか? こんなただのかわいいフクロウよりも、もっと見た目が偉そうな人に説明させた方が──」

「さっさとなさいまし! あなたみたいなバケモノが人の言葉を喋ってる時点で説得力しかありませんわ!」

「あの……そんな傷つくこと言わないでくれます? まったく……」

 

 渋々と言った態度でゴクチョーが話し出す。

 ここまでされては、少女たちも納得せざるをえない。

 

「──というわけで、橘シェリーさんと遠野ハンナさんには、魔女を見つけて私の仕事を終わらせるという重要な使命が課されたわけです。もういいです? じゃ、お二人とも、さっさとやっちゃってください」

「随分と自分本意な説明でしたわね……」

「ですが、本当のことを言っています。犯人と魔法、そして事件の真相を解き明かすことが、みなさんを解放することに繋がるんですよ!」

 

 反論の意見は出なかった。

 誰もがシェリーの謎解きを許した瞬間だった。

 

「さて、これから謎解きを始めるわけですが、その前にみなさんがここに集められた理由を説明しましょう」

「それは、単に年長者だからってわけじゃ……?」

「いいえ、リシアさん。みなさんには、ある共通点があるんです」

 

 ぬかるんだ地面の上に落ちている包丁の写真が、スマホの画面に映し出される。

 

「これはセーラさんの死体の傍に落ちていた包丁です。実は昨日の夕方、夕食の支度をしていた時に、私がある場所へ隠した包丁と同じものなんですよ」

「隠したって、どうしてよ?」

「石鹸といい包丁といい、あんたイタズラっ子かい!?」

「まぁ、そのことはひとまずおいといて……ここで重要なのは、犯人が包丁の隠し場所を知っていたということなんです。そして私が包丁を隠していたタイミングは、みなさんがカレーの味付けをリクエストしにキッチンに訪れた時と重なるんです」

「……!」

「まさか、それって……!?」

「そうです。

 

 加々良さんとセーラさんを惨たらしいやり方で殺し、ルビーさんの命までも奪った犯人──【水晶の魔女】はこの中にいる!

 

 ──ということになりますね!」

 

 

 


 

 

 

 ナッツ、リシア、ローネ。三人の視線が交錯する。

 誰もが【自分じゃない】と主張し、同時に相手を疑い出す。

 

「あともう一つ。未遂には終わりましたが、犯人は私も殺そうとしたんです。それも含めて、犯人がやったことを説明していきましょう」

 

 シェリーの発した言葉が、三人の言い争いを食い止めた。

 犯人以外にとって、シェリーが殺されかけたという情報は初めてきくことだった。

 シェリーは、ホテルを捜査中に矢で狙われたことを三人に説明する。

 

「橘さんまで狙ったって……あなた部外者でしょ? 狙われる理由なんてあるの?」

「ありますよ、リシアさん。私が真実にたどり着きそうになったので、犯人は口を封じようとしたんです。ですが皮肉なことに、犯人のその行動は真逆の結果を生んでしまいました。私が真実に近づいているという事実をさらけ出してしまったんです!」

 

 およそ殺されかけたとは思えないほどの陽気な口調で、シェリーは話し続ける。

 

「さて、それを踏まえたうえで、加々良さんの事件を振り返ってみましょうか」

 

 朝の6時。シェリー、ハンナ、ローネの三人が朝食を作るためにキッチンに集まると、そこで外から打ち込まれた矢を発見した。

 その直後、施設の入口から大きな音が響き渡る。

 向かってみると、衝突事故を起こした車の中で、加々良が右目に矢を撃ち込まれた状態で死亡していた。

 ルビー、ナッツ、リシア。朝食当番でない三人も、その姿を確認している。

 

「私たちはそれを見て【運転中の加々良さんがドアガラス越しに射殺された】と考えたわけです。しかし加々良さんの運転は荒く、車体の壊れ方からしても相当なスピードが出ていたのは明らか。これを狙い撃つなんて、まさに不可能犯罪です!」

「でも、実際に加々良さんはお亡くなりになっていましたわ。周りの木の一つに、ボウガンが括り付けられていましたし、犯人は何らかの仕掛けを使って……」

「おっと、ハンナさん。それは早計ですよ」

 

 シェリーは職員室の入口に立つと、左手をピストルの形にしてハンナの方へ向ける。

 

「考えてもみてください。犯人はその後、ホテルで私を狙っています。こうやって部屋の入口から、ちょうどハンナさんが立っている距離まで矢を放った。しかし、矢は標的には当たらなかったんです」

「……?」

「いいですか? 標的は犯人に背を向けて、棚の後ろを手で(まさぐ)っていた……つまり無警戒で静止した状態だったんですよ? それでも矢は【当たらなかった】。こんな腕前の犯人が、走行中の車にいる運転手の、しかも急所を狙い撃てるような仕掛けを思いつけるでしょうか?」

「あ……!」

「しかも、矢は加々良さんの右目を正面から撃ち抜いていたんですよ。言い換えると、加々良さんはボウガンの方を向いていたということです。大雨の中、スピードを出しての運転中に窓の外を向くとは思えません」

「なら、なんだっていうんだい……!?」

 

 ローネの問いに対し、シェリーはにやりと笑みを浮かべ、言った。

 

「順番が逆だったんですよ。加々良さんは【運転中に殺害され衝突事故を起こした】のではなかった。【衝突事故を起こした後で殺害された】んです! 犯人は停止した車に近づき、至近距離から矢を撃ち込んだんですよ!」

「なっ……!?」

「そう考えれば説明はつきますよね! 距離が近ければ矢を外しませんし、加々良さんも犯人の存在に気づいて窓の外を向くことになるんですから! さすがに距離が近すぎたのか、目を逸らす時間もなかったみたいですが!」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい! じゃあ木に括り付けられていたのは……!?」

「あれはフェイクですよ、ハンナさん」

「フェイク……!? 偽物の手がかりってことですの!?」

「はい、犯行方法を誤認させるための印象操作です。今にして思えば、救護室やキッチンにわざわざ矢文で予告状を届けたのも、【遠くから狙撃してくる】と印象付けるためのものだったんですよ!」

「な、なんて狡猾な……! 一体、誰がそんなことをしたっていうんだい!?」

「犯人の正体を指す手がかりは、ちゃんと現場に残されていましたよ」

 

 シェリーの手が再びスマホの画面を映し出す。

 

「私たちが死体を発見したとき、自動車のドアが開いていたんです。あれは誰が開けたんでしょう?」

「加々良さんじゃありませんの?」

「それが、加々良さんの死体はシートベルトを締めたままだったんです。普通、ドアを開けるよりもシートベルトを外すのが先ですよね?」

「じゃあ、犯人ってことに……!?」

「なりますよねー!」

「いや、破綻してるだろ」

 

 ナッツが呆れたような口調で指摘する。

 

「犯人は遠くから撃ったように見せかけたって、あんたさっき言っただろ。わざわざドアを開けるわけがない。車の近くにいたってアピールしてるようなものじゃん」

「その通りです。犯人はドアを開けるつもりはありませんでした。しかし、予想外の出来事が起きてしまい、開けざるをえなくなってしまったんです」

「予想外の出来事……?」

「たとえば【加々良さんがいつもと違う車に乗ってきた】とか、ですね! 恥を晒すようで気が引けますが……」

 

 シェリーは照れくさそうに説明する。

 事件前日、加々良の自動車に手を触れ、誤ってサイドミラーをもぎ取ってしまったことを。

 

「犯人は事件当日、加々良さんを呼び出しました。おそらく魔女スポットの情報でもちらつかせたんでしょう。当然、加々良さんがいつものように黄色のビートルで来るものだと思っています」

「それをあんたがサイドミラーを引きちぎったせいで……」

「ちょっと触っただけですってばー! ともかく、ビートルは修理に出していたのか、加々良さんは別の車で来てしまったんです。しかも犯人にとっては不運なことに、それが色も形もよく似た車だったために、遠目で判別できなかった」

「……で、車が違ったらどうなる? 別に何か変わるとも思えないけど?」

「それが大きく変わるんですよ。本来ビートルには無かったものが、事件当日の車にあったことで、犯人の計画は大きく狂ってしまった……これがその証拠です!」

 

 シェリーの突きつけた写真に、少女たちは大きく目を見開く。

 

「【エアバッグ】!?」

「た、確かに! 運転中に殺したと見せかけたいなら、エアバッグの存在は邪魔でしかないわ!」

「加々良の車は確か70年代のヴィンテージ……! 犯人が、エアバッグが無いものとして計画したとしても不思議じゃないよ」

「じゃあ、犯人がドアを開けたのは──」

「【エアバッグに付着した血痕を隠滅するため】ですね!」

 

 血痕の付き方によっては、衝突後の犯行であることが露呈してしまう。

 犯人はドアを開けざるをえなかったのだ。

 

「これでみなさんにも犯人が分かったと思います」

 

 シェリーは言う。

 エアバッグの存在が計画外であった以上、犯人は隠滅用の道具を用意していたはずがない。

 それにも関わらず血痕はしっかりと隠滅されていた。自動車の衝突音を聞いたシェリーが現場に向かうまでのわずかな時間のうちに。

 

「そんなことができるのは【魔法】しかありません。血痕を確実に隠滅できて、なおかつその痕跡が一見してわからないような魔法を持つのは一人だけです。

 

 そうですよね?

 

 

 

 

 

 【倉兼ナッツ】さん!

 

 液体彫刻の魔法で血痕を洗い流し、その痕跡を車内に吹き込む雨でごまかそうと目論んだ。あなたがこの事件の犯人──【水晶の魔女】です!」

 

 少女たちの視線が、一斉に彼女に注がれる。

 

「まさか、そんなわけ……!」

「ありえないよ、ナッツが犯人だなんて!」

「…………」

 

 困惑するリシアとローネ。そして対照的に無言で睨み返すナッツ。

 やがてその口が開く。

 

「バカバカしい。あたしが加々良とセーラを殺した? 何でこんなバカな話を真に受けてるわけ?」

「え……」

「ナッツ……?」

 

 感情の伴わない声に、リシアたちは思わず気圧される。

 彼女の冷静な反論には、どこか底知れぬ圧が感じられた。

 

ハンナ(あんた)はどうなの? そこのヘボ探偵の決め台詞に動じてなかったあたり、あんたもあたしが犯人だと思ってたわけ?」

「…………えぇ、そうですわね。といっても、わたくしにはどうやって殺したのか説明はできませんけど」

「チッ、言いがかりにも程がある……!」

 

 ナッツは椅子から立ち上がり、シェリーを睨みつける。

 そしてシェリーに……というよりも張り詰めた緊張感そのものに抗議するかのように言った。

 

「なに? 犯人が逆上して殺しにかかる展開だとでも思ってるの? そんなわけないじゃん、そこのヘボ探偵はまだ何も証明できてないっていうのに。あんたの推理には肝心なところが抜けてるんだよ」

「そこはご心配なく。私の話はまだ終わりじゃありませんから」

「っ……!!」

「今から解いてみせますよ。ナッツさん、あなたがこの事件にかけた恐るべき魔法の全てを!」

 

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