『あなた』がスタレキャラと仲良く(意味深)なっちゃった! 作:ザワザワする人
星核ハンターの拠点に、子供の足音はよく響いた。
小さな靴が床を叩く音は、金属質で冷たい通路には少し不釣り合いだった。
けれど星核ハンターたちは、誰もそれを邪魔だとは言わない。
むしろ足音が聞こえない時間が長くなると、それぞれが別々の理由をつけて探しに来た。
最初に見つけるのは、たいてい銀狼だった。
「はい、発見」
あなたが物陰に隠れていると、頭上からそんな声が降ってくる。
見上げると、銀狼が携帯ゲーム機を片手に、もう片方の手であなたの服の襟を軽くつまんでいた。
「そこ、隠れ場所としては三十点。監視カメラから丸見え」
あなたが頬を膨らませると、銀狼は少しだけ得意そうに鼻を鳴らした。
「なにその顔。じゃあ次はもっといい場所教えてあげるよ」
そう言いながら、銀狼はあなたの端末を勝手に操作する。
画面には、見慣れない地図と、星のマークがいくつも増えていた。
「これなに?」
「安全地帯リスト」
「ここなら隠れていい。ここはダメ。ここは刃が寝てる時あるから近づくと危ない。ここはカフカにすぐバレる」
「銀狼にもバレる?」
「私には全部バレる」
少しも悪びれない声だった。
あなたが端末を抱えると、銀狼はゲーム機に視線を戻す。
けれどあなたが少しでも離れようとすると、すぐに服の裾をつまんできた。
「どこ行くの」
「たんけん」
「私も行く」
「ゲームは?」
「持ってく」
銀狼は片手でゲームを続けながら、もう片方の手であなたの手を掴む。
その力は強くない。
けれど、絶対に迷子にはさせないという意思だけはやけにはっきりしていた。
「言っとくけど、迷子になったら面倒だからね」
「めんどう?」
「そう。探すのに三秒もかかる」
「はやい」
「でも三秒も見えないのはムカつく」
銀狼は小さくそう呟いた。
あなたが首を傾げると、彼女は何でもない顔でゲーム画面を見る。
「ほら、行くよ。今日は特別に裏ルート教えてあげる」
そう言って歩き出す銀狼の手は、ずっと離れなかった。
□
カフカは、あなたを叱る時ほど優しかった。
それは少し変なことだった。
普通なら怒っている人は怖いはずなのに、カフカは怒っているのか笑っているのか分からない顔で、あなたの目線に合わせて膝を折る。
「ねえ、○○」
その声は甘くて、ゆっくりだった。
けれどその一言だけで、あなたは逃げるタイミングを失ってしまう。
「勝手に外へ出ようとしたのは、どうして?」
あなたは少しだけ視線を逸らした。
拠点の外にある赤い空が見たかった。
銀狼の地図に載っていない場所が、どんな風になっているのか知りたかった。
それを正直に言うと、カフカは困ったように微笑んだ。
「好奇心は悪いことじゃないわ」
彼女はあなたの髪を、指先でそっと整える。
「でも、あなたが怪我をするのは困るの」
「ちょっとだけでも?」
「ちょっとだけでも」
カフカは迷わず答えた。
その口調があまりにも穏やかだったので、逆に本気なのだと分かった。
「あなたはまだ小さいもの。知らないものを見たいなら、誰かと一緒に行きましょうね」
「カフカと?」
「もちろん」
カフカは嬉しそうに目を細めた。
「私でもいいし、銀狼でも、ホタルでも、星でもいいわ」
そこで少し間を置く。
「刃は……そうね。彼の機嫌が良い時にしましょう」
あなたが笑うと、カフカも小さく笑った。
けれど次の瞬間、彼女はあなたの両手を包むように握る。
「でも、一人ではだめ」
声は変わらず柔らかい。
それなのに、そこには絶対に譲らない響きがあった。
「あなたが一人でいなくなったら、みんな心配するわ」
「みんな?」
「ええ。みんな」
カフカはあなたの額に、自分の額をそっと近づけた。
「銀狼と星は怒るでしょうね。ホタルは泣きそうになると思うわ」
それから、少しだけ楽しそうに続ける。
「刃は何も言わないかもしれないけれど、たぶん通路が少し怖くなるわね」
あなたは想像して、少しだけ肩を縮めた。
カフカはそれを見て、満足そうに微笑む。
「だから約束」
彼女は小指を差し出した。
「どこかへ行きたい時は、必ず誰かに言うこと」
あなたが小指を絡めると、カフカは歌うみたいに囁いた。
「いい子ね」
その声を聞くと、不思議と逆らえなくなる。
カフカはあなたを抱き寄せると、背中をゆっくり撫でた。
「大丈夫。あなたが見たいものは、きっと見せてあげる」
優しい腕だった。
けれどその腕は、あなたがもう一度勝手に外へ出ようとしたら、今度こそ絶対に離してくれない気がした。
□
刃は、あまり喋らなかった。
あなたが近づいても、たいていは壁際に座ったまま目を閉じている。
眠っているのかと思ってそっと近づくと、低い声が落ちてきた。
「転ぶぞ」
次の瞬間、あなたは床に落ちていた工具につまずきかけた。
けれど倒れる前に、刃の手が襟首を掴んで止める。
身体がふわりと持ち上がり、そのまま床へ戻された。
「ちゃんと見て歩け」
それだけ言って、刃は工具を足で脇へ寄せる。
あなたは少しむっとした。
「見てたもん」
刃は黙ってあなたを見る。
その目は怖いわけではない。
けれど嘘を見抜かれている気がして、あなたは小さく口を閉じた。
しばらく沈黙が落ちる。
すると刃は、何も言わずに自分の外套の端を引いた。
座れ、という意味らしかった。
あなたが隣に座ると、彼はまた目を閉じる。
何をしていいか分からず膝を抱えていると、刃の手が伸びてきた。
大きな手が、あなたの頭にぽんと置かれる。
撫でるというより、そこにいることを確かめるみたいな触れ方だった。
「ここにいろ」
短い言葉だった。
でも、それ以上は必要なかった。
あなたは刃の隣で、しばらくじっとしていた。
刃は何も話さない。
けれど誰かが通路を通るたび、ほんの少しだけあなたの前に身体をずらす。
その動きがあまりにも自然で、あなたは最初気づかなかった。
彼はただそこにいるだけで、あなたと外側の間に壁を作っていた。
しばらくして、あなたが眠くなって頭を揺らす。
すると刃は片手であなたの頭を支え、自分の外套を肩に掛けた。
「寝ろ」
「ここで?」
「……ああ」
その声は低かったけれど、怒ってはいなかった。
あなたが彼の外套を掴むと、刃は少しだけ目を開ける。
けれど何も言わない。
ただ、あなたが眠るまで、その手はずっと近くにあった。
□
ホタルは、あなたと遊ぶのが上手だった。
彼女は任務から戻ったばかりでも、あなたが駆け寄ると必ずしゃがんで目線を合わせてくれる。
「ただいま」
そう言う時のホタルは、少しだけ泣きそうに笑う。
あなたにはその理由がよく分からなかった。
けれど、ホタルが帰ってくるたびに抱きつくと、彼女はとても嬉しそうに息を吐いた。
「おかえり」
あなたがそう言うと、ホタルは両腕であなたを抱きしめる。
その腕は優しい。
でも時々、少しだけ強くなる。
「うん。ただいま」
彼女は何度もそう答えた。
まるで、その言葉を自分に覚えさせているみたいだった。
その日は、ホタルが小さな紙袋を持って帰ってきた。
中には、見たことのない星の形をした菓子が入っている。
「これ、あなたに似合いそうだと思って」
「おかしが?」
「うん。きらきらしてたから」
ホタルは少し照れたように笑った。
あなたが一つ食べると、甘い味が口いっぱいに広がる。
おいしい、と言うと、ホタルは心底安心したような顔をした。
「よかった」
それから彼女は、あなたの隣に座る。
「ねえ、今日は何してたの?」
「たんけんした」
「誰と?」
「銀狼」
「そっか。銀狼となら安心だね」
そう言いながらも、ホタルの指先は少しだけ揺れていた。
あなたがそれに気づいて手を握ると、彼女は驚いたように目を丸くする。
「どうしたの?」
「ホタルも、いっしょにたんけんする?」
ホタルは一瞬だけ言葉を失った。
それから、ぱっと表情を明るくする。
「いいの?」
「いいよ」
「本当に?」
「うん」
その瞬間、ホタルはあなたをぎゅっと抱きしめた。
強すぎない。
でも、離したくない気持ちはよく分かった。
「ありがとう」
彼女の声は、少し震えていた。
「私も行きたい。あなたと一緒に、いろんなところを見たい」
「じゃあ、あしたね」
「うん。明日」
ホタルは何度も頷いた。
その約束が、ただの散歩よりもずっと大切なものみたいに。
「明日も、その次も、一緒にいられたらいいな」
小さく呟いた声は、とても柔らかかった。
けれどあなたが顔を上げると、ホタルは慌てて笑顔を作る。
「なんでもないよ」
あなたには、まだその言葉の重さは分からない。
でもホタルが寂しそうに見えたので、もう一度その手を握った。
ホタルは今度こそ泣きそうな顔で笑った。
「……ほんとに、いい子だね」
□
そして、星がいた。
無表情というほどではないけれど、何を考えているのか分かりにくい顔で、よくあなたの隣に座っていた。
彼女は、誰かの命令を待っている時も、任務の前後も、どこかぼんやりしていることが多かった。
けれどあなたが近づくと、必ず視線だけはこちらへ向ける。
「星」
あなたが名前を呼ぶと、星はゆっくり瞬きをした。
「なに」
「ひま?」
「たぶん」
「たぶん?」
「ひまの定義による」
あなたには難しかった。
首を傾げると、星は少しだけ考える。
それから、自分の隣をぽんと叩いた。
「座る?」
あなたが隣に座ると、星はポケットから小さな包みを取り出した。
中には、銀狼が隠していたはずのキャンディが入っている。
「それ、銀狼の」
「落ちてた」
「ほんと?」
「たぶん」
星は表情を変えずに、一つあなたへ渡す。
あなたが受け取ると、彼女は少しだけ満足そうに見えた。
「星は食べないの?」
「見てる」
「なにを?」
「あなたが食べるところ」
不思議な答えだった。
けれど星は本当に、あなたがキャンディを口に入れるのをじっと見ていた。
甘い、と言うと、星は小さく頷く。
「よかった」
その一言は平坦だったけれど、どこか安心したようにも聞こえた。
星はあなたの髪についた小さな糸くずを取る。
それから、自分の袖であなたの頬についた菓子の粉を拭った。
動作は少しぎこちない。
けれど、とても丁寧だった。
「星、おかあさんみたい」
あなたがそう言うと、星は珍しく固まった。
少しの沈黙。
それから彼女は、真剣な顔で首を横に振る。
「違うと思う」
「じゃあ、おねえちゃん?」
星はまた考えた。
今度は少し長かった。
「それなら、たぶん」
「たぶんばっかり」
「まだ練習中だから」
星はそう言って、あなたの頭に手を置く。
カフカほど慣れていない。
ホタルほど柔らかくもない。
刃ほど無言の圧があるわけでもない。
でも星の手は、不思議と落ち着いた。
「私は、たぶん守れる」
彼女は窓の外を見ながら言った。
「たぶん?」
「ううん」
星はあなたを見る。
その目は、いつもより少しだけはっきりしていた。
「守るよ」
短い言葉だった。
けれどその瞬間だけ、星の声には迷いがなかった。
あなたが笑うと、星はまた少しだけ瞬きをする。
それから、あなたの頭をゆっくり撫でた。
「笑ってる方がいい」
「星もわらって」
あなたがそう言うと、星は自分の頬に指を当てる。
どうやって笑えばいいのか、少し考えているみたいだった。
やがてほんの少しだけ、口元が動く。
笑顔と呼ぶには小さすぎる。
でもあなたには、それで十分だった。
「わらった!」
あなたが嬉しくなって声を上げると、星は少しだけ目を逸らした。
「今のは、秘密」
「なんで?」
「銀狼に見られると、煽られる」
その言い方が妙に真面目で、あなたは笑ってしまった。
星はそんなあなたを見て、もう一度だけ小さく口元を緩める。
星核ハンターにいた頃の星は、まだ自分が何者になるのか知らなかった。
それでもその時の彼女は、あなたの前では少しだけ姉になろうとしていた。
そしてたぶん、その小さな役目を、本人が思うよりずっと大事にしていた。