『あなた』がスタレキャラと仲良く(意味深)なっちゃった!   作:ザワザワする人

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フォフォ

フォフォとあなたは、恋人同士でした。

 

同じ狐族で、幼馴染で、身長もほとんど同じくらい。

昔は、並んで歩けば耳の高さまで似ていると言われました。

 

けれど今、周囲があなたたちを見る目は少し違います。

 

あなたは、羅浮十王司でも名の知れた判官でした。

 

若くして難しい案件を任され、複雑な歳陽の痕跡も一目で見抜き、誰もが躊躇う場面でも落ち着いて令を下す。

あなたが現場にいるだけで、周囲の判官たちは少し安堵した顔をします。

 

天才。

 

そう呼ばれることも、珍しくありませんでした。

 

そしてあなたの隣にいるフォフォは、いつもその言葉を少しだけ遠くから聞いていました。

 

「……すごいね、あなたは」

 

任務を終えた帰り道。

 

空を彩る星槎の灯りが、ふたりの足元を淡く照らしていました。

フォフォはあなたの隣を歩きながら、ぽつりと呟きます。

 

「フォフォ?」

 

「あ、ううん……なんでもないよ」

 

なんでもないわけがありません。

 

フォフォの耳は、ぺたりと伏せられていました。

怖い時の耳に少し似ています。

でも、今のそれは怪異に怯えているというより、自分自身の中に沈み込んでいる時の耳でした。

 

「今日も、みんな言ってたね。あなたがいてくれて助かったって」

 

「うん」

 

「寒鴉様も、あなたには安心して任せられるって……」

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいよ」

 

「……うん」

 

フォフォは笑いました。

 

笑おうとしました。

 

けれど、その笑みはすぐに消えてしまいました。

 

「アタシも、嬉しいよ。あなたが褒められるのは、すごく嬉しい」

 

その声は、本当でした。

 

フォフォはあなたを妬んでいるわけではありません。

あなたの力を嫌っているわけでもありません。

むしろ、あなたが褒められるたびに胸が温かくなります。

 

大好きな人が認められることは、嬉しい。

 

でも。

 

同時に、胸の奥がきゅうっと縮むのです。

 

「でも……そのたびに、少しだけ思っちゃうの」

 

フォフォは足を止めました。

 

あなたも止まります。

 

前ではなく。

後ろでもなく。

いつものように、隣で。

 

「アタシ、あなたの隣にいていいのかなって」

 

星槎が遠くを流れていきました。

 

影が一瞬だけ、フォフォの横顔を曇らせます。

 

「あなたはすごい判官で、みんなに頼りにされてて、落ち着いてて、強くて……アタシとは全然違う」

 

「フォフォ」

 

「アタシは、怖がってばかりだよ」

 

フォフォは自分の胸元をぎゅっと握りました。

 

「判官なのに、怖いものが怖い。歳陽も、暗い道も、急に鳴る音も、シッポが大きな声を出すのも……全部怖い」

 

「おい、最後のは余計だろうが」

 

「ひゃっ……!」

 

シッポが口を挟むと、フォフォは肩を跳ねさせました。

 

本当に分かりやすい子です。

 

けれど今日は、その反応を笑える空気ではありませんでした。

 

「それに……アタシは貞凶の命で、邪を引き寄せちゃうし……昔から、変だって言われてきたし……家族とも、うまくいかなかったし……」

 

フォフォの声が、少しずつ小さくなります。

 

「こんなアタシが、あなたの恋人なんて……おかしいんじゃないかなって」

 

「おかしくないよ」

 

「でも……!」

 

フォフォは顔を上げました。

 

その瞳は、泣くのを必死に堪えていました。

 

「あなたは天才だよ。みんなが認めてる。あなたがいると安心するって、みんな言う。アタシもそう思う」

 

「うん」

 

「でも、アタシは……あなたの隣にいると、安心するのに、同じくらい苦しくなるの」

 

胸の奥にあるものを、必死に言葉へ変えている声でした。

 

「あなたがすごいから。優しいから。こんなアタシでも好きだって言ってくれるから」

 

フォフォは、震える手であなたの袖を掴みます。

 

昔からの癖でした。

 

怖い時。

不安な時。

自分が消えてしまいそうな時。

 

フォフォは、あなたの袖を掴むのです。

 

「いつか、あなたが気づいたらどうしようって思うの」

 

「……何に?」

 

「アタシじゃ、あなたに釣り合わないって」

 

その言葉は、ひどく小さかったですが。

けれど、あなたにははっきり聞こえました。

 

「もっと強くて、優秀で、あなたの隣に立っても恥ずかしくない人がいるんじゃないかって……アタシじゃなくても、いいんじゃないかって……」

 

「フォフォ」

 

「アタシね、あなたの彼女でいるのが嬉しい」

 

フォフォの目元が揺れました。

 

「嬉しいのに、怖いの」

 

その言葉で、あなたの胸の奥が静かに痛みました。

 

フォフォは、愛されることに慣れていません。

 

怖がりだから。

自己評価が低いから。

貞凶の命だから。

 

それだけではありません。

 

きっと彼女は、今まで何度も思わされてきたのです。

自分は誰かの隣にいていい存在ではないのだと。

誰かに選ばれるには、足りないのだと。

 

だからあなたに選ばれた今でも、幸せになるたびに不安になる。

 

幸せが大きいほど、失った時の痛みを考えてしまう。

 

フォフォは、そういう子でした。

 

あなたは、フォフォの手に自分の手を重ねました。

 

「フォフォ」

 

「……うん」

 

「僕が天才って言われるの、嫌?」

 

「嫌じゃないよ。嬉しいよ。すごく、誇らしいよ」

 

「じゃあ、僕がフォフォを好きなのは?」

 

フォフォは言葉に詰まりました。

 

「……嬉しい」

 

「うん」

 

「でも、怖い」

 

「どうして?」

 

「だって……あなたがすごいから」

 

フォフォは、また俯きます。

 

「すごい人に好きって言われると、アタシなんかが受け取っていいのか分からなくなる」

 

あなたは少しだけ息を吐きました。

 

そして、フォフォの前に立ちます。

 

見上げるほどの身長差はありません。

目線はほとんど同じです。

 

だから、あなたはまっすぐフォフォを見ることができました。

 

「フォフォは、僕のことをすごいって思ってくれてるんだよね」

 

「うん」

 

「じゃあその僕が選んだ人のことも、少しは信じてほしい」

 

フォフォは目を見開きました。

 

「僕は、誰でもいいわけじゃないよ」

 

「……」

 

「フォフォがいいの」

 

フォフォの手が震えました。

 

「そんなの……ずるいよ」

 

「うん」

 

「そんなふうに言われたら、信じたくなっちゃうよ……」

 

「信じていいよ」

 

「でも……アタシはまた不安に……」

 

「そのたびに言ってあげる」

 

「迷惑……じゃない?」

 

「迷惑じゃない」

 

「何度も?」

 

「何度でも」

 

フォフォは唇を噛みました。

 

それでも涙が零れそうになって、慌てて目を伏せます。

 

あなたは、静かに尋ねました。

 

「抱きしめてもいい?」

 

フォフォの耳がぴくりと動きました。

 

「……ここで?」

 

「嫌ならしない」

 

「嫌じゃ、ない……」

 

声が小さくなります。

 

「でも、泣いちゃうかも……」

 

「泣いていいよ」

 

「アタシ、あなたの恋人なのに……かっこ悪いよ」

 

「かっこ悪くない」

 

フォフォは少し迷ってから、自分からほんの半歩だけ近づきました。

 

それが答えでした。

 

あなたは、フォフォをそっと抱きしめます。

 

強くしすぎないように。

けれど、不安で形が崩れそうな彼女を、ちゃんと受け止められるように。

 

フォフォの体は震えていました。

 

「……アタシ、あなたの隣にいると、自分のだめなところばっかり見えちゃう」

 

「うん」

 

「あなたは何でもできるのに、アタシは怖がってばかりで……」

 

「うん」

 

「みんなはあなたを見て安心するのに、アタシはいつも、あなたに安心させてもらってばかりで……」

 

「うん」

 

「彼女なのに……何も返せてない気がする」

 

あなたは、フォフォの耳元へ顔を寄せました。

 

触れないくらいの距離。

でも、声が一番柔らかく届く距離。

 

フォフォが、びくっと震えます。

 

けれど、離れませんでした。

 

あなたは囁きました。

 

「好きだよ、フォフォ」

 

「……っ」

 

フォフォの耳が、ぴんと立ちました。

 

「僕の隣で不安になるフォフォも好き」

 

「そ、そこは……好きにならなくていいよ……」

 

「好きだよ」

 

あなたは、ゆっくり続けます。

 

「僕をすごいって言ってくれるフォフォが好き」

 

「……」

 

「でも、自分と比べて落ち込んじゃうフォフォも好き」

 

「そんなところ、だめだめだよ……」

 

「だめじゃない。僕のことをちゃんと見てくれてるから、苦しくなるんでしょ」

 

フォフォの指が、あなたの服をぎゅっと掴みました。

 

「怖がりなフォフォが好き」

 

「アタシ、判官なのに……」

 

「怖がっても令旗を手放さないフォフォが好き」

 

「……」

 

「弱いって思い込んでるけど、ずっと耐えてきたフォフォが好き」

 

「耐えてるだけで……強くなんか……」

 

「耐えてきたから、今ここにいるんだよ」

 

フォフォの息が震えました。

 

あなたは、さらに小さく囁きます。

 

「シッポがいるからじゃない」

 

フォフォの肩が止まりました。

 

「貞凶の命だからじゃない」

 

「……」

 

「判官だからでもない」

 

あなたは一言ずつ、彼女の奥に届くように言いました。

 

「僕は、フォフォが好き」

 

フォフォの目から涙が落ちました。

 

「僕に釣り合うから好きなんじゃない」

 

「役に立つから好きなんじゃない」

 

「怖がらないから好きなんじゃない」

 

「完璧だから好きなんじゃない」

 

「フォフォだから好き」

 

「……そんなの」

 

フォフォの声が崩れました。

 

「そんなの、アタシには……もったいないよ……」

 

「もったいなくない」

 

「あなたは、もっと……」

 

「もっと、なんていらない」

 

あなたは抱きしめる力を、少しだけ強くしました。

 

「フォフォがいいの」

 

「……っ」

 

「フォフォじゃなきゃ嫌だ」

 

「うう……」

 

「僕の恋人がフォフォで嬉しい」

 

フォフォはとうとう泣き出しました。

 

けれど、それは絶望の涙ではありませんでした。

 

ずっと自分で自分を否定してきた心に、あなたの言葉が少しずつ染み込んでいく。

その温かさに追いつけなくて、涙になっているのです。

 

あなたは囁き続けました。

 

「好きだよ、フォフォ」

 

「大好き」

 

「不安になってもいいよ」

 

「比べて落ち込んでもいいよ」

 

「何度でも聞いていいよ」

 

「そのたびに、何度でも言うよ」

 

「フォフォがいい」

 

「僕は、フォフォの隣にいたい」

 

フォフォは、あなたの胸元に顔を埋めました。

 

「……ずるいよ」

 

「うん」

 

「そんなに言われたら……アタシ、本当に彼女でいていい気がしてきちゃう……」

 

「いていいよ」

 

「……ほんと?」

 

「いてほしい」

 

フォフォは小さく息を呑みました。

 

その言葉が、一番欲しかったのかもしれません。

 

許可ではなく。

妥協でもなく。

ただ、望まれること。

 

「……アタシ、あなたの隣にいてもいい?」

 

「いてほしい」

 

「怖がっても?」

 

「うん」

 

「比べて、また落ち込んでも?」

 

「うん」

 

「あなたのすごさに、勝手に苦しくなっても?」

 

「その時は、僕がフォフォのすごいところを言う」

 

「……いっぱいある?」

 

「いっぱいある」

 

フォフォは、涙で濡れた顔のまま、少しだけ笑いました。

 

「アタシ、自分じゃ分からないよ」

 

「じゃあ、僕が覚えてる」

 

あなたは耳元で、もう一度囁きます。

 

「フォフォが自分を信じられない日は、僕がその分信じてる」

 

「……」

 

「フォフォが自分を好きになれない日は、僕がその分好きでいる」

 

「あなたが、疲れちゃうよ……」

 

「疲れないよ」

 

「どうして……?」

 

「フォフォを好きでいるのは、僕の幸せだから」

 

フォフォは、また泣きました。

 

今度は、声を殺しきれませんでした。

 

「アタシ……幸せになってもいいのかな」

 

「いいよ」

 

「あなたの彼女でいてもいいのかな」

 

「フォフォが彼女じゃなきゃ嫌だ」

 

「……もう一回」

 

「フォフォがいい」

 

「……もう一回」

 

「大好きだよ、フォフォ」

 

フォフォは真っ赤になりました。

 

泣いているのに、照れています。

照れているのに、まだあなたから離れません。

 

とても忙しい顔です。

 

でも、あなたはその全部が好きでした。

 

「……耳元、ずるい」

 

「嫌だった?」

 

「嫌じゃない……」

 

フォフォは小さく首を振りました。

 

「嫌じゃないから、困るの……」

 

「じゃあ、また言うね」

 

「……うん」

 

フォフォは、ほんの少しだけ耳を寄せました。

 

「また、不安になったら……言って」

 

「何度でも」

 

「アタシが、あなたに釣り合わないって思っちゃったら……」

 

「フォフォがいいって言う」

 

「自分なんかって言っちゃったら……」

 

「僕の恋人を悪く言わないでって言う」

 

フォフォは、驚いたように瞬きをしました。

 

それから、涙の残る顔で笑います。

 

「……それ、ちょっと怒ってる?」

 

「怒るよ」

 

「どうして?」

 

「フォフォは僕の大事な人だから」

 

フォフォの顔が、また赤くなりました。

 

「……もう、だめ」

 

「だめ?」

 

「これ以上言われたら、アタシ……溶けちゃう」

 

「もう溶けてんだろ、小娘」

 

シッポの声が飛んできました。

 

フォフォはびくっとして、慌ててあなたから少しだけ顔を離します。

 

「シ、シッポ!聞いてたの!?」

 

「俺様はずっとここにいるっつってんだろうが。聞きたくなくても聞こえるんだよ」

 

「ううっ……」

 

シッポは呆れたように鼻を鳴らしました。

 

けれど、その声はいつもより少しだけ穏やかでした。

 

「おい、小娘」

 

「な、なに……?」

 

「そいつが天才だろうが何だろうが、そいつが選んだのはお前だろ」

 

フォフォは黙りました。

 

「だったら、勝手に自分を外れくじみてぇに扱うんじゃねぇ。そいつに失礼だ」

 

「……うん」

 

フォフォは小さく頷きました。

 

「ごめんね……」

 

「謝らなくていいよ」

 

「でも……うん。ちょっとだけ、分かった」

 

「なにが?」

 

フォフォは涙を拭いました。

 

まだ不安そうです。

まだ自信なんて、ほんの少しも満ちていません。

 

けれど、さっきより少しだけ、目が柔らかくなっていました。

 

「あなたがすごいから、アタシが隣にいちゃだめなんじゃなくて……」

 

「うん」

 

「あなたがすごい人だからこそ、あなたが選んでくれたことを……少しだけ信じてもいいのかなって」

 

「うん」

 

「まだ、少しだけだよ」

 

「少しでいいよ」

 

「明日になったら、また不安になるかも」

 

「その時は、また言ってあげる」

 

「耳元で?」

 

「耳元で」

 

フォフォは真っ赤になりました。

 

けれど、今度は逃げませんでした。

 

むしろ、ほんの少しだけ笑います。

 

「……じゃあ、明日も不安になってもいいかも」

 

「それはそれで困るけど、好きって言えるなら嬉しい」

 

「あなたも、時々変だよね……」

 

「フォフォに言われたらおしまいかも」

 

「ひどい……!」

 

フォフォは小さく怒りました。

 

けれど、その手はあなたの服を掴んだままでした。

 

 

 




ちなみに次は銀狼を書いてるんですけど、結構長くなりそうです。
キュレネくらい行くかも。
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