『あなた』がスタレキャラと仲良く(意味深)なっちゃった! 作:ザワザワする人
三年目、春
最終学年。
星とあなたは、再び同じクラスになった。
クラス一覧に並ぶ二人の名前を見つけたとき、星より先に隣から声が上がった。
「同じだ」
その横顔は、隠しきれないほど嬉しそうだった。
「今年はずっと一緒だな」
星は頷いた。
それだけで精いっぱいだった。
家へ帰ってから、何度もその言葉を思い出した。
ずっと。
けれど高校生活は、あと一年しかない。
□
放課後。
星は進路希望調査票を前に、何も書けずにいた。
行きたい大学は決まっている。
それでも第一志望の欄が埋まらない。
隣では、あなたが既に用紙を書き終えていた。学校名が見えないよう、裏返して置いている。
卒業後。
別々の場所を選んでいたら。
毎朝会えなくなったら。
今まで星の隣にあった場所へ、知らない誰かが立つようになったら。
考えるだけで、指先が少し冷たくなった。
「決まらない?」
星は頷いた。
しばらくして、裏返していた用紙が星の前へ差し出された。
第一志望には、星が考えていた大学と同じ名前が書かれている。
「ここなの?」
「うん」
「どうして」
「学びたいことがあるから」
理由は簡潔だった。
少しだけ、何かが落ちる。
それで当然なのに。
自分との未来を期待したことが、急に恥ずかしくなった。
けれどあなたは、少し間を置いて続けた。
「星も、ここを考えてただろ」
星は顔を上げる。
「前に資料を見てたから」
たった一度見ていただけの大学名を、覚えていた。
「同じところなら、卒業してからも何かと楽だと思って」
何かと。
曖昧な言葉だった。
星と一緒にいたいからとは言わない。
そもそも、そんな気持ちがあるのかも分からない。
それでも、二人の未来が同じ場所へ続いていることが嬉しかった。
「星は、星の行きたいところを選べばいい」
それ以上は、何も言わなかった。
星はペンを持ち、第一志望の欄へ同じ大学名を書く。
二枚の調査票に、同じ未来が並んだ。
「一緒に受かろう」
小指を差し出される。
幼い頃と同じ指切り。
昔なら何も考えずに絡められた。今は、触れた瞬間から離すときのことを考えてしまう。
それでも星は、小指を絡めた。
「受かったら」
喉まで言葉が出かかった。
受かったら、伝えたい。
幼馴染ではなく、もっと近くにいたいと。
けれど、最後までは言えなかった。
「何?」
「……そのとき考える」
絡めた指へ、少しだけ力を込める。
あなたも同じように握り返した。
それだけで、卒業という言葉が少しだけ怖くなくなった。
□
三年目、秋
文化祭で、星のクラスは喫茶店を開いた。
星は厨房係。
あなたは接客係だった。
本当は同じ担当を希望したかった。けれどその一言が言えず、星は空いていた係へ名前を書いた。
壁一枚を隔てた向こうから、接客する声が聞こえる。
来客を席へ案内する声。注文を聞く声。誰かの話に、楽しそうに笑う声。
教室へ戻れば、いつでも顔を見ることができた。
それなのに星は、必要以上に厨房へ残り続けた。
見たくなかった。
正確には、誰にでも同じように笑いかけるところを見たくなかった。
「星、混ぜすぎ」
なのかに声をかけられ、ようやく我に返る。
手元のクリームは、必要以上に固くなっていた。
「まだ柔らかい」
「もう十分。それ以上やったら、別の何かになっちゃうから!」
なのかにボウルを取り上げられる。
星は小窓から教室をのぞいた。
あなたが、女子生徒の席へ飲み物を運んでいる。相手が何かを言う。教室が騒がしいせいか、少し屈んで聞き返していた。
それだけ。
本当に、それだけだった。
けれど星は、小窓から静かに離れた。
胸の奥へ、小さな棘が落ちる。
あなたは誰にでも優しい。困っている人がいれば声をかける。相手が誰でも、楽しそうに話せば笑う。
星へ向けられてきた優しさも、本当は特別ではないのかもしれない。
朝、髪についた糸くずを取ってくれたこと。浴衣を似合っていると言ってくれたこと。同じ大学へ行けたら何かと楽だと話したこと。
どれにも特別な意味などないのに。
星だけが大切に抱え込み、自分の欲しい答えを探していたのかもしれない。
「交代まで休んでくる」
エプロンを外す。
なのかに呼び止められる前に、厨房の裏口から廊下へ出た。
□
校舎裏の階段。
文化祭の飾りも、来客の声も、ここまでは届かない。
星は階段の途中へ座った。
嫉妬する資格などない。自分達はただの幼馴染だ。
それ以上ではない。
毎朝一緒に登校し、昼休みを一緒に過ごし、放課後には並んで帰る。
それだけでも十分に近い。
それなのに、もっと欲しくなっている。
自分だけを見てほしい。
自分にだけ笑ってほしい。
そんなことを願っている自分が、ひどく狭くて、ずるい人間に思えた。
文化祭の終了を告げる放送が、遠くから聞こえる。
顔を上げられずにいると、校舎裏の扉が開いた。
足音が階段の手前で止まる。
誰なのか、確かめなくてなんとなく分かった。
三年間、何度も隣で聞いてきた足音だった。
あなたは何も尋ねなかった。
星の一段下へ腰を下ろす。
隣ではない。
肩が触れない程度の距離を空けて。
近くに来られたら、それはそれで困る。けれど離れて座られると、今度はその間にあるわずかな隙間が寂しかった。
「店、終わったの」
「終わった」
「片づけは」
「これから」
会話が途切れる。
どうしてここにいるのか。
なぜ星がここにいると分かったのか。
聞くまで、あなたは何も説明しなかった。
「どうして来たの」
少しの沈黙。
片手に持っていた紙皿が差し出された。
小さなケーキ。
飾りの苺が、少し傾いている。
「厨房に置いてあった」
「売れ残り?」
「たぶん」
星はケーキを見下ろした。
この種類は、昼過ぎには売り切れていた。厨房にいたから知っている。
誰かが事前に取り置いていなければ、残っているはずがない。
「いつから残ってたの」
「知~らない」
「誰が取っておいたの」
「さあ」
顔を逸らした耳が、わずかに赤い。
夕日のせいかもしれない。
接客を続けて暑かったのかもしれない。
星に問い詰められ、困っているだけかもしれない。
答えは分からなかった。
「いらないなら?」
皿が引かれそうになる。
星はすぐに受け取った。
「食べる」
フォークを刺す。
一口食べる。
温くなったクリームは、作ったばかりのものより柔らかかった。
それでも、その日食べたどんなものより甘かった。
隣を見る。
頬に、細い赤い線がついている。
「顔」
あなたは自分の頬へ触れた。
場所が違う。
星は少し迷ってから、手を伸ばした。
指先で赤い跡へ触れる。
触れた瞬間。
あなたの身体が止まった。
星も動けなくなった。
今まで、触れられることは何度もあった。
けれど星から触れたことは、ほとんどない。
指先の下にある頬は、想像していたより温かかった。
「……痛い?」
「いや」
「じゃあ、何」
答えはなかった。
視線だけが、星の指先へ落ちている。
急に怖くなった。
このまま触れていたら、恋心まで指先から伝わってしまいそうだった。
星は手を引こうとする。
その直前。
手首へ、指が触れた。
つかむほど強くない。
引き止めるほど明確でもない。
ほんの一瞬、確かめるように触れただけだった。
星が動きを止めると、指はすぐに離れていった。
「クリーム」
示された指先には、白いクリームがついていた。
ケーキを食べるときに触れたのだろう。
紙ナプキンを差し出される。
星は黙って指を拭った。
二人の間へ、先ほどと同じ距離が戻る。
もう少しだけ、触れていたかった。
あの指が、もっと強く手首をつかんでくれたらよかった。
星の胸には、そんな身勝手な願いだけが残った。
「戻らないの」
「星が食べ終わったら」
「先に戻ればいい」
「一人で戻るの、気まずいだろ」
「私は平気」
「俺が気まずい」
それ以上は説明しなかった。
一人で片づけへ戻りにくいだけかもしれない。
幼馴染を一人で残したくないだけかもしれない。
あるいは、ほんの少しだけ、星とここにいたいのかもしれない。
分からないまま、星は残りのケーキを食べた。
あなたは隣で待っていた。
触れそうで触れない距離のまま。
食べ終わった星が立ち上がると、同じように立ち上がる。二人で階段を上がった。
歩く途中、制服の袖が星の手へ触れた。
偶然だった。
どちらも何も言わない。
星は歩調を少しだけ合わせた。
もう一度、袖同士が触れる。
□
教室の前では、なのかと丹恒が待っていた。
なのかは星の持っている空の皿を見る。その隣にいるあなたを見る。最後に、触れそうな距離へある二人の手を見る。
何かを察したように口元を緩めたが、今日は何も言わなかった。
丹恒が扉を開ける。
「片づけが残っている」
「ごめん」
あなたが先に教室へ入る。
星も続こうとすると、なのかに袖を引かれた。
「ケーキ、おいしかった?」
あのケーキが偶然残っていたのか。
誰かが星のために取っておいたのか。
結局、答えは聞けなかった。
「……甘かった」
なのかは少しだけ笑った。
教室へ戻ると、星の分の軍手が机に置かれていた。
戻ってくると分かっていたように。
それでも、そのことには誰も触れなかった。
□
三年目、冬
合格発表の日。
星は自分の受験番号を探すより先に、あなたの番号を探した。
あった。
何度確認しても、同じ場所にある。
安堵と同時に、後ろから身体を抱き締められた。
周囲には受験生も保護者もいる。なのかも、丹恒も、穹もいる。
それでも背中に回った腕は離れなかった。
「星、あった」
耳元の声が震えている。
自分の番号ではない。
星の番号も、既に見つけていた。
「一緒に行ける」
星は目を閉じた。
春からも、隣にいられる。
これで終わりではない。
卒業しても会える。
その安心が広がるほど、同時に逃げ道がなくなっていく。
受かったら。
あの日、自分で決めた。
今度こそ伝える。
星は振り返り、あなたの背中へ腕を回した。
周囲には、合格を喜んで抱き合ったように見えただろう。
それでよかった。
「星?」
呼ばれても、顔を上げられなかった。
背中へ回した腕へ、ほんの少しだけ力を込める。
卒業式の日。
必ず言う。
今度こそ、逃げない。
そう、心の中で改めて誓った。
□
卒業式
卒業式を終えた校内には、まだ別れを惜しむ声が満ちていた。
三月なのかは式の途中から泣き続け、丹恒に借りたハンカチまで濡らしていた。穹は泣いていない。ただ、卒業証書の筒を握る手には、普段より少しだけ力が入っている。
星はそんな三人から離れ、友人たちに囲まれているあなたを見つめていた。
笑っている。
三年間で何度も見た、見慣れた横顔だった。
けれど、胸元に残っている第二ボタンを見た瞬間、星の心臓は大きく鳴った。
まだ、誰にも渡していない。
そのことに安堵してしまった自分が、ひどく身勝手に思えた。
卒業しても、同じ大学へ通う。明日から会えなくなるわけではない。今日でなくても、伝える機会はいくらでもある。
大学の入学式でもいい。
新しい生活に慣れてからでもいい。
いつか、もっと勇気が出てからでも。
そんな言い訳が、星の足を床へ縫いつける。
今までだって、そうだった。
桜の下で二人の写真を待ち受けにしたときも。体育祭でもらったメダルを、自分の部屋へ大切に飾ったときも。一本のマフラーを二人で巻いた雪の日も。
言おうと思えば、いつだって言えたのだろう。
夏祭りの夜には、あなたに見せたかったと、そこまで言えた。それでも好きだとは続けられなかった。
修学旅行の夜、なのかには認められたのに、あなたには言えなかった。
文化祭の日、なくなったはずのケーキを渡されても、その理由さえ聞けなかった。
そうやって今日まで来た。
今日も逃げたら。
きっと星は、大学へ進んでも同じことを繰り返す。
あなたが誰かと笑うたびに胸を痛め、誰かがあなたの隣へ立つたびに、何も言えないまま見つめることになる。
それだけは、きっと星は嫌だった。
「行かないの?」
隣から、なのかの声が聞こえた。
涙で目元を赤くしながら、それでも優しく笑っている。
丹恒は何も言わなかった。ただ、星の背中を押すように小さく頷く。
穹はあなたのほうを見ようともせず、卒業証書の筒で星の肩を軽く叩いた。
「遅い」
短い言葉だった。
それだけで、星の中に残っていた迷いが切れた。
卒業証書をなのかへ預ける。
星は歩き出した。
最初は一歩ずつ。
けれど、あなたとの距離が縮まるほど、足は速くなった。
気づけば走っていた。
友人たちの間を抜け、あなたの制服の袖をつかむ。
勢いのまま引いたせいで、あなたの身体がわずかに傾いた。
こちらを振り返った顔が驚きに染まり、それからすぐ、星の知っている柔らかな表情へ変わっていく。
「星?」
名前を呼ばれただけだった。
それなのに胸の奥へ、三年間が一度に押し寄せた。
朝、家の前で待っていてくれたこと。
昼休みになるたび、星のところへ来てくれたこと。
何も話さない帰り道さえ、当たり前のように隣を歩いてくれたこと。
嬉しい日も。寂しい日も。楽しい日も。ちょっと辛かった日も。
振り返れば、いつもそこにいた。
やっぱり好きだと思った。
この声も。
自分を見る目も。
何も言えない自分を、急かさず待ってくれるところも。
全部、好きだった。
「来て」
星はあなたの袖を引いた。
それ以上は何も言えなかった。
言えば、今ここですべてがこぼれてしまいそうだった。
あなたは友人たちへ短く断り、星についてくる。理由を尋ねることも、袖をつかんだ手を外すこともしなかった。
星はそのまま、校舎裏を目指した。
□
文化祭の日にも座った階段。
あのときと違い、桜の木には固い蕾がついていた。春はもうすぐそこにあるのに、まだ咲いてはいない。
遠くから聞こえる笑い声も、写真を撮るシャッター音も、ここまで来ると別の世界の音のようだった。
星はあなたと向かい合った。
呼び出したのは自分なのに、言葉が出てこない。
心臓がうるさい。
指先が震えている。
息を吸っても、胸の奥へ引っかかり、うまく吐き出せなかった。
それでもあなたは、何も言わなかった。
理由を聞かない。急かさない。
ただ、星が口を開くのを待っている。
その優しさに、星はずっと甘えてきた。
言えないなら、言わなくていい。近くにいるだけでいい。
あなたはそうして、いつまでも待ってくれる。
だから今度は、星が進まなければならなかった。
俯いた視界に、制服の胸元が映る。
第二ボタンは、まだそこにある。
星は震える手を伸ばした。
指先がボタンへ触れた瞬間、あなたの呼吸が止まる。
その小さな変化に気づいてしまい、星の手まで止まりかけた。
けれど、引かなかった。
「これ……」
声がかすれた。
一度唇を結び、震える息を飲み込む。
「私が、もらってもいい?」
返事はすぐには来なかった。
数秒の沈黙が、耐えられないほど長く感じられる。
もしかしたら、渡したい相手がほかにいるのかもしれない。
星が知らないだけで、既に約束した誰かがいるのかもしれない。
そう思った途端、怖くなった。
胸が苦しい。
それでも、指を離すことだけはできなかった。
星が恐る恐る顔を上げる。
その直前、ボタンへ触れていた手に、あなたの手が重なった。
温かい。
けれど、その指も星と同じように震えていた。
あなたは重なった手をそっと外し、自分で第二ボタンへ指をかけた。
糸が引かれる。
ぷつりと、小さな音がした。
三年間、あなたの制服についていた第二ボタンが、星の手のひらへ落ちる。
小さくて。軽くて。
それなのに、両手で大切に包まなければ落としてしまいそうだった。
あなたの指が、その上から星の手を包む。
「星に渡せてよかった」
胸の奥で、張りつめていたものが大きく揺れた。
ひどく嬉しかった。
けれど、その言葉だけではまだ分からない。
幼馴染だから。一番長く隣にいたから。
卒業の記念に持っていてほしかっただけかもしれない。
期待して、違っていたら。
星はきっと、今度こそ立っていられなくなる。
「俺も、星に話したいことがある」
あなたが口を開く。
何を言われるのだろう。
もしかしたら、星が聞きたかった言葉かもしれない。
けれど星は、首を横に振った。
「待って」
自分でも驚くほど、強い声が出た。
あなたの言葉を聞いてからでは、駄目だった。
先に答えを知ってしまったら、これは勇気ではなくなる。
星は包まれていた手を引き、第二ボタンごと胸元へ抱えた。
逃げないように。今までと同じ場所へ戻らないように。
指が痛くなるほど、強く握り締める。
「私から、言う」
あなたは何も言わなかった。
ただ、真っ直ぐ星を見ている。
写真の中で、いつも星へ向けられていた目だった。
今はカメラも。
なのかも。
丹恒も、穹もいない。
その瞳には、本当に星しか映っていなかった。
「ずっと……言えなかった」
声が震えた。
目の奥が熱くなる。
この言葉を口にしたら、もう戻れない。
明日から、今までと同じ顔で隣を歩くことはできない。
それでもいい。
変わらないために黙り続けるのではなく、変わってでも、あなたの隣を選びたかった。
「あなたと一緒にいるのが、私には当たり前だった」
桜の下で、並んで歩いた。
雪の中では、一マフラーを二人で巻いた。
別々の教室になっただけで、昼休みがひどく長く感じられた。
夏祭りでは、あなたに見てほしくて浴衣を着た。
修学旅行の夜には、自分の気持ちを初めて認めた。
文化祭では、あなたがほかの誰かへ笑いかけるだけで苦しくなった。
その一つひとつが、喉の奥へ込み上げてくる。
「朝になったら迎えに来てくれて、学校では気づいたら近くにいて、帰るときも隣にいて……。そんな毎日がずっと続くと思ってた」
声が少しずつ掠れていく。
今にも涙がこぼれそうだった。
悲しいわけではない。
胸の中へしまい続けた三年分の想いが、ようやく外へ出ようとしている。
「でも、いつからか……それだけじゃ、足りなくなって……」
あなたの表情が、わずかに揺れた。
星はもう目を逸らさなかった。
「ほかの人と話してるだけで嫌だった。私の知らないところで笑ってるのも、卒業したら誰かが私より近くにいるようになるのも……全部、嫌だった」
こんな自分を知られたくなかった。
面倒だと思われるかもしれない。
身勝手だと、呆れられるかもしれない。
それでも隠さなかった。
きれいな気持ちだけではない。
寂しさも、嫉妬も、欲張りな願いも。
星は隠したくはなかった。
「私だけを見てほしいって思った。あなたの隣は、ずっと私の場所であってほしいって……何度も思った」
握り締めた第二ボタンが、手のひらへ食い込む。
あと少し。
たった一言。
けれど、その一言が三年間で一番遠かった。
星は一度だけ目を閉じた。
桜の写真に映ったあなたの横顔を思い出す。
もう、迷う理由など残っていなかった。
星は目を開く。
一歩、あなたへ近づいた。
二人の間にあった、最後のわずかな距離がなくなる。
それでも足りなかった。
星は自分から、あなたの手を取った。
震える指を一本ずつ絡める。
離さないと伝えるように、強く握る。
「幼馴染のままなら、ずっと隣にいられると思ってた」
言葉が途切れる。
涙が一粒だけ頬を伝った。
「だから……好きだって知られるのが怖かった」
それでも星は笑った。
逃げずに伝えられることが、どうしようもなく嬉しかった。
「でも、もう幼馴染のままじゃ嫌」
握った手を、胸元へ引き寄せる。
あなたの指先へ、星の激しい鼓動が伝わるほど近く。
「これからは、あなたの恋人として隣にいたい。春も、夏も、秋も、冬も、その先も……ずっと私が一番近くにいたい」
最後の言葉だけは、震えなかった。
三年間、胸の奥で育て続けた想いを、ようやくあなたへ渡す。
「ずっと前から、あなたのことが大好きです」