『あなた』がスタレキャラと仲良く(意味深)なっちゃった! 作:ザワザワする人
死に飲み込まれた海底の祖国から逃げ出した、一人の姫がいた。
地上に上がった事に、理由は一つだけあった。
仲間と約束したから。
暗黒の潮を退けた後に、今までで一番大きな宴を開く。
そんな今となっては夢とすら呼べない想いを一人で抱えて、姫はただ地上を目指した。
彼女も頭のどこかでは分かっていた。
もう誰も残っていない。皆死んだ。私が殺した。
暗黒の潮に落ちたとはいえ、彼らも元々は仲間だった。
そんな彼らを、姫は大勢殺した。
もう苦しませないようにと自分に言い聞かせても、
ある、潮に呑まれたセイレーンを殺めた時に彼女の心は完全に壊れてしまった。
彼女は今、本当はそれを忘れる為に泳いでいるのかもしれない。
やがて、少しだけ地上が見えてきた。
速度を速めるわけでも遅めるわけでもなく、機械のように一定の速度で進み続けた。
水面に上がると案の定といった景色が広がった。
そこには寂れた建造物が残っているだけだった。
人も、セイレーンも、いや、そもそも生物の気配が無かった。
彼女の眼に、光はもうーーーー
[あ、いた]
突然、背後から聞こえた声に姫は
怖かったからだ。
その声が自分が知っている、いや自分が今までで一番聞いてきたこえだったから。
ずっと聞きたいと思っていた声だったから。
自分が、殺したと思っていたから。
姫は、とある理性が溶けていたセイレーンを殺した。
なんでもない、元は普通のセイレーンの様だった。
だがそのヒレの先には、深海の様に深い青と青空の様に澄んだ青が混ざり合ったような色の貝殻が付いていた。
大昔に、姫がとある幼馴染にプレゼントした物だ。
ずっと仲が良かったし、これからも離れない事の証の様なものだった。
後に、姫と彼は婚約者となった。
婚約者と言っても、双方どちらもまだ早いと言って式は挙げなかった。
姫の仲間達が、今までで一番大きな宴に彼女らの式を合わせるのを望んでいたのは言うまでもないだろう。
それほどに、仲が良く、互いを知っていて、お似合いだった。
姫も、彼も、互いに好ましい存在だった。
だから、姫は振り向けなかった。
後ろから近づいてくる足音が止まるまで、何度も幻聴を窺った。
もしかしたら、自分は既に死んでいるのか。そんな思いもよぎった。
殺した私を恨んで、幽霊にでもなったのか。そんな心配も残った。
だがそんな姫の考えを全て裏切って、彼女の後ろから前に飛び出た男がいた。
[あんま泣かないの。綺麗な顔が台無し………(泣いてても可愛いけど)]
姫の感情は、もうぐちゃぐちゃだった。
けれど、自らの体を動かして行動には移す事は出来た。
「っっ………………」
姫は砂を蹴り、小さな水しぶきを上げながら、一直線に男の元へ駆けよった。
躊躇も、理性も、全てを置き去りだった。
姫はそのまま男の胸へ、強く抱きついた。
[えっ?]
男が素っ頓狂な声を上げようとも、姫は決して手放さなかった。
彼女はただ、嗚咽を漏らしながら涙を流した。
[ちょ、ちょっとへレクトラ?貝殻落としちゃったの謝るからさ………]
男のそんな言い訳交じりの言葉も、へレクトラの五感には届かなかった。
二人はそのまま一夜を明かし、旅に出た。
思いのほか、その旅は気楽なものだった。
互いに、互いさえいれば良いと思えるほどの信頼関係が二人にはあった。
二人は、旅の中で暗黒の潮からさまざまな人を助けた。
もう誰も、その犠牲にはなってほしくなかったから。
旅の途中、双方の軍を互いに抑え、戦争を止めたこともあった。
人よりももっとおそろしい物を二人は味わっていたから。
市民からまさしく英雄だと支持された二人の名は瞬く間にオンパロスを駆け巡り、とある皇帝の耳へと入った。
□
「お前達はたった二人で戦を止め、紛争を退けたと聞く」
「その千軍に匹敵するお前達の剣槍は、いったいどこへ向かうというのだ?」
皇帝の問いに答えたのはへレクトラだった。
「私たちはただ民を救うために剣を振るい、槍を突いている。戦争を止めたのは、ただの一例に過ぎない」
「ほう?ならば、永久の安寧のような夢物語を人々に与えたいという事か?」
「……そうだ」
「面白い。僕がその夢を叶えてやる。オンパロス全土を平定し、お前達の夢を叶えよう」
皇帝は満足気に頷き、へレクトラも思わず笑みをこぼした。
目の前の皇帝には、本当に出来るとへレクトラに確信させる何かがあった。
「そして、お前は何を望む?」
皇帝は次に、男の方へとその視線を向けた。
男は深く考えずに、言葉にした。
[宴を開いてください]
「宴だと?」
[はい。皆がバカ笑いして、バカ程メーレを飲んで、朝まで酔いつぶれる。そんなハチャメチャで、さいっこうに面白い宴を!]
男の願いを聞いた時に、皇帝は思わず噴き出した。
「ははは!王たる権威をもってすれば、その程度造作もない事。戦の後にそのような宴を開いてやろう!」
そして、二人は皇帝へと付いていく事になった。
現在は聖都に向かう道中。二人は皇帝のすぐ後ろに付く許可を与えられた。
「その……ありがとう」
[なにが?]
「宴を開こうと、言ってくれた事だ」
[別にいいってば。へレクトラが宴大好きなのはしってたし]
へレクトラは歩きながら、隣の君へ視線を向けた。
「さっき、皇帝に願ってくれただろう」
[ああ、宴のこと?]
[だってへレクトラ、宴好きじゃん]
「……そうだな」
へレクトラは頷いたが、それで話は終わらなかった。
どこか遠い場所を見ながら、へレクトラはそのまま言葉を続ける。
「だが、私が嬉しかったのは宴の話そのものではない」
[じゃあ何?]
へレクトラは少しだけ視線を落とした。
そして、少し照れくさそうに。
「君が覚えていてくれた事だ」
[覚えてたって……?]
「私が宴を好きな事も」
「皆で笑うのが好きな事も」
「……そして、そういう時間を、君と一緒に過ごすのが好きな事も」
「君は昔からそうだ」
「私が何を考えているのか、何が好きなのか」
「言わなくても、当たり前のように覚えている」
「そしてそれを、まるで大した事ではないような顔で口にする」
へレクトラは小さく、心から息を吐いた。
「……それが、私はたまらなく嬉しい」
君は少し照れたように笑う。
[そんな大げさな]
「大げさではない」
「君にとっては些細な事かもしれない」
「だが私にとっては違う」
ほんの少しの温かさを含んだ風が二人の間を通り過ぎた。
「私は」
へレクトラは静かに続ける。
「君と過ごした時間を、全部覚えている」
「小さな事も、くだらない事も」
「君が笑った事も」
「君が怒った事も」
「君が私を助けてくれた事も」
「……本当に全部だ」
へレクトラは歩きながら、少しだけ君の方へ体を寄せた。
「君はきっと忘れている事もあるだろう」
「だが私は覚えている」
「君が私にとって、どれだけ大きな存在だったか」
「……そして、今もそうである事を」
君は思わず苦笑する。
[へレクトラ、それはさすがに——]
「重いか?」
彼女のその声は、ほんの少しだけ不安そうだった。
君はすぐに首を振る。
[いや]
そして、へレクトラの手をそっと取った。
[むしろ安心した]
へレクトラが少し驚く。
[俺だって同じだから]
君は少し照れながら続ける。
[へレクトラがいない未来とか、想像したくもない]
へレクトラの目がわずかに見開かれる。
[だからさ]
[そんな顔せずに]
[俺はどこにも行かないって]
へレクトラはしばらく何も言わなかった。
「……そうか」
それだけ言って、君の手を強く握った。
「なら、安心した」
少し間を置いてから、ぽつりと付け加える。
「……正直に言うと」
君を見る。
「もし君がいなくなったら」
「
[へレクトラ怖いって]
「本当だ」
へレクトラは真面目に言った。
「君がいない世界など、考えたくもない」
「君が遠くへ行くと言うなら、私は追いかける」
「君が危ない所へ行くなら、私も行く」
「君が逃げるなら——」
そこで彼女は少し言葉を止める。
「……捕まえる」
[こわ~い]
へレクトラは少しだけ頬を赤くする。
「……だが」
また遠くを見るように小さく視線を逸らす。
「君が好きなのは事実だ」
「とても」
「……私自身が思っていたよりずっと」
君が少し優しく言う。
[へレクトラ]
「………なんだ」
[俺も好きだよ]
へレクトラの歩みが一瞬だけ止まる。
そして今度は静かに顔を伏せた。
彼女の耳がほんのり赤くなっている。
「……」
[お~い?]
へレクトラは顔をあげて、小さく咳払いした。
「……分かっている」
[いや今言ったんだけど!?]
「わ、分かっているが」
「……言われると、恥ずかしい」
君は思わず笑う。
[今さっき自分であれだけ言ったのに?]
「……うるさい」
へレクトラは少しだけ不機嫌そうに言った。
だが君の手は離さない。
むしろ少しだけ強く握る。
「……もう一度言え」
[え?]
「今の」
[言わせたいだけだじゃない?]
へレクトラは少しだけ笑った。
「そうだ」
君はため息をつく。
[……好きだよ、へレクトラ]
へレクトラは静かに目を閉じた。
それから、少し嬉しそうに微笑む。
「……うん」
その手はもう離れない。
二人はそのまま、聖都へと続く道を歩いていく。
その先にはきっと、君とそしてたくさんの仲間と約束した宴が待っている。
ちなむとこの後にいくらでも曇らせれるんですけど、依頼は純愛だったんで一旦ここでストップです。
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