誰も死なないまのさば   作:arcanine

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登場人物
桜羽エマ……主人公。『魔女を殺す魔法』で人類を滅ぼす力を持つ。ヒロと同室。
二階堂ヒロ……エマの幼馴染。『死に戻り』で死んだ日の目覚めの時間に戻れる。
橘シェリー……探偵。『怪力』で並の人よりちょっとだけ力持ち。アリサと同室。
遠野ハンナ……お嬢様然とした庶民。『浮遊』で10cmほど飛べる。ココと同室。
紫藤アリサ……不良少女。『発火』で指先からライター程度の炎が出せる。
沢渡ココ……配信者。『千里眼』で自分を見ている者の居場所を把握できる。
黒部ナノカ……寡黙な少女。『幻視』で触れた対象の過去や未来を見通す。
月代ユキ……語り部。肉体を持たず、ヒロの万年筆を依り代としている大魔女。

牢屋敷のルール
06:00~10:00……自由時間。朝食はこの間に取る。
10:00~12:00……看守が見回りを行う。囚人は自分の部屋に居なければならない。
12:00~15:00……自由時間。昼食はこの間に取る。
15:00~17:00……看守が見回りを行う。囚人は自分の部屋に居なければならない。
17:00~22:00……自由時間。夕食はこの間に取る。
22:00~06:00……看守が見回りを行う。囚人は自分の部屋に居なければならない。

 外出禁止時間に自分の部屋に戻らず、かつその姿を看守に発見された場合、懲罰房へと連行される。


火精の間放火事件 問題編

 この世界には、魔法が存在する。

 

 例えば言葉ひとつで相手を意のままに操ったり、例えば時間を巻き戻すかのように損壊した物体を元に直したり。そんなありとあらゆる物理法則を無視した超常的な現象を引き起こす力。それが魔法だ。

 

 しかし、残念なことに世間にこの力が受け入れられることはなかった。確かに魔法の存在は日々の生活を豊かにする一方で、使い方によっては周囲に危害を及ぼす事故を起こしかねない。よって魔法の力を扱う者は一様に危険視され、政府によって隔離措置が取られることとなる。

 

 そうして魔法を持つ者が集められる先が、この牢屋敷。

 

 時間と行動には縛りを設けられ、環境は劣悪で、外への通信や脱出も不可能。そんな監獄のような場所でありつつも、13人の少女たちは数々の衝突やトラブルを乗り越えながら日々を過ごしていた。

 

「もうそろそろ12:00だね。ヒロちゃん、この後は何するの?」

 

 エマは手に持ったスマホを眺めながら傍らの少女にこの後の予定を尋ねる。現在の時刻は11:50。外出禁止時間とされる時間帯で、囚人はみな自室で過ごさなければならない決まりになっている。

 

「私は野暮用があってね。少し外に出る」

 

 端的に答えたのは、エマと同室のヒロ。彼女は特に何かするでもなく、瞑目して静かに時を過ごしていた。

 

「何の用事?ボクも付いて行っていいかな」

「やめておいた方が良い。エマが何を期待しているか知らないが、少なくとも楽しい内容ではない」

「うう、そっか……」

 

 決してヒロの対応に棘があったわけではないが、エマは少しだけ寂しい気持ちになった。

 

 そうして時間が流れ、スマホの時計が12:00を示す。ここからはしばらく自由時間だ。看守が牢のカギを順に解錠して回る。ヒロは解錠されるやいなや素早い足取りで地下牢を出て行った。エマが声をかける暇すらなかった。

 遅れてエマも部屋を出る。食堂で昼食を取るか、ひとまず友達を探すか。少し悩んだ後、エマはラウンジに向かうことにした。

 

「……誰もいないなぁ」

 

 ラウンジに出てきたエマがぽつりと呟く。ハンナ、シェリー、メルルのうちの誰かがいればと期待したが、ラウンジはもぬけの殻だった。とは言え牢屋敷は広い。他にも行き先はある。娯楽室やアトリエになら、誰かいるかもしれない。エマが2階へ向かおうと足を動かしかけたところで、スマホからピコンと通知音が鳴らされる。

 

 画面を見ると、『沢渡ココが配信開始』とのポップアップが表示されていた。

 

「あ、ココちゃんの配信だ。ちょっと見てみようかな」

 

 足を止めたエマは動画アプリを起動し、ココの配信画面を開いた。すぐに快活な声が流れ始める。

 

『お、今日の一番乗りはエマっちか。やほやほ~、ココたんだよ~~!』

『あー、えー……、ごきげんよう。ハンナですわ』

『お嬢テンション低っく!もっと声張ってけよ、いつもギャーギャー騒いでるみたいにさ』

『うるせーですわね!寝起きのあなたと違って私は疲れてますの!』

 

「珍しいな、今日はハンナちゃんも一緒なんだ」

 

 ココは頻繁に配信を行うが、その場所は彼女の気分次第でコロコロ変わる。今日は、自室からの配信だったようだ。それでルームメイトのハンナも巻き込まれる形になったらしい。ハンナに同情の念を抱きながらも2人が織り成す雑談配信には少しだけ興味が湧いていた。エマは2階に上がることをやめて、ラウンジのソファに腰かける。

 

『そうそう聞いてよ。最近さ、お嬢がお菓子作りにハマってるらしいんだけどぉ』

『あっ、ちょ!勝手に言うんじゃねーですわ!まだ内緒にしてますの!』

『そーだったん?めんごめんご。でもあてぃしは美味しいと思ったよ。別に隠すことないと思うんだけどなあ』

『……まだ練習中で、うまくいかないことの方が多いんですの。もう少し上達するまで皆さんに知らせるのは控えようと思って』

『ほーん…………え?ちょっと待て。じゃああてぃしに食わせたのは何で?』

『一人くらい毒見役も必要ですわ』

『なんてこと言いやがんだこいつ!!』

 

 ココのトークスキルの賜物か、あるいはハンナの人付き合いの良さの表れか。2人の会話劇は予想以上に面白いもので、エマは時間を忘れて画面に見入っていた。

 

 そうして配信開始から20分ほど経ったとき、ラウンジの玄関扉が音を立てて開く。エマがちらりと視線を向けると、入室してきたのはヒロだった。服の一部が緑や赤、黄色といった色鮮やかなペイントで汚れており、何やらひどく気疲れした様子だ。重々しい足取りで近づいてきて、エマの隣に腰かける。

 

「はぁ……ノアのせいで酷い目に遭った」

「ひ、ヒロちゃん、物凄い恰好になっちゃってるね。ノアちゃんがどうかしたの?」

「あいつめ、私が普段あれほど外では描くなと言っているのに、また懲りずに落書きしていた。信じられるか?今度は湖に向かう小道に立体の草花を描いていたんだ。あまりに精巧すぎたせいで、偽物と気づかずに踏んでしまった」

「わぁ、ボクちょっと見てみたかったかも」

「冗談じゃない。見ろ、お陰で服も洗い直しだ。しかもノアの奴、『08:00から2時間もかけて描いた力作なのだから絶対に消したくない』なんて言って……結局私自ら消すことになった」

「あはは、お疲れさま……」

 

 ヒロがここまで愚痴を零すのも珍しいと思いつつエマが相槌を打っていると、スマホから楽しそうな笑い声が響く。ヒロの視線も自然とスマホに吸い込まれた。

 

「エマは……あぁ、ココの配信を見ていたのか。ほう、珍しい。今日はハンナも一緒か」

「あ、うんそうなんだ。ヒロちゃんも一緒に見ようよ!」

 

 一台のスマホを二人で共有しながら暫し画面を見つめる。

 

『んじゃ恒例のコメント返信やってくか~。お嬢、読み上げよろ』

『仕方ありませんわね。それじゃあまず、アンアンさんから。【雑談がワンパターンで飽きる。困ったときとりあえず笑って誤魔化すのがうすら寒い】だそうですわ』

『うっせー黙れメンヘラモヤシ!お嬢、そんなアンチコメントブロックしろ!それか垢BANしちまえ!』

『私にそんな権限ありませんわ。お次はミリアさんから。【ココちゃん、いつも楽しい配信をありがとう。おじさんはココちゃんの配信好きだから応援してるよ】ですって』

『あ~~んありがとぉ♡あてぃしもおっさんのことしゅき~~♡』

『切り替え方エグイですわね!それじゃあ次、アリサさんからですわ。【この前シャワールームで”〇〇やってみた”って企画やってたけどよ、勝手に場所を独占すると他の人の迷惑になるって分かんねえのか。頭使えよバカ】』

『ああん!?上等だヤンキーてめえそこの湖に沈めてやろうか!?』

『あなた媚を売るか喧嘩を売ることしかできませんの?』

 

「……ふ。今のは上手い返しだ。ココとハンナは相性がいいのかもしれないな」

「だよね!ボクもそう思う。この二人の会話、ずっと見ていられそう」

 

 そうして暫くヒロと一緒に配信を楽しんでいると、再びスマホがピコンと通知を鳴らす。今回はその音が2つ重なって聞こえた。全体送信されたものだったのだろう。エマとヒロはそれぞれ送信されてきたメッセージを確認する。

 発信者は、ゴクチョーだった。

 

『火精サラマンダーの間にて火災が発生しました。危険ですので、ゲストハウス周辺には近づかないようにしてくださいね』

 

「…………え?」

 

 火災。その単語を脳が認識すると同時に先ほどまでの歓談ムードは消し飛び、全身から悪寒が湧きたつ。ヒロも同様に目を見張っていたが、すぐに硬直から立ち直り、エマに呼びかける。

 

「急ぐぞエマ!」

「え、い、急ぐって、どこに?」

「決まっている、火精の間だ!すぐ鎮火に向かわないと……!」

「でもゴクチョーは近づくなって言ってるよ」

「もしゲストハウス周辺、もしくは内部に誰かが残っていたら?ゴクチョーたちの対応を待っていたら手遅れになるかもしれない。救助の手は多いに越したことはないはずだ」

「わ、分かった!ボク、消火器を取ってくる!」

「頼んだ!私は先に火精の間に向かう!」

 

 そうしてエマとヒロは一旦別れた。エマは急ぎキッチンへと向かう。冷蔵庫の隅に消火器が置かれているのを発見し、それを手に取ってすぐさまゲストハウス方面へと走った。

 外は雲一つない快晴だった。むせ返るほどの真夏の熱気が肌を焼く。額から汗が流れるが、エマは拭うことも忘れてただひたすらに疾走した。

 

「はぁ、はぁっ、お願い、誰も巻き込まれていませんように……!」

 

 エマが火精の間に到着すると、そこには3人の少女がいた。

 ヒロ、アリサ、そして―――ゲストハウスからはやや離れた位置で倒れ伏している、ナノカ。

 

「えっ……ナノカ、ちゃん……?」

「桜羽、話はあとだ。まずは二階堂に消火器を渡せ」

「あ、う、うん!ヒロちゃん、消火器持ってきたよ!」

 

 エマが呼びかける。ヒロは火精の間の玄関扉を開け、中の出火状況を確認しているところだった。エマも一緒に中を覗く。部屋の中は白い煙で充満していたが、幸い中には誰もいなかったようだ。火元は木製のテーブルで、天板からめらめらと大きな炎が上がっている。少しだけ周囲の床や椅子にも延焼しているものの、まだ建物全体にまでは回っていない。これなら充分消火器ひとつで鎮火できそうだ。

 

「ありがとう、エマ」

 

 消火器を受け取ったヒロが迅速な動きで消火器の栓を外し、テーブルに向かって粉末を放出する。放射されたリン酸アンモニウムが瞬く間に火元を覆い、空気を遮断していく。みるみるうちに炎の勢いは弱まっていった。それでもヒロは油断なく、消火器の中身をテーブル近辺に吹きかけ続ける。十数秒ほどで消火器の中身を全て出し尽くした。炎は完全に消えていた。

 

「……ふぅ。炎が完全に燃え上がらないうちに対応できてよかった。しかし問題は……」

 

 ヒロが安堵半分、険しさ半分といった表情で視線を斜め後方に向ける。エマもそれに倣った。その先にいたのはナノカだ。彼女は今もうつ伏せで倒れたまま、微動だにしない。ただ、穏やかな息遣いが聞こえることから意識を失っているだけで絶命しているわけではないと分かる。傍らでアリサが肩を揺すったり軽く頬を叩いたりして呼びかけを続けていた。

 ヒロがアリサに問いかける。

 

「アリサ。君はいつからここに?」

「ついさっきだ。ウチもゴクチョーの通知を見て駆け付けたんだが、その時にはすでに黒部がここで倒れていた」

「ふむ……」

 

 エマとヒロもナノカに近寄って彼女の体や、その周辺を確認する。

 見たところ、出血やアザのようなものは見当たらない。一見した限り、体に異常は認められないようだった。その代わり、体以外の部分に特徴的な痕跡が残されている。

 

「ん、これは……ダイイングメッセージ、だろうか」

「別に黒部は死んでねーけどな」

 

 一同の視線が彼女の指先に集まった。正確に言うなら、指先が触れている”地面”に。

 そこには、意識を失う寸前に書いたのであろう言葉が一文字だけ記されている。ただ、その文字は弱弱しい筆跡で、判然としないものだった。

 

「これ……”ホ”って書いてあるのかな?」

「そうか?ウチには”木”に見えるが」

「なんにせよ、犯人に繋がる重要なヒントかもしれないな」

 

 ヒロがスマホを取り出し、ナノカの状態と地面に書かれた文字を写真に収める。

 そうして次に火元の発生現場である火精の間に入ろうとしたところで、さらに2人の少女が駆け付けた。ハンナとシェリーだ。ハンナの手には消火器が、シェリーの手にはバケツとホウキが握られている。

 

「おやおや皆さんお揃いで!」

「ぜぇ、ぜぇ……やっと着きましたわ……って、もう消火できてたんですの?」

「シェリー、いい所に来てくれた。ちょうど君の力が欲しいと思っていたんだ」

「はい!現場調査ですねっ!名探偵シェリーちゃんにお任せください!!」

「違う。シェリーには別の任を託す。ナノカを医務室に運んでもらいたい」

「ええっ!?それじゃあ私だけ調査が出来ないじゃないですか!探偵が調査に加われないなんて、そんな話あります!?私も一緒に調査したいですう!」

「ちょ、危ねーですわ!そんなものしまいなさい!」

 

 シェリーが手に持った虫眼鏡を振り回し、駄々を捏ねる。隣にいたハンナがびくっと体を縮こまらせていた。アリサが呆れたように溜め息をつく。

 

「仕方ねーだろ。ここから医務室は遠いんだ。あそこまで50キロの荷物を担いで行けるのは『怪力』の魔法を持つ橘しかいねぇ」

「アリサちゃん、言い方……」

 

 シェリーは最後まで現場を調べたいと抗議していたが、ヒロの断固とした意見が覆ることはなかった。泣く泣くといった様子でナノカを担ぎ、現場を後にする。

 残ったエマ、ヒロ、アリサ、ハンナが室内に入る。部屋は全体的に白く染まっていた。完全に消火できたとはいえ換気がされていない状態だったため、まだ室内には煙も残っている。

 

「けほ、けほっ!酷い煙ですわね、わたくし窓を開けて換気扇をつけますわ」

「ああ、頼む。床に残った粉末も先に片づける必要があるな」

「それならボクが掃除するよ!ヒロちゃんとアリサちゃんで調査を続けてて」

「ありがとう」

 

 各々の役割分担を決め、作業に取り掛かる。

 ガラガラと音が聞こえて、その方向を見遣る。ちょうどハンナが窓を開けたところだった。外から降り注ぐ強烈な日差しに、ヒロは思わず目を細める。窓を開け、部屋の煙が抜けたことで視界は幾分かクリアになった。部屋の隅でホウキを掃いていたエマが床の粉末に足を取られて無様に転倒する様も、余すところなく見えていた。

 

 気を取り直してヒロはアリサと共に火元であるテーブルを入念に調べる。ほどなくして、二人ともその顔に怪訝ないろを浮かべた。

 

「…………なぁ二階堂。おかしいと思わないか」

「ああ。火元になったはずの道具が、見当たらない」

「あの炎の規模から見るに、発火は10~15分前だったはずだ。その程度の燃焼ならロウソクでも木炭でも、完全に燃え尽きて無くなることはありえねぇ」

「火元不明の火災、か……」

 

 かといって、あれほどの炎が自然に発生するはずもない。

 確実に、あの火災を仕向けた犯人は存在する。

 

 アリサが誰にともなくぽつりと呟いた。

 

「犯人は何らかの理由でここに火を点けなければならなかった……」

「しかし、火を点けようとしているところをナノカに見られた。よって口封じのため、ナノカを気絶させたと考えるのが妥当か」

「じゃあ、火を点けたのと黒部を気絶させたのは同一犯ってことでいいのか?」

「現場が近いからね。まず同一人物と見て間違いないだろう」

「そうか、それなら話は早いな。黒部が目を覚ましたら、本人の口から直接聞けば」

「いやいや、それじゃ面白くないですよー!」

「うおっ!?」

「……驚いた。もう戻って来たのか、シェリー」

「当然ですとも!探偵抜きでこんな面白そうな事件を勝手に畳むなんて許しませんからね、ぷんぷん!」

 

 音もなくシェリーが這い出てきたことにも驚いたが、それ以上に驚いたのはシェリーの後ろにココも付いてきていたことだった。

 

「おや、ココも来たのか。意外だな。君はこういうことには興味ないものかと思っていた」

「ん、まぁ普段はそうなんだけどさ。ここってあてぃしもよく配信で使ったりするから、何が起きたのかは知っておきたい……的な」

「それなら逆に来るのが遅いんじゃないのか。お前、部屋で配信してたよな。でも一緒に配信に映ってた遠野はもっと早くここに来てたぞ。実はお前が犯人で、裏で証拠隠滅してたとかじゃねーだろうな」

「はあぁ!?フツーに配信の後片づけしてただけだっつーの」

 

 ココとアリサの間に一触即発の空気が張り詰める。

 

 その険悪な空気をぶち壊したのはシェリーだった。思い切り両手を叩き合わせ、パンッという音を部屋中に響かせる。とても素手から打ち鳴らされたとは思えない凄絶な破裂音に2人は委縮し、すっかり口喧嘩を続ける気概は無くなっていた。

 

 シェリーがにこりと笑いながら告げる。

 

「まぁまぁ、それも含めて今から話し合うことにしましょう!」

「私もシェリーに賛成だ。殺人こそ起こっていないものの、ここで何があったのかは明確にすべきだ」

「それなら、ボクたちが集めた情報を一旦整理してみようか」

 

 エマの提案をきっかけに、少女たちが各々の持つ情報を開示しはじめる。

 

「まず、火災の通知を受けて一番最初に現場に到着したのはウチだ。時間は12:30だったな。ウチが来た時には火精の間から少し離れた位置で黒部が倒れてた。だから火の状況を見るより先に黒部の容態を確認することにしたんだ」

「そして、次に到着したのがボクとヒロちゃんだったね。自由時間中だから扉にカギはかかっていなかったよ。炎は部屋の真ん中に置かれているテーブルから出火していて、ヒロちゃんが消火器を使って消し止めたんだ」

「ああ。火を消した後は、ナノカの確認を行った。体に目立った外傷はなかったが、何度呼びかけても起きず、深い昏睡状態にあったと見える。そして、地面にはナノカが書いたとみられる文字が残されていた。”ホ”と”木”を足して2で割ったような中途半端な字だ」

「はいはーい!次は私から報告しますね!私はナノカさんを医務室に運んだあと、牢屋敷内部を調べました。すると医務室からは睡眠薬のビンが一本紛失していたようで、メルルさんがとても心配されていました」

「睡眠薬か……犯人はそれを使ってナノカを無力化させた可能性があるな」

「そしてもう一点。娯楽室にあったプロジェクターが分解されていたのを見つけました。いくつか部品が持ち去られていたようです。……これが今回の事件に関係しているのかは、分かりませんが!」

「そんな不確かな情報で場を掻き乱すんじゃねーですわ」

「てへっ☆」

「……まぁそれは置いといて、ここからが重要だ。私とアリサで火元となったテーブルを調べたのだが、発火するために使ったと思われる道具は、何一つ見つからなかった」

「それは奇妙ですねぇ。本当に何もなかったんでしょうか。油を染み込ませた小さな紙片や、電気による放火なども考慮されましたか?お二人が見落としていただけでは?」

「見落としはないとウチが断言する。どんなに小さなものであったとしても燃焼した後は必ず炭か灰が残るからな。テーブルは粉末で真っ白だったんだ。そんな中で黒い燃えカスが残っていたらいくら何でも気づく」

「電気を使った放火もあり得ないと思う。ボクが床の掃除をしていたときたまたま部屋のブレーカーが目に入ったんだけど、あの部屋のブレーカーは落とされていたよ。普段あまり使われることのない部屋だから、節電されているんだろうね」

「わたくしは窓や壁際を調べましたが、特に怪しいと思われるようなものはどこにも見つかりませんでしたわね」

「ふむふむ。犯人はどうやって火を点けたのか……逆に、その犯行トリックを暴くことが出来れば一気に謎を解明できるのかもしれませんね!」

「……あてぃしは調査とかしてねーから難しいことは分かんないケド。でもあてぃしとお嬢は絶対犯人じゃないっしょ。あてぃしら2人とも12:00~12:30まで配信してて、一歩も部屋から出てないんだし」

「なるほどなるほどー。とりあえず事前に集めた情報はこんなところですか。それじゃあ早速審議に移るとしましょう!タイムリミットはナノカさんが目覚めるまで!魔女裁判、開廷でーす☆」

 

 エマ、ヒロ、アリサ、シェリー、ハンナ、ココ、ナノカの中に、犯人はいる。

 現段階の情報から、犯人は特定可能である。

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