チェンソーと狩人   作:匿名希望の田中太郎

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狩人(ハンター)の訪れ

ゲールマンとの死闘の末に、勝利し、束の間の余韻に浸っていた時のことだった。

銀色に輝く月をバックにそれは空から現れた。

 

胸の中心が完全な空洞で、その穴を塞ぐように肋骨が不揃いな形で生え揃っている。

頭には軟体生物のような触手がうねうねと、まるで自分たちの意思を持っているかのように動き回っていた。

子供がこねた粘土のような顔にできた空洞は、目なのか、口なのか、鼻なのか、まるで見当がつかない。

 

しかし今までの戦い(獣狩り)の経験からこいつは上位者なのだと、そう直感した。

 

動かなければ、そう思いながらも体はぴくりとも動かない。

上位者の指が私の体を包み込み、まるで人形を持ち上げるかのようにゆっくりと持ち上げるとそのまま自分の胸へと押し当てていく。

 

握りつぶされるかと思ったのだが、不思議にもそんなことはなく、むしろ心地いいまであった。

上位者の胸の中は忘れていた母性のような、そんな温かみが体全体を包み込む。

 

その感覚に思わず瞼を閉じて、身を任せてしまう。

だんだんと力が抜けてくるからだとともにだんだんと意識が遠のいていくのを感じる。

 

あぁ、こんな終わりになってしまうのか。

 

そう思いながら、意識が消えかける直前。

ブウンという、何ともこの場に会わない音が聞こえたことだけを確かに覚えてる。

 

 

 

 

狩人にとってこのようなことになるのは決して初めてのことではなかった。

それこそ、アメンドーズに捕まれ、気づいたら知らないところにいたなんてことは何回もあった。

 

しかし、今回はどうやら何か毛色が違う。

 

ヤーナムや、狩人の夢などでは見ないような長方形の建物や、機械が町中にある。

それに街中を歩いている人々も殺気立ったような様子ではなく、全員がその瞳に確かな知性を宿してる様子だった。

そして何よりも重要なこと。それは……

 

「まさか……夜が明けたのか」

 

ヤーナムではついぞ見えることのできなかった本物の太陽が爛々と輝き、優雅に漂う雲を焼いていたのだ。

ヤーナム特有の肺に入れることすらためらわれるような匂いも、獣の耳をつんざくような叫び声もしない。

 

「しかし、いったいここはどこなのだろうか?」

 

数秒ほど顎に手をあて、考えていたが、ふと目の前に見慣れたランタンに群がる使者たちを見た瞬間、ほぼ本能レベルの動きでランタンに手をかざした。

 

これで、とりあえずは一安心だ。

これがあると無いとでは、精神衛生上とても大きな差がある。

しかし、これで自分がまだ夢から目覚めていないという事実もまた確定してしまったのだが……まぁそこまで気にしないようにしておこう。

 

ランタンから手を放し立ち上がると、何やら周りが騒がしくなってきたのを感じる。

何かあったのかと思い、逃げ惑う人たちの波をかき分けながら一人、逆方向へと進んでいく。

 

「みんなえらい夢持ってていいなア!!じゃあ、夢バトルしようぜ!夢バトル!!」

 

ミミズのような獣と、対峙している半裸の少年とその傍らで臓物の海の上にいながら、猫を抱え、倒れている少女を見つけた。半裸の少年は息も絶え絶えといった感じだったが獣の懐へと行き良い良く突っ込んでいった。

腕はほぼちぎれかけ、体のいたるところから流血をしていたが、その怪物へと立ち向かってゆく。

その姿勢は狩人の模範ともいえるだろう。

 

防御を捨て、攻撃に全力を注いだ少年の攻撃が、額につけたチェンソーの刃により獣の額へと、届こうとしたその瞬間。

少年は怪物の舌により腹を貫かれていた。それは誰から見ても致命傷だった。

 

「いただきまァアす」

 

獣が口を大きく開け、その少年を食らおうとする。

しかし、それをそのままみすみす見逃す義理はない。

 

爆発的な疾走とともに、手に持っていたノコギリ鉈をジャキン!と変形させる。飛び散る火花と共にそのまま、長いリーチを生かした攻撃により、少年を口へと運ぼうとしていた舌を切り落とす。

 

舌を切られた獣は自分の食事を邪魔されたことへの怒りと、自分の舌を切り落とされたことへの怒りのその両方が表れているようだった。

 

「ちょっとォォ!私の美しい舌と食事を邪魔してくれるなんてェ、随分とむかつくことしてくれるじゃない!デビルハンター!!」

 

「デビルハンター?悪いが私は狩人なのでね。そのような名前は持ち合わせていない」

 

「そんなことどっちでもいいわァ!死になさい!!」

 

「同感だな」

 

再びノコ鉈を変形するのと同時に攻撃は始まった。

多数の触手を一斉に鞭のようにしならせながら向かってくるのに対し、短くステップを刻みながらすんでのところで攻撃をかわす。そして、相手の触手が伸びきったのを確認してから、ノコ鉈でその肉を切り落とす。

追撃をしようとするが、体を回転させ、触手をものすごい速さで攻撃しようとするのを見て、バックステップを踏む。

肉を切り落とされると、動きはまた一段と早くなり、自分の周囲を守らせるかのように、触手を張り巡らせ続ける。

この方法でも倒せるだろうが……少々面倒臭いな。

 

狩人はわざと触手の射程圏内へと入り込み、無茶ともいえるような攻撃を繰り出す。

二回、三回、と切りつけることに成功した狩人だったが、代わりに背後から迫る触手に脇腹をごっそりと削られてしまう。

ぐらりと、体のバランスを崩すとその隙を見逃さないといったばかりの獣の攻撃が飛んでくる。

 

「これで終わりよ!!」

 

力任せの大ぶりな横払い、普通の人がする選択としては、避けるか、受け流すか。しかし狩人はそのどちらでもない、第三の選択肢をとる。

 

左手に握った、獣狩りの短銃をしっかりと握りしめると、触手が自分の命を刈り取るその刹那。

 

弾けるような音と共に目の前の獣の体勢が大きく崩れ、致命的な隙が生まれるのを確認する。

ゆっくりと、まるで近所の公園を歩くかのような優雅な足取りで、獣の正面へと立つ。

 

「ちょ、ちょっと待っ──」

 

「いいや、待たない」

 

短銃によって生まれたその小さな傷口に思いっきり腕を突っ込むと、掴める限りの血と臓物を引きずり出す。

 

致命攻撃を受けた獣は臓物の上へと倒れ掛かり、ピクピクと体を震わせていたので、とどめでノコ鉈で頭をつぶした。

 

「ふぅぅ。初めて見る獣だったな」

 

ひとしきり戦いを終えた後、猫を抱えた少女とおそらく死んでしまったであろう少年をどうにかしようと振り返ってみると

 

「夢バトル……夢バトル……」

 

何やらおかしなことを言っているが生きているらしい。

あれは私でも死ぬと思うのだが……随分と頑丈なことだ。

 

貴公。大丈夫か。

 

そういいながら、手を貸そうとした瞬間。

 

「動くな!」

 

奇妙な髪形をした男がこちらへと叫んだ。

 

「これは、どうなっている。ここは俺たち4課が一番に応援要請されたはずだ──お前は何者なんだ?」

 

「私は、ただの狩人だ。ただここに獣がいたのでな、それを狩っただけだ」

 

「狩人?デビルハンターじゃないのか……ともかく、お前にはいったん公安へとついてきてもらう」

 

「公安……?まぁ別に構わない。私もここがどんなところなのか右も左もわからないのでな、情報取集がてら共についていかせてもらおう」

 

狩人は反撃の意思がないと言わんばかりに、両腕を上へと上げた。

その様子を見た早川アキも、ようやく納得したかのように緊張を解いた。

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