ただ、いろんな武器を使わせていきたいので、ステータス要求値はあまり気にしないでおいてください。
アキと名乗ったその男の案内のままについていくと、ある部屋の前についた。
アキについていく途中、すれ違う人々が私のことを興味深そうな目で見てきたが……おそらく、この血まみれの服装が目立つのだろう。
アキがノックをしようとしたそのとき、
「入っていいよ」
と部屋の中から、女性と思われる声が聞こえてきた。
部屋の中心たたずんでいたその女は自分のことをマキマと名乗っていた。
顔の造形美は人形ちゃんにも負けず劣らずといった様子で、ヤーナムではめったにお目にかかれない美人だ。
しかし・・・・・・なんだこの言いようのない違和感は。
マキマの放つ雰囲気は、人間というよりもまるで・・・・・・いや、ただの考えすぎだな。
「その人が報告にあった人?」
「はい。俺たちが、現場につくより先にこの男が悪魔を狩っていました。出身もヤーナムという聞いたことのない場所を言ってましたし、名前も覚えてないと言っていました。何よりこの男、銃を持っています」
アキの警戒のこもった声とは裏腹にマキマの反応は落ち着いたものでゆっくりとコーヒーをすすっていた。その代わり、ぽつりと小さな声こうつぶやいた。
「……ヤーナムね」
「何か知ってるんですか?」
「古都ヤーナム……遥か昔、人里離れた山間にある忘れられた街は、呪われた町として知られている……なんて都市伝説があったんだよ」
「なんと貴公、ヤーナムを知っているのか」
ようやくヤーナムのことを知っている人間に出会えたことに少しの安堵を覚える。
──いや、逆だな。あんな町知らない方がいいというものだ。
ヤーナムに来る人間など、ろくな運命をたどらないのだから。
「デビルハンターと似たようなことを行ってる、狩人という存在を聞いたことがあったからね。たぶん君がその狩人なんでしょ。狩人は銃を使用するって聞いたことがあるからね──とはいっても、この国で銃の使用をするっていうのはそれだけで大ごとなんだ。銃の悪魔が現れてから、銃の使用は厳重になったからね。それを一般人が行ったとなれば……少なくとも、懲役刑は免れないだろうね」
懲役刑というのが何を指すのかはいまいちわからないが、刑という言葉がついている以上ろくなものでは無いだろう。
それに変に敵対関係にはなりたく無いものだ。
言葉が通じるならあくまで言葉で。ヤーナムでは滅多に敵わない願いだが、せめてここではそうあって欲しいものだ。
マキマはこちらの考えを見透したように少し微笑み
「心配しなくていいよ。もちろん解決策はあるからね」
マキマは、一呼吸を置くとコチラを覗き込むかのような目つきで問いかける。
「簡単な話。罪を免れるには一般人じゃなくなればいい。つまり君にある選択肢は二つ。銃の不正使用で逮捕されるか、デビルハンターになって私に飼われるか。もし飼われるなら、ちゃんとご褒美も上げるよ」
ご褒美、という話にはさして興味はなかったが、一つだけ大切なことがある。
「もし飼われたら、獣は狩れるのか」
「狩れるよ」
「なろう」
即答だ。
獣が狩れるのであれば何の問題もない。
大概のことはYES!と答えておけば万事うまくいくはずだ。
実際それでうまくいってきた。
「それじゃあ、君は今日付けで公安対魔特異四課。つまり私専属の部下になる。これからよろしくね」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む」
これからのことはよくわからないが、難しく考えることはない。
こういうときは初心に戻り、ゲールマンの言葉でも思い出そう。
ただ獣を狩ればいい。それだけなのだから。
「ということでこれから世話になるぞ」
「おうおうおう、狭い家じゃのぉ~!」
狩人とパワーが二人、早川家の家に訪れた。
マキマの話によると、手あたり次第獣を探して殺しまわるようなことは少ないらしい。
獣が現れたという場所に行き、要請に応じて狩りに行くことが大半だという。なんとも楽なような、物足りないような。
要請が無く待っている暇な間の仮拠点という形でこの家が選ばれたようだ。
幸いこの家にもランタンがある。これで不測の事態にもしっかりと対応ができる。
「なんで一人でも大変なのに、二人も追加されるんだ……」
アキはげんなりとした表情を浮かべていたが、あきらめたかのように大きくため息をついた。
一人で三人の面倒を見るのはさすがに大変だろう。
ここは、私も手伝うとしよう。
「まぁ、アキよ。私もこの家に住まわせてもらう身だ。なるべく手伝いはしようじゃないか」
「……その言葉信用してもいいんだろうな」
「ああ、もちろんだとも」
これでも、私はこの中では年長者だ。
経験もあるし、手先も不器用ではないはず。だから何の問題もないだろう。と思っていたのだが……
「この血か?ついている方が気分が高揚するだろう?」
「洗え!」
「クセえんだよ!」
服についた血を洗わなかったことに文句を言われた。
こんなことは初めてだ。
ヤーナムでは、全員が体中に血を浴びたまま行動してたので、それが普通かと思っていた。
それに、血を浴びている方が獣たちの鼻をごまかせる。
人間のにおいを漂わせればたちまち襲われるはヤーナムの常識だ。
しかし郷に入っては郷に従えだ。洗ってこよう。
「狩人!いちいち段ボールを開けるときに殴るな!中のものがぐちゃぐちゃになるだろ!」
「いや、罠の可能性が……」
「なんで自分の家の箱に罠を仕掛ける馬鹿がいるんだよ!」
なるほど言われてみれば確かにその通りだ。
もはや条件反射となっていたので考えたことはなかったな。
疑うという過程をすっ飛ばして、もはや開けるものは殴るのが癖になっていた。
アキは、私が殴った箱の中身を確認して、悶絶していた。申し訳ない。
散らかしたものの片付けなどを行っていると、隣に立ったパワーが物欲しそうな目つきで見てきていることに気づいた。
「なんじゃオヌシ……血のにおいがするのう。ワシによこすのじゃ!」
輸血液のことを言っているのだろうか。幸い輸血液はレンガマンと罹患者の獣を狩りまくったときに大量にあるので問題はないだろう。
一つ渡そうと思い、懐から輸血液をとりだすと、子供のような目の輝きで私が渡すよりも先にひったくると
「久しぶりの血じゃあ……」
ものすごい勢いでごくごくと飲み始めると──
「オェェェェェェェェェ」
先ほどの倍の勢いで血を床にぶちまけ始めた。
「きったねぇぇ~~」
「パワー床を汚すな!」
「ワシは悪くない!こやつがワシをだまして毒を飲ませたのじゃ。ワシにまずい血を飲ませおって……この詐欺師が!」
ものすごい責任転嫁のスピードだ。
ヤーナム出身か?
なんやかんやと文句をつけられ、暴言を吐かれることは多々あったが……もはやここまで振り切っていると気持ちがいいぐらいだ。
パワーならきっとヤーナムでもうまく生きていけるだろう。
パワーはもう立派なヤーナム野郎だ……いや野郎ではなかったな。
そんなこんなをしているうちにいつの間にやら夜になっていたみたいで、ひとしきり騒いでいたデンジとパワーはいつの間にやら寝ていた。
やはり二人はまだまだ子供なのだな。
アキはというと、一人ベランダでタバコを吸っていた。
「隣、失礼していいかい?私はタバコを吸わないがね」
「……好きにしろ」
アキはふーっと煙を吐き出すと、小さな白い煙が星空に向かってゆらゆらと伸びていく。煙の動きをぼんやり目で追っているうちにやがて綺麗な半月が見えた。
思えば、欠けている月を見るのは久しぶりのことだった。
ヤーナムでは常に満月、それに欠けるどころか鮮血のような真っ赤な色だったのだから、なおさらだ。
「今日はいろいろと迷惑をかけてしまって申し訳ないな。いつかこの埋め合わせは必ずしよう」
「……いや気にしなくていい。もしこれが銃の悪魔を殺すことにつながるんだったらなんてことはない」
銃の悪魔──およそ五分弱で120万人以上を殺した化け物。
情報だけを聞くならば、とても倒すことなど不可能そうな化け物だ。
しかし、銃の悪魔を殺す。そう語ったアキの目は真剣そのものだった。
「俺は銃の悪魔に家族を殺された。それなのに、俺だけのこのこと生き残ってしまった。銃の悪魔を殺すまでは、死んでも死にきれない」
そう語るアキの目には、銃の悪魔への強い憎しみと、自分の家族を思い出す哀憐が浮かんでいた。
「……銃の悪魔とやらも、結局のところは獣なのだろう?」
「あんたが言ってる獣ってのが悪魔を指してるなら……そうだな」
「であれば、私もその銃の悪魔とやらを殺すのを手伝おうじゃないか。獣を狩るのが私の──狩人の仕事なのだからな」
そう。私のやることは変わらない。
青ざめた血もそうだが、獣を狩るという目的の先に、銃の悪魔という結果がいるだけだ。
「なら期待するぞ」
「あぁ、期待してくれたまえ。先ほどはうまくいかなかったが、
私がそう言うと、アキは少しだけ頬を緩ませると
「できるなら、一般常識も身に着けてくれ……」
とあきれながら、しかしどこか緩んだ顔でそう言った。