絶叫しながら気絶するコベニとは対照的に狩人は自らの身に起きたことについて冷静に考える。
まず前提としてここにランタンは存在しない。そして最後に触れたランタンはこのホテルの外。 それにもかかわらずこの部屋で復活したのはこのホテルにいる悪魔の仕業のほかないだろう。
結局のところ
「残念ながら私の作戦はだめだったようだ。こうなれば大人しく悪魔を探し出して殺すしかないだろう」
「んだよ。じゃア俺はこのふかふかのベッドで寝させてもらうぜ~」
狩人の作戦が失敗したことを知ったアキたちの間には落胆の雰囲気が漂う。
しかし、そんな中でもデンジは動じずに、もう一度布団をかぶりなおすと、すやすやと寝息を立てながら寝た。
その寝顔はとても穏やかなもので、とてもこのホテルに閉じ込められた人物の顔とは思えなかった。
どんな状況でも眠れるのはもはや才能だろう。
とにもかくにも狩人の作戦が失敗した以上、悪魔を探し、殺す必要がある。
そう結論付けた一同は、寝ているデンジと気絶したコベニを除いて、もう一度この八階を探索することにした。
アキから「悪魔探しと並行して食料など必要なものも集めてくれ」との話だったので、もともとこのホテルにいたであろう人たちが残したカバンなどから物を漁った。その最中、ふと後ろの方に人の気配を感じたので振り返るとそこには姫野が立っていた。
「何か使えそうなものは見つかった?」
「少しばかりの食料と、煙草が見つかった」
「おぉ~それはありがたい!煙草は死活問題だからね~」
そっちか。
姫野の中では、食料よりも煙草の方が優先順位が高いのかもしれない。
手に入れた煙草を姫野へと投げ渡すと待ちきれないと一本吸い始めた。
彼女はこちらにも煙草の箱を差し出してきたが、首を横に振り断る。
「狩人君はさ~煙草、吸わないの?」
「獣の中には嗅覚に優れるやつもいるからな。意図せず場所がばれるのは避けたいのだよ」
狩人は複数戦が苦手なため、敵と戦うとき常に一対一になるように心がけている。
普段だったら取るに足らないような連中でも、囲まれればひとたまりもない。
狩人は、みづからの命をもってそれを実感していた。
「付き合いがあるから吸えた方がいいよ?それにその理論で言うんだったら煙草の匂いにつられた悪魔を殺せるかもしれないよ」
驚くべき逆転の発想に思わず舌を巻いてしまったが、その役割はアキと姫野に頑張ってもらうとしよう。私はそのおびき出された悪魔を殺すことに尽力すればいい。
「面白い発想だな……だが遠慮しておく。それに私が煙草を吸ってしまえばアキの分がなくなってしまう」
「それもそっか」
私が探索し終えた部屋をでてほかの部屋へと移動しようとすると煙草を吸い終わった姫野は、グーンと大きく伸びをして、私の後をついてきた。
「そういえば、狩人君の
「私のこれは貴公らが言うような契約によるものではない。しかし、そうだな……強いて言うなら
「血の医療……なんかおっかない名前だね。それにこんな強力な力だったら契約の代償も大きいんじゃないの?」
「ああ。確かに貴公の言う通りだ。血の医療を受けた人間は、人間性を失い、終わらぬ夢へと囚われることになる。しかしこれらは大したことではない」
狩人は底冷えするような表情を浮かべ、言う。
「血に飲まれたものは狂い、仲間だろうが殺すようになる。そうして人間性を失った果てに最後は獣になるのだよ」
何度も見てきた人々の末路
英雄だろうが、聖職者だろうが、一度狂ってしまったらおしまいだ。
聖剣のルドウイークや教区長エミーリアも最後には獣になってしまったのだから。
「……それは狩人君も同じなの?」
「例外はない。だが対処することはできる」
「どうやって?」
神妙な顔つきをしながら話す狩人の様子を、姫野は息をのみながら聞く。
「おしゃれをすること」
「……そんなことでいいの?」
「ああ、正確には人間らしい行為をすることだがな。そうすることにより、自分が獣ではなく人間だと確認できるのだよ」
「これもその一環でね」と狩人は自分の象徴ともいえるトップハットを持ち上げる。
もっとも、数ある狩装束の中からわざわざこれを選んだのは、狩人の趣味というほかないのだが。
「じゃあさ~ここから出たらアキ君たちと一緒に服でも買いに行こうよ。狩人君身長高いし、いろんな服に合いそうじゃん」
服を買いに行くか。
確かに、思い返してみれば自分から服を買いに行く。というのはしたことがなかった。
持ってる服と言えば使者たちが売り始めたものを適当に買ったり、その辺で拾ったものばかりを着ていた。
一度人形ちゃんの服を着てみたことはあったが……あれはおしゃれというよりはただの
「それはとてもありがたい話だ。ぜひ同行させてもらおう。ただ……そのためにはまずここから出なければいけないのだがな」
「ま~そうなるよね~。アキ君たちの方で何か発見があったらいいんだけど……あ!向こうの方にみんな集まってるよ」
姫野が指さす方へと視線を向けてみると、そこには狩人たちを除いたメンバーが全員いた。
コベニは目を覚ましたのか奥の方でガタガタと震えており、荒井も気丈に振舞っているが、どこか弱っている様子だった。対して、デンジとパワーはいつも通りしょうもない小競り合いをしている。
「姫野先輩。煙草ありますか」
「あるよ。狩人君が見つけてくれた奴がね。銘柄は違うけど結構いけるよ」
姫野は内ポケットから煙草を取り出すと、それをアキの方へと投げた。
アキは、煙草に火をつけるとゆっくりと煙を吸い込み、吐き出した。
「悪いニュースがある」
「今の現状以上にか?」
「ああ。俺たちが殺した悪魔いたろ……そいつがどんどん大きくなってやがる」
アキは、まだ半分以上残っている煙草をつぶしながら、そういった。
▽▲
アキに案内され、パワーが殺した悪魔の死骸の元へと行くと、まるでメンシスの悪夢で見た巨大目玉のような形状をした悪魔が大きく道をふさいでいた。
顔とも腕ともとれぬ奇妙の肉の塊が岩肌のように凸凹な形状を作る。
よくよく目を凝らしてみると、パワーが最初に殺した悪魔の顔もそこにはあった。
あの時、パワーは確かに殺したはずなのだが……この世界の
「見たことない形状だね……いったい何の悪魔なんだろう」
悪魔について一番詳しそうな姫野がわからないあたり、この悪魔はイレギュラーなのだろう。
姫野もアキも目の前の悪魔をじっと観察し、警戒を強める。
ホテル中をめぐってほかに何の悪魔も出てこなかった以上、こいつが我々をこの階へと閉じ込めている元凶の可能性が高い。
それに、そのような能力を有しているならば、次に何をしてくるかわからない。
向こうが攻撃してこないという確証がない以上、先手必勝だ。
狩人は、スタスタと悪魔の方へ近づくと体を半身ずらしながらゆっくりとためを作り、踏み込みと共にノコ鉈による凶悪な一撃を食らわせる。
「人間。私はけいや──ギャアアアアアアア」
「ん?何か言ったか?……あと何発か殴ってから考えるとしよう」
何かしゃべろうとしていたような気もするが、たぶん気のせいだ。
狩人はノコ鉈を変形させながら、無駄にでかい図体を縦横無尽に切りつける。
耐久力は大したことないのか、顔とも腕ともとれぬ部位殴り続けると、すぐさま、大量の血がまき散らされる。
「いたた、いた、ィィ。いっ、アアアア」
この様子だと、すぐに殺せそうだ
と狩人が考えたその時。
今まで狩人がつけた傷が瞬時に治っているのが見えた。それどころかより質量を増し、こちらへと迫ってくる。
まるで、再誕者の超回復のようだと狩人は思ったが、今回は鈴を鳴らしてくる奴らもいない。
十中八九、この悪魔自身の回復能力だろう。
狩人はバックステップを踏み、これ以上の攻撃は無駄だろうと攻撃をやめる。
「──話を聞け人間!私と契約を。契約を結べ。そうすればここから出してやる」
「契約だと……?」
「そこにいるデンジという人間を私に食わせろ……そいつの死体でもいい……私に食わせろ。そうすれば他のデビルハンターは全員無事に外へ帰す」
突如とした悪魔の提案に、周囲の視線がデンジの方へと向けられる。誰かが息をのむ音さえ聞こえてきそうな沈黙が流れたとき、不意に、ドアが開いた。
その中から出てきたのは、おおよそ正気とは思えない顔でナイフを持っていたコベニだった。
「デンジ……食わせろ」
デンジへナイフを突き刺さんと、一直線に突っ込んだコベニだったが、アキと姫野の素早い連携により、一瞬で倒されてしまった。
コベニの恐怖が伝わったのか、悪魔は気持ち悪い薄ら笑いをにやにやと浮かべていた。
「私の心臓はこの階にはない。ここ胃の中。私と契約する以外に帰る方法はない」
その悪魔の発言に、また場の雰囲気が一段と重くなる。
「契約と言ってるが、奴が嘘をついて私たちを返さない可能性は?」
「いや。それはないよ。悪魔の言う契約って言葉には強い力があるの。片方が契約を守ったならもう片方も必ず守らないといけない。これに例外はないよ」
なるほど、あの悪魔もただでたらめを言っているわけではないようだ。
だとすれば、あの時の皆の反応も納得できる。
さしずめデンジは輸血液が切れたときに現れたレンガマンのようなものだ。
「だったら、その悪魔の契約を飲みましょう。外に出てからゆっくりと作戦を考えればいい」
もともとデンジとの相性も良くなかった荒井は、今すぐにでもこの階から抜け出したいのか、デンジを悪魔にさしだすという選択をする。
「私は反対だ。そもそもこの契約は不可解な点が多い。
あの
どうやらアキも同じ意見らしく、デンジは差し出さないと結論づいた。
気絶しているコベニを入れたとしても多数決的に殺さない派の意見が多かったので妥当だ。
ただ、姫野はアキを刀を使うような場面になることがあればデンジを悪魔に差し出すようなのでまだ安心はできない。
「あ〜それにしてもお腹すいたな〜。さっき狩人くんが見つけてきた食べ物をみんなで食べようよ。お腹空いてるとイライラしちゃうしね」
姫野が大袈裟な動きで自分のお腹を押さえながら空腹を訴える。
周りの人も姫野の話を聞いてお腹が減ったのか、どこからかグゥ〜という音が響きてきた。
「それもそうだな。だったらそこの部屋から取ってくるとしよう」
狩人は食料がまとめて置かれている部屋に入り、食料が置いてきたベッドの上に目を向けるも、そこには何も無かった。
なぜ食料がないのだ?と思うよりも先に、口をもぐもぐと動かしながら、食べかすをたくさんつけたパワーを見つける方が幾分か早かった。
「・・・・・・全部食べたのか」
「ワシじゃない。デンジが食べてあったわ」
「すぐバレる嘘を・・・・・・」
どんな時も通常運転のパワーに狩人は呆れを通り越してもはや尊敬すら覚えた。
とりあえず、パワーの口の周りについた食べかすを拭いていると、先ほどまで気絶していたはずのコベニがいつの間にか起きているのに気づく。
しかし、その目にはもはや理性はなく、ガタガタと体を震わしながら包丁をこちらへと向けていた。
「分かった。わ、私分かっちゃったよ。その魔人の力でこの階から出られないんだああ!絶対そうだああ!」
「落ち着き給えよ。パワーにそんな能力をない。彼女はただの血の魔人。そんな力はない」
「魔人をかばうの!私たちデビルハンターなのに……あなたも悪魔の仲間なんだああ!!スパイだったんだああ」
もはや聞く耳を持たないコベニは包丁をこちらへと突き付けながら鼓膜が破れそうなほどの声量で叫ぶ。
もう一回気絶させた方がいいだろうか。と思ったがここで説得しておかないとまた起きたときにめんどくさくなる。
狩人はなおも暴れるコベニの腕を抑えながら、説得を試みようと言葉を投げ掛けるが一切効果はない。むしろ狂気が増している。赤い月でも見たのか
「スパイだ!スパイだ!スパイだああああ!」
華奢な体のわりにパワーがあるコベニに想像以上に振り回されてしまった狩人のポケットから何かがべちゃり、と落ちる。
ぼとり、でも、ゴトッでもないその奇妙な音に疑問を感じたコベニはいったん動きを止め、狩人の落としたものへと視線を向ける。
そこには、赤い何かの塊のようなもの落ちていた。
よくよく見てみるとそれは何かの生き物のようで……コベニは、自分の頭の中にふとよぎった考えをそんなわけない、と首を振り否定する。
しかし、パワーがそれを否定した。
「おい狩人。なんでオヌシ、赤子の死体など持ってるのだ?」
その発言を聞いたコベニは許容範囲内の恐怖を超えてしまったのか。白目を向きながら、泡を吹いて倒れた。
コベニが倒れるのと同時に部屋の外から悪魔が吠えた。
「私は恐怖で膨らみ、恐怖をとらえる者。お前達の死は確定した」
そういった直後、部屋が。いや、この建物全体が傾き始める。
狩人は落としたレッドゼリーと倒れているコベニを回収すると完全に建物が直角になる前に、アキたちと合流する。
やがて、建物傾くのが終わり、足場も安定したのを確認した狩人は先ほどまで廊下にいた悪魔へと目を向ける。
「これは……なかなかにまずいことになったな」
狩人は、自分たちをこの階へと閉じ込めている
更新が遅くなってすいません。
リゼロのナツキ・スバルが原神世界に転生したら面白そうだな。とか考えてたらいつの間にか時間が経ってました。
誰か書いてくれないかな……自分で書くか。
あと、次の話でホテル編は終わらせるつもりです。