『永遠の悪魔』を倒したのち、八階から出られるようになったアキたちは何十時間ぶりかの太陽の光を受け、安堵感で体をいっぱいにしていた。中でも、デンジは寝ずに戦っていたので、外に出るや姫野の体に倒れこむ形で眠ってしまった。
「デンジ君は疲れ果てて寝ちゃったけど、狩人君は大丈夫なの?」
「問題ない。むしろ、久しぶりの狩りで調子がいいぐらいだ」
今回の戦いはデンジの助けがあったおかげか、割とスムーズに事が進んだ方だったのでな。なんならミコラーシュの方が何倍もめんどくさかった覚えがある。近づいては逃げ、近づいては逃げ、近づいては逃げ、しまいにはバカみたいな叫び声と笑い声を浴びせてくる。怒りのあまり大砲をぶちかまして水銀弾を無駄にしてしまったぐらいだ。だめだ思い出すだけで怒りがわいてくる。
狩人は過去の苦い記憶を思い出すのをやめ、今回の戦いで損傷してしまった武器たちへと目線を向ける。
今回の狩りは長丁場かつ夢に戻ることもできなかったので、久々に武器を破損してしまった。耐久度マイナスの血晶石を使っている影響で耐久の減りが激しいのが原因だろう。願わくばスタマイの強力な血晶石が手に入るのが望ましいのだが、出てくるのはゼンマイばかり。こればかりは運になってくるから仕方ない。また時間を見つけて聖杯ダンジョンに潜ることとしよう。
寝てしまったデンジを担いだアキと姫野はデンジを病院に連れていこうとする際に、悪魔と戦闘した私も連れて行こうとしたが、疲れているわけでも、怪我をしているわけでもないので断った。
それに、狩人は医療というものに忌避間を持っている。医療と聞いてしまえば、上位者との交信、あるいは上位者へと至る道を模索した結果、ヤーナムに獣の病を蔓延らせる原因となった医療教会を嫌でも連想されてしまうからである。
ベッドで寝ていた次の日に、青いキノコのような見た目にされることを考えるだけでぞっとするものだ。
「それじゃ、ここで一旦お別れだね。二人は今日のことを報告に行って。あと狩人君もしっかりと休みを取るんだよ!」
姫野は、そんじゃ~ね。といい残しながら、デンジを病院へと連れていくべく、その場を去る。
狩人の方も、貯まった血の意志の消費など夢の中に用があるので、ホテル近辺にあったランタンに触れながら二人組に別れの挨拶をした。
▽▲
「新人歓迎会?」
「そ!4課も全員集まったことだし、親睦を深めつつ今抱えてる問題をなくしていきましょうよ」
殺した悪魔の死体の中から銃の悪魔の肉片を探していると、姫野先輩からの唐突な誘いがかかった。彼女が言うことには、前の悪魔事件で荒井やコベニがデンジを殺そうとしたことを悔いているらしい。そのわだかまりを無くすべく、今回の新人歓迎会という名目で二人の退職を防ごうというわけか。
「姫野先輩も殺そうとしてたじゃないですか」
「ね~今の子はそんなことも気にしちゃうんだね。それに狩人君が止めてくれたんだからモーマンタイでしょ」
それに、と姫野先輩は続けた。
「飲みの場だったらデンジ君たちにもささっと謝れるし、狩人君の詳しい話とかも聞けるかもしれないよ」
「あんた飲みたいだけでしょ」
あれこれとそれらしい理由を述べているが結局のところ彼女の本音はただ楽しく酒を飲みたいだけだろう。とはいえ、姫野先輩の言う通り、狩人のことが気にならないわけでもない。あいつが持つ謎の不死性と、悪魔に対する異常な執着心。そして、あの卓越した戦闘技術はいったいどうやって身につけたものなのか。それを聞き出し、ものにすることができれば銃の悪魔への道も近づくに違いない。
そんなことを考えていると、姫野先輩がにやにやとした薄ら笑いをやめ、やけに真剣な顔でこちらを見ていることに気づく。
「正直さ。デンジ君と狩人君って何者だと思う?」
「……わからない。けど、あの悪魔がデンジのことを知ってる風だったのが気になりますね」
「私も同感。だけど一番気になるのはあのマキマさんがデンジ君と狩人君を気にかけてること。どっちも出身が不明で能力も不明。いくら色物が集まる4課とはいえ、さすがにおかしいとは思わない?」
確かに、姫野先輩の言う通り心当たりがないわけでもない。あの日初めて狩人と会った時にマキマさんの元へと連れて行ったとき、彼女は何かを知っている様子だった。特に、ヤーナムという言葉に強く反応を示していた気がする。まさか、マキマさんは俺たちに何か隠しているのだろうか。
いや、マキマさんは俺のことを助けてくれた命の恩人だ。そんなことをするはずがない。でも待てよ、
「アキ君。大丈夫?」
考え事をしてると、姫野先輩が心配そうな様子で覗き込んでくる。
「大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけです」
アキが思考を整理するために煙草を取り出して吸い始めると、姫野先輩が火をつけるようにもらえるように煙草の先端部分を向けてくる。アキは煙草の先端を押し付けて火種を移してやると、口の端の方からゆっくりと煙を吐き出す。
「マキマさんを酔わせて話を聞いてみよっか?」
▽▲
「「「かんぱーーい!!」」
明るい歓声と共にお互いのグラスをぶつけ合い、これから始まるであろう食事に皆が心を躍らせ、顔見知りであろう人たちが会話に花を咲かせていた。
狩人が夢の中での用事を済ませた後、ちょうどアキの家へと戻ったところ新人歓迎会があるとアキたちに誘われたのだ。特に断る理由もないためついていくと、そこには前の任務で一緒だった姫野や荒井たちがおり、おそらく同業であろう人たちが集まっていた。
テーブルにはすでに数々の料理と酒が並んでおり、各々の皿に料理をとりわけながら食事を楽しんでいた。狩人は生命活動として食事を必要とはしていない。とることがあるとすれば、たまに人形ちゃんと紅茶を飲むぐらいだった。しかし、この鼻腔をくすぐるような香りからは、鳴ったことのない腹の音が聞こえるような錯覚を引き起こした。
狩人は、近くにある料理をいろいろと取り、そのどれもを堪能した。もくもくと食事をしていると自分のちょうど目の前に座っている男が大きな声でしゃべり始めた。
「新人歓迎会なんだから新人は立って自己紹介!!名前と年齢と契約してる悪魔の名前を言え!」
そういえば、食事に夢中で忘れていたが新人歓迎会だったな。と狩人は思い出した。一応、ヤーナムにおいてはそれなりでも、この場において狩人は新人である。ルールにのっとるなら狩人もしっかりと自己紹介をする必要があるだろう。
デンジたちの自己紹介が終わった後、残るは狩人だけというところになる。狩人はゆっくりと立ち上がり、全員と目線を合わせるとこの場にいる全員が聞こえるであろう声量で話し始める。
「昔の記憶がないため名前と年齢は分からない。だから呼び方は狩人でいい。契約してる悪魔は現在の所はいない」
「狩人君って記憶喪失なの~?大変だね。じゃあ私から狩人君の記憶が戻りますように~二拍二礼一拝!」
「先輩もう酔ってるな」
「酒を控えさせた方がいいんじゃないか」
姫野の席へと目を移してみると、そこにはすでに大ジョッキが4つほど並んでいた。あの酒の度数がどのくらいのものかわからないが、限界が来てもおかしくないほどの本数だった。しかし、当の本人はというものの、店員に対して三本の指を立てながら、「生ビールもう一つお願いしま~す」と言っている。
これは止めても無駄だろうな。と料理を取り分けた皿へと目を戻すととっていたはずの料理が野菜を除いてすべて無くなっていた。いったい誰が、と周囲を見渡すと口を大きくもごもごと動かしながら私のとっていたはずの料理を食らっているパワーがいた。
「ワシじゃないが」
「まだ何も言ってないぞ」
どうせ問い詰めたところで意味はないだろうので、大人しく残った野菜をもぐもぐと食べていると、後ろから艶のある声が聞こえてきた。振り返ってみると、互いの息遣いが聞こえそうなほど近い距離でこちらをのぞき込んむマキマがいた。
「狩人君は意外にベジタリアンなんだね」
「貴公もこの会に参加するのか」
「うん。お酒飲むの好きだからね。それに、デンジ君と狩人君の様子も見に来たかったから」
コートをハンガーにかけると近くにいた店員に酒を注文し、マキマはデンジの横の席へと腰を掛けた。彼女は、少しだけデンジの方へ近づくと何かを確かめるかのような様子でじっと見つめた。そんなマキマの行動に耐え切れなくなったデンジが照れ隠しのために大きな声で話し始める。
「マキマさん。俺さあ!銃のなんちゃらとかの肉片を拾いましたよ!!」
「うん。聞いたよ。狩人君も一緒に協力したんだって?」
「ああ。とはいっても倒す方法を思いつたのはデンジの方だがな」
「そうなんだ。二人はいいコンビに慣れそうだね」
彼女は私とデンジを見合わせながらそう言うと、酔いを少し覚ますために水をグイッと飲んだアキがマキマへと質問をかけた。
「この頃、肉片を持つ悪魔の出現ペースが高すぎます。それにあの悪魔はデンジのことを知っているようでした。狩人のことと言い、デンジのことと言い、マキマさんは何か知ってることがあるんじゃないですか?」
アキは懐疑心のこもった目でマキマを見つめる。マキマは店員から届けられた酒を受け取り、それを一息で飲み干すと、ドンッとジョッキを机に置いた。
「私より飲んだら教えてあげる」
「……すいません生二つ」
「こっちも生ちょうだ~い」
マキマからの挑発を受け、アキと姫野が口々に酒の注文を始める。一つ、二つ、三つ、そうして数えるのが億劫になりそうなほどの量のジョッキが届いたのち、最後まで残っていたのはマキマだけだった。
一体、あれほどの量の酒が体のどこにしまわれたのだろうか。しかも、さらに酒を注文しようとしているところを見るとまだまだ余裕なのかもしれない。恐ろしいな全く。
新しく届いた料理を取ろうと手を伸ばすと、近くに座っているマキマが皿を受け取り、料理を乗っけてくれた。
「狩人君はもう仕事には慣れた?」
「ああ。変な能力を使ってくる奴や、しゃべる奴が多いことを除けばやることはヤーナムとさして変わらないからな」
「そっか。これからは大きな仕事が来ることも多そうだからそれが聞けて良かったよ。狩人君には期待してるからね」
「では。期待に応えられるようより一層頑張るとしよう」
「頼もしい限りだね。期待してるといえばデンジ君もなんだけど……おや」
急に会話を途切れさせた彼女の視線の先へと目を向けると、そこにはなんと姫野とキスをしている姫野の姿があった。
そういえば、先ほど姫野は酔うとキス魔になると誰かが言ってた覚えがある。ちょうどその近くに座っていたデンジがその餌食になってしまったようだ。
まぁ、ホテルでもキスを求めて悪魔を殺そうと奮闘していたのだ。苦労に見合った報酬が得れてよかったじゃないか。とデンジたちの方を見ていると何やらデンジの顔色がどんどん悪くなっていくように見える。そして、その理由はすぐにわかることになった。なんと姫野がデンジとキスをしながらゲロを吐いていたのだ。なんとひどいものだ。数々のひどい経験にあってきた狩人だったがデンジのこのゲロチューはそれらに匹敵するほどひどいものである。
「デンジ!急いで吐き出すんだ!」
私がそう呼びかけるが、ショックのあまり動けていないのか一向に吐き出そうとしない。その様子を見たパワーが実に愉快そうな様子で喋り始める。
「マズいぞ!これは実にマズいぞ!」
「デンジは口に入れた栄養になるモノを何でも飲み込むクセがあるんじゃ!!」
パワーがそう言い終わるのと同時に、デンジの喉の奥から、ゴクリ、と聞こえてきた。そうしてゲロを飲み込んだデンジ本人はというと、あまりのショックからかその場で倒れこんでしまった。
「誰かデンジを介抱してやれ!!」
「ギャハハハ!!デンジがゲロを飲み込んだぞ!」
「み、みずぅ~」
そうして、阿鼻叫喚の中、狩人の初の歓迎会は幕を閉じた。
場面転換が多くて申し訳ない。原作見てると場面が切り替わるシーンが多くて否応にもこうなってしまう。
え?もっと文章力があれば自然につなげることができるって?
それができたら苦労しねぇ!