が、書き終わるのに二週間以上かかっています。何十話も連日更新している人たちの頭はどうなっているんでしょうか。自分には月イチも難しそうです。
ぼくの励ましによって元気を取り戻したナナとともに紫のゲートを通って〈電脳サファリパーク〉から出ると、モモさんとヤミが待っていた。
「解決しました」
「よくやりました、環」
報告をするとすぐにヤミがサムズアップで褒めてくれる。
「もういまから芽亜のところに行きますか?ナナ?」
ぼくの言葉にモモさんが訝しむ顔をする。ぼくが誰かを突然名前を呼び捨てするようになったのを彼女が見るのは二回目だったからだ。
「こういうのは早い方がいいですからね、私たちも探すの手伝いますよ?」
「いや、大丈夫だモモ……鼻が利く〈マリモッタ〉に手伝ってもらえばすぐに見つけられると思う」
そう言って〈デダイヤル〉からピンク色のパフスケイン*1のような生き物を手の中に取り出す。
「前に芽亜と遊んだときの匂いを覚えてるはずだから……いけるか?」
〈マリモッタ〉はモキュモキュと甲高い鳴き声で返事をしてナナの手から飛び降り、体長に対してかなり大きい二本の趾で跳ねるようにして移動を始めた。
ぼくたちはそれを追うようにして走り、数分後に土手にたどり着いた。
「あ、いた!」
ナナが大きな声を出して指さす先には、反対側の土手の斜面に腰を下ろす芽亜がいた。彼女はヤミの〈
芽亜に近づくために橋に向かう途中、ナナが真剣な表情で話し始める。
「なァ、ちょっといいか。芽亜とは……二人っきりで話させて欲しい。あんまり大人数で行けば逃げられちゃうかもしれないし、それに……これはアタシと芽亜の問題だから」
ぼくたちは頷き、ナナと別れて橋の下に身を隠す。
二人の様子をハラハラしながら見守っていると、ヤミがぼくの肩を叩いて耳打ちをしてきた。
「どうやら邪魔者がいるようです。おそらくメアと戦ったという殺し屋たちでしょう」
そう言うヤミの顔は鬱陶しそうでありながらどこか嬉しそうでもあった。
そういう邪魔が入るということは、芽亜が軽々しく殺人を行わなくなったということだからだ。
「メアに倒されたばかりで弱っているようですから、私が手を下すほどではありません……が、余計な介入はさせたくありませんよね?」
「えーっと、つまりー……」
なにを言いたいのか薄々気づいていたが、嫌な予感がしたのでわからないふりをした。ぼくはぼくの命を守るために訓練しているのであって、積極的に戦闘をしたくて訓練しているわけではないのだ。
ぼくのとぼけた返事に対して、彼女はニヤリと笑って続ける。
「新しい武器の試運転にちょうどいい相手ということです。訓練の成果を見せるときですよ、環」
言っていることは至極真っ当なのがいやらしいところだった。これを逃せば本物の戦闘を経験できる機会が減るし(実戦を経験すると格段に成長できるということはアゼンダ戦後にザスティン師匠に指摘されたことで既に実証されている)、弱いぼく一人で相手できるレベルのちょうどよく消耗している相手というのもかなり限定的な条件だったからだ。
「……不本意ですが、その通りですね」
戦うべき理由は揃っていた。ぼくは〈反重力ウイング〉を起動し、ララさんにつけてもらった拡張機能の一つである二酸化炭素検出による索敵機能で相手との位置関係を把握する。戦いの後で傷を負い、息が荒くなっているはずだ……どうでもいいことだが、ヤミはこんなハイテク装置なしで敵を察知していた。どうやったんだろうか?
翼の内側に三次元マッピングで表示されるデータによると、ちょうど土手が見えるマンションの非常階段に、大きな反応が三つだけあった。……三つだ。宇宙人なら呼吸器が複数個あったとしてもおかしくはない……ただ、合理的に考えるなら……
「あの、ヤミ
「ええ、一対三です。危なそうだったら助けるのでやれるだけやってみてください」
本気で言っているのだろうか。戦いの年季でも人数でも負けている相手に、ぼくが勝てると思っているのだろうか?
「さすがにそれは無……」
「うるさいですね」
ヤミはため息を一つつくとぼくの胸倉を掴んで敵のいる方向へ投げ飛ばす。
〈反重力ウイング〉によってなんとか減速をし、空中で停止したが、殺し屋たちはもう目の前だった。
「な、なんだァ?てめぇ!!」
つばの広い帽子をかぶった山賊のような風貌の大男がぼくに怒鳴りつける。
くそ……こうなってしまった以上やるしかない。
「なんにせよ、見られた以上ハ殺すしかないネ」
体全体が白い金属板で幾重にも覆われている細身の男がそう言うと、他の男たちも武器を手に構え始める。
黙って浮かんだままでいると、相手もこちらを警戒しているのかなかなか動き出さない。
ぼくがどれだけ嫌がろうと戦う必要があるのは事実だったので、この時間を利用して相手の分析情報を整理する。
まず一人目、黒い帽子の男は二メートルを優に超えるとげとげしい装飾のついた巨大な骨のような見た目の剣を背中に抱えている。あれを単なる大質量武器と捉えるべきではないだろう。もちろんそれだけであってもじゅうぶん以上に脅威だが、なにかしらの仕掛けがあると考えるべきだ。
二人目の男は、真っ白な装備を全身に纏い、膝下まである長い腕をしている。得物らしいものは見当たらないし、暗器を隠せるような装いでもない。……サイボーグか?あれは装備ではなく外装と捉えることもできる気がする。
三人目は日本刀のように見える大太刀を下げ、袴のような装いをしている。真っ当な剣士らしい装備だ。ぼくの師匠は宇宙トップレベルの剣士なので見劣りするように思えるが、油断はできない。
……これらはあくまで予想に過ぎず、どう戦うかわからない彼ら三人を相手にするだけでも苦しいのに、まだ外観からは判別できない宇宙人的な超能力を持っている可能性だってある。本当にどうしてヤミはぼくがこれに勝てると思ったんだ!
「くそっ、しゃらくせぇなァ!行くぜっ!」
そう言って黒い帽子の男がにらみ合いを終わらせ、大きく跳ねて非常階段から飛び出して巨大な剣を叩きつけてくる。回避のために後ろに下がって少し高度を上げる。こうするだけで彼は四階と半階の高さから落下することになるはずだが、なぜこんな雑な攻撃をしたのだろうか……警戒を続ける。
「〈反重力ウイング〉だろっ!その動きはわかってんだよ!!」
彼は剣を銃のように持ち直すと、ドンという音とともに先端の尖った部分が物凄い速さで射出される。ワイヤーで繋がっているのでぼくの体に絡みつけて動きを阻害するつもりだろう。一瞬、翼ではじくことを考えたが強度が不安だ。〈デビルーク鋼〉とかいう特殊な合金で作られているらしいが、薄くて軽い翼に対してぶ厚く重たい高速の物体はさすがに分が悪いと思う。
結局更に距離を取ることで回避した。普通の〈反重力ウイング〉なら避けきれない速度の攻撃だったのだろうが、ぼくのこれは改造されたものなので急制動が可能なのだ。
「はァ!?くそッ、なんだその動きッ!!」
落下していく大男から意識を外してもともと彼がいた非常階段のほうに目を向けるが、すでに他の男の姿は見えない。すぐさま二酸化炭素検出で場所を割り出す。
するとそれぞれ左右の建物の屋上に上っているのを発見した。両側から挟み撃ちにするつもりなのだろうが、むしろありがたい動きだった。
たぶん三人のうち一人も空中機動が可能な人がいないから分が悪いと見てその選択をしたはずだという予想ができるが、一対三ではなく一対一を三回繰り返したいぼくにとって、それぞれの距離が離れているという状況は理想的だ。
その場合、白装備の男と和装の男のどちらを狙うべきか。安全のためにできるだけ早く人数を減らしたいし、無力化が簡単そうな比較的軽装の和装の男を狙うことにする。
全速力で突っ込み、すれ違いざまに翼端の鋭利な部分で手首を狙って切りつける。
「やはりこちらか。……戦闘経験が浅いのだろう。読みやすいぞ!」
ぼくの攻撃は易々と防がれ、トラッシュトークを仕掛けてくる。
戦闘中に会話ができるほどの余裕はないので無視して一度距離を取る。
『環!左危ねェッ!!』
ランドの声に反応して見てみると、向かいの屋根に立つ白装備の男が手のひらをこちらに向けていた。……遠距離攻撃か!
寸前のところで貯水槽の裏に身を隠すとそこに何発もの光弾が撃ち込まれる。こういうことができるなら話は変わってくる。協力させない立ち回りが必要だ。幸い発射口が手のひらについているせいで狙いはあまり精密でないようなので、それを利用する。
機動力で上回っていることを活かしてぼくと白装備の男の間に和装の男がくるように移動し、接近戦に持ち込む。これであいつは光球を撃ち込めないし、ぼくは一対一に集中できるわけだ。
片翼で剣をいなしながら空いているもう一方の翼と素手で攻撃を行う。ぼくの強みは手数だ。⋯⋯なのだが……
「く、くそ……」
「ハッ!状況をコントロールする能力はあるようだが、純粋な戦闘力はそこまでだなッ!」
相手もうまく防御を行っているせいで決めきれないでいる。このままでは挟撃されてしまう。
「ガキィ……よくも避けやがって!ぶっ殺してやるッ!!」
十メートル程度の高さから地面に落ちることは彼にとってはダメージに入らなかったようで、もう屋上まで登ってきた黒帽子の男がそう言って凄む。
一対二の状況になってしまうので、いますぐこの和装の男を倒さないといけないが、〈バーサークDX〉は持っていない。別の切り口から対処するしかない。
「まだ練習中だから、あんまり使いたくなかったけど……」
ここが切り札の使いどころだ。
両方の翼とパンチを同時に繰り出すことで相手に防御を強要する。
和装の男は一方の翼は右手の籠手で、もう一方はその手に持った刀で受けることで片手で二つの攻撃を抑えるという離れ業を披露し、空いた左手でぼくの腕を掴む。
「焦ったな!」
このままホールドされたままなら背後から猛ダッシュで突っ込んでくる黒帽子の男に真っ二つにされて
「⋯⋯知ってるか?〈
これは奇妙な宇宙人固有の能力じゃない。物理的な法則に基づいた
ぼくの腕輪が電撃のような速度で変形し、鋭い刃となって相手の目を貫く。
激痛に怯んだところを翼で持ち上げ、自分と位置を入れ替える。
ぼくの頭をかち割ろうと大剣を振りかぶっていた黒帽子の男は急に止まることができず、そのまま和装の男が建物の床を破って埋まるほどの力で叩き潰す。……一人目の無力化成功だ。
……ああくそ、最悪の気分だ。こうしなければ死んでいたのはぼくかもしれなかったとはいえ、人に致命傷を負わせてしまったという責任がのしかかってくる。
「ちィ、雑魚がッ!!」
「追い詰めたネ」
白装備の男もやってきて両方向から挟み撃ちにされる。絶体絶命か?
「観念しておとなしく殺されな。一思いに一撃でやってやるからよォ……」
どういう配慮なんだろうか。……ふと上を見上げると、どうやら時間切れらしいことに気がついた。 大きくなっていく影に気がつかせないために、挑戦的な笑みを浮かべて注目を誘う。
「まったくありがたくない提案をどうも。⋯⋯ところで、天気予報は見てきましたか?
頭上を指さしそう言うと同時に、ヤミと芽亜が空から降ってきて二人の男を同時に叩き潰す。そういう技があるのか、二人の男はうめき声ひとつ上げることができずに気絶する。
「……人数不利でこれだけ戦えるならよくやった方でしょう。おつかれさまです」
「ごめんね環くん、私がとどめを刺し忘れたせいで……」
芽亜は両手を合わせて申し訳なさそうに謝る。
ぼくは翼をしまい、ほっと息をついてから答える。
「簡単に殺しをするよりはいいことだと思いますけど。それと、仲直りはできたんですか?」
「あ、うん!ちゃんとできたよ、ありがとう」
そう言う芽亜の目はいつもよりすこし赤く腫れているようにも見えた。
「……そ・れ・よ・り・もっ!!環くん、次はナナちゃんを狙うことにしたんだよね?素敵っ」
……どうやらすでにいつもの調子を取り戻しているようだった。
「とにかく、和解できたようでなによりです。……兵器として生きるのはやめたんですか?」
「いやそれは……兵器ではあるんだけど~、それはそれとしてナナちゃんとは友達なの!」
ああそう……その調子でネメシスの手下もやめてくれると嬉しい。
「えーっと、このあとはザスティン師匠に連絡してこいつらを銀河警察に引き渡すのと……」
あとはどうすればいいんだっけ?芽亜は依然敵だが攻撃の意思はないらしい(実際いまもぼくを助けてくれた)し、兵器である決意をしたがナナと友達でいる選択もした。
ぼくは彼女に対する態度をまだ決めかねていた。
「環くんは戦って疲れちゃったでしょ?もう今日は帰ってお姉ちゃんをぺろぺろしてあげなよ」
「あれは芽亜が言わせたことだろ」
「えっ」
ヤミが驚いた反応をする。
そういえば芽亜がどうやって〈精神侵入〉をしたのかについて考え込んでいて、そのことを伝えるのを忘れていたが⋯⋯まさか芽亜の体を舐めさせられながら言わされたことを本気だと思っていたのだろうか。
その後はナナたちと別れを告げ、ヤミと帰路についた。
主人公が名前を知れないキャラを複数人登場させて知らないまま進めようとすると「特徴+の男」としか言えなくてやりにくいですね。
ティアーユ先生のことを環くんは苗字でルナティーク先生と呼びそうですが、それだとヤミの宇宙船の名前と被るのでティアーユで統一します。