ToLOVEる─ラショナリズム─   作:げるみん

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自作小説を書くのは初めてなので、オリキャラのエミュレートは環くんで精一杯です。そのため〈寄生生命体ランド〉ちゃんには空気になってもらうことが多くなると思います。なんとか会話にねじ込めそうなところを探していますがこいつを作ったのは間違いな気がしてきました。
私の雑な頭では環くんに強くなってもらうための一番いい方法がこれしか見つからなかったので自業自得ですね。
彼女は寡黙な子なのであまり自分から話しかけないという事にしておいて下さい。


6:パラダイム・シフト

例の訓練の次の日、ぼくは御門先生に検査をしてもらいに来ていた。

 

「驚いた。これ、すっごい貴重な生き物よ。ランドって名前なんだけど……絶滅したと思っていたわ……」

 

それはすごい。ナナさんはこの生物を全く惜しむことなくくれたので、彼女のペットには他にもたくさんの絶滅危惧種がいるかもしれない。

 

「それで、どういう生態なんですか?」

「まず、この種はメスしかいないの。それじゃあどうやって繁殖するのかと言うと、それが特殊でね。ヒト型星人のオスのみに寄生して、宿主が子供を作るときに、宿主との間の子を子供に遺伝するように増えていくのよ。宿主より強い存在がいたら勝手に出ていってそっちに乗り換える本能を持っているから、子供からはそのうちいなくなるんだけど……とにかくそういうわけで強い相手を見つけるために宿主の凶暴性を高めるんだけど、そのせいでほとんど絶滅しちゃったっていう。あとは宿主にたくさん子をなしてもらうために、身体能力と性欲も底上げされるはずよ」

 

普段ダウナーな先生が突然すごい勢いで話し始めたので本当にレアな生物だったのだろう。

たしかにこれは特殊だった。托卵という訳ではないがそれに近い方法で、しかも別種の生物と遺伝子を混ぜることができる……

 

『あ、オレはいまのとこタマキから引っ越すつもりはネーからナ』

─そうじゃなきゃ、いますぐにでもザスティン師匠に乗り換えているだろうからその点で心配はしていないけど

 

……凶暴性や性欲は、正直そんなに増えたように感じない。変化には個人差があるのかもしれないし、ランドがそれを増幅しないように制御してくれているのかもしれない。どちらにせよ素のぼくでは師匠に極限まで手加減されて息も絶え絶えになるほどなのに、こいつがいれば半分の力を出した師匠に数秒でも食い下がることができたという物凄い有用性があるので、多少の悪影響があったとしても手放しがたい。

 

「なるほど、難儀な生態ですね」

「……あなたに限って欲に負けてえっちぃことをする人だとは思えませんが、そういうことはダメですからね、久慈環」

「性欲についてはまぁ、発散しなくて死ぬようなことではないし我慢すればいいので心配していませんが」

 

ぼくは三大欲求というものの確からしさに疑問を持っている立場なので、性欲を無視しようとすることは構わないが、最近はずっと傍にヤミさんがいるから処理する暇がないという懸念点がある。

 

「その子の貴重さはもうわかったでしょ?お願い!サンプルを取らせてくれない?」

「もちろん先生にはお世話になっているので……」

『ヤダ』

「と言いたいところですが、彼女は嫌だと言っています」

「そこをなんとか……!」

『イヤダ』

 

そんな、どちらも微塵も引かない押し問答が四回も続いたのでそろそろうんざりしてきたころ、後ろからナースに声をかけられる。

 

「お茶です」

「ありがとうございます……保健室にナースですか?それにまだ高校生くらいの年齢に見えますけど……」

「どうも初めまして!生まれてこのかた四百年の美少女霊能力者!そんな感じの一位*1の幽霊!村雨静です!お静ちゃんって呼んでください!」

「……あなた、そんなキャラだったかしら」

「昨日頑張って考えた自己紹介です!まさかこんなにすぐに使うチャンスが来るとは思いませんでした」

 

青色の髪のおさげを博麗の巫女のようにリボンで巻いた髪型の、ナース服を着た美少女がポーズをビシッと決めてクセの強い自己紹介をしてきた。幽霊と言ったか?そんなものは信じていないけど、ぼくの想像していたものとはだいぶ違う。

 

「よろしくお願いします。生まれてこのかた十六年の一般男子高校生。そんな感じの一人の人間、久慈環です」

「……あなたも、そんなキャラだったかしら」

「ぼくはもとから結構乗っかるタイプですよ……それで、幽霊というのは?ふつうの人のように見えますが」

「この体は御門先生に作ってもらったバイオロイドなんです!私は憑依しているだけで……ほら!」

 

そういうとお静ちゃんは糸が切れたようにフッと倒れてしまい、抜け殻の頭上に青白く薄光するステレオタイプな幽霊が浮かんでいた。

 

ホログラムか催眠とかでぼくが騙されているかもしれないと考えながら、霊体の彼女に触れてみると少しひんやりした感触が……熱力学第二法則に明らかに違反している。ぼくの腕に影が映らないのでどこからか投影しているという感じでもないし、暫定的に事実と思うべきだろう。

 

「宇宙人はまだ理解できますが、幽霊の存在まで認めないといけないなんて……」

 

最近は常識がひっくり返ることが多すぎてなにがなんだか分からない……この調子じゃ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ま、まあお静ちゃんが幽霊だということはわかりましたが……霊能力というのは?幽霊が幽霊を祓うわけではないでしょうし……まさかポルターガイスト的な力が、念動力が使えるとかでは……」

「そのまさかです!すごいでしょう」

 

胸を張ってふふんと鼻を鳴らし、手に持ったお盆を浮かばせてみせる。ぼくはお盆の周囲を手で探って糸がないことを確認し、ペンを取り出し磁力による現象ではないことも確認した。

く、くそ……古典物理学がみるみるうちに否定されていく。これまで信じてきたものの根底が覆さる。ニュートンの運動方程式も、保存則も、世界を説明する普遍の言語だと信じていたはずのものが、まるで砂の城みたいに崩れていく。

心理的リアクタンスの強い圧力を感じる。何百年もの間天才たちが積み上げてきたものが全て嘘だったなんて……こんな惨めな気分になったのは初めてだ……

 

……いや。でも、よく考えてみるとそれ自体はあまり悪いことではないように思えてきた。科学の全てに反証可能性がある以上、これまでの理論が根本から否定されることは驚くべきことではない。ぼくは自分自身に言い聞かせるようにしてこう考えた。

たんに天動説が否定され、これからは地動説の時代に入るというだけのこと。光は粒子であると同時に波でもあるということ。馬は飛ばないということ。*2

そして……これからは二たす二は三になるかもしれないということ。*3世界のほうが、四ではなかっただけだ。

 

俯き考え込むのはやめにして、彼女をしっかりと見据える。

衝撃はまだ消えていないが、そんなことより興味の方が勝っていた。目の前で起こっている異常な現象が()()なのは、まだどの理論でも説明ができていないからだ。ある現象について自分が理解できていないとき、その現象そのものが理解不可能というわけではない。それはたんに自分の精神の状態についての事実がそうであるだけだ。ぼくがこれについて恐れる必要は全くない。むしろぼくを驚かせてくれたこの念力に怒りすら湧いてきた。説明可能な法則を見つけてこのアノマリーを陳腐にしてやりたい。そう思った。

 

「それじゃあ……どういう法則が働くんです?」

「え?さあ……なんか、ぐって力を入れたら思った通りにものが動くんです!」

 

だいぶ雑な説明だった。そういえばまだ確認していないことがあったので、それについても質問してみる。

 

「……というか、そもそもお静ちゃんは宇宙人であっていますか?」

「人間ですよ?平安時代に生きていました!」

 

それはそれで歴史的価値がありそうだが、ぼくはどちらかというと理系寄りなので重要な情報ではない。それより重要なことは、霊能力……これだと霊媒師的な能力のように聞こえてしまうので念動力と呼ぶ方が好みだが、とにかくそれは人間がもともと備えている力だという可能性が生じたことだ。ふつう進化の過程で、突然新たな力が生えてくることはない。既にある特徴の拡大や微小な変質の積み重ねによってのみ進化し、高度に複雑な、それこそ念動力なんかはその特徴が種全体に広く行き渡ってからでないと生まれてこない。

 

「そうでしたか……いま思いついたのはその力自体はもともと人間に備わったもので、たんにそれをお静ちゃん以外が引き出せていないだけだという仮説。なんらかの理由で霊になったから力があるという仮説。確率は低そうですが、逆に霊能力をたまたま元から持っていたから霊になったという仮説。の三つです。合っているものはありそうですか?」

「うーん。この力の存在は幽霊になってから気がついたから二番目の仮説が合ってそうですけど……あ、そうだ!他の幽霊さんたちは霊能力を持っていないんでした。だから、二つ目と三つ目の間の説……たまたま私がそういう素養をもっていて、霊になったから力に目覚めたという説はどうでしょう」

「……他にも霊がいるんですね。いや、そりゃそうか……うん。これでぼくが考えた予想が全て外れていたことがわかりましたし……実験することも難しそうですね」

「そ、そうですか……すみません」

「謝ることじゃありません。それじゃあ他に霊能力についてまだ言っていない特徴はありますか?どんなことでもいいんです」

「えっと……そういえば制御が効かなくなることがよくあって、周りがよく見えていないとき……犬が苦手で、見たときに慌ててそうなりがちです。勝手に人や物を吹き飛ばしちゃったり、細かい制御が効かなくなったりします」

「……それは身体能力の延長だと考えればじゅうぶん説明できてしまいますね。後ろにあるものを手で正確に掴むことは難しいし、驚いたときに声が勝手に出てしまうこともあります……御門先生はなにか分かりますか?この力の起源や仕組みについて……」

 

手詰まりであることを感じたのでぼくより幅広い知識を持っていそうな先生に訊ねてみる。

 

「私も目下調査中って感じでよくわかっていないのよね。似たような力が使える宇宙人もいるけど、そっちもよくわかっていないから……」

 

食い下がりたい気持ちはあったが、専門家が調査中と言っている以上、いまここで答えが出る問いではないのだろう。引き下がるしかないが文句を言うくらいはいいだろう。

 

「そういうものなんですね。こういう能力なんかはよく研究されてそうですけど」

「特殊な能力を持った宇宙人って結構種類がいてね、種族特性なんかは詳しく研究されてわかってたりするんだけど、霊能力……念動力は発現する種族もタイミングもなにもかもバラバラで研究のしようがないのよ」

「なるほどそういう感じですか……じゃあ、もしなにか進展があったら教えて欲しいです。ぼくも考えてみたいので……」

「……ランドのサンプルを採らせてくれたらいいわ」

「どうぞどうぞ」

『オイ待て!なに勝手に……!』

─どうしてそんなに嫌がるんだ、ちょっとくらい協力してくれていいものを

『ヤダー』

 

ランドが嫌がったせいで本体のサンプルは採れなかったので、代わりに宿主であるぼくの血液と粘膜を採取されることになった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

放課後になり、自分の席で頬杖をついて勉強の疲労感を味わっていると、焦った様子のモモさんがぼくの方へ向かって来た。

 

「ちょっといいですか?()()()()の件で急ぎの話が!」

「聞かせてもらいましょう」

 

楽園(ハーレム)〉計画についての相談のようだったので真面目な顔になり、姿勢を正して続きを促す。

 

「まず今回の作戦の目的は、以前紹介した古手川唯さんにリトさんへの好意を意識してもらうことです」

「……?ちょ、ちょっと待ってください!計画というのはナナさんにリト先輩を好きになってもらうことなんじゃないですか?」

「あ!そっか、そうですね。説明していませんでしたね」

 

なにやら早口で作戦の概要を話されたが、いつものモモさんらしくなく説明不足だった。

急いでいるところで悪いが前にモモさんが言っていた、王位継承問題を解決するためにハーレムを作らせるという計画なら、気は進まないものの他の文化圏の事だったので構わなかったが、地球人も巻き込むというなら拒否しないといけないかもしれない。

 

「理由は前に話した継承権以外にもいろいろありますが……これはオフレコでお願いしますが、そもそも現在リトさんには想い人が二人います。そのうちの一人がお姉様なんですが、もう一人の方が地球人なんですよ。それとなく意を探ってみたところその方……どうやら両片想いのようなうえ、ハーレムにそれほど否定的でもなかったので、現状ハーレム計画を成功させることが三方良しの方法になるという理由なわけです」

「……そのリト先輩が好きな人っていうのは古手川先輩ではないんでしょう?彼女を計画に巻き込む理由は?」

「それは……もともと草食系のリトさんにハーレムを作らせることは尋常なことではないからです。実際計画を拒否されてはいませんが積極的という訳でもありませんし。並外れたことをするには並外れた理由……強い誘惑が必要で、ハーレムメンバー候補は多ければ多いほど良いんです!これで納得してくれますか?」

 

人の心を誘導し、弄ぶような行為は倫理的に咎められるべきだが……知り合いの恋を叶えるために第三者が裏で手を回すというのは普通に行われていることだし、古手川先輩がそれでいいならぼくに咎める権利はない?……ハレンチがどうのこうの言っていた人がハーレムを容認するようには思えないけど、ぼくがモモさんの手助けをすること自体に問題があるようには思えない。

 

「理由はわかりました。それで……モモさんは先程()()()()()()()()()()と言っていましたが、そもそも古手川先輩にリト先輩への好意があるんですか?ぼくの記憶ではハレンチだのケダモノだの言われていてリト先輩を非難する立場だった気がしますが……」

「それに関しては間違いなくあります。逆に言えばハレンチなことをされても非難するだけで済んでいるんですよ?好意を持っていない相手なら普通は通報するか縁を切っているはずです!」

「……たしかに。わかりました、疑問はもうありません。どんな計画ですか?」

「まず前提として、リトさんと古手川さんを二人きりにする必要があるので、美柑さんの帰りが遅く、お姉様とナナもマジカルキョーコのイベントに行っている上に、リトさんと古手川さんが一緒に帰っている今日だけがチャンスなんです!分かりましたか?とりあえず行きましょう!詳しい内容は飛びながら話します!」

 

たしかにこれは悠長に議論している場合ではなかった。

それにしてもマジカルキョーコか……たしか炎を使う魔法使いの少女という設定で……いやいや……いくらぼくがものごとを悲観的に考えるようにしているとはいえ、お静ちゃんの例があるせいであまりにもバカげた想像をしてしまった。

……悠長にしている暇はないんだった!

チラとヤミさんの方を向くと気だるそうな顔をして口を開く。

 

「プリンセス・モモがいるなら大丈夫でしょう。私はメアを見ておくので行ってきていいですよ」

 

たしかにいざとなれば師匠を呼び出せるモモさんと一緒ならヤミさんがいなくても大丈夫だろう。別れの挨拶をして下駄箱まで走る。

 

「ちなみにモモさん。飛ぶというのは?」

「あー!こんなことなら訓練のときに渡しておけばよかった!これを使います。〈反重力ウイング〉です!飛べます!貸します!」

「わかりやすい説明をありがとう!」

 

小型のチップを手渡され、モモさんを真似て服の背中に取り付けると蝙蝠の翼を模した二対の赤黒い羽が広がり、体重が軽くなったように感じる。

 

「手伝います、手を!」

 

モモさんの手を握り、上から引かれながら走ると滑るように離陸していく。誘導のおかげでスムーズに浮かぶことができ、地に足が着いていないことに対しての若干の不安をよそに加速していく。

ぼくは高所恐怖症だというのにこんな高さで高速移動していてもまったく恐怖を感じない。これも宇宙のスーパーテクノロジーだろうか。

 

『イヤ、それはオレのおかげだゼ』

 

……寄生相手を強い相手に向かわせるために恐怖心を抑制する。たしかに理にかなっているが、心の中では空にいることの嫌悪が浮かんでいるというのに恐怖だけが感じられないというのは奇妙な感覚だった。もしかしたらいまが一番寄生されたことを実感しているかもしれない。

 

「二人の下校路の動線的にこの辺りに……あ、いました。ふぅ……なんとか間に合いましたね……とりあえず二人をリトさんの家に誘導したいんですが、どう思いますか? 」

「二人きりにして良い雰囲気にすることで心を開かせるという計画だと思うんですけど、それだとたぶん時間がかかりすぎます。そんな悠長なことをしている間にみんなも帰ってきてしまうと思うので難しいんじゃないですか?」

「〈元素変換式バリア〉を使って時間稼ぎができると思います。あ、ちょうどいいところに校長先生がいるので、別れ道の近くで彼を使って誘導するのはどうでしょう。リトさんなら手を握って一緒に逃げてくれるはずです!家の近くまで行ったら雨を降らせて、シャワーを浴びさせるという口実も作りましょう!」

 

リト先輩のことをよく知らないので、モモさんがそう言うならそういう人なんだろう。肝心なところをリト先輩任せにしてしまう癖が抜けていない気がするがリト先輩がこの計画に協力的でない以上本人がどういう動きをするかが予想でしか計画を立てられないから、確証のない手段を選ばざるを得ない。こうなってくると外野から場を整えるのはなかなか神経を使う作業だと思う。

 

「うまく誘導できるならいい案だと思いますけど……」

「それなら大丈夫ですね、香りを嗅ぐとテンションが最高潮になる〈アドレナの花〉を使えば……」

 

モモさんはそう言うと携帯電話(デダイヤルと言うらしい)から赤色の花を取り出し、校長先生に後ろから近づいて匂いを嗅がせる。

 

「む?……むひょ~~~!なんだか興奮してきましたぞ!!」

 

校長先生はそう言って服を脱ぎだし、パンツ一丁で走っていってしまった。不審者などというレベルではない。いくら興奮しているからとはいえあんなのが自分の高校の最高責任者だと思うと最悪な気分になってきた。

 

「それじゃあ環さん、誘導をお願いします。校長先生はいま女性にしか興味がないので男性がいる道は避けるはずです。ですので、先回りして正しい道に誘導してください」

「……わかりました」

 

ところであの花に麻薬成分は入っていないのだろうか、あそこまで効き目が強いなら法規制されていてもおかしくないと思うが……ガチガチの合理主義者であるモモさんはバレなければ多少の犯罪は問題ないと思っている節がありそうだし、結構不安である。

ようやく操作に慣れてきた〈反重力ウイング〉を使い、分かれ道に先回りすることで校長先生をリト先輩のいる道へ向かわせる。

 

「むひょ~!女の子ですぞ!ぺろぺろしたいですぞ~~!」

「なあっ!校長!なんで!?逃げるぞ古手川!!」

 

リト先輩は古手川先輩の手をつかみ走り出した。

 

……本当にモモさんの言う通りになったな。彼女のほうがリト先輩のことをよく知っているのだから、やはりぼくの参謀としての役割は必要ない気がしてきた。どちらかというといまやったような雑用をメインでやらされることになるかもしれない。

 

……先輩たちが追われているのを上から眺めながら追いかけているといくつかの道が消えていることに気が付いた。きっとモモさんが立体映像(ホログラム)かなにかで、ちゃんと結城邸までたどり着けるように先回りしていたのだろう。

 

「さて、そろそろ大丈夫そうですね」

 

合流したモモさんは、また別の青色の花を取り出し校長先生に嗅がせると一気に興奮が収まり追いかけるのをやめた。あれの名前は……興奮させる花の名前がおそらくアドレナリンモチーフなのだから、その反対でノルアドレナリン、アセチルコリン、セロトニンとかだろうか。……あまり収まりがいい名前ではない気がする。

 

「〈ケンジャの花〉で冷静にさせて、あとは雨で濡らすことで連れ込みましょう!」

 

たしかに賢者というのは得てして落ち着いているものだ。ぼくの短絡的な対比構造的命名では思いつけない良いネーミングだと思う。……それと、ところで宇宙人ともなると天候まで操れるのだろうか。

 

「さぁ!よろしくお願いしますね、〈アメフラワー〉さん♡」

 

モモさんがそう言ってデダイヤルから取り出した、〈アメフラワー〉と呼ばれた巨大なひまわりのような見た目の植物は筒状花から大量の水を噴き出していた。水を使って光合成する植物にとってはほとんど自傷行為だと思うが⋯⋯

 

「わぁっ!す、すげーなこりゃ!古手川、家すぐそこだからひとまずうちへ!」

「え!?」

 

リト先輩たちを誘導している間モモさんは〈アメフラワー〉に絶えず声をかけ続けている……ナナさんは動物と会話ができていたので、モモさんは植物と会話ができるのだろうか?

 

「よし、うまく誘導できましたね」

「はい……いまのところぼくが必要だったかは疑問ですけど……」

「いえいえ、一人で作戦を立てて実行するのは結構つらいことなんですよ?自分の考えが間違っていないかを他の人から確かめてもらうだけでも心が楽になりますし……費やせるリソースも増えますしね!」

 

あなたはメンタルケア要員兼雑用係だということをオブラートに包んで言われた。……この人はぼくより年下だというのに非常に優れた戦略家だが、そのせいで孤独を感じていたのかもしれない。

 

「それで次はどうするんですか?」

「古手川さんの服を取り換えようかと。こういうときは裸Yシャツと相場が決まってますからね!」

 

コンピュータを操作し、家の周りにバリアを張りながらそう言う。その相場をぼくは知らないんだけど。……このまますべてモモさんの計画通りに進めて、ぼくが使えない奴だと思われることは癪なので献策してみようか。

 

「〈|楽園計画参謀〉として言わせてもらいますけど、そういう安易な誘惑は感心しませんね。押してダメなら引いてみろという言葉もありますし……モモさんは以前並外れた誘惑が必要と仰っていましたが、あまりやりすぎてそれが常態化してしまっては効果が低減すると思います。ぼくとしてはわざと刺激の強い状況を作ることは控えて、ハーレムメンバーを集めきって全員の総意を得たのちに彼女らが自主的に誘惑することで理性を一気に破壊するという戦略が理想だと思います。……なので今回は、リト先輩のジャージを着させるくらいのほうがいいと思います」

「なるほど…………………………あー……環さんの性癖はそうなんですね?」

 

モモさんはしばらく自身の過去を思い返すような遠い目をした後、ぼくへのカウンターを放ってくる。

 

「……モモさんは日本人ではないので知らなかったんでしょうけど、その性癖という言葉の使い方は誤用ですよ。こういうときは性的嗜好とか、フェチと言うのが正しいです」

「……ふっ、ふふふっ……わ、分かりやすすぎますよ!そんな雑な……ふふっ、逸らし方は!」

 

一瞬驚いたような顔をした後吹き出し、苦しそうに笑いながらぼくの失敗を指摘してくる。

 

「いえ、ぼくとしては一般論を言っただけで……一般的なことをぼくの趣味だと勘違いされてもダメージはほとんどないし、言葉の誤用を指摘することのほうが大事だと判断しただけです」

「往生際がわるいですよ……ふふふ」

 

この人はどうしてもぼくの趣味ということにしたいようだった。

こうしてしばらく口論を続けていると、古手川先輩のシャワーが終わったようでジャージ姿でリト先輩の部屋に集まっていた。

 

「……ぼくの嗜好の話はもういいですから……それじゃあ、ムードのために停電でも起こしますか?」

「いいですね、私もそうしようと思っていました」

 

コンピュータのエンターキーをッターンと中指で弾いて停電を起こす。その文化は宇宙でも同じらしい。

 

「ここからはぼくたちが手出しできることはなさそうじゃないですか?」

「そうですね、リトさんに任せることになるので、私たちはお姉さまたちの足止めをしましょう」

 

ベランダから顔を出し、モモさんが指さした玄関のほうに目を向けると、バリアで立ち往生を食らっている結城家のメンバーがいた。

足止めと言ってもなにをすればいいのか……

 

『オイ、タマキ!なんかやべェ!』

「え?」

 

空から高速で現れたヤミさんがぼくを押し倒した瞬間、ぼくの頭上をかすめるように強烈な光を伴う熱線が通過した。

 

「!?いまのは……大丈夫ですか!環さん!!」

「ヤミさんのおかげでなんとか……」

 

ベランダの塀に頭を引っ込め射線を切りながら周囲を警戒する。

いまの攻撃で家の周りに張っていたバリアは消え、作戦は終わってしまった。

 

「たぶんいまのは例の……ヤミさんを狙っていたやつからの警告でしょうね……」

「すみません久慈環。止めきれませんでした……」

 

きっと芽亜だろう。以前言っていた通り、いつでも狙われているということを意識させ、恐怖を味わわせるというのはこういうことだろう。

 

「……本当に大丈夫ですか?⋯⋯⋯⋯作戦は失敗に終わりましたし解散にしましょうか」

「すいません。ぼくのせいでバリアが破れてしまいました……」

「なに言っているんですか、命が一番大事ですよ」

「それはそうですね……あ、そうだ。これ返します」

「いえ。〈反重力ウイング〉の予備はまだありますし、環さんが生き残る助けになるかもしれませんから、差し上げますよ」

 

これはかなり嬉しいことだった。体力をほとんど消費せず走るのより速く移動できる手段ができるなら逃走に使えるかもしれない。

モモさんに別れを告げ、ルナティーク号に戻って今日あった出来事を思い返しながら眠りにつく。

 

……ところで、ぼくがモモさんの説得に負け、古手川先輩(地球人)を〈楽園〉入りさせる試みに手を貸してしまったのは、承諾先要請法(ロー・ボール・テクニック)によって懐柔されていたのではないだろうか?本来のぼくならそんなことは断るはずだったが……と、ここまで考えたあたりで眠気が限界に達していたのでそれ以上追求することができなかった。

 

*1
幽霊・人魂の助数詞(Wikioedia『助数詞』から)

*2
歴史的な例として、ギャロップする馬の脚は、馬の脚がどれも地面に触れていない時点で開いているという信念があり、その支持者たちの絵画にこのイメージが含まれるほどであった。しかし、エドワード・マイブリッジによる馬のギャロップの最初のストップアクション写真は、これが誤りであり、脚は代わりに集まっていることを示した。(Wikipedia『科学的方法』ページから引用)

*3
オーウェルの『1984年』の作中で全体主義のディストピアが2+2=5だと信じさせることが人間の精神を完全に支配した証拠として描かれており、それにより権力と洗脳や()()の象徴となった。そしてそれの対比として2+2=4は現実や()()の象徴になった。それらをふまえて環くんはここで2+2=3を()()()()()の象徴としている




今回環くんが〈誘惑のDDos攻撃戦法〉を伝えたことでリトへのモモの夜這いがなくなりました。
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