閑話:ダンジョンの日常
戦闘部屋Bにて、ゴブリンキングは軍団の拡大に勤しんでいた。
前回捕らえた女冒険者を使って己の軍団を増やしているのだ。
女冒険者は二人。片方は泣いて我々から逃げようとしていた女。片方は自分から身体を差し出した女だ。
まず、我が行ったのは従順な女を優遇することだった。
怪我を治してやり、王に衣類と食事を申請して与えてやった。衣類は雌を飾り立てる淫靡なものだったが、最高級の品物なのは手触りだけで分かった。
リリス様のスキルを封じ込めた香を焚き、女をその気にさせてから紳士的に丁重に扱った。
この女はもともと好きものだったのだろう。すぐに順応して我だけでなく他のゴブリンの相手も自ら行うようになった。
それを見た反抗的な女も、治療を欲したか、食事を欲したか、……香に毒されて疼いたか、徐々に従順になったので同じ待遇にしてやった。
この二人はそれぞれ10体のゴブリンを産んだ。つまり、我ら全員の子を一回ずつ孕んだわけだ。
種の力も子に影響を与えるようで、ロイヤルナイトの種からはナイトが、ジェネラルの種からはパラディンが、セージの種からはメイジが、プリーストの種からはシャーマンが産まれた。
そしてキングである我の種からはプリンスとゴブリナが産まれた。
プリンスは将来のキングであることは分かる。ただ、ゴブリナは我ですら予想外だった。
我らゴブリン族は雄しかいない種族。その種族に母体となる雌が産まれたのだ。
王から戦闘部屋Bを任された立場からすると、ゴブリナを孕ませて、強力なゴブリンを誕生させるのが正解だろう。
だが……親としての我は娘を母体にしたくはない。幸せな生を全うしてほしい。できれば王の寵愛を賜るのが理想だ。
娘のことは王に相談することにして、拡大した軍団について考える。
外部の女を使って繁殖することで、ダンジョンの制約に縛られずに軍団を拡大できると思ったのだが、目論見は半分成功した。
ダンジョンの設置数に縛られない軍団の運用は可能となった。しかし、我のスキルによる強化は適応されないのだ。
プリンスがキングに昇格することで解決するかもしれないが、王の力も作用しないため、プリンスの昇格は自力で行う必要があるだろう。
プリンスの戦闘経験の蓄積、ゴブリナの扱い、それらを王に相談するために王に思念で連絡を取った。
暇だ。ゴブリンキングが侵入者を撃退してから侵入者が来ないのだ。
クドラクとシャナの調査結果から、準備が整うまでダンジョンの調査は保留にするという情報があったのでそのせいかもしれない。
暇つぶしにコア部屋にラミアを呼んで交流することにした。
いつも独りぼっちだからな。たまには呼んでやらないと可哀そうだ。
コア部屋に召還したラミアは感動したかのようにマッスルポーズを取り始めた。
……暑苦しい。やっぱり送還するか?
まあ……それだけ寂しさを感じていたのだろう。次はDPをガッツリ貯めてダンジョンを大規模に改装する予定だ。コイツにも仲間を用意してやろう。
そんなことを考えているとゴブリンキングから思念で語り掛けられている感じがする。会話は出来ないんだが、なんとなく言いたいことが分かるんだよな。
どうやら新しく産まれた子供について相談したいみたいだ。
息子に戦闘経験を積ませて進化させたい。娘を献上するので大切にしてほしいみたいなニュアンスだと思う。
ゴブリンキングの子供たち、ゴブリンプリンスとゴブリナをコア部屋に連れてくるようにゴブリンキングに命じる。
ダンジョンの制約に縛られない存在はダンジョンの恩恵も受けられないからな。俺の力が及ばないし、死んでも復活はしないだろう。
そのへんはどうでもいいが、ダンジョンマスターたる俺に従わないのは困る。
変な気を起こさないように躾けてやる必要があるだろう。シャルを呼び出してゴブリンキングの到着を待つ。
ラミアがシャルロットに勝負?を挑んで瞬殺されてから10分後、ゴブリンキングがプリンスとゴブリナを従えてやってきた。
そのままゴブリンキングは膝を折るが、プリンスとゴブリナは立ったままだ。
自分達の父が膝を折ったことに驚愕しているが、俺を見て困惑した表情になる。
なんで、こんな雑魚に?といった感じだ。
それを見たシャルから凄まじい威圧感が発せられる。
黄金の闘気が漏れ出し、ダンジョンが揺れる。パソコンが警告音を発し緊急事態を知らせた。
「頭が高いのではないか?小僧ども」
冷たい眼差しが二体を射抜いた。二体は恐怖で失禁しながら頭を地面に擦り付ける。
それを見たシャルは力を抑えて普段通りに振舞う。
威圧感がなくなったことで二体は顔を上げてコチラを見る。
そのタイミングでシャルの服の中に手を入れて胸を弄る。
「あっ、主様よ……いきなりすぎるのじゃ……!」
その光景に二体は目を見開いて驚いた。
この二体はキングの子供。つまり最初に産まれたはずだ。だったら親たちの繁殖を何度も見ているだろう。雄が雌を支配する瞬間を。
自分たちが失禁するほどに恐ろしい怪物を、何でもないような人間が支配している。
二体の目に恐怖が宿る。もはや俺に逆らうことはないだろう。
ゴブリンキングを戦闘部屋Bに移動させて、ラミアを治療する。
プリンスとラミアに模擬戦闘をさせて戦闘経験を積ませるのだ。
ゴブリナはリリスに預け、【輪廻】と【淫紋】を施すことにした。
プリンスとラミアの模擬戦闘を見ながら、自分のダンジョンの成長を感じてていた。
コア部屋の眷属エリアで、レオン、アル、カイル、レックス、アリア、メリッサ、シャナ、ジャンヌが模擬戦闘を行っていた。
レオンは他のメンバーにやや劣るため今までは参加していなかった。しかし、リリスの【淫紋】により、リリスから力を借り受けることで戦闘力が2600まで上昇した。
これにより、他のメンバーと互角に戦えるようになったのでリーシャ村4人VS絶剣4人で模擬戦闘をすることにしたのだった。ただし、アリアは頭一つ抜けて強いのでスキルの使用を禁止されている。
リーシャ村組と絶剣組が向かい合うと、コア部屋の空気が一気に引き締まった。
レオンは深呼吸し、胸元に刻まれた【淫紋】をそっと押さえる。
リリスから流れ込む魔力が、身体の奥で脈打つように広がっていく。
戦闘力2600。つい昨日までの自分では考えられない数字だ。
「……よし。やれる」
レオンの呟きに、隣のアルが笑う。
「緊張しすぎですよレオンさん。」
「そうだぞ、親父。前みたいにドッシリ構えてくれ」
レックスも励ます。
レオンは小さく頷き、剣を構えた。
一方、絶剣の4人は余裕の表情だ。
「レオン、強くなったみたいだね。楽しみだよ!」
アリアが笑顔で剣を抜く。
「……油断は禁物。リリス様の力、侮れない」
シャナが影に溶けるように姿勢を低くする。
「魔力の流れが以前と違う……これは面白いな」
メリッサが魔力を練りながら観察する。
「レオンさん、怪我はさせませんから……全力で来てくださいね」
ジャンヌが微笑む。
――そして、クドラクが手を上げた。
「……始め」
その瞬間、床を踏み鳴らす音が重なり、模擬戦闘が始まった。
最初に動いたのはアリアだった。
「いくよっ!」
風を切る音とともに、アリアの剣がレオンへ迫る。
以前なら反応すらできなかった速度だ。
だが――
「見える……!」
レオンは剣を横に払って受け止めた。
火花が散り、アリアの目が驚きに見開かれる。
「すごい! 本当に強くなってる!」
アリアの後ろからメリッサが詠唱を開始する。
「【ウィンド・バレット】!」
”風の弾丸”がレオンへ飛ぶ。
だが、カイルが前に出て剣で斬り払う。
「おじさんは僕たちが守る!」
「助かる!」
レオンはカイルに背中を預け、アルとレックスが左右から絶剣組を牽制する。
影の中からシャナが飛び出し、レックスへ短剣を突き出す。
「【影縫い】」
「……甘い」
しかし、レックスは一歩後ろへ下がり、シャナの攻撃を紙一重で避けた。
「お前の癖、もう覚えたぞ」
「……やる」
シャナの口元がわずかに緩む。
彼女は戦闘中に笑うタイプではない。
それだけレックスの成長を認めている証拠だ。
アリアの剣を受け止めたレオンは、魔力を脚に集中させる。
「はあああっ!」
踏み込み――
アリアの懐へ一気に距離を詰める。
「速っ!?」
アリアが驚く間もなく、レオンの剣が彼女の肩へ軽く触れた。
「……一本」
クドラクの声が響く。
アリアは悔しそうに笑った。
「くぅ~スキル禁止だと勝てないかー!やるじゃん、レオン!」
「まだまだ……いける!」
レオンの目が輝いていた。
自分が“戦える”という実感が、胸の奥で熱く燃えている。
「3対4だからな。少し本気で行くぞ!」
メリッサが杖を構え、魔力を高める。
「……じゃあ、私も本気でいきます!」
ジャンヌが後衛に下がり、回復魔法の準備をする。
「……」
シャナが影に溶ける。
絶剣3人が“本気の陣形”を取った。
リーシャ村組も武器を構え直し、レオンが前に出る。
「来い……! 今の俺なら、誰にも負けない!」
その言葉に、見学に回ったアリアが笑う。
「いいね! そういうの大好き!」
再び激しい衝突が始まろうとした時、全員を圧倒的な威圧感が襲い、クドラクでさえ心臓が一瞬止まる。遅れてダンジョンが悲鳴を上げた。
「……何…?」
クドラクが威圧感の方を見るとシャルロットが力を開放して二体のゴブリンを睨みつけていた。
シャルロットの力はすぐに収まったが、模擬戦闘を再開する雰囲気ではない。
「……レオン、誰にも負けないとか言ってたよね?ちょっとシャル様に挑んできてよ!」
「……勘弁してくれ!」
微妙な雰囲気を払拭するためにアリアが軽口を叩き、レオンを揶揄う。
みんなでシャルロットの強さを話し合いながら模擬戦闘の反省会を始めた。
プリンスとゴブリナの対応が終わった後は、シャル、リリス、クドラクを呼んでイチャイチャすることにした。
呼ぶとリリスとクドラクはシャルロットに詰め寄っている。
「ちょっと!吃驚したじゃない!心臓止まるかと思ったわよ!」
「……クドは一瞬止まった……!」
「主様の威光を示すために必要だったのじゃ。許せ」
リリスとクドはシャルロットの腕を引っ張って抗議している。
シャルはされるがままになっているな。
こうして見ると三人娘の仲が良くなっているのが分かるな。ちょっと前までは独占欲が強かったが、最近では協力して俺を囲いにくるし、お互いを認めたのかもしれないな。
シャルの両腕に引っ付いているリリスとクドごとシャルを抱きしめて添い寝する。
久しぶりに健全な夜を過ごした。