ダンジョンマスターになりました   作:饅頭怖い

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鮮血の刃

 ミルス冒険者ギルド長ラザニアは、迷宮都市の冒険者ギルド完成によって、迷宮都市冒険者ギルド長ラザニアになっていた。

 

 ギルドの会議室ではラザニアを含む冒険者ギルドの幹部による会議が行なわれていた。

 

 ダンジョン調査から戻った騎士団の報告を基に、新たな資料が作成された。それが冒険者ギルドへのダンジョン探索許可と一緒に、冒険者ギルドにも提供されたのだ。

 

 時間になり、議長であるラザニアが発言する。

 

「これより会議を行う」

 

 ラザニアの声が会議室に響いた。

 

 迷宮都市冒険者ギルドの幹部たちが一斉に姿勢を正す。

 

 机の中央には、騎士団から提供された“新資料”が置かれていた。

 

 そこには、冒険者たちが知るはずのない情報――

 

 魔物の入れ替え、宝箱の増加が赤字で記されている。

 

 ラザニアは資料を軽く叩き、言った。

 

「まずは……生き残った冒険者たちの証言を共有する」

 

 会議室の空気が一段と重くなる。

 

 生き残った冒険者は、26人中13人。

 

 幹部の一人が資料を読み上げる。

 

「ゴブリンキングが率いる複数の上位希少種と遭遇。上位希少種は統率された軍隊のような戦い方を行い、9体でCランク冒険者26人と互角に戦闘。キングの戦闘力は常軌を逸していて一瞬で8人が殺された。戦線が崩壊し、撤退を決意。生還したのは半数の13人」

 

 別の幹部が眉をひそめる。

 

「……何回聞いてもイカれているな」

 

「ああ。物語でももうちょっと抑えるぞ……現実とは思いたくない」

 

 ざわつく幹部たち。

 

 ラザニアは静かに手を上げ、場を鎮めた。

 

「次に騎士団から提供された新資料を共有する」

 

 先ほどと同じ幹部が読み上げる

 

「かつてダンジョンから生還したDランク冒険者達の証言とは異なる有様だったらしい。魔物の変化、宝箱の増加を確認したとのこと。また推定Cランクの魔物と遭遇。魅了スキルを使用してくるため魅了対策を行うべしとのことです」

 

 その言葉に、全員が息を呑んだ。安全だと思われていた左ルートにゴブリンキングと並ぶCランク魔物が発生したのだ。もはやダンジョンの富など考えている場合ではない。

 

 ラザニアは続ける。

 

「そして……問題はもう一つある」

 

 彼は資料の別ページを開いた。

 

 そこには、ゴブリンの増加が記されていた。

 

「ゴブリンの数が……増えている?」

 

 ラザニアは深く頷いた。

 

「ああ。右ルートを監視した騎士からの情報だ。ゴブリンの希少種、パラディン、メイジ、シャーマンが20体近くいたとのことだ。……上位希少種でないことが救いだが、ふざけた戦力だよ」

 

 会議室がざわめきに包まれる。

 

 ラザニアは机に手を置き、静かに宣言した。

 

「――冒険者調査隊を編成する」

 

 幹部たちが一斉に顔を上げる。

 

「騎士団は次の調査に向けて再編中だ。だが、我々ギルドも独自に動く必要がある。迷宮都市の未来は、ダンジョンの情報にかかっている」

 

 幹部の一人が手を挙げた。

 

「調査隊の隊長は誰に?」

 

 ラザニアは迷いなく答えた。

 

「――エドワードだ」

 

 会議室が静まり返る。

 

 エドワード。その実力はCランク冒険者でも上位に位置する頼れる男だ。

 

 幹部の一人が不安げに言う。

 

「エドワードは確かに優秀だが……彼らは地獄を目にしたばかりだ。少し酷なのでは?」

 

 ラザニアは静かに微笑んだ。

 

「生き残った彼らは13人でパーティーを結成し、ゴブリン討伐を掲げて壮絶な訓練を行っている。彼らならきっと大丈夫だ」

 

 その言葉に、幹部たちは黙り込んだ。

 

 ラザニアは続ける。

 

「エドワードには、ギルドの期待を背負ってもらう。彼ら”鮮血の刃”の初陣は、迷宮都市の未来を決める戦いになるだろう」

 

 会議室の空気が引き締まる。

 

 ラザニアは最後に言った。

 

「――調査隊の編成を急げ。ダンジョンは、我々の想像よりも速く進化している」

 

 会議は静かに、しかし確実に緊張を孕んだまま終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議が終わり、幹部たちが席を立ち始める。

 

 椅子の軋む音と、資料をまとめる紙の擦れる音だけが会議室に残った。

 

 ラザニアは最後まで席を立たず、机の上の資料をじっと見つめていた。

 

 ――ゴブリンキング。

 ――上位希少種の軍隊。

 ――魅了スキルを使うCランク魔物。

 ――宝箱の増加。

 ――ダンジョンの進化。

 

 どれも、冒険者ギルドが想定していた“普通のダンジョン”とは程遠い。

 

「……迷宮都市は、もう後戻りできないところまで来ている」

 

 ラザニアは小さく呟いた。

 

 そこへ、会議室の扉がノックされる。

 

「失礼します、ギルド長」

 

 入ってきたのは、今回の調査隊の隊長に任命されたエドワードだった。

 

 ラザニアは顔を上げる。

 

「来たか、エドワード」

 

 エドワードは深く頭を下げた。

 

「ギルド長。調査隊の件、確かに承りました。……ですが、本当に私でよろしいのですか?」

 

 ラザニアは微笑む。

 

「お前以外に誰がいる。“鮮血の刃”は、地獄を見てなお折れなかった。その強さは、ギルドの誇りだ」

 

 エドワードは拳を握りしめた。

 

「……必ず、成果を持ち帰ります。あのゴブリンキングに仲間を殺されたままでは終われません」

 

 ラザニアは頷き、資料を一枚差し出した。

 

「これは騎士団からの追加情報だ。右ルートのゴブリン達はさらに数を増やしている。お前たちの初陣は、間違いなく厳しいものになる」

 

 エドワードは資料を受け取り、目を通す。

 

「……パラディン、メイジ、シャーマンが20体……。これが本当にゴブリンの編成なのか?」

 

「信じたくはないが、事実だ」

 

 エドワードは深く息を吸い、静かに言った。

 

「――ならば、俺たちも進化するしかありませんね」

 

 ラザニアは満足げに頷いた。

 

「その意気だ。“鮮血の刃”の初陣は、迷宮都市の未来を左右する。頼んだぞ、エドワード」

 

 エドワードは力強く頭を下げ、会議室を後にした。

 

 扉が閉まると、ラザニアは椅子に深く座り直し、天井を見上げた。

 

 迷宮都市の冒険者ギルド長としての責務が、重く肩にのしかかる。

 

 だが同時に、胸の奥に微かな期待もあった。

 

 ――この都市は、必ず発展する。

 ――そのためには、ダンジョンのことを知らねばならない。

 

 ラザニアは静かに目を閉じた。

 

「……頼むぞ、エドワード。そして……“鮮血の刃”の諸君」

 

 迷宮都市の未来を決める戦いが、静かに幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  迷宮都市の外れ。

 

 仮設の訓練場には、夕暮れの光が差し込んでいた。

 

 そこに立つのは――13人。

 

 かつて26人いたCランク冒険者の生き残り。共にダンジョンに挑み、そして地獄を見た者たち。

 

 今はただ、静かに武器を握りしめていた。

 

 彼らの顔つきは、以前とはまるで違う。

 

 恐怖で震えていた者は、今は歯を食いしばり、前を睨んでいる。

 

 仲間を失った悲しみに沈んでいた者は、今は怒りを燃やし、剣を振るっている。

 

 そして――全員の目に共通していたのは、“覚悟”だった。

 

 

 訓練場の中央に立つ男、エドワード。彼は仲間たちを見渡し、静かに口を開いた。

 

「……俺たちは、あの日、死んだ」

 

 誰も否定しない。

 

「仲間を失い、誇りを失い、冒険者としての自信も失った。だが――」

 

 エドワードは剣を地面に突き立てた。

 

「まだ終わっていない。あのゴブリンキングに、仲間を殺されたままでは終われない」

 

 仲間たちの拳が震える。怒りか、悔しさか、決意か――その全てだ。

 

 エドワードは仲間を見渡し、宣言した。

 

「今日から俺たちは――“鮮血の刃”だ」

 

 その名は、仲間の血を忘れないための誓い。

 

 そして、自分たちの刃が再び折れないようにという願い。

 

 13人は、静かに頷いた。

 

 

 その日から、訓練場には狂気じみた音が響くようになった。

 

 剣戟。魔法の爆ぜる音。悲鳴にも似た気合い。

 

 彼らは、死線を越えた者だけが持つ“研ぎ澄まされた危機感”で動いていた。

 

・ゴブリンキングの一撃を想定した回避訓練

・上位希少種の連携を模した模擬戦

・長期戦を想定した持久力強化

 

 訓練は過酷だったが、誰一人として弱音を吐かなかった。

 

 

 数日後、ラザニアが訓練場を訪れた。

 

 そこにいたのは――以前のCランク冒険者ではなかった。

 

 彼らは、“死を知った戦士”の目をしていた。

 

 ラザニアは思わず呟く。

 

「……これは、もうCランクの域ではないな」

 

 エドワードが振り返り、軽く笑った。

 

「ギルド長。俺たちはもう、あの日のままじゃいられませんから」

 

 それからほどなくして、騎士団のダンジョン調査隊帰還の報が迷宮都市を駆け巡り、彼ら”鮮血の刃”にダンジョン調査が依頼される。

 

 “鮮血の刃”の13人は、ギルドの期待を背負い、迷宮都市の未来を背負い――再びダンジョンへ挑む覚悟を固めた。

 

 彼らの初陣は、迷宮都市の歴史に刻まれる戦いとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョン右ルートの入口。戦闘部屋C。そこは、世界中で“雑魚”と呼ばれるゴブリンたちが支配する領域だ。

 

 だがこの光景を見て彼らを見下せる者はいないだろう。

 

――規律。

――統率。

――殺気。

 

 ゴブリン特有の下卑た喚き声は消え、

 代わりに聞こえるのは、武器を打ち鳴らす乾いた音と、訓練に励む荒い呼吸だけだった。

 

 ゴブリンキングは、かつてのようにただ威圧するだけの王ではなかった。

 

 彼は“戦い方”を知っていた。

 

 冒険者たちとの死闘で得た経験を、そのまま軍団の鍛錬に落とし込んでいた。

 

「グルルル……ッ!」

 

 キングの咆哮が響くと、パラディンたちが一斉に盾を構え、メイジとシャーマンが後方に下がり詠唱を開始する。

 

 その動きは――

 

 冒険者パーティーの陣形そのものだった。

 

 キングは冒険者の戦い方を“学習”し、

それをゴブリン軍団に叩き込んでいたのだ。

 

 戦闘部屋Cの広場には、以前では考えられないほど多くの希少種が集まっていた。

 

・ゴブリンナイト2体

・ゴブリンパラディン6体

・ゴブリンメイジ6体

・ゴブリンシャーマン4体

 その数、18体。

 

 通常のダンジョンでは、希少種は“数体”が限界。だがこのダンジョンは――繁殖していた。

 

 その中心に立つのは――幼いゴブリン。

 

 だが、その瞳は幼さとは程遠い。

 

「ギャアアッ!」

 

 プリンスの号令で、パラディンたちが一斉に前進し、メイジとシャーマンが魔力を練り、ナイトが剣を構える。

 

 幼体でありながら、彼はすでに“指揮官”としての才能を見せていた。

 

 キングはその姿を見て、満足げに頷く。

 

 ――これは、王の器だ。

 

 ゴブリン軍団は、もはや魔物の群れではない。

 

・統率された動き 

・役割分担

・魔法と物理の連携

・陣形の維持

・撤退判断

 

 これらは本来、人間の軍隊が長い年月をかけて身につける技術だ。

 

 だがゴブリン軍団は、キングとプリンスの指揮のもと、短期間でそれを習得していた。

 

 理由は単純。

 

 彼らは毎日“死ぬ気で”訓練しているからだ。

 

 冒険者との戦いで得た経験を、そのまま軍団全体に共有している。

 

 訓練の最中、プリンスの身体がふっと光を帯びた。

 

 キングが目を細める。

 

「……ギャア?」

 

 プリンス自身も驚いたように手を見る。

 

 その身体から溢れるのは、明らかに“進化”の前兆。

 

 希少種の幼体が、さらに上位の存在へと変わろうとしていた。

 

 キングはゆっくりと立ち上がり、プリンスの頭に手を置いた。

 

「グルル……」

 

 その声は、王としての誇りと期待に満ちていた。

 

 

 ――我が息子よ。

 ――次の戦いで、お前は“王族”として覚醒する。

 

 

 ゴブリン軍団は、冒険者調査隊の接近を察知していた。

 

 プリンスは前線に立ち、隣にはプリンセスが並び立つ。

 

 その二人を部屋の奥でマッスルポーズを取りながら眺めるラミア。

 

 部屋の中央には、聖なる風をまとった妖精――シルフィーヌが浮かんでいた。

 

 部屋の隅ではワイトが身を寄せ合っている。

 

 戦闘部屋Cは、ゴブリン軍団の領土となっていた。

 

 

 

 

 

 

 ゴブリン軍団が静かに息を潜める戦闘部屋C。

 

 その空気を震わせるように、通路の奥から足音が響いた。

 

 規則正しい、訓練された足音。

 

 ――冒険者調査隊、“鮮血の刃”。

 

 

 シルフィーヌの風の結界が揺らぎ、冒険者調査隊“鮮血の刃”が突入した。

 

 エドワードが叫ぶ。

 

「全員、戦闘準備! 押し切るぞ!!」

 

 冒険者たちは恐怖を押し殺し、訓練で磨き上げた動きで一気に前へ出た。

 

 パラディンの盾列が受け止めるより早く、冒険者の前衛が斬り込んだ。

 

「ギャッ!?」

 

 ゴブリンパラディンの盾が砕け、メイジの詠唱が中断され、シャーマンが斬り伏せられる。

 

「一体撃破! 前に出ろ!」

 

「怯むな! ゴブリンごときに遅れを取るな!」

 

 “鮮血の刃”は、地獄を見た者の動きだった。

 

 恐怖を怒りに変え、怒りを刃に変え、刃をゴブリンに叩き込む。

 

 次々と希少種が倒れていく。

 

 予想外の事態にプリンセスが歯を食いしばる。

 

 シルフィーヌの結界も、冒険者の魔法で軋み始めていた。

 

 ラミアがプリンスとプリンセスの前に出る。

 

 冒険者たちは、“ゴブリン軍団が強い”と知った上で挑んでいる。

 

 恐怖を克服した人間は、強い。

 

 そして――

 

 プリンスはまだ、ただの幼体だった。

 

 軍団は押され、崩れかけていた。

 

 エドワードが叫ぶ。

 

「今だ! パラディンを突破する!」

 

 冒険者の剣が閃き、ゴブリンパラディンが一体、また一体と倒れていく。

 

「ギャアアッ!!」

 

 メイジの魔法が中断され、シャーマンの呪術が途切れ、ナイトが斬り伏せられる。

 

 プリンセスが震える手でプリンスの手を握る。

 

 その瞬間だった。

 

 プリンスの身体が、まるで心臓の鼓動に合わせるように光を放ち始めた。

 

 シルフィーヌが息を呑む。

 

 プリンセスが目を見開く。

 

 ラミアが笑う。

 

 プリンスは震える手で剣を握りしめた。

 

 冒険者たちが迫り、刃が振り下ろされる。

 

 その瞬間――

 

 プリンスが咆哮した。

 

 「ギャアアアアアアアッ!!」

 

 その声は幼さを捨て、“王”の威圧を帯びていた。

 

 プリンスの咆哮が部屋全体に響いた瞬間、倒れかけていたゴブリンたちの身体が光に包まれた。

 

・パラディンの盾が再生し

・メイジとシャーマンの魔力が跳ね上がり

・ナイトの動きが倍速になる

・プリンセスがクイーンへと羽化する

 

 シルフィーヌが驚愕し、ラミアが笑う。

 

 冒険者たちは一瞬で形勢が逆転したことに気づいた。

 

 エドワードが叫ぶ。

 

「なっ……!? まさか進化するのか!この土壇場で!!」

 

 強化されたジェネラルが前衛を押し返し、

 セージの魔法が冒険者の盾を焼き、

 プリーストの魔法が全てを癒し、

 ロイヤルナイトが背後を取る。

 

 冒険者たちは一気に劣勢へ追い込まれた。

 

「くそっ……! 撤退だ!!」

 

 エドワードが叫ぶ。

 

「全員、退け!! ここはまだ攻略できない!!」

 

 冒険者たちは負傷者を抱え、必死に通路へと逃げていく。

 

 プリンスは追撃の号令を出そうとしたが――

 

 クイーンとなったプリンセスがそっと手を添えて首を横に振る。

 

 プリンスは小さく頷いた。

 

 その身体は光に包まれ、ついに――

 

 新たな姿へと進化した。

 

 

 

 

 

 

 

 シャナから冒険者の調査隊が来ると情報があった。

 

 ゴブリン軍団の性能を確かめるいい機会だ。

 

 楽しみに待っているとパソコンから緊急アラームが流れる。どうやら来たみたいだ。

 

 ダンジョンの入口に、冒険者調査隊の姿が映った。

 

 俺は椅子に深く座り、コーヒーを啜りながら呟く。

 

「……おお、来た来た。13人か。さて、どれだけやれるかな?」

 

 画面の向こうでは、冒険者たちが慎重に陣形を整え、戦闘部屋Cへと踏み込んでいく。

 

 その瞬間――

 

 ゴブリン軍団が押され始めた。

 

「おいおい……マジかよ」

 

 俺は思わず前のめりになった。

 

 パラディンが盾ごと吹き飛ばされ、

 メイジが斬り伏せられ、

 シャーマンの魔法が中断される。

 

 冒険者たちは、恐怖を克服した“本物の戦士”の動きだった。

 

「……強いな。……ああ、ゴブリンキングと戦って生き残った奴らだな。見覚えがある」

 

 ゴブリンたちが次々と倒れていく。

 

 プリンセスが焦り、

 シルフィーヌが結界を張り直し、

 ラミアがプリンスとプリンセスを庇う。

 

 そして――

 

 プリンスが震えていた。

 

「……そりゃそうだよな。初陣で軍団が崩壊しかけてるんだ。怖いに決まってる」

 

 俺は息を呑んだ。

 

 プリンスの身体が光を帯びた。

 

「……来たか」

 

 画面の中で、幼いゴブリンが震える手で剣を握りしめる。

 

 冒険者の刃が迫る。

 

 その瞬間――

 

 プリンスが咆哮した。

 

「ギャアアアアアアアッ!!」

 

 その声は幼さを捨て、“王族の威圧”を帯びていた。

 

 俺は思わず笑った。

 

「これで繫殖で産まれたゴブリンたちも強力になるな」

 

 プリンスの咆哮と同時に、倒れかけていたゴブリンたちが光に包まれた。

 

・パラディンの盾が再生し

・メイジの魔力が跳ね上がり

・シャーマンの魔力が強化され

・ナイトの動きが俊敏になり

・プリンセスが成長した

 

 

 

ステータス

C-ランク

名無し

種族名 ゴブリンプリンセス(ゴブリンクイーン)

戦闘力 1800(2500)

固有スキル 【天賦】

種族スキル 【暗視】 【小鬼鼓舞】 【母体】

技能スキル 【武術:剣(上級)】 

      【武術:体術(上級)】 【闘気】  

      【魔力感知】 【魔力障壁】 

      【魔力操作】 【魅了】 

      【誘惑】 【妖香】 

魔法 【攻撃魔法:土(上級)】

   【攻撃魔法:火(中級)】

   【攻撃魔法:水(下級)】 

 

 

「……プリンセスも強化されるのは予想外だったな」

 

 俺は思わず立ち上がった。プリンスの進化は想定内だが、プリンセスの強化は完全に想定外だった。

 

 ゴブリンキングの【小鬼進化】は配下のゴブリンを強化するスキルのはずだ。同格のプリンセスに作用するとは……いい意味で予想を超えてくれたな。

 

 冒険者たちの顔が絶望に染まる。リーダーの男が撤退を合図している。

 

 俺は肩をすくめた。

 

「まあ、そうなるよな」

 

 冒険者たちは負傷者を抱え、必死に通路へと逃げていく。

 

 プリンスは追撃の号令を出そうとしたが、プリンセスがそっと手を添えて止めた。

 

 画面の中で、プリンスは小さく頷く。

 

 その身体は光に包まれ、ついに――

 

 新たな姿へと進化した。

 

 俺は深く息を吐いた。

 

 

ステータス

C-ランク

名無し

種族名 ゴブリンキング

戦闘力 2200(2300)

種族スキル 【小鬼強化】 【小鬼進化】 【暗視】 

技能スキル 【武術:剣(中級)】

      【武術:体術(中級)】 【統率】     

魔法 【攻撃魔法:土(中級)】 

 

 

「……よくやった、プリンス。初陣で軍団を守り切ったか。これで戦闘部屋Cは、完全に“ゴブリンの領土”だな」

 

 モニターに映る進化の光を眺めながら、俺は次の計画を思案する。

 

「さて……戦力が充実したし、右ルートも舐めプできそうだな。監禁部屋の捕虜を偶に捕まえつつ、撤退させてDPを稼ぐか。ゴブリンキングに半壊させられても来たんだ。あの冒険者たちの根性は本物だ」

 

 コーヒーをもう一口飲み、俺は笑った。

 

「さあ、俺のダンジョンをもっと成長させてくれ冒険者どもよ」

 

 

 

 

 

 この日から半年間。

 

 冒険者たちは右ルートに挑み続け、新たなキングが率いる”ゴブリン軍団”と幾度と死闘を繰り広げる。

 

 騎士と貴族の私兵は左ルートを周回する。

 

 ーーあるものは富を求めて。

 

 ーーあるものは癒しを求めて。

 

 傷だらけの冒険者たちと無傷の騎士たちの対比は、やがて一つの火種となる。

 

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