刻を廻る術師の話   作:もく 

10 / 14
タイトル変えました
引き続きよろしくお願いします

アンケートを追加したので再投稿しました



10話 京都姉妹校交流会 後編

「さあ、全てをぶつけろ! 好敵手(マイライバル)!」

 

「……わかりました」

 

照の周囲で、呪力が密度を増して練り上がっていく。

パチパチと弾ける青白い雷が激しさを増し、周囲を監視していた冥冥の烏たちが、その圧力に耐えかねて次々と地面に落ちた。

 

「あんまり、そちらの学長や上層部には知られたくないんですよ」

 

照は少しだけ顔をしかめ、心の中で付け足した。

 

(勢いでやっちゃったけど……冥さんに後で請求されそうだな。まあ、五条先生に払わせればいいか)

 

東堂は不敵に笑い、隆起した筋肉を躍動させる。

 

「安心しろ。俺はライバルを売ったりしないさ。――お前が、俺のライバルたる存在である限りはな!」

 

 

 

校舎内

映像が途切れたモニターを前に、冥冥が口角を上げた。

 

「やってくれたね、五条君」

 

「じゃあ約束通り、頼みますよ冥さん。……パンダ、棘、真希。君たちは隣の部屋に行って」

 

事前に支払われた報酬に従い、冥冥は新たな烏を差し向け、映像を隣の部屋のモニターだけに繋ぎ直す。

そこから先は、選ばれた身内だけが目撃する、天野照の真価の時間だった。

 

 

戦場

東堂は呪力を込めた石を周囲に撒き散らし、不義遊戯による位置入れ替えで照を翻弄する。対する照は、断続的に未来視を発動させ、脳内に流れ込む予知映像を頼りに死角からの強襲を紙一重で回避し続けた。

 

(やはり天野照の術式は『刻廻呪術』。あの人が言った通りか)

 

東堂の脳裏に、数ヶ月前の記憶が蘇る。

京都校に突如現れた特級術師、九十九由基の言葉だ。

 

『禁断の術式、興味ない? ……近々、彼の生徒が交流会に出てくると思うんだ。その時は、君なりに彼らを正しく導いてほしい。これからの呪術界を背負う者としてね』

 

(……対応はできている。おそらく未来視だ。だが、動き出しが速すぎる!)

 

東堂は一瞬の思考で照の弱点を見抜いた。

未来を知り、先回りして動き出す。それは「確定した未来」に対しての最適解だが、突発的な揺らぎに弱い。

東堂の拳が、照の脇腹を捉えた。

あえて不義遊戯を発動しないというフェイント。未来の映像に依存しすぎた照の動きが、現実の東堂の動きに一瞬遅れたのだ。

 

「甘いぞ、もっとだ! でなければ俺とお前はライバルではなくなってしまう!」

 

「それは別にいいんですけど……っ!」

 

(未来を見ても、その後の動きを一つ一つ読まれてる。これじゃ、されるがままだ……。当てるには、新しい手が必要だ!)

 

照が踏み込み、殴りかかる。だが、東堂はそれを難なく躱す。

 

「どうした! マイ・ラ……」

 

――ドォッ!!

 

直撃を避けたはずの東堂の体が、背後から突き飛ばされた。

 

(躱された打撃を、そこに留めて『未来』へ送った……!?)

 

照しか知らない刻廻呪術の応用。直撃しなかった攻撃を時間の隙間に設置し、後から発動させる「罠」。

だが、東堂は驚異的な対応力を見せた。

空間に残された打撃の残滓すらも把握し、不義遊戯で座標を入れ替えることで無効化してみせる。

 

(……勝ち筋を作るなら、この場で『新しい手』を掴むしかない)

 

照の脳裏に、直前の五条先生との会話がよぎる。

 

 

 

『ねぇ、二人は黒閃って知ってる?』

 

放課後の静かな教室。五条悟は、教卓に腰を下ろしながら唐突にそう切り出した。目隠しの奥にある瞳の動きは読み取れないが、その口角はいつものように軽薄な笑みを刻んでいる。

 

『『……コクセン?』』

 

照と月詠の声が重なった。聞き慣れない単語に、二人は顔を見合わせる。

 

『そう。黒閃っていうのはね、打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した時に生じる現象のことさ。発動した瞬間、空間は歪み、呪力は黒く光る。……ま、簡単に言えば超すごいクリティカルヒットだよ』

 

さらりと言ってのけたが、その「誤差」の桁は常人の理解を超えている。月詠は眉間に皺を寄せ、少しだけ身構えるように聞き返した。

 

『おい……。まさかお前、俺らにそれをぶっつけ本番でやれって言ってるんじゃないだろうな?』

 

『まさか〜! 今度ちゃんと授業で教えるよ』

 

五条はひらひらと手を振って月詠の懸念をいなした。

 

『そもそも、これを狙って出せる術師なんて一人もいないしね』

 

その言葉に、今度は照が純粋な疑問を投げかける。

 

『先生のその六眼でも、無理なんですか?』

 

最強と謳われるこの男なら、その神の如き眼でタイミングさえも見切ってしまうのではないか。そう期待を込めた視線に対し、五条は少しだけ天井を仰いだ。

 

『うーん、たぶん気温や湿度、いろんな条件が複雑に絡むんじゃないかな。僕でも確定で出すのは無理だよ』

 

 最強の術師をして「確定ではない」と言わしめる奇跡の輝き。その黒い火花の正体を想像し、二人の間にわずかな沈黙と、それ以上の高揚感が広がっていった。

 

 

 

(……集中しろ)

 

照は深く呼吸し、周囲の音が消えるほどの極限状態(ゾーン)へと突入した。

反射。呼吸。呪力操作。

すべての挙動が自意識を離れ、最適化されていく。

未来の自分から呪力を前借し、雷の術式で神経を加速させる。

東堂もまた、照の変化を察知していた。歓喜に震えながら、東堂は全神経を研ぎ澄ませて迎え撃つ。

 

――パァン!

 

東堂は不義遊戯を発動させ、回避したと思った。

だが、視界が入れ替わった直後、目の前には既に照の拳が迫っていた。

不義遊戯の発動を察知した瞬間に、照は動きを止めず、入れ替わり直後の座標へ高速反転して肉薄したのだ。

 

そして、奇跡が起きる。

 

極限の集中下にある照の体が、反射的に打撃の呪力のみを『0.000001秒以内の先の未来』へと転送した。

気温、湿度、呪力の波。

あらゆる条件が必然のように噛み合い、打撃と呪力が「誤差なし」で衝突する。

照の呪力が、漆黒に光った。

 

 

 

 

 

空間が歪み、漆黒の火花が散る。

打撃と呪力が0.000001秒の誤差もなく衝突した際に生じる現象――黒閃

 

直撃の瞬間、東堂は呪力を一点に集中させ、防御に全振りをすることでかろうじて致命傷を避けた。だが、吹き飛ばされた先で体勢を立て直した彼の眼前にいたのは、先ほどまでの照ではなかった。

 

術師が黒閃を発動させると、アスリートでいうゾーン状態に突入する。

 

照の瞳は一点を凝視し、呼吸は驚くほど深い。気温、湿度、呪力の揺らぎ……あらゆる不確定要素を刻廻の感覚が支配し、次の打撃もまた、必然として黒閃を呼ぶ。

東堂は直感した。

 

(次だ。次の一撃をまともに食らえば、死ぬ――!)

 

だが、恐怖はなかった。むしろ、好敵手が辿り着いた高みへの歓喜が全身を突き抜ける。

東堂は口角を吊り上げ、再び拳を固めた。

だが、拳が交わるその直前。

 

『はーい、しゅーりょー!』

 

緊張感を削ぐような五条悟の声が、森の中に響き渡った。

 

「終わりか……決着は明日だな」

 

東堂は肩の力を抜き、額の汗を拭った。最高の勝負を翌日に持ち越せる。その期待に胸を膨らませた彼に対し、ゾーンから脱した照が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ごめんなさい……。僕は明日、出られないんです」

 

「なん……だと……?」

 

東堂の動きが止まる。

 

「さっきの一撃は明日分の呪力を全部持ってきてたので…下手したら明日は一歩も動けないかと…」

 

黒閃の直撃以上の衝撃が東堂を襲った。崩れ落ちそうになる東堂を背に、照は嵐のような戦場を後にした。

 

 

 

京都校・教職員室(モニター室)

 

「あぁ!? こっからだろ!」

 

真希が思わずモニターに向かって毒づいた。その横でパンダがニヤリと笑う。

 

「随分と見入ってたじゃないか、真希」「しゃけ」

 

「うるせえ! ……それで、なんであんな中途半端に終わったんだよ。他で何かあったのか?」

 

パンダが別のモニターを指差した。

 

「憂太の仕業らしいぞ。里香が出てきちゃったっぽくてな、ほら、呪霊が消し飛んでる」「こんぶ……」

 

棘が画面を見て同情するように呟く。

 

「あいつも派手にやったな。……月詠は?」

 

棘がさらに別のモニターを指す。そこには、京都校の三年生二人を相手に、氷壁を操って完璧に足止めを遂行している月詠の姿があった。

 

「三年二人を足止めか……。すげえけど、アイツらの後だと霞むな」

 

真希は悔しげに、けれどどこか誇らしげに呟いた。

 

「でも、月詠も照と同じことができるんだろうな。黒閃も、あの規格外の術式運用も。なんであんなのが同級生なんだか……」

 

「おかか」

 

パンダが棘の言葉を拾い、静かに、だが力強く続けた。

 

「わかってるよ。俺らは俺ら、あいつらとは違う戦い方がある」

 

真希は手元の呪具を強く握りしめ、モニターの中の静寂を見つめた。

 

「……負けてらんねえな」

 

最強の新入生たちが刻んだ爪痕は、東京校の仲間たちの心に、消えない火を灯していた。

 

 

 

 

個人戦が終わり、交流会が終了した日の夜。

五条先生が「冥さんへの支払いでもう財布が空っぽだよ〜」と嘆きながらも、約束通り連れてきたのは都内でも有数の高級焼肉店だった。

 

「お前ら、今日はよくやった。遠慮なく食え!」

 

秤と綺羅羅も合流し、テーブルは一気に賑やかになる。山盛りの特上肉が網の上で踊り、香ばしい匂いが部屋を満たした。

しかし、肝心の照は、この日の分の呪力を前借りした反動で、箸を持つ手すらおぼつかない様子だ。

 

「……あ、危な」

 

力が入らず、肉を落としそうになる照を見て、パンダがニヤリと真希に視線を送った。

 

「おい真希。照のやつ、ボロボロでまともに食えてないぞ。お前が食わせてやれよ」

 

「……はぁ? なんで私が」

 

真希は不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、虚ろな目で肉を見つめる照の様子に、つい舌打ちをして箸を握り直した。

 

「チッ、うっせえな……。ほら、口開けろ。食えよ」

 

真希は肉を一枚、照の口元へ突き出した。照を気遣うあまり、その光景が周囲からどう見えるかまで頭が回っていない、完全な無自覚だった。

 

「ん……美味しい。ありがとう、真希さん」

 

「……おう。ほら、次だ」

 

されるがままの照と、甲斐甲斐しく肉を運ぶ真希。その時、隣のテーブルから甘い声が響いた。

 

「ねえ金ちゃん、あれやりたい〜。はい、あーん」

 

「ん、うめえな。綺羅羅」

 

目の前で秤と綺羅羅が、これ見よがしに「あーん」を披露してみせる。

その光景を見て、真希は自分が今まさにやっていることの意味に、ようやく気付いた。

 

「なっ……!」

 

顔が爆発したように赤くなる。慌てて箸を放り出そうとする真希の横で、パンダが肩を揺らした。

 

「やったな」

 

「しゃけ」

 

「……っ、ふざけんな! お前ら、殺す!」

 

真希の怒号が店内に響き渡る。照は「え、何が……?」と不思議そうに咀嚼していたが、月詠は冷めた目でその騒ぎを見つめ、黙々と一番高い肉を注文し続けていた。

 

「月詠は遠慮がないよね……」

 

五条が苦笑いして言うと、月詠はシャトーブリアンを網に乗せながら即答した。

 

「親戚の誰かさんに似たんだろ。俺だって特級倒してるし、これくらい食っても文句ねえよな?」

 

「嫌な似方したね……」

 

騒がしくも温かい、高専一年の夜。

交流会での緊張が溶けていく中、彼らの絆は少しずつ、けれど確実に深まっていた。

 




今までの僕だったらこの2回で6話は書いてますね笑
急展開の連続な気もしますが週一で投稿するならこれくらいがいい気もしますね

ドブカス

  • 早めに出てきてほしい
  • 2年になったら出てきてほしい
  • 死滅回遊のとこだけでいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。