刻を廻る術師の話   作:もく 

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結構説明が長くなってしまった気がしますが一旦投稿します。来週は投稿できないかもしれません。

ドブカスの登場はもう少し考えさせていただきます。早めに出すとしたら百鬼夜行直後になりそうです。

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12話 百鬼夜行 1

百鬼夜行当日 東京・新宿

 

「そろそろか」

「しゃけ」

 

パンダと棘は戦いに備えていた。

夜蛾の苛烈な指示が飛ぶ。

 

「建物インフラの破壊は可能な限り避けろ! 逃げ遅れた一般人がいる可能性もある。見つけ次第避難させろ! 聞いてるのか悟!」

 

「……一人、めんどくさそうなのがいるな」

 

五条が視線を向けた先に、影が揺らぐ。その時、伊地知が顔色を変えて駆け寄ってきた。

 

「五条さん! 報告が……どうかされました?」

 

「いや……なんでもない。どうした?」

 

「こんな時にとは思うのですが、早い方がいいかと……以前調査を依頼された、乙骨君の件です」

 

その報告を聞いた瞬間、五条の瞳の色が変わった。

 

 

「パンダ! 棘! 今から呪術高専に送る! 照はどこだ!」

 

「ツナマヨ!」

 

五条の言葉に、周囲の空気が凍る。

彼らがいたはずの場所から、凄まじい衝撃音が響いた。照と黒人の術師・ミゲルが激突する音だ。

 

「あのバカッ……! 一旦二人は送る! 夏油は今、高専にいる。絶対、たぶん、間違いない!」

 

「いやどっちだよ!」

 

「勘が当たれば最悪、憂太と真希が二人とも死ぬ。僕もこの異人を片付けたらすぐに向かう。悪いが死守だ。僕が……いや、最低限照が着くまで二人を守れ!」

 

「おう!」「しゃけ!」

 

二人が去る。五条は苛立ちを隠せない。

 

(早く気付け照! 傑の狙いは、里香だ!)

 

 

 

 

 

その頃、照はミゲルと交戦していた。

 

「一番厄介なのはあなたです」

 

雷を纏い、加速した一撃を叩き込むが、ミゲルはそれを難なく受け流す。

 

「フッ、夏油ガ言ウダケアルナ……!」

 

「そりゃどうも!」

 

「グッ……! ダガ、オ前ノ判断ハ間違イダッタナ」

 

「何言って……!」

 

「夏油ノ狙イハ乙骨。夏油ハワザト戦力ヲココニ集メサセタノサ」

 

「……っ!」

 

ミゲルの言葉が脳裏を突き刺す。その隙を突いて五条が照に追いついた。

 

「照、行け! まだ間に合う!」

 

大事な同級生の危機。それを悟った照に、ミゲルの言葉の真意を深読みする余裕はなかった。

 

五条もまた、教師として「生徒を救う」という最優先事項を遂行する。

 

「高専へ向かえ! 間に合わせろ!」

 

照は指示通りに駆け出した。

五条もまた、迷いなくミゲルへの追撃を開始する。

 

彼らの行動は、術師として、教師と生徒として、あまりにも真っ直ぐで正しかった。

 

しかし、その善意の奔走こそが、夏油傑が待ちわびた未来への導火線だった。

彼らは気付かない。

その先にある罠が、仲間を救うための行動が、最悪の呪いを完成させるためのピースであることに。

 

 

 

 

 

 

高専に到着した照の目に飛び込んできたのは地獄絵図だった。

瀕死の真希、棘、パンダ。そして、校舎から駆け出してきた乙骨憂太の悲痛な表情。

夏油傑は、その惨状を前にして陶酔しきった笑みを浮かべていた。

 

「素晴らしい……! 素晴らしいよ! 私は今、猛烈に感動している! 乙骨を助けに馳せ参じたのだろう? 呪術師が呪術師を、自己を犠牲にしてまで慈しみ、敬う! 私の望む世界が今、目の前にある!」

 

夏油は照と乙骨を認識し、計算を巡らせる。

 

(タイミングが被ってしまったか。まあいい。硝子を見ていたからわかる、相当な技量がない限り、反転のアウトプットであの状態の禪院真希を治すことはできない。都合がいい、黒羽月詠と祈本里香、両方いただこう)

 

(先に理性を失いこちらに来るのは乙骨。まずは彼だ。その間に黒羽月詠は呪霊化する)

 

「本当はね、君にも生きていてほしいんだ乙骨。でも全ては呪術界の未来のためだ」

 

「来い! 里香!」

 

「皆殺しにさせてもらう」

 

「ぶっ殺してやる!」

 

二人の激突の傍らで、照は思考を停止させていた。

 

(なんで……)

 

目の前に広がる瀕死の友人たち。夏油と憂太の交戦が始まる直前、照の体は反射で動いた。真希を抱え、夏油から距離を取る。

そして他の呪霊を退け、里香と憂太が仲間を回収し、合流した。

 

「月詠なら、治せるのに……!」

 

「どいて照くん、死なせない……」

 

憂太が反転術式を叩き込む。しかし、真希の体だけは治らない。夏油による圧倒的な実力差の調整が、彼女の命を確実に奪おうとしていた。

 

「真希さん……!?」

「真希……!」

 

「何か……! 真希さんを助ける方法は……!」

 

(月詠は京都、今からじゃ間に合わない。家入さんも新宿だ。何か……この傷を治すには……!)

 

 

 

夏油は戦況を眺めながら、確信していた。

 

「おかえり、結構かかったね乙骨。天野照は死者を弔ってるところかな?」

 

(禪院真希は死んだ。これで黒羽月詠は呪霊化する。あとは乙骨だけ)

 

「さあ、続きを始めようか」

 

「里香、あれをやる」

 

呪霊を放つ夏油に、乙骨が拡声器を構える。

 

「「死ね」」

 

呪言が呪霊を崩壊させる。しかし、夏油を完全に見届ける前に彼は凄まじい衝撃に蹴り飛ばされていた。

 

「へぇ……意外と早かったじゃないか。死者の弔いは済んだかな?」

 

埃が舞う中、憂太と重なるように立っていたのは、照だった。

 

「……黙れよ。真希は生きてる」

 

その口調は、今までとは違っていた。敵を射抜くその瞳は、光を完全に失っている。

 

夏油は計画の成功を確信した。

しかしその一撃の感覚に違和感を覚える。

 

(なんだ……なにかが違う……あの呪力量は……)

 

「真希を殺して憂太の精神を削ろうとしたってところか。手遅れになる前に治せてよかった」

 

「まさか……」

 

 

 

 

数分前

 

「何か……真希さんを助ける方法は……!」

 

乙骨の悲痛な叫びが響く中、照は自身の記憶の全てを探っていた。

京都にいる月詠、新宿の家入硝子。誰もここには間に合わない。

 

(何か……この傷を治す、僕にできる別の方法は……!)

 

その瞬間、照の脳裏に、これまで目撃した全ての「反転術式」の残像が、パズルのピースのように組み合わさった。

 

「……そうか」

 

照は深く息を吐くと、自身の「未来」へと意識をダイブさせた。半年後の未来から、全呪力の五割を、今のこの瞬間に強制的に前借りする。

 

直後、照の全身から、これまでの彼からは想像もつかないほどの濃密で膨大な呪力が爆発的に溢れ出した。

照は静かに、真希の傷口へと手をかざす。

 

「術式反転・遡刻」

 

唱えた瞬間、真希の肉体を切り裂いていた絶望的な傷が、まるで映像を巻き戻すかのように、跡形もなく消え去った。

 

 

 

本来、照に反転術式のアウトプットなどできない。

彼がこれまで見た反転術式は、家入硝子の完璧な施術、五条悟の自己完結した術式反転、そして秤金次との手合わせで知った溢れる呪力による反転術式のフルオート発動だ。

 

家入と五条の話では、反転術式を他者に施すのは、最強である五条先生にすらできない高度な呪力操作が必要であり、習得したてでできる可能性は限りなく低い。

 

だが、照は五条から「生得術式に正の呪力を流すと、効果を反転させることができる」という理屈を学んでいた。

秤のような膨大な量の溢れ出す呪力を一時的に集中させることで、その瞬間のみ反転術式(正の呪力)を強引に生み出した照は、それをアウトプットするのではなく、自分自身の術式に流し込んだのだ。

 

これにより、照は自身の生得術式『刻廻呪術・先刻』の真逆の効果――『刻廻呪術・遡刻』による過去への干渉の力を一時的に手に入れた。

 

彼が真希に施したのは「治療」ではない。真希が夏油に傷つけられる前の「過去の状態」へと、彼女の肉体の時間を直接書き換えたのだ。

瀕死の仲間たちを安全な場所へ避難させ、事象の書き換えを完了した照は、再び戦場へと戻った。

 

 

その瞳は、これまで見たことのないほど冷たく、光を失っている。

 

「あとは、お前だけだ」

 

照は、夏油に向かって一歩踏み出した。

 

「五条先生が来る前に、お前を片付ける」

 

ドブカス

  • 早めに出てきてほしい
  • 2年になったら出てきてほしい
  • 死滅回遊のとこだけでいい
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