刻を廻る術師の話   作:もく 

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モジュロ3巻のおまけめちゃくちゃびっくりしましたね笑

アンケートの結果ドブカスは死滅回遊のみの登場となります。ちなみにボツになった展開は執行人として登場し真希をバカにして照にワンパンされる感じです。


13話 百鬼夜行 2

京都

 

 

 

「無限に湧いてくるな……」

 

月詠は呪霊の群れに包囲されながらも、冷静に氷の壁を築き、確実にその数を減らしていた。

 

「鬱陶しい!」

 

苛立ちと共に氷を砕いた瞬間、死角から一体の呪霊が飛び出す。完全な虚を突かれた一撃。

 

(まずい……!)

 

回避は間に合わない。そう確信した刹那。

 

――パァン!

 

乾いた拍手の音が響き、月詠の視界が反転した。

 

「……っ!?」

 

気付けば、月詠は包囲の外へと逃れていた。

 

「これは……」

 

「女の趣味はつまらんが、お前が死ぬと好敵手(マイ・ライバル)が悲しむからな」

 

聞き覚えのある傲慢な声。それと同時に、月詠を狙っていた呪霊たちが無数の矢に貫かれ、霧散した。

 

「大丈夫か、黒羽!」

 

「加茂……」

 

駆け寄る加茂憲紀。その後ろには西宮桃や真依といった京都校の面々も揃っていた。

 

「焦りすぎ。東堂君も勝手に行動しないで」

 

「それに行っても無駄でしょ。まあ、あんたは感謝しなさい?」

 

「うぜぇ……」

 

真依の嫌味に毒づく月詠だったが、東堂は既に次の戦地を見据えて駆け出していた。

 

「ついてこい!」

 

嵐のように立ち去る背中。月詠は一度だけ彼らに背を向けたまま、小さく唇を動かした。

 

「……ありがとう」

 

 

 

「天野と違ってお前の術式は過去に干渉するのだろう? ならやることは一つ! 呪霊の出現した『根源』を叩く!」

 

東堂の言葉に、月詠は並走しながら眉を寄せる。

 

「……わかるのか?」

 

「わからん! だが、お前ならわかるのだろう?」

 

「ついてこいって言って人任せかよ……」

 

月詠は集中し、刻廻呪術によって周囲の「時間の流れ」を逆算する。淀んだ呪力の奔流、その全ての始まりの地点。

 

「……見えた。あそこだ」

 

辿り着いたのは山の上、古びた祠がひっそりと佇む開けた場所だった。

 

「ここを叩けば……」

 

月詠が踏み出した瞬間、東堂の眼光が鋭く光った。

 

「!」

 

東堂が足元の石を放り投げ、空中で手を叩く。

 

――パァン!

 

入れ替わった瞬間、祠があった場所に凄まじい衝撃が轟いた。

空気が重い。底冷えするような呪力が周囲を支配する。

そこには、今まで隠蔽されていた呪霊が姿を現していた。

武士のような出立ちで、禍々しい刀を携えた呪霊。

あの日、月詠を死の淵に追いやったあの呪霊と同じ感覚。

 

「マジか……」

 

「任せろ。この程度なら俺の術式でなんとかなる」

 

東堂は不敵に笑い、制服を脱ぎ捨てた。

 

「ここを押さえれば一掃できるのだろう? 俺は高田ちゃんの出るテレビを、リアタイも録画も見なければならん! 今日は生放送なんだ!」

 

「ふっ……変わんねえな」

 

月詠は小さく笑い、氷の剣を生成した。

 

「東堂」

 

「ん?」

 

「この前そいつ、東京で見たぞ」

 

東堂の動きが止まる。月詠は前を見据えたまま、ボソッと付け足した。

 

「……悪くなかったぜ」

 

その言葉が、東堂の魂に火をつけた。

 

「ふっ! 行くぞ、マイ・フレンド!」

 

絶望の特級を前に、京都の空に熱い咆哮が響き渡った。

 

 

 

 

特級呪霊が刀を抜き放つと同時に、周囲の空間が震動するほどの咆哮が上がった。

言葉を持たぬそれは、ただ純粋な殺意を練り上げ、一足飛びに間合いを詰める。

 

武士の呪霊が振るう一閃を、東堂は月詠の生成した氷の礫との入れ替えで回避し、月詠はその背後から鋭利な氷の刃を突き出した。だが、呪霊は背後に目が付いているかのような反応速度で、刀の石突を月詠の腹部に叩き込む。

 

「がはっ……!」

 

吹き飛ぶ月詠を、東堂が空中でキャッチし、そのまま地面に叩きつけられる前に再び拍手。座標を入れ替えた東堂の拳が、呪霊の側頭部にめり込んだ。

 

しかし、特級は怯まない。

 

衝撃を殺すこともなく、肉を切らせて骨を断つ勢いで、呪霊の刀が東堂の肩口を裂く。

 

「……いい、熱いぞ!」

 

東堂の瞳がぎらりと光る。彼は一歩も引かず、むしろさらに踏み込んだ。

月詠もまた、溢れ出す鮮血を体を数秒前の状態に上書きし、立ち上がる。

 

(未来を変える照に対し……俺がやるべきことは、過去の書き換えだ)

 

月詠は極限の集中状態に入った。

脳裏を過るのは、先日の照の姿。あいつが未来に呪力を送ったのなら、自分はその逆を行く。

 

呪霊が刀を振り下ろす。東堂がそれに応えるべく、手を叩く。

 

――パァン!

 

東堂と月詠の位置が入れ替わる。

呪霊の目の前に現れたのは、呪力を右拳に宿した月詠。

入れ替わった瞬間に踏み込み、振り下ろされる刀を避けた。

 

拳がぶつかる寸前、月詠は自身の呪力以外の全てを「一瞬前の過去」へと戻した。

コンマ数秒後の「現在」という一点に打撃と呪力が収束する。

 

そして、月詠の背後から跳躍し、全体重を乗せた東堂の拳。

二人のタイミングが、奇跡的に合致した。

月詠は、自らの呪力を現在の打撃へと無理やり衝突させた。0.000001秒の誤差を、時間の逆流によってゼロにする。

 

空間が歪み、漆黒の火花が爆ぜた。

月詠の拳から放たれた黒閃。

東堂の拳から放たれた黒閃。

二つの黒閃が特級呪霊の胸中に重なり、逃げ場のない破壊となってその肉体を内側から粉砕した。

 

 

 

呪霊は悲鳴を上げることすら許されず、武士の矜持と共に黒い霧となって消滅していった。

静寂が戻った山の上。

月詠は膝から崩れ落ち、荒い息を吐いた。過去へ攻撃し、京都の呪霊を一掃したことで全ての呪力を使い果たし、指一本動かす余力も残っていない。

 

「……ふぅ、間に合ったな」

 

東堂は裂けた肩を気に留める様子もなく、制服からスマートフォンを取り出した。時間は19時57分を示している。

 

「放送開始まであと3分……。俺はこれで失礼するぞ。この後の事後処理は任せたぞ、マイ・フレンド」

 

「おい……待てよ、ちょんまげゴリラ……」

 

月詠の制止も聞かず、東堂は全力疾走で山を駆け下りていった。その背中を見送りながら、月詠は仰向けに地面に転がった。

 

視線の先、遥か彼方の空――東京の方角。

そこには、自分と同じように戦っているはずの兄がいる。

 

「……あとは頼んだぜ。照」

 

月詠は重い瞼を閉じ、心地よい疲労と確かな勝利の余韻に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

おまけ

 

 

「…え?」

 

「どうした?」

 

「いや…急に東堂先輩の未来が見えてきて…」

高田ちゃんと結婚してたんだけど…

 

「ない、絶対にない。100%あのゴリラの妄想だ」

 

「じゃあなんで僕にそれが見えるのさ」

 

「…人生って何があるかわかんねえな」

 

「他人事すぎない?」

 

「ゴリラの妄想に付き合ってるほど暇じゃねえ。お前も幻覚見えるようになる前にちゃんと休んどけ」

 

「はーい」

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