刻を廻る術師の話   作:もく 

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ギリギリ毎週土曜日の更新に間に合ってよかったです(投稿当日4時半)
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どんなことでもいいので感想をいただけると凄く嬉しいです
本当に今どう見られてるのか気になるので…

アンケートの回答の方もよろしくお願いします


15話 執行人

百鬼夜行から数日後。高専の一年生たちには、照と月詠に下された非情な死刑宣告の事実はまだ伏せられていた。

 

朝、いつものように寮から揃って登校してくる六人の姿があった。

その中で、憂太の制服は特級術師の証であったあの白色のものではなく、見慣れた通常の黒い制服へと変わっていた。

 

「憂太がその制服着てるのは初めて見たね」

 

照が新鮮そうに言うと、月詠も同意するように肩をすくめる。

 

「慣れねえな」

 

「でも、この方が僕は好きだな」

 

気恥ずかしそうに微笑む憂太の横から、パンダがニヤリと顔を覗かせた。

 

「次の白制服は、照と月詠のどっちだろうな」

 

「ツナマヨ」

 

棘が親指で憂太を指差す。

 

「確かに。憂太の特級復帰もありえるよな」

 

「えぇ……」

 

月詠の言葉に、憂太は困ったように眉を下げた。そんな賑やかな会話の中、パンダは少し離れて歩く真希の様子に気づく。

 

「ん? どうした真希」

 

「……別に」

 

「百鬼夜行の件は気にするなよ。俺らじゃどのみち夏油には勝てなかった」

 

「おかか」

 

「……そうだな。いくらお前らが強いからって、仲間に頼りきりなのはよくないよな」

 

パンダの慰めに、真希は前を見据えたまま、どこか固い声で返した。

 

「当たり前だろ。私は……」

 

「真希?」

 

照が心配そうに覗き込むが、真希はふいっと顔を背けた。

 

「……なんでもねえよ。行くぞ」

 

「うん……」

 

早足で先を行く真希に照がついていく。残された四人は、その後ろ姿を小さく見送った。

 

「あいつ、なんかあったのか?」

 

月詠の疑問に、パンダが声を潜めて答える。

 

「気にしてるんじゃないか? ほら、照が言ってたやつ」

 

「すじこ?」

「なんかあったか?」

「なんかあったっけ?」

 

三人の追及に、パンダは慌てて口を閉ざした。

 

「ナンデモナイ」

「おかか……」

「こいつ……」

「えぇ……」

 

 


 

 

その頃、高専の校舎二階。窓から向かってくる六人の姿を、五条は静かに見つめていた。

 

(死刑の件、どう伝えようか……)

 

「どうかしましたか」

 

背後からの声に、五条は振り返る。

 

「あぁ、七海か……」

 

「……珍しく真面目な顔をしてると思いましたが、二人の件ですね」

 

「うん。七海はどう思った?」

 

七海は眼鏡の位置を直し、冷静に状況を分析し始めた。

 

「個人的な意見ですが、今回の死刑の件は奇妙な点が多いです。残穢を完全に隠しきったにも関わらず、二人の術式が上層部に伝わっていること。さらにその情報が、なぜか東京校の我々にも筒抜けであるということ。誰かさんが二人を匿うのがわかりきっているのにその判断をするというのは……」

 

「余程、二人を殺す自信があるってとこか」

 

五条の言葉を引き継ぎ、七海は深くため息をつく。

 

「それほどに力がある執行人が指名されている、と」

 

「……状況も踏まえてると思うよ。僕はここから一ヶ月近く、大量に嫌がらせみたいな仕事が入っている。仕掛けてくるならここだろうね。……しばらくは二人を高専から出さないようにしよう。七海は形式上、二人の特別指導者としてついてもらうからよろしくー」

 

「……本当にこの人は」

 

七海の心底嫌そうなため息は、飄々とした最強の耳には届かなかった。

 

 


 

 

そして授業が終わり、午後。

憂太たちは任務へと向かい、照と月詠の双子だけが高専の敷地内に残されていた。

 

「今日から七海さんが指導してくれるんだって」

 

「へえ……」

 

照の話に月詠が適当に相槌を打つ。しかし、予定の時間を過ぎても目的の人物は現れない。

 

「七海さん、遅いね」

 

「だな……」

 

 

 

「おや、何かあったのかい?」

 

不意に、妖艶な声が二人の鼓膜を揺らした。現れたのは、普段の任務で愛用している巨大な斧を携えた一級術師、冥冥だった。

 

「冥さん。これから任務ですか?」

 

「そうさ。今回の仕事はかなり高いものだからね」

 

刃を剥き出しにした斧。月詠はその異様さに、微かな違和感を覚える。

 

「あんたはいつも変わらないよな」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

「……行かないのか?」

 

月詠の問いに応じるように、周囲に不気味なカラスの群れが集まり始めていた。月詠はそれを鋭く睨みつける。

冥冥ほどの術師が担当するのは、少なくとも準一級以上の呪霊。そんな危険な呪霊が、刃を剥き出しにして出歩けるような近距離にいるなら、事前に高専内に情報が入っているはずだった。

 

しかし、照がそこまで思考を巡らせるより早く、冥冥は容赦なく手を打った。

 

神風(バードストライク)

 

照は「未来視」を発動させていなかった。体術を教わることもあった身近な術師の大人が、まさか自分たちの命を本気で狙ってくるなど、夢にも思っていなかったのだ。

おまけに百鬼夜行での「前借り」の反動により、今の照の呪力出力は著しく低下している。回避のための加速すら間に合わず、呪力を限界まで宿したカラスが照の足元へと直撃した。

 

凄まじい衝撃波と共に、照の両足が文字通り吹き飛ぶ。

 

「がはっ……!!」

 

「警戒心が薄すぎないかい? 君の術式は命を狙われるほどのものだということを、自覚していなかったのかな? それとも、自分は守られているという慢心かい?」

 

血溜まりの中に倒れ込む照を、冥冥は冷酷に見下ろした。

 

「残念ながら七海君は来ないよ。五条君の依頼で、今日の担当は私になったと事前に伝えてあるからね。彼も仕事は好きじゃないから、すぐに帰ってくれたよ」

 

その瞬間、禍々しい闇が上空を覆い、敷地内に「帳」が下ろされる。

 

「帳……憂憂か」

 

月詠が忌々しげに呟く。

 

「あの子を人質に取ろうとしても無駄なのはわかっているだろう? さて、私の仕事はわかったかな?」

 

「あぁ、俺らの処刑だろ。適任だな、照が油断する人間だ……。悪い照、この状況じゃ治せない」

 

「……うん。それに……今の僕じゃ、治してもらっても、何もできなかったと思う……ごめんね……」

 

照はそれだけ言うと、激痛と失血により意識を失った。

 

 

 

月詠は一人、氷の刀を生成して冥冥と対峙する。

 

「……かなり時間を取るじゃねえか。目的は、金か?」

 

「五条君の金に任せようとするのはいい考えだと思うけど、残念ながら私は縛りを結んでるからね。故意に見逃せば、私が死ぬことになる」

 

冥冥の斧と、月詠の氷刃が激しく激突し、火花を散らす。

 

「天野君は既に無効化できている。あとは君だけさ!」

 

(チッ、守銭奴もここまで来ると病気だろ!)

 

 

 

猛攻を繰り出す冥冥を相手に、月詠は防戦を強いられながらも、ある違和感に辿り着いた。

 

「そろそろ諦める気になったかい?」

 

息を切らす月詠に、冥冥が斧を構え直す。

 

「嫌だね」

 

月詠は不敵に笑った。あの状況、冥冥の「神風」の威力なら、最初から二人同時に心臓をぶち抜くことは容易だったはずだ。それをしていないということは――。

 

「試してんだろ、あんた」

 

「ほう……」

 

「この任務で、いくら儲けるつもりだ」

 

「十億さ。懸念点は予知能力のある天野君だったが、先日の縛りで弱体化。加えて私への警戒心はなし。君は予知能力がないから、バードストライクを当てておしまい。それで死刑を執行して十億は、素晴らしい仕事だろう?」

 

「死刑か……なるほどな……。なあ、冥冥」

 

「なんだい?」

 

月詠は、自身の懐にあるスマートフォンをトントンと指で叩いた。

 

「その金、二倍にする気はないか?」

 

「ほう……。でも、五条君にその金が出せるほど、君たちは価値があるのかな?」

 

「出すよ。五条から言質は取ってる」

 

月詠が取り出したスマートフォンの画面。そこには、以前五条と交わした通話の録音データが残されていた。

 

スピーカーから、軽い男の声が再生される。

 

『冥さんは何をさせるにもお金がかかるからね~。君たちが指導をお願いするにもかなりかかるしさ。まあ十億あれば足りるでしょ。え? 大丈夫だって! だって二人、どう考えても特級だからすぐこれくらい稼げるようになるから! あとこの電話録音しといてね、根拠ないと協力してくれないから~』

 

「へぇ……。でもどうするつもりだい? 私は上層部と『死刑執行』の縛りを結んでいるんだよ?」

 

「俺の力なら知ってるだろ? 殺してすぐ、時間を戻せばそれで終わりだ」

 

冥冥の口元が、満足そうに釣り上がった。

 

「ふっ、いいよ。五条君からのお小遣いは、ちゃんと全額もらうよ?」

 

そこからは一瞬だった。

月詠はわざと「神風」を脳裏に食らい、即死を偽装。直後に照の肉体にも同様の偽装を施す。上層部との縛りにより「死刑の執行」がシステム的に証明されたその瞬間、冥冥の任務は完了した。

そして、その直後に月詠の『刻廻呪術』が発動し、二人の肉体は「傷を負う前の過去」へと巻き戻された。

 

 


 

 

「へえ、大変だったね~」

 

「僕、両足持ってかれたんですけど……」

 

地下通路を歩きながら、照が死んだ目で五条を睨みつける。

 

「あら痛そう」

 

「……あとで絶対殴る」

 

月詠を先頭に、三人が辿り着いたのは、重苦しい空気が漂う地下施設。そこは、呪術総監部の上層部たちが、まさに二人の「死刑執行完了」の報告を聞き会議をしている真っ最中の部屋だった。

 

重厚な扉を五条が蹴り開ける。

 

「……君を呼んだ覚えはないのだが?」

 

座長格の老人が不快そうに声を上げた。

 

「……でてきていいよ」

 

五条が手をひらひらと振ると、背後から二人の少年が姿を現した。その瞬間、部屋にいた老人たちの顔が驚愕に染まり、一斉にざわめき立つ。

 

「天野照……! 黒羽月詠……!」

 

「その節は、大変お世話になりました」

 

照が極上の笑顔で一礼し、月詠は頭の後ろで手を組んで鼻で笑った。

 

「いやー、死んだ死んだ。腐りかけの脳ミソで精一杯考えたんだろうけど、相当詰めが甘かったんじゃねえの? 冥冥を十億程度で雇って、俺の術式をなめた結果がこれだよ」

 

照はすれ違いざまに、会議机の端にそっと手を触れた。

 

「マーク、つけたよ」

 

「サンキュ。今度この俺たちを殺そうとしたら、全員の首が飛ぶぞ。不当に殺されかけたんだから、当然の防衛行為だよな?」

 

月詠の脅しに、上層部一同は屈辱と恐怖で言葉を失い、声を詰まらせる。

 

「くっ……」

 

「それでは失礼します。気にせず会議続けてください」

 

五条が楽しそうに踵を返すと、背後から悲鳴のような声が上がった。

 

「待て……! ちゃんと、制御できるんだろうな……!?」

 

五条は一度だけ振り返り、底冷えするような笑みを向けた。

 

「あなたたちが変なことをしなければ大丈夫かと。また特級呪詛師を出すことにならなくて、本当によかったですね」

 

バタン、と重い扉が閉まった。

 

 

 

 

廊下に出た瞬間、五条はあからさまに伸びをした。

 

「五条家に特級三人はさすがにまずいかな~!にしてもスッキリした!」

 

「でも先生。なんで先生は、僕たちをそんなに気にかけてくれるんですか?」

 

照の純粋な疑問に、五条は歩みを止め、優しく、けれど確かな熱を込めて二人を振り返った。

 

「二人は、いや、みんなはこれからの呪術界を引っ張っていく子だからね。お金はあるし、僕は教師として君たちにできることをするだけさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ」

 

五条はポケットから、仕立て上がったばかりの二着の「白い制服」を取り出し、双子に放り投げた。

 

「二人、特級だから白制服ね」

 

「「あ」」

 

手渡された純白の生地を見つめ、双子の声が綺麗に重なった。

 

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  • 九十九由基
  • 東堂葵
  • 七海建人
  • 伏黒恵
  • 京都校メンバー
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