刻を廻る双子の話   作:もく 

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よかった、今週も間に合った…

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18話 月詠と京都校の生徒たち

「ふぅ……」

 

月詠は重い息を吐き出し、額の汗を拭った。京都校に到着して早々、体力を削られ、すでに疲労が溜まり始めている。

はるか遠くからは、バリバリと空を裂くような雷の轟音と、それに負けないほど凄まじい東堂の雄叫びが響いてきていた。

 

「あのバカゴリラが……」

 

生成していた氷の刀をさらさらと溶かしながら、月詠はその場を後にしようとする。しかし、数歩歩いたところで気配を察知し、足を止めた。

 

「はぁ……なんであんたがいるのよ」

 

物陰から現れた人影に、月詠はあからさまに顔をしかめる。

 

「チッ……」

 

「舌打ちしたいのはこっちなんだけど」

 

「真希の妹か。何か用か?」

 

真依は鋭い視線で月詠を睨みつけ、冷たく言い放った。

 

「……あの女と一緒にしないで」

 

「双子なら仲良くしろよ」

 

「あんたには関係ない。あんなやつのせいで私は……」

 

「あっそ」

 

真依の恨み言を、月詠は興味なさそうに聞き流す。その時、またしても森の奥から騒がしい声が響いてきた。

 

『甘いぞマイライバル!』

 

『こっち来るな!』

 

東堂の熱苦しい叫びと、本気で嫌がっている照の悲鳴。

 

「うるさいわね……」

 

うんざりしたように耳を塞ぐ真依を見つめながら、月詠はふと思い出したように口を開いた。

 

「……あいつさ、真希と両想いなんだよ」

 

唐突な暴露に、真依は一瞬目を見開いたが、すぐに冷笑を浮かべた。

 

「……あっそ。私の人生ぶっ壊しておいて、いいご身分ね」

 

「真希なりの決意か、一級になるまで付き合わないんだと」

 

「あいつじゃ釣り合わないわよ。それに、あんたたち五条家の血筋でしょ。うちの大人が許すわけないわ」

 

「へぇ……」

 

「なによ」

 

冷淡に相槌を打つ月詠に、真依がいら立ちを募らせる。月詠はそんな真依の目を真っ直ぐに見据えて、意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「真希が、一級を目指してるところは否定しないんだなって」

 

「……っ」

 

真依は言葉を詰まらせ、きつく唇を噛んだ。少しの沈黙の後、必死に声を絞り出す。

 

「……無理なことは、わざわざ言わなくてもわかるでしょ」

 

「はいはい。じゃあな」

 

これ以上話すことはないとばかりに、月詠は背を向けて歩き出した。真依を置き去りにして少し進んだ後、彼は何かを思い出したように、足を止めずに顔だけを少し振り返った。

 

「あ、そうだ」

 

「……何よ」

 

「後悔のないように生きろよ。わざわざ嫌な思いするくらいなら、ちゃんと仲間を頼れよ」

 

それだけ言い残すと、月詠は今度こそ真依の前から去っていった。

一人、京都校の校舎へと続く道を歩きながら、月詠はポツリと呟いた。

 

「なんか、よく同じこと言ってる気がするな……」

 

「後悔か……」

 

七海が東京で照に諭した言葉を、月詠は知らない。けれど、激動の百鬼夜行を越え、大切な仲間を救うために兄が縛りで真希の時間を巻き戻したことを知っている彼だからこそ、その言葉には誰よりも重い実感が籠もっていた。

月詠は、未だに雷光が弾けている森の方を静かに振り返る。

 

()()()()()()……いや、この先も絶対に、そんな思いだけはしないようにしねえとな」

 

照の、そして自分たちの未来に、二度と最悪の結末を迎えさせはしない。

双子の兄の叫び声を聞きながら、月詠は心の中で静かに、けれど誰よりも強く誓うのだった。

 

 

 

 

別日の静かな午後、京都校の庭園。

連日のように東堂に振り回されていた月詠の、疲れを癒やすための静養も兼ねてそこを訪れると、ベンチには三輪霞と、その傍らに佇む究極メカ丸の姿があった。

 

「あ、黒羽さん! 体調はもう大丈夫ですか?」

 

月詠の姿に気づいた三輪が、いつもの屈託のない笑顔でパッと顔を輝かせて声をかけてくる。

 

「あぁ、バカゴリラの相手以外ならな。わざわざ悪い」

 

月詠が苦笑交じりに応じると、隣にいたメカ丸の関節がガシャリと音を立てて動いた。その様子を見た三輪は、自身の時計を確認すると、慌てたように荷物をまとめる。

 

「いろいろ聞きたいことはあるんですけど、今日は任務があるのでまたお願いします!」

 

嵐のように頭を下げると、三輪はそのまま小走りで庭園を去っていった。

静寂が戻った庭園。二人きりになった瞬間、メカ丸は遮るもののなくなった頭部レンズを月詠へ向け、重々しく口を開いた。

 

「黒羽月詠……。東京校の特級術師、お前の術式は時間を巻き戻す『過去への干渉』だと聞いていル」

 

スピーカーから響くのは、ノイズ混じりの硬質な機械の声。

 

「耳が早いな。それがどうした?」

 

月詠がポケットに手を突っ込んだまま問い返すと、メカ丸のレンズがかすかに揺れた。

 

「……俺ノ、この身体ヲ……生まれつき奪われたこの肉体ヲ、お前の力で傷を負う前に戻すことはできるのカ」

 

その問いが発せられた瞬間、周囲の空気が一瞬で張り詰めた。

メカ丸の本体は、ここにはない。広大な呪力範囲と引き換えに、生まれながらに右腕と膝から下の感覚がなく、皮膚は月光にすら焼かれるほど脆弱な肉体。その天与呪縛の苦痛の深さを、月詠は十分に理解していた。

 

月詠はメカ丸の頭部レンズを真っ直ぐに見つめ、静かに首を振った。

 

「……無理だ」

 

「そうカ……」

 

メカ丸の声は、どこか諦めていたかのように、酷く淡々としていた。月詠は視線を落とすことなく、事実を言葉にする。

 

「俺の術式にできることは、あくまで『その人間が辿った過去の状態』へ肉体を書き換えるものだ。お前のは後からついた傷じゃない。生まれつきのもの……最初から五体満足だった過去そのものが存在しないんだ。天与呪縛を上書きして解除することは俺の力じゃできねえ。力になれなくてごめんな」

 

残酷な現実の提示。しかし、それは気休めの言葉で濁さない、月詠の誠実な答えでもあった。

 

「……いや、いい。最初から可能性がないと分かっていれバ、無駄な期待をせずに済ム。お前の術式を持ってしても届かないのだからナ、俺の呪縛ハ……」

 

どこか自虐的な気配を纏うメカ丸。

「ただ」と、月詠はゆっくりと腰を上げ、出口へと歩きながら、背中越しに言葉を付け足した。

 

「傷は治せねえし、奪われたものは戻らねえ。けど、お前が今そこにいて、三輪たちと過ごしてる今まで否定されたわけじゃねえだろ」

 

「黒羽…」

 

呼び止めるメカ丸の声に、月詠は足を止めない。

 

「俺の兄貴は、未来を前借りしてまで仲間を救った。お前も、その不自由な身体でここにいる理由を、自分で決めればいいんじゃねえかな」

 

月詠は振り返ることもせず、背を向けたままひらひらと手を振って、庭園の奥へと去っていった。

 

残された庭園のベンチ。

木漏れ日を浴びるメカ丸の傀儡は、去っていった特級術師の言葉を反芻するように、いつまでも静かに沈黙していた。




今さらになりますがこの話は僕が投稿しているシリーズの呪術廻戦編です。過去作関係なく見れるようにはなっていますが所々意味深な発言があります。報告が遅くなり申し訳ございません。

引き続き毎週土曜日に投稿できるように頑張りますのでもしよかったら引き続き応援お願いします。

出てきてほしいキャラ、絡みを見たいキャラを教えてください(複数の場合は感想に加えてください)

  • 九十九由基
  • 東堂葵
  • 七海建人
  • 伏黒恵
  • 京都校メンバー
  • ドブカス
  • 秤、綺羅羅
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