刻を廻る術師の話   作:もく 

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4話 2人の初仕事

「じゃ、まずは同級生の一人を紹介するよ」

 

冬の空気が張りつめた高専のグラウンドで五条先生がひらりと手を振る

 

「はい、パンダ」

 

そこに立っていたのは――どう見ても、パンダだった

丸い耳、白黒の毛並み、ずんぐりした体格

 

ただし一点だけ、決定的におかしい

 

「パンダだ。よろしくな」

 

喋った

 

(……ああ、そういう世界か)

 

僕は一瞬だけ思考を止める

 

学長の呪骸を思い出す

呪術によってぬいぐるみが動く、そういう世界だ

パンダが喋ったところで、今さら驚くほどのことでもない

 

――問題は、そこじゃない

 

僕と月詠は東北の山奥で育った

 

テレビもろくに映らない土地だ。ましてや海外の珍獣なんて、知っている方が不自然だ

 

ここで「あ、パンダだ」なんて言えば、どこで知ったのか説明がつかない

 

一瞬のアイコンタクト

 

月詠の目が「合わせろ」と言っている

 

僕は小さく息を吸った

 

「……五条先生」

 

「ん? どしたの照」

 

僕は困惑を装って、白黒の塊を指差す

 

「東京の熊って、白黒で喋るんだね」

 

月詠が淡々と続ける

 

「肉、固そうだな。干せば一ヶ月は保つか?」

 

「待て待て待て待て! 何で食料扱いなんだよ!?」

 

パンダが全力で後退した

思ったより速い

五条先生が腹を抱えて笑った

 

「やば、2人とも最高。パンダを見て喋るとかより前に食べること考えたの君たちがはじめてだよ」

 

「でも珍しいですよね」

 

僕は真顔で返す

パンダがじとっと睨んできた

 

「……マジで知らねぇのか?」

 

「うん」

 

「初めて見る生き物だ」

 

「俺、パンダだぞ? 有名だぞ?」

 

「有名って言われても」

 

月詠が肩をすくめる

 

「熊のくせに白黒って時点で信用ならねぇ」

 

「熊じゃねぇよ!」

 

パンダが吠える

五条先生が楽しそうに手を叩いた

 

「はいはい、そこまで。パンダは食料じゃないし2人もそこまでガチじゃないから安心して。突然変異呪骸、学長製」

 

「やっぱり」

 

僕は小さく頷く

パンダがムッとする

 

「“やっぱり”って何だよ!」

「……何となくわかってた」

 

嘘ではない

けれど本当でもない

この世界のことを僕たちは“知っている”。

でもそれを知っていると悟られてはいけない

月詠が一歩前に出て手を差し出した

 

「まあ、食わねぇよ。同級生なんだろ?よろしくな」

 

パンダはしばらく警戒したあと、ふっと鼻を鳴らした

 

「……ま、いいや。よろしくな。双子」

 

僕たちは顔を見合わせ、名乗る

 

「月詠」

 

「照です、よろしく」

 

白い息が、冬空に溶ける

僕たちの最初の同級生はパンダじゃないパンダだった

 

「それじゃ、一旦パンダとの顔合わせも済んだし――」

 

五条悟が軽く手を叩く

 

「二人の初仕事、行こうか。二級までは実績が大事だからね。ガンガンこなしてもらうよ。今回のは準二級ー!」

 

「は?」

 

パンダが素で声を上げた

 

「悟、四級の新人2人にいきなり準二級はよくないんじゃないか?」

 

「これでもこの2人、準一級呪霊を秒殺してんだよ? 平気平気」

 

「マジ?」

 

3人の声が合わさった

 

「「「マジ」」」

 

パンダは数秒黙った後答える

 

「……俺、今後の接し方ちょっと考えるわ」

 

「「「別に気にしなくていいのにな」」」

 

「……お前ら仲いいな」

 

息ぴったりで返すとパンダは本気で一歩引いていた

 

 

 

 

 

照と月詠は現場へ向かっていた

送迎車のハンドルを握るのは伊地知潔高

 

山道を抜け辿り着いたのは廃校舎だった

人の気配はない、だが空気が重い

伊地知が静かに呪力を巡らせた

 

「では、帳を下ろします。五条さんから話は聞いてますが、お気をつけて」

 

手が結ばれる

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

視界がわずかに沈む

空が暗くなり、空間が閉じる感覚

照は空を見上げた

 

「これが帳か……便利だね」

 

月詠は周囲を一瞥する

 

「外から見えなくなるだけだ、残穢は残る。術式は母さんのだけ使うぞ。さっさと終わらせる」

 

頷き合い校舎へ踏み込んだ

 

 

 

窓により“外へ出ない”ことが確認されている呪霊

だから山ごと立ち入り禁止になっていた

 

近づくほどに分かる

――単純だ

現れたのは異形の塊

腕だけが異様に長く、脚の筋肉が膨張している

術式の気配はない

月詠が小さく呟いた

 

「術式はなさそうだな。フィジカル型か」

 

呪霊が床を蹴る

速い、だが

二人は同時に後退する

未来視を使うまでもなかった

 

拳が床を砕く

粉塵

回避

観察

もう一度突進

月詠が横へ流れる

 

「……まあ、あの熊よりは遅いな」

 

「だね」

 

照が一歩前へ出る

指先に呪力を集束

青白い火花が跳ねる

 

「それじゃ、おしまい」

 

放電

雷光が一直線に走り、呪霊の中心を貫いた

焼け焦げた臭いとともに呪霊は崩れ落ちる

数秒の沈黙

やがて塵のように霧散した

照は息を吐く

 

「準二級、ね」

 

月詠は肩を回す

 

「まあ余裕だな」

 

そして2人は初仕事を終え、校舎から出てきた

 

 

今後の投稿について

  • 短めの話で投稿する(投稿頻度↑)
  • 少し長めの話で投稿する(投稿頻度↓)
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