帳が解除され、校舎の外へ出た二人を待っていたのは、どこか申し訳なさそうな、それでいて酷く疲れた顔をした伊地知さんだった
照が不思議そうに首をかしげる
「どうしたんですか? 顔色が悪いですよ」
「いえ……その……すみません。五条さんから連絡がありまして」
「五条先生?」
嫌な予感しかしない
伊地知さんは怯えたように目を伏せた
「周囲の三級、四級の任務を『全部』受けたから片付けておいてくれ、と……」
照と月詠は同時に、どんよりと曇った空を見上げた
「「はぁ……」」
「すみません……!」
伊地知さんが勢いよく頭を下げる
照は苦笑してその手を制した
「謝らないでください、伊地知さんが悪いわけじゃないですし。……任務先をまとめた地図、ありますか?」
伊地知さんが震える手で差し出した地図には、赤い×印が10個
照が思わず乾いた笑いを漏らす
「あはは……」
月詠が地図を覗き込み、短く聞いた
「照、いけるか?」
「雷で加速すれば移動は問題ないと思う。問題は近隣住民だけど……」
「その点は大丈夫です。避難訓練という名目で住民の避難は済んでいるそうです」
伊地知さんの回答を聞くや否や、月詠がペンを取り、地図に最短の動線を書き込んだ
外周をぐるりと囲むルートを照が、中心部に固まった密集地帯を月詠が
母から継いだ「雷」の機動力と、「氷」の制圧力を最大限に活かす布陣だった
「ここからは自力で行きます。伊地知さんは休んでください」
「しかし、私は補助監督として――」
「いつもお疲れ様です。僕たちは補助監督のみなさんがいるから任務ができるんです」
照が柔らかく、けれど拒絶を許さない瞳で笑う
「だから、少しは休んでください。倒れられたら困りますから」
伊地知さんはしばらく絶句していたが、やがて小さく頷いた
照は軽く手を振り、青白い火花を散らして地を蹴る。月詠も反対側へ歩き出し、去り際にだけ呟いた
「そっちも、無理すんなよ」
それから二月にかけて、二人は「任務」という名の労働に明け暮れた
三級、四級の呪霊をハシゴして祓い続け、最後には別々に送り込まれた二級相当の任務も、大きな問題なく完遂した
15歳になった頃、二人の手元には入学前にもかかわらず「二級術師」と記された学生証が届いていた
「早くね?」
高専の寮
パンダが机の上のカードを見て呟いた
「なあパンダ。呪術師って、いつもこんななのか?」
月詠が深い溜息をつく
「いやいやいや。俺まだ三級だぞ? そもそも普通の高専生は四級スタートだ。入学前で二級とか、普通にバケモンだろ」
照が机に突っ伏して嘆く
「それでも呪術師、ブラックすぎるよ。一日五件とか絶対におかしいって……」
パンダはふと顔を上げた
「……お前ら、任務はどうやって受けてた?」
「五条先生から毎日、地図と一緒に送られてきた」
その瞬間、パンダの顔に「察し」が走った
「それだな」
「うん、それそれ」
背後からした軽快な声に三人が振り向くと、そこにはいつの間にか五条先生が立っていた
「二人は今、一応五条家の人間だからね。当主の僕が任務を選べるの。入学しちゃったら色々制限あるからさ、今のうちに実績を積ませといたってわけ」
五条先生はひらひらと手を振り、無邪気に続けた
「まあお疲れ! 入学祝いと昇級祝い、まとめてなんか買ってあげるよ。それじゃ!」
言うだけ言って、白い嵐は去っていった
残された三人の間に、重苦しい沈黙が流れる
「「「はぁ……」」」
重なった溜息が、冬の夕暮れに溶けていった
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