刻を廻る術師の話   作:もく 

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6話 1年2年の顔合わせ

東京都立呪術高等専門学校の教室には、まだ新しい机と椅子の匂いが残っていた

 

だが、そこに座る「一年生」の面々に、新入生らしい初々しさは微塵もない

 

前列の窓側に月詠その隣に照、月詠の後ろにはパンダが座り、退屈そうに腕を組んで欠伸をした

 

「1年の教室ってなんか新鮮だな」

 

照は軽く笑って応える

 

「もう何ヶ月も任務してるのに、今さら“新入生”って感じしないけどね」

 

月詠は机に肘をつき、興味なさげにぼそと言った

 

「形式だろ」

 

その時、教室の扉が勢いよく開いた

入ってきたのは、ポニーテールの少女だ

鋭い目つきに、背負った長い棒状のケース

彼女は教室を一瞬で見渡し――ピタッと動きを止めた

 

「おい」

 

少女はパンダを指差す

 

「……あれ生徒か?」

 

照が振り返り、「らしいよ」と短く答える

少女は数秒沈黙したあと、何事もなかったかのように照の隣の席へ向かった

 

「……」

 

一瞬だけパンダを見直し、「マジか」と呟く

その直後、再び扉が開いた

今度は口元を高い襟で隠した少年だ

彼もまた、パンダを見るなり動きを止めた

 

「高菜……?」

 

「さっきも見たぞ、その反応」

 

パンダが溜息をつく。照は小声で月詠に尋ねた

 

「……今なんて言ったの?」

 

月詠が、照にしか聞こえない声で答える

 

「五条が言ってただろ、口元隠してるし呪言師だ。多分、言ってることはさっきと同じだ」

 

「そ〜! せいか〜い」

 

その瞬間、教室の扉が壊れんばかりの勢いで開いた

 

「いや〜いいね1年生! フレッシュ!」

 

「元から知ってただろお前」

 

パンダの呆れ顔を無視して、五条先生は教壇に立った

 

「は〜いそれじゃ自己紹介〜。誰からでもいいよ」

 

「別にやんなくてもいいだろ」と月詠が毒づくが、照はすぐに返す

 

「第一印象は重要だよ、月詠」

 

五条先生が楽しそうに手を叩いた

 

「も〜ノリ悪いな〜。じゃあ左から!」

 

「禪院真希」

 

ポニーテールの少女が座ったまま短く名乗る

照が隣で軽く頭を下げた

 

「よろしく、禪院さん」

 

「名字で呼ぶな」

 

「え?」

 

思わぬ拒絶に固まる照

月詠が耳元で囁いた

 

「第一印象が重要?」

 

「終わったなお前」

 

照は小さく咳払いをして言い直す

 

「じゃあ……よろしく、真希さん」

 

真希は少しだけ眉を動かし、「まあいい」と視線を外した

次に口元を隠した少年

 

「……こんぶ」

 

「狗巻棘、呪言師だから普段はおにぎりの具で喋るの」

 

五条先生の補足に、照は「なるほど」と納得し、棘は軽く頷いた

次にパンダが立ち上がる

 

「パンダだ、よろしくな」

 

「もっと説明ないのかよ」と真希が突っ込むが、パンダは「見ての通りパンダ」としか言わない

 

真希が照を睨んだ

 

「説明しろよ白髪、知ってんだろ?」

 

「僕? ……学長の呪骸、突然変異呪骸だったかな」

 

「最初からそう言えよ」

 

次は照の番だ

 

「天野照です、よろしくお願いします」

 

「黒羽月詠」

 

月詠が続き、五条先生が満足そうに手を叩いた

 

「はい完璧!」

 

「どこがですか」

 

照のツッコミを無視して、五条先生は続ける

 

「それじゃ次! 2年生と顔合わせ行くよ〜」

 

「2年? 先輩がいんのか」と真希が眉をひそめる

 

「いるよ〜。まあちょっと変わった子たちだけど」

 

「お前が言うな」

 

パンダのぼやきを背に、一行はグラウンドへ向かった

照、月詠、そしてパンダの脳裏には共通の予感があった

 

 

 

(((手合わせなんだろうな……)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドには二人の生徒が待っていた

一人は長身の男、もう一人は中性的な顔立ちの生徒

 

「おー、結構多いね」

 

手を振る星綺羅羅の隣で、秤金次が照たちをじっと見渡す

 

「期待の新人ってコイツらですか? 五条さん」

 

「そうそう。早速だけどさ、金次。誰か一人選んで手合わせしてよ。」

 

「五条さんが選んでくださいよ。一番“熱”がありそうなやつでお願いします」

 

五条先生が迷わず指をさす

 

「はいよ〜。じゃあ照」

 

「え」

 

照が素で声を漏らす

 

「綺羅羅と他の四人は観戦ね。照の術式、結構おもしろいと思うよ」

 

そして、五条先生は照の耳元で小さく付け足した

 

「照、あっち使ってもいいよ」

 

「いいわけないですよね」

 

照の冷ややかな返答を、五条先生は笑ってごまかした

 

その頃、綺羅羅はすでにパンダに夢中だった

 

「お〜もふもふだ〜。うわ、ほんとにパンダだ」

 

「お、女に撫で回されても嬉しくねえぞ!」

 

「私、男だよ?」

 

「え」

 

そんな脱力ムードを切り裂くように、秤が照の前に立った

グラウンドの空気が一変する

 

「一年、名前は?」

 

「天野照です」

 

秤は照を品定めするように眺め、少し笑った

 

「見た感じは普通だな。……俺は“熱”を愛してる。お前は何に熱を感じる?」

 

照は少しだけ考え、空を見上げた

 

「熱ですか。そうですね……他人を知ってこの世界で生きること、ですかね」

 

秤は一瞬黙り、それから肩を鳴らした

 

「冷めそうな答えだな。だが五条さんが選んだなら間違いねぇ」

 

秤が一歩踏み出し、重圧を放つ

 

「照、俺からの軽い試練だ。今から五分、耐えきれ。もちろん逃げるのは禁止だ」

 

「わかりま――」

 

照が言い終えるより速く、秤が印を組んだ

 

「領域展開」

 

「坐殺博徒」

 

世界が塗り替わる

パチンコ台の内部のような異様な空間

観戦していた一年たちが息を呑む

 

「悪いな、本当は当たるまでの時間もカウントしようと思ったんだが――」

 

図柄が回転し、期待値の高い演出が奔る

そして、一発で図柄が揃った

 

「今日はツイてるみてえだ」

今後の投稿について

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