刻を廻る術師の話   作:もく 

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7話 秤の試練

「この曲が流れてる4分11秒、俺は呪力が溢れ続けて反転術式がフルオートで作動する。要は無敵だ」

 

パチンコ台の内部のような異様な空間

軽快なBGMが鳴り響く中、秤金次は溢れ出す呪力の奔流を背に、不敵に笑った

 

「特別に制限時間はこれが終わるまでにしといてやるよ。殺す気で来てもらって構わないぜ? さあ、どうする?」

 

反転術式が照は困惑したように目を点にして隣を向いた

 

「……あの、五条先生……領域展開ってなんですか? 反転術式ってなんですか……?」

 

「そういや初めて聞いたな」

 

月詠も淡々と同意する

 

観戦していたパンダが「マジで?」と驚愕し、真希が呆れたように吐き捨てた

 

「……ぬいぐるみ以下だぞお前ら」

 

 

秤は一瞬動きを止め、頭を掻いた

 

「なんだよ……五条さん、説明しといてください。俺、適当にやっとくんで」

 

「はいよー」

 

五条先生の軽い返事と同時に、秤が地面を蹴った

凄まじい風圧を纏った拳が、照の顔面を掠める

 

「それじゃ一限目! 呪術の基礎・応用へーん!」

 

五条先生の講義が、実戦という名の暴風の中で始まった

 

「今から!? ……ってそんな、場合じゃ、ないって!」

 

照は呪力を練り、雷を纏って加速する

 

(速い……こっちは加速してるのに、あっちの動きはそれ以上だ。反撃しないと、4分持たずに潰される!)

 

照は指先を弾き、秤の脳天に鋭い雷光を落とした

秤の体が丸焦げになる――だが、次の瞬間には湯気を立てて肉体が再生していた

 

「お前の熱はそんなもんか!」

 

「ぐっ……!」

 

反撃の隙を突かれ、照は秤の重い一撃を受けて後退した

 

 

 

 

 

実は五条は事前に秤へ話を通していた

 

「てわけで、あとで手合わせしてもらう照はこの2つの術式を持ってるわけ。だけどいろいろあって照は刻廻呪術は隠してるの」

 

「上層部関連すか?」

 

「そう、まあ高専内なら問題ないしみんなに知ってもらわなきゃいけない事実だからさ、金次には照から刻廻呪術を引き出してほしいんだよね。どう?熱いでしょ」

 

「熱いっすね」

 

秤の目に、期待の火が灯る

 

 

 

 

(持ってるもんは熱い。だが……)

 

「出し惜しみは冷めるぞ、照!」

 

重い蹴りが照の腹部にめり込み、彼は大きく吹き飛ばされた

 

「止めないのか?」

 

パンダが心配そうに聞いたが、五条先生は笑って見ていた

 

「うん、大丈夫。……ここまで真面目に隠そうとしてた照が、本気を出したらおもしろそうでしょ?」

 

倒れ伏していた照

その周囲の空気が、ふわりと変わった

まるで、そこだけ時間の流れが歪んだような違和感

 

「ツナツナ!」

 

棘が驚いたように声を上げる

 

「隠すんじゃなかったのかよ」

 

月詠は呆れ顔だが、止める気はないらしい

 

 

 

 

「あの人は本当に性格悪いですよね。……全部、知ってたんでしょ」

 

立ち上がった照の瞳から、迷いが消えていた

その背後に、目には見えない時計の針が重なったような錯覚を覚える

 

「へぇ……熱くなってきたじゃねえか」

 

秤が拳を握り直す

 

 

その時、当たりの音楽が不自然に途切れた

 

「はい、しゅ〜りょ〜!」

 

五条先生の声

 

「チッ、時間を飛ばしたか……」

 

と秤が舌打ちした瞬間

 

「でも、これじゃ冷めますよね」

 

照が静かに告げると同時に、周囲の景色が元通りに巻き戻った

秤が見ていたのは、照が共有した「一手の候補」――未来のイメージだったのだ

 

「マジか……」

 

「残り2分半、耐久はつまらない。約束通り、殺す気でいきますよ」

 

照の動きが一段階、跳ね上がった

雷による加速

さらに「数秒先の未来」を確定させながら動くことで、秤の死角を正確に突き、呪力を込めた打撃を叩き込む

 

(バレてるなら、呪力は未来の自分から前借すればいい。秒単位で未来視を発動して優位を取る!)

 

しかし、無限の呪力に任せて暴れ回る秤は、その予測さえも暴力的なスピードで塗り替えていく

 

 

当たりによる無敵時間が終了する寸前

空中に逃れた照に対し、秤が詰みの一撃を放とうとした

 

(空中じゃ加速はできねぇだろ。熱かったが、ここで終わりだ!)

 

だが、秤の拳は空を切った

照はそこにはいなかった

 

「……!」

 

秤の背後、照は既に拳を振りかぶっていた

着地する前の空中

照はあらかじめ『着地し、背後に回った未来』を自分の中に作り、そこに現在の自分を無理やり上書きして移動していた

呪力の消費は甚大だが、これこそが照の最後の大技

 

「マジか……!」

 

重い打撃が秤を吹き飛ばすと同時にBGMが止まった

 

「はい、しゅ〜りょ〜!」

 

領域が解け、グラウンドの景色が戻る

照は膝をつき、激しい呼吸を繰り返した

 

「はぁ、はぁ……」

 

「てなわけで! 術式二つ持ち、五条家の幻の術式『刻廻呪術』の使い手、天野照くんでした! 拍手!」

 

静まり返るグラウンド

 

「……内緒って言ったのは、誰ですか」

 

照の恨めしそうな声に、五条先生はニカッと笑った

 

「みんな知ってた方がこの先、楽だよ?」

 

「まあ、この子たちが新入生だから。二人は先輩として頑張ってね〜」

 

「おう!」「はい!」

 

秤は照の元へ歩み寄り、ガシッとその肩を叩いた

 

「いい熱だったぜ」

 

「……ありがとうございます」

 

照は荒い呼吸を整えながら、なんとか答えた

領域が解けたグラウンドには、春の柔らかな日差しが戻っている

けれど、照の体感温度はまだ沸騰したままだ

そこへ、無造作にペットボトルが差し出された

 

「ほら」

 

顔を上げると、真希が立っていた

彼女は相変わらず鋭い目つきのままだが、どこか品定めをするような、あるいは認めるような色が混じっている

 

「……あ、ありがとう真希さん」

 

「別に……さっきの術式、あれが本気か?」

 

照は受け取った水を一気に飲み干し、ふぅ、と長い息を吐いた

 

「どうかな……自分でも、まだ全部は使いこなせていないと思うよ」

 

「……ふん、そうかよ」

 

真希はそう言って背を向ける

その後ろから、パンダが笑いながら近づいてきた

 

「照、お前やっぱり相当なバケモンだな」

 

「しゃけ」

 

「そう?」

 

少し離れたところで、月詠がその光景を冷めた目で見守っている

五条先生がその月詠の肩に手を置いた

 

「どう? 月詠。照があんなに馴染んじゃって、ちょっと寂しい?」

 

「黙れよ」

 

月詠は即答し、五条の手を払いのける

だが、その視線はどこか安堵したように照の方を向いていた

 

「……全部仕組んでたか、俺もあれやるのか?」

 

「月詠のは説明だけでいいよ。にしても熱いねぇ、最高に青春じゃん」

 

五条先生は満足げに空を仰いだ

呪術師としての過酷な任務の合間に訪れた、束の間の「学校」らしい風景

 

「よし! 入学初日から疲れただろうし、今日はここまで! 明日からは……そうだな、一年生全員で合同任務に行ってもらおうかな」

 

「……は?」

 

真希の声が重なる

照はペットボトルを握りしめ、苦笑いを浮かべた

どうやら、この学校での「平穏」は、この一瞬の休憩時間だけのものらしい

今後の投稿について

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