今の書き方だと1話5000字でやってみたらかなり展開速く感じそうで怖いんですよね
とりあえず試してみようと思います今回は4500文字です
改めて評価感想お気に入り登録の方よろしくお願いします
五条先生の強引な指導と秤さんとの熱い手合わせから一ヶ月、僕たちの高専生活は驚くほど順調に滑り出していた。
真希さんの厳しい特訓、棘君の独特な語彙の理解、パンダ君の懐の深さもよくわかった。
山奥で二人きりだった僕たちにとって、ここはもうなくてはならない居場所になりつつあった。
だが、その平穏を破るように転校生の噂が教室を駆け抜ける。
「聞いたか? 今日来る転校生。クラスメイト四人をロッカーに詰めたんだと」
寮から校舎に向かう途中、パンダ君が腕を組んで切り出した。
その背中にはいつの間にか月詠が当然のような顔で乗っている。
「殺したの?」
真希さんが歩きながら低く問う。
「ツナマヨ?」
「いや、重傷らしい」
パンダ君の答えに真希さんは鼻で笑った。
「ふーん。ま、生意気ならしめるまでよ」
「おかか」
「暴力はダメだよ、真希さん」
棘君が優しく、僕が苦笑いしながら宥めると真希さんは少しだけ視線を逸らした。
「……うるせえ」
そして、教室
僕たちはそれぞれの席につき、その転校生を待っていた。
「転校生を紹介しやす! テンション上げて! みんなー!」
扉を勢いよく開けて入ってきた五条先生が一人で盛り上がっている。
「わー」
僕は棒読みで拍手を送ったが、他の四人は沈黙を守ったままだ
「……上げてよ」
「随分尖ったやつらしいじゃん。そんなやつのために空気作りなんてごめんだね」
真希さんの冷ややかな一言に棘君も「しゃけ」と短く吐き捨てる。
「はぁ……まいっか。入っといでー!」
先生の合図で一人の少年が教室に足を踏み入れた。
その瞬間
「「「!?」」」
教室の空気が一瞬で重圧によって塗りつぶされた。
底の見えない、どす黒い呪いの気配。
震える足取りで教壇に立った少年は、消え入りそうな声で口を開いた。
「乙骨憂太で……」
――ガアンッ!
真希さんの大刀が乙骨君の首筋を掠めて黒板に深く突き刺さる。
一瞬で距離を詰めた真希さん、拳を構えるパンダ君、そして襟に手をかける棘君
三人が同時に臨戦態勢に入る中、僕と月詠だけは、座ったままその光景を見つめていた。
「これなんかの試験? おい。お前、呪われてるぞ」
真希さんの鋭い追及に、乙骨君の顔から血の気が引いていく。
「ここは呪いを学ぶ場だ。呪われてるやつが来る所じゃねえよ」
「照くん……月詠くん……どういう状況……?」
「「ん?」」「ツナマヨ?」
僕と月詠は知っている。
去年の十二月、五条先生に連れられて、隔離されていた彼に一度だけ会わされていたから。
あの時よりも、彼に憑いている「彼女」の気配は、より強大で、より哀しく膨れ上がっている。
「みんな落ち着いて。彼は……」
僕が口を開こうとしたその時、憂太くんの背後から、教室の壁を叩き割るような衝撃が響いた。
「てな感じで! 彼のことがだーいすきな里香ちゃんに呪われてる乙骨憂太くんで~す! みんな~よろしく~!」
五条先生の軽いノリとは裏腹に、教室の空気はこれ以上ないほど冷え切っていた。
僕、月詠、そして乙骨くん以外の三人の頭には、里香ちゃんによる反撃のたんこぶが綺麗に並んでいる。
「憂太に攻撃すると里香ちゃんの呪いが発動したりしなかったり……。なんにせよ、みんな気を付けてね~」
真希さんが忌々しげに、けれど小声で僕を睨んだ。
「……おい。知ってたなら早く言えよ」
「ごめん、口止めされてて」
僕が苦笑いで返すと五条先生がパンパンと手を叩く。
「こいつら反抗期だから僕がちゃちゃっと説明するね」
僕ら双子との面識については端折られ、初対面の三人が乙骨くんに紹介される。
そしてそのまま、午後の任務が言い渡された。
「棘、パンダ。真希、憂太の組み合わせね。照と月詠は極秘任務。……はい、これメモ」
真希さんと乙骨くんが向かったのはとある小学校だった。
五条先生によって帳が下ろされる。現れた呪霊を真希さんは一切の迷いなく呪具で瞬殺した。
「呪いってのはな、弱いやつほどよく群れる」
その様子を僕は校舎の屋上から静かに観察していた
(月詠の方は棘くんたちのサポートに回ってる。……あっちも順調かな)
だが、事態は急変する。
巨大な呪霊の胎内に真希さんと乙骨くんが飲み込まれた。
僕は一度帳の外へ出ると、待機していた五条先生に報告を入れる。
「……二人、食われちゃったよ。止めていい?」
「いいや、大丈夫。引き続き監視よろしく」
五条先生の目が、包帯越しに鋭く光る。
(……そうか。先生の狙いは、特級過呪怨霊・祈本里香の『顕現』か)
その時、校舎全体を震わせるような咆哮が響いた。
『――アアァ、アアアァァァァ!!』
鼓膜を突き刺すような、おぞましい呪力の奔流
「凄まじいね。これが特級過呪怨霊、祈本里香の全容か。……近くで見てきたら?」
「そうさせてもらいます」
僕が再び校舎へ飛び込むと、そこには地獄絵図が広がっていた。
里香は、真希さんたちを飲み込んだ呪霊を、まるで紙屑のように引き裂き、ぐちゃぐちゃに咀嚼していく。
圧倒的な暴力、理屈を超えた愛の成れの果て
乙骨くんは意識を失った真希さんを背負い、血にまみれながらも必死に帳の外へと脱出した。
病院へ搬送されていく真希さんを遠くから見届け、僕は五条先生の隣に降り立つ。
「……どうだった?」
「とんでもない同級生が増えましたね。でも、あれを制御してやっていくのは、相当大変ですよ?」
五条先生は空を仰ぎ、不敵に笑う。
「うん。これからは呪具に呪いを込める方針で行こうと思うんだ。照も放電以外に新しいアプローチを考えてみると面白いと思うよ。……あ、次は憂太と一緒ね」
「わかりました。……あとは憂太の意志ですね。一度死にかけてもなお、高専で学ぶことを選ぶかどうか」
僕は、遠ざかる救急車のサイレンを聞きながら、確信を持って答えた。
「……でも、憂太は大丈夫だと思いますよ。彼は、もう逃げないって決めたはずですから」
僕はそれだけ告げると、仲間たちが待つ病院へと向かった。
side out
それから二ヶ月。真希による乙骨への苛烈な稽古や、呪力を武器へと流し込む感覚の練磨。任務の合間を縫うように重ねられた鍛錬は一年生たちの実力を底上げしていた。
そんな折、月詠に単独の任務が下る。
「等級は二級程度とされています。お気をつけて」
補助監督の言葉を背に、月詠は振り向くこともなく軽く手を挙げ、帳の中へと足を踏み入れた。脳裏には五条悟のふざけた声がちらついている。
『妙だね、何かが絡んでる気がする。ま、死なないでね~』
(……やっぱムカつく。なんであんな性格の悪い奴が教師やってんだ)
毒づきながらもあの男がわざわざ釘を刺す以上、一筋縄ではいかない予感はあった。
月詠は意識を研ぎ澄ませ、湿った空気の漂う山奥へと慎重に進んでいく。
やがて、目的のモノを見つけた。
そこには術式を持たないであろうムカデ型の呪霊が十体ほど群れていた。立ち入り禁止の看板を無視して入り込んだ人間が、無残に食い散らかされている。
数は聞いていたより多いが、氷で足止めして叩けば処理は容易なはずだ。
「ふぅ……」
月詠が呪力を練り、凍気を放とうとした、その瞬間
――バチッ!
鼓膜を裂くような放電音が轟き、視界を埋め尽くしていたムカデの呪霊たちが一瞬で消滅した。
光が収まった跡に立っていたのは、全身にどす黒い雷を纏った、人型の呪霊だった。
呪霊は躊躇なく月詠を視界に捉え、掌から莫大な雷光を撃ち放つ。
「……っ!」
月詠は咄嗟に巨大な氷の壁を生成し、直撃を防いだ。凄まじい衝撃が腕に伝わる。
(照と同じ術式。だが、威力は照のそれを遥かに超えてる……一級ならまだやりようはある。でも、この圧は――)
脳が警鐘を鳴らす
(特級か……)
その様子を遥か頭上の木の枝から見下ろしている影があった。
長い髪を揺らし、特徴的な前髪を垂らした男
月詠はその存在にまだ気づいていない。
「雷神の残穢から発生した呪霊。推定等級は特級」
月詠の分析と男の独り言が重なる。
(照と違って、呪力量が桁違いだ。出力に任せた速度は、あいつより速い……!)
「同一の術式を持つ天野照より呪力量が多いから、彼よりも速い」
放電の追撃を紙一重でかわしながら、月詠は冷徹に現状を整理した。
(
「当たりの君は、未来を見る力を持っていない」
男は薄く笑い、月詠の窮地を愉しむように呟いた。
「さあ、どうする? 黒羽月詠君」
帳の内に響き渡るのは暴力的な放電音と凍りついた大気が砕ける悲鳴のような音だけだった。
目の前の呪霊が放つ雷光は双子の兄である照のそれとは比較にならないほど重く、そして速い。
月詠は地面を蹴って後退しながら瞬時に巨大な氷壁を幾重にも生成した。直後、凄まじい衝撃と共に氷が粉々に弾け飛ぶ。防戦一方だ。
(……チッ、速すぎる)
氷の障壁で視線を遮り、呪霊の機動を殺そうと試みるが雷を纏った異形は物理的な制約を無視した速度で肉薄してくる。
未来を予知できる照なら、この一撃を避けることも容易だろう。だが、月詠の目に映るのは現在と、術式によって強制的に可視化された過去の残穢だけだ。
雷光が月詠の頬をかすめ、焼けるような痛みが走る。防壁を貫通した一撃に膝をつきそうになるが月詠は冷徹に周囲の「時間」を読み取っていた。
(避けるのは無理だ。なら――現在で戦うのをやめる)
月詠は深く息を吐き、封印していた刻廻呪術の深淵へ意識を沈めた。
彼はまず、自身の二時間前の過去へ意識を繋いだ。任務開始前、静かに休息していた自分。そこには今のような疲弊も、枯渇しかけた呪力もない。月詠はその「過去の自分」から、充填されたままの莫大な呪力を現在へと引き抜いた。
全身に脈動する、新鮮で強靭な呪力。
同時に、月詠の視界には一分前にこの場所にいた呪霊の残像が、鮮明な座標として浮かび上がる。現在、呪霊は目の前で次の放電準備に入っている。だが、月詠が狙うのは「今」の敵ではない。
月詠の姿が、かき消えるように現場から消えた。
彼が移動したのは、空間的な距離ではなく、時間的な座標だ。一分前、呪霊が油断なく周囲を警戒していたその位置へ現在の月詠が強制的に割り込んだ。
呪霊からすれば、背後を取られたわけでも、高速で移動されたわけでもない。つい先程まで誰もいなかったかつての場所に、突如として全力の殺意を纏った敵が出現したのだ。
因果を無視した出現に、特級呪霊といえど反応は不可能だった。
「終わりだ」
月詠は至近距離から、氷の楔を呪霊の核へと叩き込んだ。
一分前の無防備な背中を貫かれた衝撃は、時間を超えて現在の呪霊の肉体を内側から破壊する。逃げ場のない過去への干渉に、雷の異形は叫ぶ間もなく凍りつき、その場に崩れ落ちた。
パキパキと音を立てて砕け散る氷の破片を見つめながら、月詠は荒い呼吸を整える。
過去から呪力を前借りし、過去の座標を奪い取る。それは術師本人にも多大な負荷を強いる手だった。
「……二度とはやりたくねぇな」
痺れる右腕を抑えながら、月詠は消えゆく帳の空を見上げた。
今後の投稿について
-
短めの話で投稿する(投稿頻度↑)
-
少し長めの話で投稿する(投稿頻度↓)