燕青さんと探偵をする話   作:桜ノ宮雨

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団体名、人物名は全てフィクションです。


信徒詐欺事件

「そうなのですよー!ウチの息子ったらブラブラ、ブラブラしててー!貴方みたいに立派に自立していたら良かったですのに!」

「は、はぁ。そうなんですね」

 

お昼の時間。

翡翠は依頼人、林康子さんの話を聞いていた。

 

『立派に自立、だってさ』

『燕青さん、うるさい』

 

念話で話しかけてきた燕青に、翡翠はギロリと睨む。

サーヴァントとマスターは魔力のパスが繋がっている限り、頭の中で会話が出来るのだ。

 

「そ、それで依頼はなんでしょう?」

「あらヤダ、ごめんなさい!ついお話に夢中になっちゃって!私の悪い癖ねぇ」

 

やっと話が進むと、翡翠はひそかに安堵した。

 

依頼の内容は、新興宗教の実情を調べて欲しいというものだった。

なんでも林さんのお父上がその新興宗教に入れ込んでおり、ついには老後の貯金にまで手を出したらしい。

怪しいと説得をしても怒るばかりで話にならず、もうお手上げとのこと。

 

「その宗教の名前が『太陽の会』って名前ですの。調べてくださる?」

「えぇ、もちろん。お受けしましょう」

「良かったわぁ。それじゃあよろしくお願いします」

 

林さんを見送り、翡翠ははぁとため息をついた。

 

「もう疲れた……話が長い……」

「お疲れさん、マスター。ほら、飯だ飯」

「わぁ美味しそう……!

じゃなくて!

その匂いのせいでお腹鳴りそうだったんだからね!?」

 

彼女の抗議をものともせず、燕青は料理を並べていく。

 

「まぁまぁ。デザートにケーキ買ってあるから、それで機嫌直せよぉ」

「えっ、ホント……!」

 

キラキラという効果音が聞こえて来そうな目の輝きに、燕青は苦笑する。

 

「マスターは本当に飯に弱いなぁ。俺の飯以外で釣られんなよぉ?」

「なっ、そんな子供じゃないし!」

「ほらほら、口に何か付いてるよぉ」

 

怒りつつも口いっぱいに頬張って、リスみたいになっている翡翠。

そんな彼女の口に付いた食べかすを取ってあげる。

 

(ホント、手のかかるマスターだなァ)

 

それを見て燕青の心は、図らずも上機嫌になるのだった。

 

 

「まずは『太陽の会』の周辺について調べるわよ」

 

お腹も膨れ、デザートのいちごショートケーキを食べながら翡翠は燕青に伝える。

 

「まぁな、情報は大事だよな」

「新興宗教が相手だから慎重にいきたいのよ。ほら、こういうのデリケートだし」

「ちなみに、マスターは宗教にご興味はおありで?」

「え、無いけど」

 

サラリと断言する。

 

「おいおい、それでも魔術師かぁ?

神秘を扱うのがあんたらだろうに」

「宗教と神秘は違うわよ。

神秘がこのいちごだとすれば、宗教はそれを飾り立てる生クリームみたいなもの。

前者は質量があって、後者はフワッと溶ける」

 

いちごにフォークを突き刺し、翡翠は語る。

 

「ほーん、そんなものかねぇ。

ま、どっちも関係ない俺には縁のない話だな」

「そっちが聞いてきたくせに」

「呵呵!興味本位だよ」

 

 

◇◆◇

 

 

それから二人は『太陽の会』について調べ始めた。

 

宗主、つまり宗教を興したのは神崎すぐる。独身の31歳。

しがない会社員だった彼は、ある時を境に宗教を興すことになる。

そのきっかけはとある女性と付き合いだしたということ。何度も一緒に家を出入りする様子が確認されている。

とても綺麗な人だそうだ。

 

近所の評判は上々。彼は穏やかで優しく、物腰の柔らかい人という印象だった。

 

しかし、『太陽の会』の周辺を調べていくとどうもきな臭かった。

『太陽の会』の会員は男性が多く、熱中している人も男性が多かった。

熱中している人物はお布施という名のお金を支払っており、中には投資を持ちかけられた人物もいるとか。

 

そんな『太陽の会』の形式は、とある女性を巫女として崇める宗教らしい。

その女性は瞬間移動をしたり、素晴らしい踊りで人々を感動させたり……凄い人物らしい。

 

 

「怪しいわね……」

「こんなあからさまなことあるのかってぐらい、怪しいな」

「特にたびたび出てくるこの女性、何かあるわね」

 

情報収集の時に書きなぐったメモを見て、翡翠は唸った。

 

「これ以上は潜入してみないと分からないかなぁ」

「おっ。潜入捜査なんて、いよいよ探偵らしくなってきたねェ」

 

燕青が翡翠を茶化す。

 

「もう……とりあえず明日、実際に行ってみるわよ」

「へーい。さて、何が待ち受けているのやら」

 

◇◆◇

 

「ようこそおいでくださいました。

私が『太陽の会』宗主を務めております、神崎と申します。

どうぞ、よろしくお願いします」

「は、はぁ、よろしくお願いします」

 

翌日、『太陽の会』の所有する建物に行くと、なんと宗主自ら出迎えがあった。

 

「珍しいですね、宗主様自らお出迎えなんて。よくある事なのですか?」

「そんなたまたまですよ、たまたま。偶然こちらで用向きがありまして。

それにしてもあなた方は運がいい!

もうすぐ巫女の舞が始まるのですよ。

本当は少々お布施が必要なのですが……今回は特別、タダでお見せいたしましょう」

「そ、それはありがたいです。楽しみにしております」

 

なんだか胡散臭いセールストークみたいだ。

翡翠はそう思った。

 

会場に案内され、一番前の席に座らされる。

 

しばらくして舞が始まった。

 

出てきたのは可憐な少女。年齢は10代後半だろうか。

 

鮮やかな衣装に身を包み、鮮やかな舞いを踊る。

それはとても美しく、まるで花が咲いたように感じた。

ここが新興宗教の本拠地でなければ、何かしらの劇を見に来ていると感じてもおかしくない。

 

『燕青さん』

 

翡翠が念話で話しかける。

 

『あぁ、マスター。あれは───』

『サーヴァントだ』

 

翡翠が断言する。

 

そう、あの魔力の流れは間違いなくサーヴァント特有のものだった。

恐らくあのサーヴァントの力で魅了し、信者を操っていたのだろう。

 

(でもどうやって近づく?)

翡翠は考える。

巫女と崇められている以上、近づくのは容易ではないだろう。

やはり、日を改めてくるべきか?

 

「お二方」

舞が終わった後、宗主神崎に呼び止められた。

 

「巫女様が会いたいと、仰せでしてな。良ければ今からお会いしていただけないでしょうか?」

「それは……はい、もちろんです。よろしくお願いします」

(よし、これは好都合……!)

翡翠は心の中でガッツポーズをとる。

宗主自ら手招きされ、翡翠と燕青は奥へ案内されたのだった。

 

 

「ようこそ、いらっしゃいました」

奥の部屋で二人を歓迎したのは先程の巫女、ただ一人だった。

 

「お一人、ですか?」

「ええ、だって秘密のお話がしたくて、お呼びしましたもの」

 

くすくすと笑う少女。

翡翠はその容姿に思わず見とれてしまう。

 

「は、初めまして。瀧井翡翠と申します。こちらは新真さんで……」

「翡翠ちゃんに新真さんね、よろしく」

 

すると、

 

「あなた、サーヴァントでしょう?」

 

唐突にくる、鋭い質問。

 

「なっ、サーヴァント?なぜサーヴァントがここに!?」

彼女の言葉に真っ先に反応したのは宗主神崎だった。

 

「あら。気づかなかったの、マスター。

彼はサーヴァントよ。わたしと同じ、ね」

「男性の方が、か?なぜ、どうしてここに!?

まさか、警察か!?」

「……私たちは探偵です」

 

これ以上隠しても無駄だと思ったのか、翡翠は素直に身元を明かす。

 

「探偵さん?探偵さんがいったいなんの用かしら」

「とある方から依頼を受けて調査しに来ました。

あなた方には詐欺罪の容疑が掛けられている」

「さ、詐欺罪?人聞きの悪いことを……。

我々は迷える人々を救っているだけだ!」

「これを見てもそう言えますか」

 

翡翠は鞄から一枚の紙を広げる。

それは被害にあった人々の一覧。

 

「詐欺罪だけじゃない。

神崎さん、あなた、サーヴァント所持法にも違反しています。

資格、持ってませんよね?

それなのに我々の目の前にいるのはれっきとしたサーヴァント。これはどういうことでしょう」

 

翡翠は淡々と告げる。

神崎はわなわな震えていた。

 

「もし、これを警察に通報したら、どうなるかお分かりですか?」

「なっ、お、脅しだ、これは脅しだぁ!!」

「脅しではありません。事実を述べているまでです」

 

「でしたら、あなた方を逃がすわけにはいきませんね」

 

女がスっと立ち上がる。

 

「わたしはマルガレータ・ヘールトロイダ・ツゥレ。

マタ・ハリって言った方が聞き馴染みがあるかしら」

「マタ・ハリ……!」

 

マタ・ハリは第一次世界大戦時にスパイとして活躍した人物だ。

その妖艶な踊りで軍の将校を翻弄し、二重スパイとして処刑されたという。

 

「マタ・ハリ!どうしてこんなことを?

あなたは詐欺に加担している!」

 

翡翠が叫ぶ。

説得しようとしているのだ。なんて無駄なことを。

燕青は独りごちる。

あの女の目は──覚悟を決めた目だ。

 

「ええ、だから何?」

「こんなこと、する人じゃないでしょう。

これでは人生の繰り返しだ。

あなたはあの男に利用されている。

あなたが送りたかったのはこんな人生ではないのでしょう?」

「……えぇ、そうね。わたしだって、幸せな家庭を築いてみたかったわ」

「だったら……!」

 

「だからって、わたしがあなたの説得に応じる必要は無いでしょう?」

「っ!」

 

翡翠がマタ・ハリの気迫に押されて一歩下がる。

 

「……マスター、お下がりを」

交渉は決裂だ。

燕青が翡翠の前に立つ。

 

(結局はこうなるのだ)

 

説得を試みた自らのマスターに向かって、燕青は哀れみの感情を向ける。

 

そして攻撃をしようと、相手マタ・ハリに詰め寄った。

 

「アサシン!攻撃ストップ!」

「なっ、マスター!?」

「あれ…?いや、攻撃ストップじゃなくて……なんだっけ……」

 

マスターの様子がおかしい。

燕青は攻撃をやめ、翡翠の近くに寄る。

 

「あら?そちらのアサシンさん、効きが悪いみたいね……精神耐性でも持っていたのかしら?」

「……宝具か」

 

いつの間に、と燕青は呟く。汗が一筋、頬を流れていった。

 

マタ・ハリの宝具は洗脳宝具。

妖艶な踊りで相手の思考回路を麻痺させ、操り人形にする。

 

現に燕青もこの宝具にかかっていた。

「この人物を攻撃してはいけない」という思考が頭の片隅に現れては消え、身体の動きを鈍くさせる。

 

(でもどうして俺には効きが悪い?)

 

燕青は相手の言葉に首を捻った。

 

燕青には精神耐性スキルなど持っていない。

本来であれば翡翠のようにかかっていてもおかしくない。

しかし実際、身体はまだ動けている。

幻霊という存在だからか、あるいは───

 

「真に愛する者でも見つけているのかしら。

なんて一途で──羨ましい」

 

ポツリとマタ・ハリが呟いた。

 

 

「マスター!しっかりしてくれ!

これは相手の宝具だ、惑わされるな!」

「でもあの人は攻撃しちゃダメで……あれ、なんでわたしここに居て……」

「マスター!」

 

このままだと令呪を切られかねない。

そう思った燕青は翡翠を抱き抱える。

 

「アサシン!?」

「マスター、一時撤退だ。このままだと、あんたの身が危ない」

「あら、逃がすとお思いで?」

 

マタ・ハリがフゥと息を吹きかける。

その途端、燕青の膝がガクッと落ちた。

 

「くっ……」

「アサシン……!?」

 

体が重い。恐らく、相手のスキルだろう。

逃げる意欲をくじかれた、そんな感覚だった。

 

「ここで逃がしたら、あなた達また邪魔しに来るでしょう?

そんな気が起きないよう、めいいっぱい可愛がってあげなきゃ、ね」

 

マタ・ハリが近づいてくる。

 

 

その時、

 

「やめて」

 

一つの言葉が響いた。

 

「お願い、アサシンには何もしないで」

 

見ると翡翠が燕青とマタ・ハリの間に立っていた。

 

「マスター………!?」

「……翡翠ちゃん、だったかしら」

 

その目はまっすぐマタ・ハリを貫いている。

 

「わたしには何したっていい。けど、アサシンには何もしないで」

「あら、どうして?」

「アサシンはわたしに付いてきただけだから。これもわたしの命令。だから、」

「でも、わたしにはあなたの言うことを聞く義理はないはずよ」

「だからお願いしてる。その代わり、あなた達の不利益にならないよう、努めるわ」

「そう……分かったわ」

 

マタ・ハリの指が翡翠の顔を撫でる。

ピクっと翡翠の体が震えた。

 

何かがプチンと切れた。

その途端、

 

「きゃっ!」

「アサシン……!?」

 

燕青がマタ・ハリに向かって拳を突き出したのだ。

 

「アサシン!何を……」

「…………わるな」

「えっ?」

「彼女に、触るな」

 

凄まじい気迫でマタ・ハリを威圧する燕青。

その気迫に思わずたじろぐマタ・ハリ。

 

「彼女は俺の大切な人だ。

許可なく触ることは絶対許さない」

 

抱き抱えられたまま、翡翠は燕青の顔を見る。

 

 

「そう……交渉は決裂ってことね」

「交渉も何も、あんたの一方的な脅しだろう」

 

「そうね、でも」

 

マタ・ハリが懐からチャクラムを取り出す。

 

「わたしのような弱い英霊でも、あの人の役に立てる!

そのためなら、命だって惜しくないわ!!」

 

相対するマタ・ハリ。

 

勝負は、一瞬だった。

 

「かはっ……!」

 

かたや舞踊の達人、かたや拳法の達人。

勝負になるはずもなく。

 

燕青の拳をくらったマタ・ハリは膝から崩れ落ちた。

 

 

◇◆◇

 

 

その後、神崎すぐるは詐欺罪とサーヴァント不法所持罪で捕まった。

マタ・ハリの魅了が解けた本人たちからの申告で次々と余罪が出てきたらしい。

 

「ごめんね、燕青さん」

 

警察からの事情聴取を終え、事務所に戻ってきた翡翠は燕青に謝った。

 

「なんでマスターが謝るんだよぉ。

今回は強敵だった、それだけの事じゃねぇか」

「でも、迂闊だった。

まさか入った瞬間から相手の宝具に魅了されていたなんて」

 

巫女の舞、と称して洗脳宝具を見させられていた。

それは他の被害者も同じだったのだろう。

 

「あんなの予測する方が無理だろうよ」

「燕青さんの邪魔したし」

「そうは言っても、マスターを守るのが俺の一番の任務だしなぁ」

「でも、」

「ああもう!」

 

燕青が翡翠の肩をガっと掴む。

突然の出来事に翡翠は目をぱちくりする。

 

「そんなに言うなら、俺の言うこと一つ聞いてくれよ。それでチャラってことな!」

「燕青さんの言うこと?」

「そうそれ」

 

燕青が翡翠を指さす。

 

「その『燕青さん』ってやめてくれない?さん付けなんて、なーんかムズムズするんだよな」

「でも、さん付いてないと失礼じゃない?」

「失礼も何も、俺はサーヴァントだぜ?さん付けの方がおかしいさ」

 

翡翠は考え込む。そして、

 

「分かった、それで燕青さんの気が済むなら」

「さん?」

「………燕青」

 

満足そうに微笑む燕青。

若干の気恥ずかしさを感じつつも、本人が満足そうならいっかと翡翠は言葉を飲み込むのだった。




燕青さんの甘やかしは心身に効く。
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