量子幽霊は観測されたい   作:限界ボンバーヘッド

5 / 5
前書きと後書きで貴方にメッセージを送っている私は、カテゴライズすると観測者なんでしょうか?それとも、ただ、作者の二文字で終わる存在なんでしょうか?





最終話 量子幽霊は観測されたか

ページの端が見えている。

 

物理的に、ではない。

概念的に。

 

物語という平面の、縁。

白い余白が広がっている。

あそこに踏み出せば——終わる。

 

「測良子」

 

観測波が隣に立つ。

もう透けていない。

ノイズもない。

最初に出会ったときより、ずっと鮮明だ。

 

「選んで」

 

「終わるか、続くか?」

 

「うん」

 

女子生徒——元・量子幽霊が黒板の前にいる。

 

黒板には最後の式。

Ψworld → collapse

when observation = 0

 

「観測がゼロになったとき、世界は完全に収束する」

 

「それって」

 

「物語が閉じる、ということです」

 

彼女は淡々と言う。

感情の揺らぎがない。

まるで、最初からプログラムされていたみたいに。

 

「でも」

 

観測波が言う。

「観測が続く限り、世界は揺らぎ続ける」

 

「曖昧なまま?」

 

「うん。でも生きてる」

 

僕は思い出す。

 

量子幽霊。

 

観測されなければ存在できない存在。

あのとき、理科準備室で確かにいた

 

でも。

本当にいたのか?

 

観測波は、静かに言う。

「ねえ、測良子」

 

「何だ」

 

「最初に観測されたのは、誰だったと思う?」

 

考える。

 

量子幽霊?

 

観測波?

 

僕?

 

彼女は首を振る。

「物語」

 

一瞬、言葉の意味が掴めない。

 

「この世界は、読まれた瞬間に生まれた」

 

女子生徒が続ける。

「観測者がページを開いた瞬間、波動関数は発生しました」

 

つまり。

 

最初から全部、観測依存。

 

量子幽霊も、観測波も、僕も。

 

読まれなければ、存在しない。

 

「じゃあさ」

僕は言う。

「量子幽霊って、何だったんだ?」

 

女子生徒は、少しだけ微笑む。

初めての変化。

 

「観測されたいという欲求の、擬人化」

 

観測波が笑う。

「承認欲求の量子版だね」

 

「身も蓋もないな」

 

でも、わかる。

 

存在とは、観測されること。

認識されること。

忘れられれば、曖昧になる。

それは人間も同じだ。

 

突然、理科準備室の景色が揺らぐ。

 

棚が文字になる。

 

窓が段落に変わる。

 

空が余白へ溶ける。

 

終わりが近い。

 

「測良子」

観測波が、僕の手を握る。

最初の夜みたいに。

 

「怖い?」

 

「少し」

 

「私も」

 

意外だ。

 

「でもね」

彼女は言う。

「終わるってことは、完全に観測されるってこと」

 

「どういう理屈だ」

 

「物語は、最後の一文で定義される」

 

たしかに。

結末が意味を決める。

ハッピーエンドか、バッドエンドか。

それで全体の色が変わる。

 

「じゃあ」

僕は聞く。

「どんな結末にする?」

 

観測波は、少し考える。

そして言った。

 

「曖昧なまま」

 

らしい。

 

女子生徒が黒板を消す。

最後の式が消える。

 

「最終観測を開始します」

 

世界が、静かに振動する。

 

僕は、理解する。

 

これは消滅ではない。

 

固定だ。

 

波が、一つの形に凍る。

 

その前に。

僕は、あなたに向かって言う。

今、この文章を読んでいるあなた。

あなたが観測したから、僕はここにいる。

あなたがページを閉じれば、僕は収束する。

 

でも。

もし、ふと思い出してくれたら。

 

理科準備室。

 

ノイズ混じりの少女。

 

確率的殺人事件。

 

そのとき、波は少しだけ揺れる。

完全なゼロにはならない。

 

「測良子」

観測波が微笑む。

 

「君は、観測されたいと思ったことがあるかい?」

 

最初と同じ問い。

でも、今は答えられる。

 

「あるよ」

 

即答だ。

 

「今、この瞬間」

 

観測されている。

 

存在している。

 

それで、十分だ。

 

世界が白くなる。

音が消える。

文字が、ゆっくりと静止する。

観測波の輪郭が光に溶ける。

 

女子生徒も。

 

理科準備室も。

 

最後に残るのは、問い。

 

量子幽霊は、観測されたのか?

 

答えは——

今、あなたが決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(終)

 




今、観測し終わりましたね。これで、この物語の固定は完了しました。お疲れ様でした。
これで、貴方と私の間に縁ができましたね。
これからも、物語の観測を続けてください。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。