夢を見ていた。
誰かみたいに自分になりたい、有名になりたいって夢を。
でも、ずっと…ずっと…僕は誰かの真似っこでしかなかった。
ギターを引いた。自信がなくて、人と話せないのに手を引かれて輝いた彼女になりたくて。
絵を描いた。怒られてばかりだけど、自分を主張しつづける彼を見て。
小説を描いた。綺麗な物語や、儚く散ってしまう物語…感情をぶつけ合って壊れてしまう物語…その中の登場人物になりたくて。
音楽を刻んだ。すれ違って迷子になっても依存しあって前に進む彼女達と壊れてすれ違いながらも向けられた愛に答えながら繋がる彼女達が綺麗だったから。
でも、でも、その全部が誰かの真似でしかなくて。うまく出来ない。どうしても、どうしても全部が僕じゃないから理解が出来ないんだ。
自我ってなんだろう。僕って一体なんだろう?
全部全部、誰かの輝きに紛れた影で醜く踊っているだけ。
だから、願ってしまう。
誰かが僕の手を掴んで影から助けてくれることを。誰かの明るさによってこんな影ごと消し去って僕を見つけてくれることを。
でも、この思いだって何かの作品から得た救いでしかなくて。
何処にも僕はいない。
ずっと、ずっと宙に浮いているみたい。
天にも地にも居場所なんてなくて、ただ彷徨ってる。
生きているのに死んでいるみたいで、でも死ぬもの生きるのも怖くて。壊れそうなここを仮面で覆い隠した。
何も浮かばない頭で何にも記憶に残らないのに笑顔で話した、楽しく愉快に。
帰ってきた言葉はいつもいつも仮面を着けた僕への言葉で。
それでいいんだって思えてた。これが新しい僕なんだって。
だけど仮面は壊れた。
いい生まれをしてそうだねっていう言葉で心の底で何かが爆ぜて。
親なんていない、ずっと1人でああなるなって言われて期待にまみれて生活をしていたことをいい生まれ?
ふざけるな、ふざけるな。
でも、そんな思いを抱いても憤ることすら出来なかった。
ただただ、その時に実感したんだ。
僕が今までやってきたことの全てが今まで見てきた物語、人…それら全ての真似でしかなかったことを。
いたい、いたい。苦しいっ、まるで溺れているみたいだ。
でも、こんな思いを誰に溢すこともできなかった。
だって皆は全力で自分を生きているから。
僕と違って、世界を作れているから。
だから、壊れている仮面で生きようとした。
でも溢れていく。抱えた思いが、堪えきれない吐き気が。
だけど、漏らしちゃいけない。邪魔をしてはいけないんだ。人ですらない僕が人である皆の生活を。
でも、でも…そうしたら僕はどうすればいいの?
忘れることなんて出来ないっ!こんな痛みを忘れて生きることなんて出来ないんだっ!
ずっと、癒えない傷なんじゃないっ!刻み続けられる痛みなんだっ!
ぐちゃぐちゃで、どろどろでまるでそこの見えない沼なんだ!
誰かがいないと、誰かが僕を見つけてくれないと…僕は生きれないのに…!
誰もいない…。
1人だ…。大好きな夜みたいに真っ暗で、でも好きな星の見えない空だけが広がるこの世界で、1人きりなんだ…。
あぁ、どうして??どうして、僕は皆みたいに生きれないの?全部が偽物でその全部が僕で─。
壊れた歯車のようにその言葉だけがぐるぐるぐるぐる回る。
でも、答えなんて見つからない。
あぁ、こんな思いを抱いて生きるぐらいなら死にたい消えてしまいたい。あぁ、でも嫌だ、死にたくない…1人は嫌だ。
矛盾する欲望だけがずっと、ずっと僕を生かし続ける。
でも、でももう限界だった。ヒビの入った容器に水をいれ続けることなんて出来ないんだ。
零れて、零れ続けて…誰にも見られることなく、僕は死んだ。
痛くはなかった、怖くもなかった。だってもう空っぽだったから。
だけど、だけど…そんな僕の死に泣いてくれる人がいた。
その時、分かった。自我はなくても、自己はあったんだ。その人の心の中に僕はいたんだって。
良かった、良かった。彼の中で僕は僕として生きていたんだ。
それだけが唯一の救いのように細い細い光を感じられて、やっと足掻くことなく僕は深く深く沈むことが出来たんだ。
あぁ、なのに…なのに─なんで、僕はまだ生きているの?
なんで、なんで…貴方は泣いているの?
大きな館、その一室で美しい音色が響いた。
駆け抜けるように、深い深い感情と共に。
美しかった、誰かの曲なのに今の彼女の感情を表しているみたいで…曲が終わっても僕はその子の横顔だけを見ていた。
すると、近くで軽やかな拍手が響いた。
彼女と似ている人、いや…彼女と僕のお母さんだ。
「祥子ちゃんは本当にピアノが上手ね」
「お母様と翔子の好きな曲だからいっぱい練習しましたのっ!睦も呼んで今度お母様と翔子の誕生日に─。あっ」
「ふふっ」
「瑞穂。祥子、翔子ただいま!」
暖かい風景を、僕は1人孤独に見ていた。いない筈の人間、それが僕で…彼女達の物語を変えたくなかったから。
あぁ、なのに…貴方はやっぱり僕を引きずっても連れていこうとする。
「翔子、どうしまして?何か悲しいことでもあったんですの?それとも、また痛いんですの?…大丈夫ですわ、お姉様が直して上げますわ」
暖かい、太陽みたいな人。でも、駄目なの。僕は異物なんだから…手を取らないで。
そんな言葉を吐くことなんて出来なかった。だから、また壊れていた仮面を手に取った。
「ありがとう、お姉ちゃん!……ふふっ、お姉ちゃんのお陰でもう痛くないよ!」
「本当ですの!?……良かったですわ。それならこのまま、翔子に近づく悪い菌はわたくしが退治して上げますわ!」
良かった、バレなかった。でも……長くは続かない、絶対に。
どうすればいい?僕はどうすれば彼女達の人間の歩みを邪魔しないで済むの?
分からない、分からないことだらけだ。
あぁ、だけど…今はまだこの暖かな日溜まりで目を閉じていたい。何かもを忘れて……。
でも、どれだけ永遠を望んでも世界はずっと動き続ける。終わらない夢なんてないように、絶対に沈まぬ太陽なんてないように。
だから、また世界は暗闇になった。
何時も明るく輝く大好きなお姉ちゃんが、泣いて…でも僕は泣けなかった。泣くことなんて出来分けなかった。だって知っていたんだ、お母様が死んでしまうことをでも…動かなかった。
あぁ、僕は見捨てたんだ大好きなお母様を。この、it's MyGo!!!!!とAve Mujicaの世界の歩みを止めないために。
最低だ、最悪だ。この、悪魔……! お前が死ねば良かったんだ。
そんな攻め立てる僕の声を掻き消すために、僕はギターを弾いた。
ぐるぐる回るこの感情が消えるように……全てを忘れられるように。
汗が垂れた、血が溢れた。でも、止まれなかった。
これは、叫びだ。僕じゃない僕の叫びなんだ。誰にも届かないけれど、これが僕の涙だった。
でも、お姉ちゃんは…また、僕の手を取った。
「凄い、凄いですわっ! 翔子は天才ですわ! そうですわ! ねぇ、翔子?少し付き合ってほしい場所がありますの!」
お姉ちゃんは僕の前で無邪気に元気そうに振る舞って、少し冷たい手で僕の手を引いた。
あぁ、きっと強がっていたんだろう。これを、断ったら…お姉ちゃんは…また傷つく。もしかしたら、ヒビが入るかもしれない。
だから、僕はその手を握ってしまった。
この行為が、どんな結末に向かううっすらと分かっていたのに…。
「…ありがとう、お姉ちゃん。分かったよ…行くから、ってお姉ちゃん?」
「そうと決まれば、直ぐ生きますわよ! もう既に他の皆様は集まってもらってますから、ほら!」
ここまで、力強いお姉ちゃんは始めてかも…。諦めるしかないか。
そうやって、また流された。
「あ、祥……。翔も?」
「ええ!睦知ってまして?翔子はギターの天才だったんですわ!睦と同じぐらいに!」
「うん、教えたの……私、だから。でも、まだ……続けてくれてたんだ」
「はい、だって睦姉さんのギターが好きなので、お揃いしたくて。でも、お姉ちゃん?私は天才なんかじゃないからね?期待が重くなっちゃうよぉ!」
「……嬉しい。翔なら、信じれる」
「ほらぁ!もう、睦姉さん!そんなにうまくないからね!」
「いえ、上手ですわ!」
「もう~!お姉ちゃんのシスコン!」
うまく笑えているだろうか、睦姉さんにこの笑顔は嘘だってバレてないだろうか。そんな不安で僕は、もう1人の優しそうな彼女に目を向けた。
すると、優しい笑顔で彼女は見返して手についた傷を見て絆創膏を取り出した。
「翔子ちゃん、でいいんだよね?血が出てるからこれ張って?」
「わっ、ありがとうございます!えっと、お姉ちゃん?」
「あ、そうでしたわね!彼女は長崎そよさん、わたくし達のバンドでベースをする方ですわ!」
「ベース……わぁ、凄い!あ、そよ姉って呼んでもいいですか?」
僕は知っていた、全てが嘘だってバレない方法を。それは、相手が嘘をついているなんて考えれない程、無邪気にいればいいんだって。
だから、満面の笑みで僕は彼女に話しかけた。
「いいですわね!じゃあわたくしもそよさんって呼びますわ!ほら、睦も!」
まぁ、お姉ちゃんには叶わないんだけどね。根が純粋すぎるんだよ、本当に…太陽みたいに。
「そよ。……でも姉さんは譲らない」
「えっ?睦姉さんがそう言うなら……じゃあそよお姉様?」
珍しいな、睦姉さんがそんなこと言うなんて。じゃあこれから会う二人にもいい呼び名考えておかないと…。
「もう、そんなこと気にしなくていいんですの!ほら、そよさんも呼んでみてくださいまし!」
「じゃ、じゃあ…睦ちゃん?」
「うん」
「祥子ちゃん」
「ええ」
「翔子ちゃん」
「はい、そよお姉様!」
「ふふっ。あ、ごめんね?こうして改まって名前を呼ぶのちょっと面白いなって」
「あら、とても素敵なことだと思いますわよ?」
お姉ちゃんのその言葉に眩しさを感じて、下を向きそうなそよお姉様の手を取って、引っ張ってしまう。
本当はそんなことするつもりはなかったのに。壊れた仮面はたまに変に動いて勝手に声を紡ぐ。
「うん!僕もね、そう思うよ。ふふっ、やったー!新しいお姉ちゃんが増えた~!」
幼稚で無邪気な思い浮かんでもない言葉に嫌悪感が込み上げて、でも押さえつける。
これが、思わずあの時お姉ちゃんの手を取った罪なんだから。全部、隠すの。この世界に僕なんて要らないんだから。
「祥。翔、浮気」
「う、浮気ですの!?そんな、翔子はそんなことしませんわ!」
「お姉様呼びは浮気じゃないもーん!ねっ、そよお姉様!」
「…うん、そうだね?」
だけど、木陰に隠れたそよお姉様の顔には、アニメで見た時より寂しさがないように見えた。
なんでだろう?
「高松 燈です……」
「椎名立希です」
そよお姉様との挨拶が終わってたどり着いたのは、アニメで良く見た珈琲店だった。
…ここ、嫌いだな。コーヒの匂いが濃くて。お姉ちゃんの匂いを嗅いでおこう。
「もう、翔子?人見知りなんて何時もしないのにどうしたんですの?」
…確かに、匂いを消すためにお姉ちゃんの側に寄ったけどそんな風に見えてしまいそうだ。なんだか、燈ちゃんも仲間を見つけたみたいな顔してるし。
「えへへ、その何て言えばいいのか分かんなくて…お姉ちゃんなら、どうにかしてくれるかなって」
「もう、甘えん坊なんですから。でもそうですわね…こほん、改めまして本日はお集まりくださりありがとうございます」
「皆様とお会いすることを大変楽しみにしておりました。これからわたくしたちはバンド……共に音楽を奏でる運命共同体になるのです」
重い…相変わらずこの言葉を聞くとそう思ってしまう。
それに、運命なんて言葉は…大嫌いだ。だって、まるで何をしても変わらない定めのために生きているみたいだから。
そう、例えば今の僕みたいに…。
ふっ。そう思うと本当に、何のために僕は生き返ったんだろうね…?
もう、とっくに満足したのに。それとも、これが自分で死んだ罰なのかな…。
それなら、神は畜生だね。救いはもたらさない癖に罰だけ降らせるだから。
「翔子…翔子?どうしましたの?ほら、見てくださいませ!燈さんのノートを」
「あ、ごめん。お姉ちゃん、少し眠くて。これ、見ていいの、燈ねぇ?」
アワアワしながらこくっと頷くを見てから読む。そこに書いてあったのは彼女、燈ねぇの叫び。
それは痛いほどに理解が出来て、でももう僕の諦めたものだった。
だから、読めば読むほどまるで癒えかけている傷に塩を撒いてるみたいに酷く、酷く痛かった。
そのせいで…欠けていた仮面からスルリと雫が零れ落ちるのを止めれなかった。
ポツリ、ポツリとノートを濡らす跡で僕はそれに気がついて、直ぐに何事もなかったように拭おうとしても…溢れ出す。
「あ…ごめ、ごめん。燈ねぇ…ノート、汚れちゃう…。もうなんで、なんで…止まらないの…?これは、燈ねぇの涙なのに…」
「翔子…大丈夫ですわ。ほら、いたいのいたいの飛んでけーですわ」
「……僕の、涙」
優しくあやすように撫でるお姉ちゃんの手に身を任せながら、僕は溢れた良く分からない感情を流す。
もう、全部捨てるって決めたのに…まだ、捨てきれないてないみたい。
ダメだ、僕は人であっちゃ駄目なんだ。じゃないとこの世界を崩すことになるんだから…。ほら、泣き止んで?
息を吸うんだ、ゆっくり…ゆっくり。落ち着いて…。よしっ!
「…もう、大丈夫だよ…お姉ちゃん。その、ごめんなさい変な空気にしちゃいました。それで、えっと次はスタジオに行くんでしたっけ…?」
「ええ。その予定ですわ…その、本当に大丈夫ですの?翔子」
「平気、平気!僕が泣き虫なのはお姉ちゃんだって知ってるでしょ?ほら、行こ!お姉ちゃん達の音聞きたいから!」
「わっ、もう。皆様、行きましょう?あぁなった翔子は止まりませんの」
「うん……翔は頑固。」
「むっ、お姉ちゃん似です!ほら、行こっ!皆も!」
お店を出て、駆け出す。きっと、今の僕の演技は分かりやすくなっちゃているから…着け直さないといけない。
嘘つきの仮面は、絶対にバレたくないから─。
無自覚に傷を刻んでいく壊れた女の子が好きなだけの迷子とマスカレードのファンです。通してください…!