比企谷八幡 山星高校に入学する   作:狂った自販機

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あらすじを変更しました。

三日遅れですが、比企谷くん誕生日おめでとうございます。

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10話

後藤先生に乗り移っていた、《ふうせんかずら》が文研部に襲来して数日後、初めての週末。

 

そんな、誰もが愛してやまないであろう休日の朝。

 

比企谷家では、先週まで――いや、これまでの俺なら絶対にありえなかったことが起きていた。

 

今までの休日ならまだ夢の中であろう時間俺はもうすでに服をパジャマ姿から外出用の物に着替えていた。

 

そして靴を履き替えるために玄関に向かおうとしていた。

 

時間的に両親も小町もまだ休日なので寝ている時間である。そのためここまで物音を立てないように慎重に準備をする。

 

さて、家から出ようとした時後ろから声がかかる

 

 

 

「お、お兄ちゃん……?」

 

「うおっ!!?」

見つからないようにこそこそと準備をしていたので不意に声をかけられてビクッとしながら後ろを振り向く。俺のことを「お兄ちゃん」と呼び声をかけるのはこの家で、いや世界で一人しかいない。

 

そこには寝起きなのか少し眠たげにしながら、すでに外に行く気満々の俺の姿に驚愕を顔になっている小町がいた。

 

「おはよう、お兄ちゃん今日お休みなのに早いね。……珍しいっていうか初めてじゃない?……普段もこんな風に自分で起きてくれると小町的にポイント高いんだけど……」

 

ほぼ毎日起こしているのに今日は自力で起きて準備までしていることに驚いているようだった。

 

いつもお世話になっております。手のかかる兄でごめんね

 

「ああ……。おはよう。小町。悪い起こしたか?」

 

そう言うと小町は首を横に振り

 

「んーん。小町はトイレに起きただけだよ?どこか出かけるの?」

 

「ああ。部活の奴らに呼ばれてな。一応俺の歓迎会って名目で呼ばれてる」

 

そう言うと小町の顔から完全に眠けが消え去り先ほどよりも驚愕した表情をして叫んだ

 

「ええっ!お兄ちゃんがこの時間に活動してるのも驚きなのに、理由が遊びに誘われたからっ!!?大丈夫お兄ちゃん!?それ、騙されてないっ!!?」

 

「しーっ!小町……っ!静かに……っ!おやじたち起きちまうし、ご近所迷惑になる……っ!」

 

俺は慌てて小町に声のボリュームを落とすように言い、小町も直ぐにハッと手のひらを口に覆った。

そんなに驚くことか……?いや、驚くか……。俺も今までの人付き合いの無さを思えば今日の行動も、《ふうせんかずら》の存在と同じレベルでありえないことだし……。

 

 

 

自分で言ってて悲しくなってきた。

 

 

 

「ご、ごめん……。でも小町が誘わないと休日は引きこもりになるお兄ちゃんがね……。お友達と遊ぶなんて小町お兄ちゃんが遠くに行ったみたいで嬉しいよ……。」

 

と「よよよ」と泣いたふりをして目元を隠す小町。それを見てため息が出そうになるが、言い分は完全に正論なのでぐうの音も出なかった 

 

「でも家出るにしても時間早すぎじゃない?……っあ、もしかして昨日のこと気にしてるのお兄ちゃん?」

 

「う”……」

 

 

 

そう言った小町の表情は少しほほを赤らめ気まずそうにそう言った。

 

 

 

 

 

……図星である。実は、昨日の一件のせいで、今の俺は小町と少し顔を合わせづらかった。今朝こんな早くから家を出ようとしていたのも、そのためだったりする。

 

「もーう!小町は気にしてないっていってるのに!お兄ちゃんと『じゃれ合う』のはいやじゃないよ!……昨日のはちょっと度が過ぎてたと思うけど……」

 

「う……、本当にすまなかったな。初めての部活の疲れかなんかでなぜかタガが外れちまって……」

 

昨日の小町の姿が思い出される

 

みだれた髪

 

少しはだけかけてたTシャツ

 

生き荒く熱を帯びた表情

 

 

俺は未経験だが『ことを起こしたあと』だといわれても通用する状況だった。……いや、普通に事案だろこれ。

 

『タガが外れた』とふざけた理由では到底納得はできないだろうが、悪いが俺には全く覚えがなかった

 

小町も冗談だとは思う。「お兄ちゃん……小町たち血が繋がってるからダメだよぉ……」と、フワフワした状態で言っていた。

 

 

 

……冗談だよな?

 

 

その後落ち着いた小町に謝罪はしたがなぁ……許してもらったが、最近小町に謝ってばかりだな……。

 

とりあえず今日何かお詫びに甘いものでも買ってこよう。

 

 

それにしても、小町にこのような状態にしたのは俺のようだが、俺の『人格』は全くの心当たりがない。そう、『人格』は……。このことから察せられるかと思うが、俺は小町がこうなる原因になる瞬間とある人物と『人格入れ替わり』が起こっていた。

 

小町のことは愛しているが妹としてだ。当然のことだが妹に劣情を覚えるのはありえない絶対に

 

昨晩入れ替わり相手である『容疑者X』には個人メッセージで状況の説明を求めているが未だ返答はない

 

こうして本日の予定に『容疑者X』の尋問が追加された。

 

 

 

「まあとりあえずもうでるな。ちょっと早いけどぶらぶらしてるわ。せっかく誘ってもらったのに遅刻するのも悪いし……」

 

「それにしても、早すぎじゃない……?」

 

「しかたねぇだろ……休日に他人に誘われるなんて初めてなんだから……。何時間前にいれば良いのかわからないだからさ……」

 

「少なくとも今日のこの時間は早すぎるよ……。何時からどこに集合なの?」

 

「今から5時間後にカラオケに集合だな」

 

「それは絶対に早すぎるから!!朝ご飯食べて行って!!」

 

 

こうして小町に引き留められて朝食を食べてから集合一時間前出かけることになった。

 

 

 

高校入学式の時と同じことしてるわ……

 

ちなみに家から出る時間になっても、『容疑者X』からは返答がなかった……。言い訳考えてるだけだよね?俺のこと既読無視しているわけじゃないよね……?

 

 

どんな言い訳考えてるんだろうな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐山よ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集合場所のカラオケ店に30分前くらいにつくとまだ誰も来ていなかった。一番乗りらしい。小町止めてくれてありがとう。マジで無駄な時間過ごすことになるところだった。

 

カラオケ店の駐車場の車の出入の邪魔にならない所で待っていて割とすぐに次がやってきた。稲葉だった。

 

 

 

「おはよう比企谷……。お前くるの早すぎねぇか?」

 

 

 

「おはよっす。いや俺もさっききたところだから稲葉とそんな変わらねぇよ……」

 

今更ながら、文研部の女子三人だがルックスのレベルが高い。そんな普段制服姿しかしらない女子の私服姿を見て内心ドキドキした。

 

稲葉の私服は稲葉らしくシンプルだった。アイボリーのブラウスにネイビーのスカート。派手さはないが、妙に大人びて見える。

 

「ああ?なんだよなんか言いたげだな」

 

「いや……」

 

稲葉の姿をまじまじと見ていたら少し凄みつつ言ってきた。俺の中の心のイマジナリー小町が「お兄ちゃん!女の子の私服はみたらすぐ褒めてあげるんだよ!!」と言っているが俺には難易度が高すぎた。無理だよ知り合ってから一週間程度の女子にそんなこと言えないよぉ……。

 

 

「おっはよぉ!!稲葉んと比企谷くん!!」

 

稲葉にタジタジになっていると救いの女神がやってきた。

 

「おはよう伊織。お前は朝から元気だな」

 

「そういう稲葉んも、今日なんか大人っぽくない?気合入ってる?」

 

「うるさい。普段からこういう格好だよ」

 

私服の永瀬は大人ぽかった稲葉と比べてると、制服姿の時と普通の女子高生に見えた。

 

 

 

……いや、普通という言い方は失礼か。

 

白いブラウスに淡い色のスカート。いかにも休日の女子高生といった格好だが、永瀬が着ると普通にモデルでもやって行けそうなレベルだった。

 

「……ねえ、比企谷くん」

 

「ん?」

 

稲葉とじゃれていた永瀬が突然こちらを振り向いた。その顔には、さっきまでの明るい笑みとは少し違う、妙にいたずらっぽい笑顔が浮かんでいる。

 

嫌な予感がした。こういう時の女子の笑顔には、だいたい何かある。

 

 

 

「さっきから私のこと見てたよね?」

 

「……」

 

やっば。じっと見て他の気づかれてる

 

「……いや、別に」

 

「うっそだぁ~。女の子ってそう言う視線に敏感なんだよ~。恥ずかしくないから白状しなって~。」

 

「……」

 

「ふーん」

 

永瀬が俺の顔を覗き込むように少し身を屈める。普通に近い

 

 

「ふっふ~。じゃあ、そんな素直じゃない比企谷くんに聞きたいんだけど」

 

「何を?」

 

「今日の私の服装。どう?」

 

「…………」

 

 

 

詰んだ。何だこの質問。

 

 

 

女子の私服を見て感想を言う。そんな高度なコミュニケーション能力を俺は持ち合わせていない。

 

 

 

「……普通じゃね?」

 

 

 

「へえ」

 

 

 

永瀬の目が細くなる。

 

 

 

「それ、女子に言う感想として正解だと思ってる?」

 

 

 

 

 

俺の中のイマジナリー小町がまた言っている「ダメだよ!小町的にポイントマイナスだよ!」

 

 

 

返答に困っていると、永瀬は楽しそうに笑った。

 

 

 

 

 

「比企谷くん、さっきから明らかに困ってるねぇ」

 

 

 

「……お前、絶対わざと聞いてるだろ」

 

 

 

「もちろん」

 

 

 

即答だった。なんで朝っぱらからこんなに精神けずられなければならんのだ……。ちょっとはら立ってきたな

 

 

 

「……そうかわかった」

 

 

 

「え?」

 

 

 

さっきから俺ばっかり困らされてるからな。永瀬、お前がそこまで聞きたいなら、ちゃんと言ってやるよ

 

 

 

「適当な感想言ってすまなかったな。ちゃんとお前の私服褒めさせてもらうわ」

 

 

 

「……な、なに?」

 

 

 

永瀬が少し警戒したようにこちらを見る。

 

 

 

俺は一度だけ永瀬の姿を見て、それから淡々と口にした。

 

 

 

「今日の服、すげえ似合ってる。白いブラウスも淡い色のスカートも、お前の明るい雰囲気に合ってるし……制服の時よりちょっと大人っぽく見える。髪もいつもより柔らかい感じがするし、笑った時なんか普通に可愛いと思う。……いや、可愛いっていうか、その……さっき会った時、普通に見惚れた。だから、その……かなり似合ってると思うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

永瀬が固まった。俺も固まった。ここから入れる保険ってある?勢いに任せて俺何言ってんの?キモイとか思われてそう

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「……」

 

 

 

数秒の沈黙。あれ?俺また黒歴史確定なのでは?さっき褒めてた瞬間だけ人格が入れ替わったことにできない?

 

 

 

そして――

 

 

 

「……ちょ、ちょっと待って」

 

 

 

さっきまで余裕たっぷりだった永瀬の顔が、見る見るうちに赤くなっていく。え?その反応は何?めちゃくちゃ怒ってる?

 

 

 

「お前ら何イチャイチャやってんだ人の前で」

 

 

 

ハッと永瀬と2人で稲葉の方を向く。稲葉は呆れたような口調をしていたが永瀬の方を面白い物を見つけたような視線を送っている。

 

 

 

「い、イチャイチャなんてしてないよ稲葉ん!!」

 

 

 

「その割には余裕なさそうじゃないか。お前比企谷みたいなのがタイプなのか?」

 

 

 

「違うし比企谷くんは別にタイプじゃないし!!」

 

 

 

「ほぉ……残念だったな比企谷」

 

 

 

「何がだよ……」

 

 

 

 

 

告白もしてないのに振られたんだけど……。タイプじゃないのかそっか……。

 

 

 

内心少し傷ついているとその後続々と残りの文研部のメンバーが集まってきた。

 

 

 

 

 

忘れかけていたが『容疑者X』は俺の顔を見て気まずそうにしていた。

 

 

 

……露骨すぎる。

 

 

 

自覚はあるらしい。

 

 

 

ということは、やっぱり昨日のアレも覚えてるんだよな?

 

 

 

よし。

 

 

 

ことが終わったら、じっくり話を聞かせてもらおうか?

 

 

 

 

 

こうして俺たちは『第一回人格入れ替わり反省会』の会場であるカラオケに入っていくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

カラオケ店に入店して受付をして割り振られた部屋に向かう。(フリータイム・ドリンクバー付き)

 

6人と割と大所帯なので、でかめの部屋だった

 

 

 

「まだ朝だけどあちかったよね~。待たせちゃってごめんねぇ。あ、早速何か歌う?」

 

 

 

「おい、青木今日の目標忘れたか?そのなんだ……パット?みたいな機械は置いておけ」

 

 

 

入室してすぐデンモクを持ち、曲を入れようとし始めた青木を、キョロキョロと物珍しそうに部屋を見ていた稲葉が注意する。

 

 

 

ははーん。稲葉さんもしかしなくてもカラオケ初めてだな。さっきから落ち着きなく部屋見て回ってるし。まあイメージ的にもカラオケとか行かなさそうだもんな。デンモクのことも知らなそうだし

 

俺は1人で来たこともあるけどね。いわゆるヒトカラ

 

 

 

「いやいやもちろんわかってるよ?反省会だよね?でもせっかく休日に集まってカラオケいるんだし歌わなきゃそんじゃない?稲葉っちゃん」

 

 

 

「わかってるならそれおけや。先ずは反省会からだ。それ終わったらお前らですきにしたらいい。あたしは帰るがな」

 

 

 

「え~。せっかくカラオケきたのに全く歌わないのはどうなのよ~稲葉ん。」

 

 

 

「あたしゃ歌わないぞ」

 

 

 

 

 

「えー、なんでよぉ」

 

 

 

「なんでって……あたしは今日、反省会をしに来たんだ。遊びに来たんじゃねえ」

 

 

 

「でもフリータイムなんでしょ? 反省会なんてそんなに時間かからないんじゃない?」

 

 

 

「知らん。さっさと終わらせて帰る」

 

 

 

「もったいなーい」

 

 

 

永瀬が頬を膨らませる。

 

 

 

「せっかくみんなで来たのに、稲葉んだけ歌わないの?」

 

 

 

「歌わねえ」

 

 

 

「一曲くらい?」

 

 

 

「歌わねえ」

 

 

 

「え~……」

 

 

 

永瀬が不満そうな声を漏らす。

 

 

 

すると、隣でデンモクを眺めていた青木が口を挟んだ。

 

 

 

「でも稲葉っちゃん。せっかくカラオケに来たんだから一曲くらい歌ってもいいんじゃない?」

 

 

 

「青木、お前まで何言ってんだ。しばくぞ?」

 

 

 

「え、俺には当たり強くねっ!?まあ、だって、今日一応比企谷くんの歓迎会でもあるんだし」

 

 

 

「反省会が目的だろうが、比企谷の歓迎会ってのはついでだろ」

 

 

 

つ、ついでだったのか……。正直楽しみにしてたんだけどなぁ……。ちょっとわざとらしく落ち込んでみよ

 

 

 

青木はそんな俺を見て

 

 

 

「あー!ほら稲葉っちゃん!『ついで』なんて言うから比企谷くんが落ち込んじゃってる」

 

 

 

「……あ?いや、その……」

 

 

 

稲葉アタフタと困り初めた。稲葉さん根は優しいよね

 

 

 

永瀬はここぞとばかりに乗っかってきた。

 

 

 

 

 

「えー? もしかして稲葉ん歌うの苦手なの?」

 

 

 

「伊織……お前まだ言うか……」

 

 

 

「稲葉ん、もしかして音痴?」

 

 

 

「違えって」

 

 

 

「じゃあ歌おうよ!!」

 

 

 

「そうそう。比企谷くんへのお詫びと歓迎を込めてさあ一曲!!」

 

 

 

「いや、だからなんで比企谷への歓迎をわざわざわたしが――」

 

 

 

稲葉が言い終わるより早く、青木がデンモクを操作する。

 

 

 

「はい、これ!」

 

 

 

「おい、何入れた?」

 

 

 

「まあまあ、聞けば分かるって!」

 

 

 

「いや、その『まあまあ』が一番信用できねえんだけど」

 

 

 

永瀬が笑いながらマイクを稲葉に押しつける。

 

 

 

「はい、稲葉ん! 頑張って!」

 

 

 

「ちょ、お前ら待――」

 

 

 

稲葉が拒否する暇もなく、曲が始まった。

 

 

 

――ズゥゥゥン。

 

 

 

重低音のギター。

 

 

 

続いて、激しく刻まれるドラム。

 

 

 

そして――

 

 

 

「…………」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「…………」

 

 

 

部屋の空気が一瞬で変わった。

 

 

 

……いや。

 

 

 

これ、デスメタルじゃね?

 

 

 

モニターに表示された歌詞も、血みどろで怒りと憎悪に満ちた、どう考えても歓迎会で流すようなものではない内容だった。

 

 

 

「青木……」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「これ、本当に俺への歓迎のつもりか?」

 

 

 

「もちろん!」

 

 

 

「どこが!?」

 

 

 

「だって激しい曲の方がテンション上がるだろ?」

 

 

 

「そういう問題じゃねえよ!」

 

 

 

そんな俺たちのやり取りをよそに、稲葉はマイクを握りしめていた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

そして。

 

 

 

「てめぇらぁ……!!」

 

 

 

稲葉の目が据わる。

 

 

 

「もうこうなったらヤケだぁ!!」

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

稲葉は流れてくる歌詞を勢いよく叫び始めた。

 

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 

知らない曲なのか、時折歌詞を飛ばしている。

 

 

 

だが、それでも妙に上手い。声量もある。リズムも外さしてなかった。

 

 

 

何より、曲の激しさに稲葉の性格が妙にマッチしている。

 

 

 

「…………」

 

 

 

俺はいつの間にか曲に合わせて首を縦に振っていた。

 

 

 

永瀬も最初こそ笑っていたが、途中から普通に聞き入っている。

 

 

 

青木に至っては、

 

 

 

「やっぱり稲葉っちゃん上手いじゃん!」

 

 

 

などと嬉しそうに手拍子までしている。

 

 

 

そして曲が終わる。

 

 

 

「…………」

 

 

 

一瞬の静寂。

 

 

 

俺たちは無意識に立ち上がっていた。

 

 

 

パチ、パチ、パチ、パチ――。

 

 

 

気付けばスタンディングオベーションをしている。

 

 

 

「……お前ら……」

 

 

 

マイクを握ったまま、稲葉が呆然と俺たちを見る。

 

 

 

「……なんでそんな反応なんだよ」

 

 

 

「いや……普通に上手かったから」

 

 

 

「稲葉ん、めっちゃカッコよかった!」

 

 

 

「…………」

 

 

 

稲葉は少しだけ顔を赤くして、そっぽを向いた。

 

 

 

「……そりゃ、歌くらい歌えるっつーの」

 

 

 

そしてデンモクを操作していた青木を見る。

 

 

 

「……ただし青木」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「次に勝手にあたしの曲を入れたら――」

 

 

 

「……」

 

 

 

「お前をこの曲の歌詞みたいにしてやる」

 

 

 

「ごめんなさい!!」

 

 

 

稲葉の歌唱力は普通に高かったし、感動したレベルだった。

 

 

 

ただまあ……。

 

 

 

歓迎の歌にデスメタルを送られる俺は、どうすればいいんですか……。




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