永瀬と2人っきりのシチュエーションで永瀬の核に迫る話です
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何故ここでこの話入れることになったんや……。
反省会終了後がやがやとカラオケを楽しんだり、雑談しながら飲み食いをして過ごした後、結局最後までいた稲葉の「そろそろいい時間だから解散するぞ」との号令のすえ解散となった。
カラオケ店を出ると、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに静かだった。途中方向違いの人間と別れた結果永瀬と2人きりになり、駅へ向かう道を俺と永瀬は歩いていた。
さっきまで6人であれだけ騒いでいたのに、こうして2人になると妙に落ち着かない。
「……なんか静かだねぇ」
「そりゃ二人しかいないからな」
「そうなんだけどさぁ」
永瀬はそう言いながら俺の少し前を歩いたりまた隣に戻ってきたりしている。
……なぜか落ち着きがなかった。そして不安げな顔で
「比企谷くん」
「ん?」
「今日、楽しかった?」
「……まあ」
少し考えてから答える。
「思ってたよりはな」
「思ってたよりは、って何よ~」
「いや、そもそも俺は休日に誰かと遊ぶ予定自体がなかったからな。正直、来る前はどうなるかと思ってた」
「でも楽しかったんでしょ?」
「……まあな」
「へへっ。そっかよかった……。」
となぜかほっとしたように永瀬ははにかんだ。
「てか、なんでそんなに不安げなんだ?」
「せっかくの歓迎会だったんだし、主役には楽しんでもらわないと」
「そんなに気を使わなくてもいいんだぞ?」
「ダメだよ」
永瀬は少しだけ真面目な顔になって、俺を見る。
「せっかくみんなで集まったんだもん。主役の比企谷くんが楽しくなかったら、歓迎会として失敗じゃん」
「……そこまで考えなくてもいいだろ」
「そういうわけにはいかないよ。でも比企谷も悪いんだよ?比企谷くんの趣味趣向もわからなかったから、青木とかとノリで盛り上げるしかなかったよぉ」
「う……。そりゃ悪かったな……。」
「あ、ごめんごめん。あたしが勝手にやってるだからね」
そう言って永瀬は笑う。だが、いつもの調子の笑顔ではなかった。すこし俯き首を振る。
「そうしないと……。わたしはちゃんと誰かの友達にすら、なれやしないから……。」
俯きながら呟いた永瀬の声は小さかった。けれど、俺の耳にははっきりと届いた。
……なんだ、それ?。
妙に引っかかった。なんでそんなに鬼気迫るくらい……。
俺と違って、人と関わるのは苦手ではないだろう。いつも楽しそうにしてるしな。
今日、俺が楽しめているかどうかをずっと気にしていたな。……すこし気が利きすぎるくらい、気が利く奴だと思っていた。実際、そうなんだろう。
こいつと関わって感じたのは、こいつは人の顔色を見るのが上手いんだと思う相手が何を求めているのか察して、それに合わせることができる。
だけど――。
「……永瀬」
「……ん?」
永瀬が顔を上げる。
「お前さ」
「うん」
「人に合わせるの、癖になってないか?」
「……」
さっき俯いてた時の表情はとてもつらそうにみえたんだよな……。
すると一瞬だけ、永瀬の表情が止まった。
「……そうかな?」
「そうだろ」
「いやいや、そんなことないって」
いつものように笑ってみせる。
けれど、今日カラオケで見せていたの顔とは違う。どこか取り繕っているように見えた。
「今日だけの話じゃない。部活の時からずっとそうだ」
「……」
「誰かが喋ればそいつに合わせる。誰かが困ってればそっちを気にする。場が静かになれば自分から話題を出す」
「……それは、部長だからじゃない?」
「かもしれないな」
永瀬は白を切るように言ってから俺より前の方に歩く。表情は見えなくなった。俺は少し考えてから永瀬の背中に言うように続ける。
「でも、それだけじゃない気がする」
「……」
「お前、自分がどうしたいかより先に、相手がどうしてほしいか考えてないか?」
永瀬は答えなかった。
ただ、歩く速度が少しだけ落ちる。
「……比企谷くん……。」
「ん?」
「踏み込みすぎじゃない……? そういうところ、正直嫌だなぁ」
「……っ!?」
永瀬が振り返った。
その顔には笑顔が浮かんでいた。けれど、さっきまでの笑顔とは違う。どこか一歩引いたような、よそよそしい笑顔だった。
ヒヤリと背中が冷たくなる。
(……やってしまったかも)
後悔が一気に押し寄せてきた。
もしかして、これが以前《ふうせんかずら》が言っていた『触れられたくないこと』なのではないのか。
人の秘密に土足で踏み込んだ。しかも、知り合ってまだ一週間程度の相手に。
「……悪い」
「え?」
「今のは忘れてくれ」
「……」
「ちょっと気になったから聞いただけだ。答えたくないなら、別に――」
「……ううん」
永瀬が小さく首を振った。
「いいよ」
「……いいのか?」
「うん」
そう言った永瀬は、さっきよりも少しだけ困ったように笑った。
「……たぶん、比企谷くんになら話してもいいかなって思ったから」
「……俺に?」
「うん」
「なんで?」
「なんでだろうね」
その後広場を見つけたのでそこのベンチに座った。しばらくして永瀬は少し考えるように空を見上げ少しだけ息を吐いた。
そして、ぽつりと言った。
「これは文研部だと稲葉んだけは知ってることなんだけどね……。」
「まじか……それなのに俺に言ってもいいのか?」
「うん。大丈夫。それでね、……あたしね」
「うん」
「お父さんが、5人いたんだ」
「…………は?」
思わず間の抜けた声が出た。少なくとも五組も違う家族構成になってたってことか……?。俺は自他ともに認めるコミュ障陰キャのボッチの人間だ。そんな人間からしたら考えられないな。
永瀬はそんな俺を見て、ほんの少しだけ笑った。
「ははは、5人って言っても同時にじゃないからね?あ、まあ入籍したのは3人だったったから正確には3人?あれどっちだろ」
「いや、そこは知らんが……、そういう意味で聞いたんじゃねえよ……」
「分かってるって、まあいろんな人がいたよ。わたしとうまくやろうとしてくれる人逆に疎ましくしてくる人」
「それってDVとか大丈夫だったのか?」
「うん。大丈夫『うまくやってたから』」
「え……。それって……?」
「ははは。ごめいさーつ!……うん、わたしは『わたし』を変えて生活してたの……。その人達に都合がいい様に」
「……っ!?それっていつから」
それが永瀬の病的なまでの人への気遣いの原点か……?
「2番目の父親、つまり『最初の赤の他人の父親』が問題ある人でね。小学校入学した当初くらいだったかな?お母さんが連れてきたの。まあ簡単に暴力をふるう人でねぇ……」
「大丈夫だったのか……?」
「うん。最初だけね……。その後は『させないようにしたの』。その父親の好みに合わせて、ね」
一点の曇りもない澄み切った笑顔で続けた。
「別に最初は『演じてやろう』とかは思ってなかったんだよ。ただわたしがこうすれば怒って、こうしたら喜ぶ……ってのがなんとなくわかってそれをやっていったらそうなっていっただけ。ただその能力が異様に高かったのさ」
それは誰もがやったことのある『偽りのご機嫌とり』だった
「まあそんな父親だったからそのうちに離婚して、気が付いた時にはまた違った人たちと家族になってた。その人は前の父親と比べたら全然悪い人では……むしろいい人だったんだけど……癖って怖いね、そんなことする必要なかったんだけど、わたしはその人の『望むわたし』を演じてた」
その演じることは自然にできた幼い永瀬なりの生存本能だったのだろう、永瀬は自嘲気味に笑った
「そこからその癖は歯止めが効かなくなった。その後の3人目……4人目……5人目といろんなわたしを使い分けていったんだ……。でね去年の春に5人の父親が亡くなったの」
「え、それは……。病気かなんかだったのか……?」
「うん。余命宣告もあって、それも入籍する前からお母さんは知ってたみたいなんだけど、それでも入籍するくらいにはお母さんも本気で愛してたみたいでさ、その人がまあできた人だったのよ」
「と言うと」
そう聞くと永瀬はその人を思い出したのか穏やかな表情で続けた
「寡黙な人でさ、たぶんわたしがそうゆう風に『演じてた』のを感づいてんだろうね。無くなる直前に言ってくれたんだよ『もっと自由に生きなさい』って」
「……」
「その時はさ、すごく嬉しかったんだよ」
永瀬はそう言って笑った。
「やっと、そうしていいんだって思った。誰かに合わせなくてもいいんだ。誰かが望んでるわたしじゃなくて、自分の好きなように生きていいんだって」
「……それで?」
「うん」
永瀬は少しだけ俯いた。
「……できなかった」
「……」
「何をすればいいのか、分からなかったんだよね」
その言葉だけは、今までの永瀬からは想像できないくらい弱かった。
「好きなものは何?って聞かれても分からない。嫌いなものは?って聞かれても、相手が嫌いって言ってたものを嫌いって言ってただけだったから分からない」
「……」
「どんな服が着たい? 何が食べたい? どこに行きたい? 誰と一緒にいたい?」
永瀬は一つずつ指を折るように言葉を並べる。
「そういうの、全部分からなくなっちゃった」
「……」
「だって今までずっと、誰かが望むわたしになってきたから」
そこで永瀬は自分の手を見る。
「5人のお父さんがいて、その人たちに合わせて5人分の『わたし』がいて……じゃあ、それを全部取ったら、残るのって何なんだろうって」
「……永瀬」
「今のわたしが、本当にわたしなのかも分からない」
「……」
「明るくよく喋って、誰とでも仲良くできて、空気読んで相手が欲しい言葉を言えて……そういうのも全部、昔から身につけてきただけなのかもしれない」
永瀬は笑った。
けれど、その笑顔は今まで見てきたものとは違った。
「だからさ」
「……うん」
「『自由に生きなさい』って言われたのに……わたし、自由って何なのか分からなかったんだよね」
今の永瀬は、籠の中で育てられていて、成鳥になった瞬間にいきなり外にでた鳥なのだろう。
「それでとりあえず『自由』がわからないわたしは、その場その場で適当なキャラを演じることにしたのさ」
永瀬は苦笑する。
「相手が明るい子なら明るく。大人しい子ならちょっと落ち着いて。真面目な人には真面目に。面白いことを言う人がいたら一緒になって笑って……そうやってれば、なんとなく上手くいったから」
「……」
「それが、わたしの唯一の自信だったんだよ」
永瀬は胸元に手を当てる。
「相手が何を考えてるのか分かる。何を言えば喜ぶのか分かる。何をしたら嫌われるのかも分かる。それだけは誰にも負けないって思ってた」
「……」
「だって、それがわたしだったから」
その言葉に、少しだけ胸が詰まった。
「でもね……高校に入ってから、ちょっとおかしくなってきたんだ」
「おかしく?」
「うん」
永瀬は困ったように笑った。
「前みたいに、人のことが分からなくなってきた」
「……」
「この人はこういうのが好き。この人はこういうことを言えば喜ぶ。この人はこういうことをされたら嫌がる――昔なら、なんとなく分かったのに」
永瀬は自分の指先を見つめる。
「最近は、それが見えにくくなってきたんだ」
「……だから、あんなに人に合わせようとするのか?」
「うん……たぶん」
少し間を置いて、永瀬は小さく笑った。
「でも、合わせようにも相手が何を望んでるのか分からないんだよ?」
「……」
「じゃあ、どうすればいいんだろうね」
永瀬は空を見上げる。
「自由になれって言われたのに、自由な自分は分からない」
「……」
「人に合わせて生きてきたのに、その相手に合わせることすら上手くできなくなってきた」
そして、今度は俺を見る。
「ねえ、比企谷くん」
「……なんだ?」
「わたし、これからどうすればいいのかな」
これは永瀬の『触れられたくないこと』……つまりトラウマなのだろう。
人と関わりあうのがうまいやつならたぶん永瀬にとっていい言葉を言えるのだろうが……
正直俺には……
「……俺に聞かれても知らん。お前が何が好きでどう生きるかなんて、お前にしか決められないだろ」
「え、あ……うんそうだよね……。わたし自身がわからない事なのに比企谷くんがわかるわけないよね……ごめんね変なこと聞いて……。帰ろっか……。「ただ」……え?」
俺の返答を聞き、落ち込んだように帰ろうとする永瀬を引き留めるため俺は続けた。
「一つだけ言えることはある。人に合わせられなくなったからってお前が空っぽになったわけじゃないだろ?」
「え、でも実際にわたしの好き嫌いなんて1つも、わからないもん……。比企谷くんだってさっき『知らん』っていったばっかじゃん……。」
「人に合わせて好きになったもの、今は嫌いになったのか?」
「いや……。そんな事はないけど……。」
「じゃあ、ほらあんじゃん。お前が好きなもん」
「でもそれって真にわたしが好きなものじゃ……。それにその場の雰囲気で順位入れ替わっちゃうし……。」
「課程なんて細かいこと考えなくてもよくね?」
「……でも」
「誰かに勧められたから好きになった。誰かが好きだったから自分も好きになった。そういうのがダメな理由って何だよ」
「……」
「最初のきっかけが誰かだったとしても、今のお前がそれを好きだと思ってるなら、それはもうお前の『好き』でいいだろ」
「……でも、誰かに合わせてただけかもしれないよ?」
「だからなんだよ」
「え?」
「人に合わせて好きになったものは、偽物なのか?」
永瀬が黙る。
「じゃあ、誰にも影響されずに好きになったものなら本物なのか? そんなもん、どうやって証明するんだよ」
「……」
「俺だって、自分の好きなものがどこまで自分だけの意思なのかなんて分からんぞ。漫画だってゲームだって、誰かに勧められて知ったものがあるし、周りが好きだから興味持ったものだってある」
「……そうなの?」
「そうだよ。人間なんてそんなもんだろ」
俺はベンチの背もたれに身体を預ける。
「そもそも、好きなものの順位が入れ替わるくらい普通じゃねえか」
「……普通?」
「昨日一番好きだったものが、今日二番になったからって、昨日の『好き』が嘘になるわけじゃないだろ」
「……」
「その時その時で一番好きなものが変わるなら、それも含めてお前の好みなんじゃねえの」
永瀬はしばらく何も言わなかった。
ただ、さっきまで俯いていた顔を少しだけ上げる。
「……じゃあ」
「ん?」
「わたしが誰かに合わせて笑ったり、誰かの好きなものを好きになったりしてきたのも……わたしなのかな?」
「少なくとも、俺はそう思うけどな」
「……」
「お前が誰かに合わせるようになった理由まで否定するつもりはない。たぶん、それでお前は今まで上手く生きてきたんだろ」
「……うん」
「だったら、それまでの自分を全部捨てて『本当の自分』を探す必要なんてないだろ」
「……」
「今までのお前もお前だ。その上で、これから別のことを好きになったっていい」
「……」
「人に合わせたっていいし、合わせたくないなら合わせなくてもいい」
永瀬がこちらを見る。
「それじゃ、自由っていうのは?」
「さあな」
「またそれ?」
少しだけ、永瀬が笑った。
「俺は自由の専門家じゃねえからな」
「なにそれ」
「ただ――」
俺は少しだけ言葉を選ぶ。
「誰かに合わせるかどうかを、自分で決められるなら。それも自由なんじゃねえの」
「……」
永瀬は黙って俺を見る。
「今までのお前は、たぶん『合わせなきゃいけなかった』んだろ」
「……うん」
「でもこれからは違う」
「……」
「合わせてもいい。合わせなくてもいい。誰かの好きなものを好きになってもいいし、やっぱり違うと思ったら嫌いになったっていい」
永瀬は少しだけ目を見開いた。
「……そんなのでいいのかな」
「いいだろ」
「でも、それじゃ結局、今までと何が違うの?」
「自分で選べるところだよ」
「……」
「今までは、相手が怒らないように、相手に好かれるように、自分を変えてたんだろ」
「……うん」
「だったらこれからは、自分で決めればいい」
俺は永瀬を見る。
「今日はこいつに合わせたいと思ったから合わせる。今日は合わせたくないから合わせない。それでいいんじゃねえの」
「……」
「それなら、誰かに合わせてる自分だって、お前自身が選んだ『お前』だろ」
永瀬はしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……そっか」
「まあ、俺の屁理屈だけどな」
「屁理屈なんだ」
「俺にしてはかなり頑張って考えたんだぞ」
「ふふっ」
永瀬が笑った。
今度の笑顔は、さっきまでの作ったようなものとは少し違って見えた。これが永瀬の求めた言葉はわからないが……。まあ普段の雰囲気になったし良しとしよう。
「ははは。正直途中から屁理屈っぽくなってた気もしないでもないけど、比企谷くんが頑張って慰めてくれたからよしとしよう!!」
「悪かったな……。屁理屈臭くて」
「良いの良いの、わたしのために考えてくれたのが嬉しいんだから。……でもごめんね。1つだけどうしても気になってることがあって、それだけはっきりさせても良い?」
「ああ、どうした?」
「うん。ちょっとかがんで」
「え、あ、おお……。」
ベンチから立ち上がり、カバンを持っていつでも帰れる状態になった時、そんなことを永瀬がいいだした。
そして、かがんだ俺の耳元で囁くようにいった
顔近っ……。
「『漫画だってゲームだって、誰かに勧められて知ったものがある』って言ってたけど……。」
「ああ……。「比企谷くんにそんな友達っているの?」……っておい!こらどういう意味だ!!?」
「きゃははっ!!比企谷くん怒ったぁ!!」
そう言われて俺が永瀬に問い詰めようとした時にはすでに勢い良く俺から離れて広場の出口に向かっていた
「その反応で察したよ比企谷くんっ!!」
「て、おい!!勝手に決めんな!!」
そんな俺をみて楽しそうに笑いながら
「大丈夫だぜ!!比企谷くんこれからは少なくとも1人は確実にいるからね!!……じゃあ、アデュー!!ご機嫌よう!!」
そう言ってそのまま走り去っていった
「帰りやがった……。まあ……。」
先ほどの落ち込みようが嘘のようだったしとりあえず今回は何とかなったってことで良いのかね……。
そう一人心地ながら帰路につくのだった
テッテレー~。
比企谷くんと永瀬さんはマジ友になった
ここだけの話……。
この時点では片方しか惚れてません(それも無自覚)