その時、俺の視界がまるでコンセントを抜かれたテレビのようにブツリと消えた。
次の瞬間。
ゴンッ!
額に鈍い衝撃が走る。
「いてっ……!」
思わず声を漏らしながら目を開ける。
「た、太一!? 大丈夫!?」
視界には床が広がっていた。どうやら今俺は倒れているらしい。焦ったように声をかけながら俺の方へ男子生徒が近づいてきた。
その男子生徒は先ほど俺のクラスの教室で藤島の魔の手から救い出した八重樫だった。
「急に倒れるからビックリしたじゃん! その体私のなんだから気をつけてよね!」
そういいながらを手を差し出した。
「あ、ありがとう」
その手を掴み立ち上がり、スカートについたたゴミ払いながらその男子生徒の顔を見る。確かに八重樫太一だ。だが声色にはどこか違和感があった。なんか女の子っぽい話し方してる気がする。
(て、あれ?『その体私のなんだから』……?)
いや待て。さっきから違和感が多すぎる。
俺の目線てこんな低かったか?
さっきの出した感謝の声も聞き覚え無い、声高すぎね?
てか。そもそもここはさっきまでいた廊下じゃない。少し古びている。確か再試験で使った別の棟のじゃね?
は?てか?『スカート』?
俺の視線は一瞬で足元に向かった
細いくて白い。いや、男にしては細すぎる。
しかもスカートを穿いている。
「は……?」
そして恐る恐る近くの教室の窓ガラスを見る。
そこに映っていたのは――
「なっ……!?」
肩まで伸びる黒髪を片方縛ってサイドテールにした髪
整った顔立ち。
どう見ても女子。しかも美少女
「永瀬……伊織……?」
ガラスに映るのは長年連れ添い見慣れた俺の顔では無かった。
今、俺は…比企谷八幡は。
永瀬伊織になっていた。
「…………」
数秒間、思考が止まる。
事故の後遺症とか、そういう次元じゃない。
さすがに意味が分からない。
「太一? 本当に大丈夫?」
八重樫が心配そうにこちらを見る。まじで何がどうなってるんだ…?
「……あの」
「え?」
「俺、その……八重樫じゃないっす」
「っ!?」
八重樫の顔が固まる。
「え、じゃあ……あなた誰?」
不安そうに一歩引く。
そりゃそうなる。
自分の身体に知らん奴が入ってたら、普通はこうなる。
とりあえず名乗っておくか。直接会話した事は無いけど同じクラスで席も近いから認識してくれてる可能性もあるし。
「あ〜…俺、比企谷八幡。一緒のクラスの」
「え、ごめん誰?」
まさかの即答。気まずい空気が一瞬流れる。
認識されて無かったわ自意識過剰すぎた。はっず……
「あ。い、いや〜なんちゃって!比企谷くんよね!知ってるよ!知ってる…確かあの〜茶道部の〜」
「いや、違うから。無理しなくて良いよ。俺、自身の存在感薄いの自覚してるし」
ほんと気にして無いよぐすん。何で茶道部?
あ、そんな事よりも俺も八重樫(永瀬人格)と同じ不安が生まれたわ
「じゃあ俺の身体に入ってるのは誰だ?」
「あ〜。多分太一の人格が入ってるんじゃ無いかな?」
まだ警戒を残した目線で俺を見ながら八重樫(永瀬人格)が答える。
「わたしと太一、文研部って部活に入ってるんだけどね」
そう言って切り出した
「さっき太一とは違う部員2人がね、ついさっき部室で昨日の夜に人格入れ替わってたって話をしてたんだ。」
「まあ。わたし含め他の部員はそんな非現実的な話は信じずに冗談半分で聞いててただの気のせいって話で決着がついたんだけどね。でもその後わたしが忘れ物を教室に取りに行ってる途中にほんとに太一が人格入れ替わっちゃったんだよねぇ。いや〜困った困った」
「え、この学校ってそんな摩訶不思議な珍現象簡単に起こるの?」
「いやいや!わたしたちだって今日が初めてだよ!他のこんな現状が起きた何て聞いた事ないし!!」
「じゃあその部活がおかしいんじゃねえの?」
「え〜うーん。だとしたら部員じゃ無い比企谷くんが巻き込まれてるのおかしくない?」
「まあ、確かにな。そもそもどんな部活なんだ?その文研部って。オカルトに手を出して巻き込まれたのとか無い?名前的に運動部では無いのはわかるんだけど」
「えっとね。一年生5人の今年できたばかりの部活だよ。簡単に言えば5人のバラバラの趣味の研究し合う的な?」
「それ部活として成立してんの?」
「失礼な!!活動実績として文化研究新聞っていうの発行してるんだから!教師同士の熱愛報道をスクープした記事は好評だったんだよ!」
「一般人のそれはほっといてやれよ。それが趣味あんたらの趣味悪すぎね?」
でも何それ?ちょっと読んでみたいかも
「比企谷くんは人格入れ替わる時ってどこにいたの?」
「俺たちのクラスの教室の近くの廊下だったな。職員室の用事の後、鞄を取りに教室に行ったら永瀬……」
「ん?どしたの?」
「あ〜いや。…あの藤島に襲われてる時に勢いよく入ってきた八重樫って人格永瀬だったのか?」
「うん。そうだけど…って!あの時教室にいて見てたの!!?」
「いや、教室じゃなくて廊下にいた。永瀬が入った扉とは違う扉のそばでのぞいてた」
「そばにいたなら何で助けてくれなかったのさぁ!!!?わたしの貞操の危機だったんだよぉ!!!!?」
「はははは。いやそういう趣味(百合)だから邪魔したらいけないのかと」
「笑って誤魔化ないでよ!!そっちの方も覗きなんて趣味悪い!!違うよぉ!!わたしが好きなのは男の子…ってゔーーん!!脱線しすぎだあ!!今何の話してたんだっけ?」
「人格入れ替わる時に俺がいた場所の所だろ?永瀬が八重樫の体で藤島にセクハラまがいの事し出した時から巻き込まれないように一旦教室からは離れたぞ。時間潰す為に廊下歩いてた」
「そうなんだ。じゃあとりあえず太一と合流しない?わたしたち部室に行く途中だったの。比企谷くんにもきてほしいな?」
「え〜…」
正直言って面倒だけどこの姿のまま家に帰るわけにも行かないしなあ。小町も困るだろうし…
『え!?お兄ちゃん女の子になったの!?顔面良すぎでしょ…。ねぇ明日服買いに行かない!?』
嫌…あの妹様なら嬉々として受け入れて楽しみそうだな。
「わざわざ探しに行くの面倒だしスマホで電話するか…。なあ永瀬。スカートのポケットのあるスマホ取ってくんね?」
「え?気にせずに取ってくれていいよ」
「いや。頼むわ。で、パスワード解いて電話の画面にして貸してくんね?俺のスマホに電話するわ」
そう言って永瀬にスマホを取ってもらい電話ができる状態にしてもらい渡してもらった。俺の携帯番号を打ち電話をかけてスマホを耳に近づけた。
さっきまで警戒されていたが今はスマホを貸してくれるまでは警戒は無くなってくれたか。
それでも本人の目の前でなくても女子のスカートのポケット手を突っ込んで弄るのはちょっとな…
プルルっと発信音が鳴りしばらく待つ。あれ?なかなかで無いな。まさか俺の身体に何かあったか?
そういえば入れ替わった衝撃で倒れてたし、あっちの俺の身体気失ってる?
直接見に行かないといけないか?と思った直後ガチャリと通話が通じた音がした。良かった見に行く面倒なくは無くなったわ
「もしも『すみません!!後でかけ直します!!』し…」
知らない番号からか秒で切られたな。それに急に人格が入れ替わってるからパニクってるのか涙声だったな。
もう一度電話をかける今度はすぐに出た
「もしもし?」
『ほんとごめんなさい!!ちょっと説明しにくいんですけど!!俺は今あなたが用ががある人じゃなくてですねちゃんと後でかけ直しますから!!」
「いや、ちょっと聞けって」
『あ、その声永瀬…っ?たっ助けてくれ!気がついたらまた身体が変わってたんだ!!でも誰かわからなくてどうしたら良いのか…っ」
俺のこと知らないってってお前もか八重樫さん…。一応席ご近所なんだけどなぁ。もうちょっと自分から接して行かないといけないなこれ…事故ってなくてもボッチだったな反省
気が動転してるのか話し方が変な事を気づけてないらしい。俺のことを永瀬と思い込んでいるっぽい
「落ち着け…俺はその身体の持ち主の比企谷八幡だ」
『え…?でも永瀬の声…』
「俺もお前らと同じ摩訶不思議現象に巻き込まれたんだよ」
『あ、そうなんだ初めてまして。何処のクラスで何年生なんですか?』
「もうそのくだり永瀬とやったから…。お前と同じ学年同じクラスだ。とりあえず合流したい。永入れ替わる直前までいた永瀬と一緒にいた場所にこれるか?」
『わ、わかったすぐ行く!!待っててくれ!!」
そう言って電話が切れた。スマホを永瀬に渡したスカートのポケットに戻してもらう。
「電話繋がった?良かったね」
「ああ、何故が泣き声だったのは気になるがな」
そのとき、廊下の向こうから悲鳴混じりの声が響く。
「あ、いたぁ!!!永瀬ぇぇぇぇ!! 助けてくれぇぇぇ!!」
ものすごい勢いでこちらへ走ってくる男子生徒。
その顔は紛れもなく比企谷八幡。俺の身体だ。
涙目で半泣き、しかも全力疾走
おい待てその状態で走って来たのか?
そしてその勢いのまま俺に飛びついた。おいおい!!!待て待て!!!俺の身体で永瀬ボディにしがみつくな。それを見た永瀬(八重樫ボディ)が悲鳴を上げる
「ひ、え、なにこれ誰ぇ!? もう!!何がどうなってんの!?」
「俺は八重樫太一だよぉ!!!」
「それはわかってんだよ!!俺の身体で変な事すんじゃねぇ!!!!」
そう言って永瀬と2人がかりで八重樫を引き剥がす。誰が見てるのかわからないのだ。明日以降俺が永瀬を襲ったと噂か広がったらどう責任取ってくれるんだテメェ
周りを見る。俺たち以外の人影は無い。良かった助かった。
八重樫を落ち着かせて今の状態を整理する
俺(比企谷八幡)の身体には八重樫太一。
八重樫太一の身体には永瀬伊織。
そして今、俺は永瀬伊織の身体。
なるほど…何となく状況はだけは理解した。どうすればいいかは皆目検討つかないがな
三人同時入れ替わり。さっき永瀬が言ってた他の部員も合わせると5人が人格入れ替わり現象に巻き込まれてるっぽいな
まあそれがわかった所でなんだけど
「何がどうなってんだ……」
思わず声が漏れる。
「と、とにかく部室に行こう!稲葉なら何か分かるかもしれない!」
「そうだね。いなばんたちに比企谷くんの事紹介したいし。いいよね?比企谷くん」
「ああ。」
そう言い部室に向けて歩き出した。その2人の背中を見ながら思わず俺はため息を吐いた。
(……もし元の身体に戻らなかったからどうしよ。八重樫が2回入れ替わってるから自分の身体に戻る可能性はゼロでは無いと思いたいんだがな。)
こうして中学時代上手く行かなかった青春を高校生活では望んでいたはずの俺は、非日常に巻き込まれたのだった。
いや普通の青春がしたいよ…