異世界迷宮でオリジナルハーレムを 作:獣人スキー
森の出口が近づくにつれ、鳥の声は遠ざかり、代わりに不穏な叫び声と金属がぶつかり合う音が風に乗って届いてきた。
「鑑定」
念じると、森の先の視界が開けた場所に、赤い光点がいくつも浮かび上がった。敵対反応。それも一つや二つではない。
小道を抜けると、そこには粗末な木柵で囲われた小さな集落があった。
だが、のどかな村の風景は、略奪者たちの暴力によって塗りつぶされていた。
「ひっ、助けてくれ!」
「いいからお宝を出しな! 逆らう奴はぶち殺すぞ!」
下卑た笑い声を上げながら、革鎧を纏った男たちが村人を追い回し、家に火を放とうとしている。
周平は冷静に状況を分析した。
賊の数は十人前後。武器は錆びた剣や斧。鑑定によれば、彼らのレベルはせいぜい5から10の間。
対する自分は、まだレベル1の村人だ。
普通なら、ここで介入するのは無謀の極みだろう。しかし、俺の右手には聖剣がある。
「よし、試してみるか」
周平は一歩、村の入り口へと踏み出した。
一人の盗賊がこちらに気づき、鼻で笑いながら近づいてくる。
「あぁん? なんだ、ひょろっとしたエルフのガキじゃねぇか。その上等な剣、俺様に献上しに来たのか?」
周平は答えず、静かにデュランダルを抜いた。
音もなく鞘から放たれた刃が、陽光を反射して白銀の輝きを放つ。その美しさに、盗賊の目が一瞬だけ欲望に曇った。
それが、彼の人生最後の表情となった。
「はっ!」
周平が軽く腕を振る。
敏捷上昇の効果で、彼の動きは盗賊の目には捉えられない速度に達していた。
横一閃。
手応えは、ほとんどなかった。豆腐を熱したナイフで切るような、あまりにも呆気ない感覚。
デュランダルの攻撃力5倍という暴力的な補正は、レベル1の振るう一撃を、文字通りの必殺技に変えていた。
盗賊の胴体は紙細工のように泣き分かれ、断末魔の叫びすら上げることなく絶命する。
「なっ……ガザが!?」
「おい、あいつ何者だ! 構わねぇ、囲んで殺せ!」
仲間の死に気づいた盗賊たちが、怒号を上げながら一斉に周平へと襲いかかる。
だが、周平の脳内は驚くほど冷えていた。
エルフの知力補正が、敵の動きを最適化されたデータとして処理していく。
右から振り下ろされる斧を半歩でかわし、そのまま背後の賊の喉元を突く。
左から迫る短剣をデュランダルの峰で弾き飛ばし、返す刀で首を刎ねる。
一歩進むごとに、盗賊たちの命が露のように消えていった。
返り血を浴びても、デュランダルのHP吸収効果が作用しているのか、不快な熱さどころか、むしろ活力が全身に漲ってくるのを感じる。
数分後。
村の広場に立っている賊は、最後の一人――頭目らしき大男だけになっていた。
「ば、化け物め……!」
腰を抜かし、尻餅をついた男に向けて、周平は無造作に聖剣を振り下ろした。
『経験値を獲得しました』
『村人のレベルが上がりました』
『村人のレベルが上がりました』
『村人のレベルが上がりました……』
爆速のログが網膜を駆け抜ける。
通常の15倍の成長速度。十人の盗賊を仕留めた経験値は、凡人が小規模な戦争を生き抜いたほどの成果を周平にもたらした。
だが、真の収穫はレベルアップだけではなかった。
『条件を満たしました』
『ジョブ:英雄 が解放されました』
『ジョブ:戦士 が解放されました』
『ジョブ:剣士 が解放されました』
英雄。
原作知識によれば、賊から村を救う等の功績によってのみ解放される希少ジョブだ。
だが、俺はここで冷静になった。
レベルが上がったことで、ジョブが解放された。
「英雄」は強力だが、今はまず「剣士」をファーストジョブに据えるべきだ。
剣の扱いを身体に叩き込み、スキルの練度を上げる。
そして、増えた二番目の枠に「英雄」を差し込む。
ステータスUPに使用していたBPをセカンドジョブに変更。
ファーストジョブ:剣士
セカンドジョブ:英雄
瞬間、全身の筋肉がさらに引き締まり、視界がさらに一段階、鮮明になる。
「オーバーホエルミング……か」
英雄固有のスキルと、剣士の技能。この二つの補正が重なり、俺の身体能力はLv1の村人だった時とは比較にならない高みへと押し上げられた。
これで、エルフの貧弱な身体能力という弱点は完全に克服されたと言っていい。
「……あ、あの……エルフ様」
怯えながらも、一人の老人が周平に歩み寄ってきた。
このヴァラーラ村の村長を務めているという男だ。鑑定によれば、Lv8。ジョブはそのまま「村長」となっている。
「村を救ってくださり、感謝いたします。この御恩、一生忘れません」
老人が膝を突くと、生き残った村人たちも次々と頭を下げた。
周平はデュランダルを鞘に収め、ポケットの感触を確かめた。
100円ショップのビー玉。
当初はこれを売って路銀を稼ぐつもりだったが、状況が変わった。
「村長さん、顔を上げてくれ。俺はただの通りすがりの旅人……そうだな、剣士だ」
「英雄」のジョブを得た周平にとって、この村は最高の出発点となった。
ミーハーな心が、内心で叫んでいた。
(やった! ついに本物の村長との対面だ。そして何より……俺は今、英雄になったんだ! このレアジョブ、このステータス補正! たまらねぇ……!)
表向きは冷静沈着なエルフの剣士を装いながら、周平は老村長の手を取り、優雅に微笑んだ。
「火を消すのを手伝おう。話は、その後に」
吉野周平の、異世界での二度目の人生。
その幕開けは、あまりにも劇的で、そして輝かしいものとなった。