異世界迷宮でオリジナルハーレムを 作:獣人スキー
カッセルに到着して二日目の朝。俺は宿屋『琥珀の月亭』の、決して柔らかいとは言えないベッドの上で、一日のスケジュールを脳内で組み立てていた。
現在の俺の総資産は、日本から持ち込んだビー玉の売却益と盗賊の懸賞金を合わせて、百五万千二百ナール。
これだけの金があれば、すぐにでも奴隷商へ向かい、最高級の相棒を買い求めることもできる。だが、俺は焦るつもりはなかった。
「……まずは、俺自身の基盤を固めるのが先だな」
俺はリュックサックを背負い、腰のデュランダルの重みを確かめると、宿を出て街の北側に位置する「カッセル迷宮」へと向かった。
迷宮の入り口は、巨大な岩山をくり抜いたような無骨な佇まいで、朝から多くの探索者たちが列をなしている。
「おい、見ろよ。エルフだぜ」
「一人か? 珍しいな……あんな豪奢な剣を持って、金持ちの道楽か何かか?」
周囲の探索者たちからの、好奇と嫉妬が混ざったような視線が突き刺さる。だが、俺はそれらを無視し、淡々と一階層へと足を踏み入れた。
迷宮の境界線を越えた瞬間、脳内に新しい情報が流れ込んできた。
『条件を満たしました』
『ジョブ:探索者 が解放されました』
通常の十五倍の速度で成長する俺にとって、昨日の盗賊狩りと今の迷宮入りは、ジョブの派生条件を一気にクリアさせたらしい。俺は即座に「キャラクター再設定」のウィンドウを開いた。
現在、俺のBP(ボーナスポイント)は九十九ポイントすべてを使い切っている。
エルフ、武器:六、再設定、鑑定、全ジョブ設定、詠唱省略、獲得経験値三倍、腕力上昇、買取価格三十パーセント上昇。
俺はここから「腕力上昇」の1BPを一時的に引き抜き、ボーナス呪文設定のリストをスクロールした。
「……あった。ボーナス呪文、取得」
選択したのは、初期の魔法使いジョブ解放に最適な『MP全解放』だ。
通路の先に、一匹のグミスライムがいた。物理耐性が高く、本来なら魔法で対処すべき相手だ。
俺は右手の平をスライムに向け、脳内の知識にあるイメージをトレースする。
「――MP全解放」
瞬間、俺の身体から魔力が根こそぎ吸い取られた。
掌から放たれた目に見えない魔力の奔流が、スライムの核を貫き、跡形もなく消し飛ばす。
直後、凄まじい虚脱感が俺を襲った。
ただの疲労ではない。世界のすべてが灰色に染まり、生きていること自体が苦痛に感じられるような、底なしの絶望感。MPが完全に枯渇した際に生じる、この世界特有の過酷な精神的ペナルティだ。あまりの鬱々とした気持ちに、俺はそのまま地面に崩れ落ちそうになった。
「くっ……死にたい……いや、ダメだ……っ」
俺は震える手でリュックのサイドポケットを探り、事前に用意しておいた強壮剤を呷った。
苦い液体が喉を通ると、凍りついていた脳がじわりと溶け出し、絶望の霧が晴れていく。
『経験値を獲得しました』
『ジョブ:魔法使い が解放されました』
脳内に響く無機質なアナウンス。狙い通りだ。
俺は荒い呼吸を整えながら、すぐさま「キャラクター再設定」を再び実行した。
『MP全解放』を解除し、空いた1BPをボーナススキルの『ワープ』へと割り振る。
これで迷宮と街の往来が劇的に効率化されるはずだ。
さらに、ジョブ設定を更新した。
ファーストジョブ:探索者
セカンドジョブ:英雄
今の俺に必要なのは、剣士の技能よりも迷宮内での汎用性だ。
鞘から聖剣を抜き、次に現れたスローラビットを力任せに斬り伏せる。
刃が肉を裂いた瞬間、聖剣のMP吸収効果が発動した。
回復薬の比ではない勢いで、清涼な魔力が俺の精神を満たしていく。虚脱感は完全に消え去った。
「……ふぅ。これで魔法使いになる権利は得たわけだ」
それから数時間、俺は一階層を回りながら、ワープスキルの精度を確かめた。
一度訪れた場所であれば、壁にゲートを作って瞬時に移動できる。
他の探索者たちが徒歩で数十分かけて移動する距離を、俺は数秒で飛び越えていく。
その途中で遭遇した迷宮盗賊の三人組も、ワープで死角へ回り込み、英雄の補正を受けたデュランダルで一瞬のうちに片付けた。
三枚のインテリジェンスカードを回収し、俺は迷宮の深部で壁に手を触れた。
「ワープ」
視界が歪み、次の瞬間、俺はカッセルの街の路地裏――今朝、宿を出た直後に確認しておいたポイントに立っていた。
「……素晴らしいな。これなら迷宮の往復にかかる時間はゼロだ」
俺は騎士団ギルドへ向かい、三枚のカードを提出した。
「旦那、またですか……。確認しました。討伐報奨金として六万ナールになります」
これで資産は百十一万ナールを超えた。
俺はそのまま、騎士団ギルドの隣にある「奴隷市場」へと向かった。
街の喧騒の中、掲示板に貼られた多くの羊皮紙をエルフの鋭い目で追っていく。カッセルは地方の中核都市だけあって、その相場もヴァラーラ村のような辺境とは比較にならないほど高価だった。
『迷宮探索用 狼人族(若年・健康) 400,000ナールより』
『猫人族(斥候適性あり) 550,000ナールより』
『特選個体(高レベル・戦闘経験あり) 800,000ナールより』
俺は商人の『カルク』で情報を整理する。
ミチオが手に入れたロクサーヌの定価が六十万ナールだったことを考えれば、ここカッセルでも同等以上の資金が必要になる。現在の俺の手元には百十一万ナール。定価で買うことも可能だが、ここで妥協するつもりはない。
俺は一度宿屋に戻ると、「キャラクター再設定」のウィンドウを開いた。
現在セットしている『ワープ』を一旦解除し、代わりにボーナススキルの項目から『購入価格二十パーセント減少』を選択、設定を保存する。
これで、六十万ナールの奴隷であっても四十八万ナールで購入できる。十二万ナールの節約だ。浮いた金でさらに高品質な装備を揃えることができる。これがこの世界における効率厨の歩き方だ。
準備を整えた俺は、ヴァラーラ村長から預かった紹介状を手に、カッセルでも指折りの奴隷商会『黒金の檻』の門を叩いた。
「いらっしゃいませ。エルフの旦那。本日はどのような御用で?」
「紹介状を持ってきた。迷宮探索の相棒を探している。狼人族の、質の良い娘を見せてくれ」
店主のベックは、紹介状に目を通すと、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。
「ガラム殿のご紹介ですか……。なるほど、旦那のような御方であれば、当店の『秘蔵』をお見せするのが礼儀というものでしょうな」
案内された地下の展示場。そこは清潔感のある個室が並び、不快な匂い一つしない。
ベックが数人の狼人族を呼び集める。その中に、ひときわ目を引く少女がいた。
腰まで届く鮮やかな銀髪に、同じ色の柔らかそうな耳。顔立ちは驚くほど整っており、原作のロクサーヌが凛とした美しさなら、彼女はどこか儚げで、慈愛を感じさせるような、言葉を選ばずに言えば「完璧な美少女」だった。
「鑑定」
名前:フェリル
種族:狼人族
ジョブ:村人 Lv1
インテリジェンスカードを受け取って確認したが、表示されているのは名前、年齢、ジョブのみだ。
原作の仕様通り、個人の特殊な感覚やスキルの有無まではカードにも「鑑定」にも表示されない。
「彼女はフェリル。元々、優れた戦士を多く輩出する部族の出身でしてな。その身のこなしは天性のものです。加えて、狼人族の中でも特に鼻が利く。迷宮での索敵にはこれ以上の者はおりませんぞ」
ベックの説明が、俺の確信を補強する。性格は穏やかで従順。まさに俺が求めていた「最高の相棒」の条件をすべて満たしていた。
「気に入った。彼女にする」
「お目が高い。……定価は六十万ナールですが、紹介状もあります。特別に五十万ナールでいかがでしょう?」
「ああ、それと彼女の着ている衣服もつけてくれ。……それで頼む」
俺が静かに告げると、ベックは少しだけ驚いた顔をした後、苦笑して首を振った。
「……負けました。旦那のその目、まるで見透かされているようだ。四十八万ナール、全額即金で承りましょう」
俺がセットした『購入価格二十パーセント減少』の効果が、商人の心理的な限界を突き崩したのだ。
支払いを済ませ、フェリルのインテリジェンスカードに俺を登録する。
これで、彼女の生命と権利は完全に俺のものとなった。
「……フェリル、と言ったな。今日からお前が俺の最初の仲間だ。よろしく頼む」
俺が彼女の前に立ち、優しく声をかけると、フェリルは銀色の瞳を揺らませ、深く頭を下げた。
「……はい、ご主人様。この命、貴方のために。どうか、末永くお傍に置いてください」
その穏やかで心地よい声に、俺のミーハーな心が激しく震えた。
(すごい……本物の、理想の奴隷美少女だ! しかも、この美貌で格闘センスまであるなんて……ミチオ、悪いな。俺は一足先に最高のハーレムを築かせてもらうよ!)
店を出た俺は、まずフェリルを連れてカッセルで一番の防具店へと向かった。
「お前は格闘センスが良いと聞いた。重い鎧は不要だな。……この、動きを阻害しない上質な軽量防具と、拳を保護する手甲を」
「これほど高価なものを、奴隷である私に……?」
「俺の仲間が死ぬのは効率が悪い。これは投資だ。しっかり着こなしてくれ」
「……はい、 ご主人様」
その夜、俺は宿屋『琥珀の月亭』で、フェリルと共に豪華な夕食を囲んだ。
フェリルは初めて食べる贅沢な料理に戸惑いながらも、俺の許しを得て、美味しそうに口に運んでいく。その仕草一つ一つが、俺の所有欲を心地よく満たしてくれた。
夜、宿屋の一室。
窓から差し込む月光が、フェリルの銀髪をより一層美しく輝かせていた。
「ご主人様……お体、お拭きいたしますか?」
フェリルが、穏やかな微笑みを浮かべながら近づいてくる。
[考察エラー:奴隷との最初の夜。初期の信頼関係構築、および生体反応の同期プロセスにより詳細描写を省略]
翌朝、俺はエルフとしての鋭い感覚で、隣に眠るフェリルの確かな体温を感じながら目を覚ました。